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表題作アンフォーゲタブル

和久井冬梧、明光新聞社勤務、25歳~
有村望、真秀製薬勤務、25歳~

その他の収録作品

  • アンスピーカブル
  • アンタッチャブル(とあとがき)

あらすじ

新聞社勤務の冬梧。製薬会社勤務の望と出会いやがて惹かれ始めるが、思いがけなく身体を重ねることになった後、望の電話は繋がらなくなり……

作品情報

作品名
アンフォーゲタブル
著者
一穂ミチ 
イラスト
青石ももこ 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
シリーズ
is in you
発売日
ISBN
9784344830615
4

(152)

(79)

萌々

(38)

(15)

中立

(9)

趣味じゃない

(11)

レビュー数
19
得点
601
評価数
152
平均
4 / 5
神率
52%

レビュー投稿数19

再会ものが好きな方におすすめ

新聞社シリーズ、どれもいいのですがこれも再会もの。

25歳の時に知り合った二人が企業の内部告発者とスクープした新聞記者という立場になり、会ったことさえ隠さなくてはならなくなり、本当に連絡が途切れます。

そのまま時間が経って気にかかったまま、互いの仕事を続けて、17年後に再会することになるのですが、大人の男たちのお仕事小説でもあり恋愛小説でもあり。

現代もの社会人BLが好きな方に刺さる、とても萌えるストーリーでした。

0

これから読んじゃった

シリーズものというのを知らず(ここを見てたら良かったんですが)、図書館にあったのを手に取りました。

期待せずに読み始めたのですが、イイ!
なんとも25歳からその17年後という時間の流れがイイ!
42歳になっているわけですよ。ちゃんと結ばれるまで。

それだけの間、お互いの思いをちゃんと確かめた訳でもなく、理由があって離てしまう、離ざるを得ない、そんな二人の気持ちが切なくて。
オヤジンスキーなのでたまらないですね。

新聞社の人たちの立ち位置が前作を読んでないので読みきれないところがありましたが、この作品だけ読んでも大きな問題はありませんでした。きっと読んでいたら、冬悟の周辺に深みが出たのかもなって思うので、これから読み始めたいと思います。

1

硬派な事件で目が覚めました

明光新聞社のシリーズ4冊目。
今回のメインキャラは読みながらどうも二人とも掴み所がなくて、入り込めないなあイマイチかもなあとぼんやり思っていたのですが、中盤の事件が大変な事態で、(私の)目が一気に覚め、そこから貪るように読みました。

再会物とはいえ、こんなに間が開くのもすごい。17年です。
「is in you」の再会も13年で長期と思ったけれど、「アンフォーゲタブル」の方は事情も事情だし、わくわくという感情とは無縁の状態で二人を見守りました。
やはり、ここまで拗れてしまうと、(本人達の感情ではなく事態の大きさが拗れた原因) 普通にはまとまらず、ここでは未帆ちゃんという無垢な存在がキューピッド的な役割を果たしているのですが、そういうキャラを登場させないと難しかったのかと。
個人的にはそこが残念なポイントでした。

0

キャラ萌えできず

新聞社シリーズ第4作目。

3作目で予想していたカプは大外れ。まだまだ修行が足りませんね笑

ぐいぐいと引き込まれるストーリー展開だったし、文章もとても好みなんですが…、BL的にはもう、笑えるくらいわたしには向いてないみたいです、このシリーズ。

明光新聞の社員、和久井視点です。
和久井がスピード証明写真の撮影中、酔っ払ってブースに乱入してきた有村と出会い、離れ、17年後に再会する長尺ラブストーリー。

二人が出会った時、和久井も有村も25才の同い年。前作『ステノグラフィカ』のメイン、西口の3年後輩にあたるので、西口たちもまだ20代だった頃に遡ります。

正直、ここまでストーリーが面白いと、BL要素はなくても…と思いました。BLにキャラ萌えとエロを求めている読者としては、受け攻めにハマれなかったら、ストーリーやエロがどんなに素晴らしくても読後は微妙なんですよね。

有村はシリーズの中で最も苦手な受けでした。思春期にゲイだと自覚して、初恋の先輩を追って同じ製薬会社に入社。和久井のことを利用して内部告発を成功させ、一度だけ和久井とセックスして姿を消します。

和久井も有村もお互いが忘れられなくて、17年後に偶然再会。有村の方から会いに行ったようなものですが…、その後は二人で幸せになることを許される…。

有村の望みが全て叶えられているのは、ひとえに和久井が彼に惚れていたからだけれど、わたしには有村の魅力が全くわかりませんでした。

有村が好きだった生駒先輩の妻もしたたかな女性で、逞しすぎて少しだけ引きました。有村と妻の感覚は頭では理解はできても、気持ちがついていかなくて。けれど皮肉にもラブストーリーを成就させるためには必要な過程だったんですよね。有村って悲劇のヒロインに見えながら、しっかりと地に足をつけて強く生きていたんだなぁと思いました。

最後の方、和久井が有村の好きなところを告げるセリフがあるけれど、このシーンはなんだかずるいです。有村の方が先に自分はずるい人間だと言っちゃうんですよね。その、そんなことないよ〜待ちのスタンス、相手のツッコミを封じるための女子の必殺技ですから笑

なにはともあれ、和久井は有村にメロメロなのでした。彼の方は17年間、海外の国々でどんな生活を送っていたのか知りたかったな。それに伴う作家様のオタク並み知識を読んでみたかったです。

新聞社シリーズでキャラにハマったのは2作目の佐伯密だけでした。他は受けが男性を装った大和撫子みたいで…。エロも毎回ブレるというか安定感がなくて、作者独自のクセがあるわけでもないので、個人的にBLとしての満足度は低めでした。

ですが、しっかりとしたストーリーや素敵なエピソード、豊富な比喩表現を楽しませてもらっているので、両者のバランスが好みだったらなァと、読後は毎回モヤモヤします。

1

新聞の存在感が大きかった

一穂さんの新聞社シリーズ4作目。社会の巨悪に立ち向かったために、受けと攻めが長い年月にわたり引き離されてしまうところが、これまでの3作と大きく異なっています。恋よりも人としての正義を選ばなくてはならなかった二人。その葛藤に胸を揺さぶられました。

新聞社勤めの冬梧(攻)と製薬会社の社員・望(受)。
二人が知り合った場所が、証明写真ボックスというのは、ちょっとファンタジー過ぎない?と思いましたが、その後の内部告発に巻き込まれた二人がたどった道が過酷で、ファンタジー感は吹き飛んでしまいました。

新聞の影響力というのは、とてつもなく大きい。そして、会社の犯人探しもまた強烈で、個人の力は本当に小さい。
望が、自死した先輩が遺した内部告発資料を冬梧に託す前に、抱いてほしいと頼んだ気持ちが分かるような気がします。好きだと告げずに抱いてもらうのはずるいけれど、記事が書かれれば、もう会えない。勇気が出るような思い出が欲しかったのでしょう。恋よりも会社の不正を告発する道を選んだ望が切なくて、でもその生き方に感動してしまいました。

覚悟を決めて関係を絶った望よりも、冬梧の方が気持ちの行き場がなくて、辛かっただろうと思います。社会部に復帰して一面記事を書きたいという夢を、望と引き換えにかなえて、心と体は疲れ切って海外に異動。仕事の合間、かりそめの女性関係を重ねますが、望のことを忘れることはできなくて。

17年の後、二人は再会します。望は、毎日、新聞に冬梧の署名記事を探し、消息を追い続けていました。彼等を引き離したのも、細くつなぎ続けたのも、新聞だったことが、とても印象に残りました。

私は新聞が好きで、一面記事だけでなく、読者の投稿欄や家庭欄をよく読みます。市井の人の声に、励ましや慰めをもらうこともあります。新聞社シリーズを読んでいると、社会部が花形で、その中でも一面記事を署名入りで書くのがトップ、と感じられるのが、少し残念でした。社会への影響力から考えれば、仕方ないのかもしれないですが。
この作品を読んで以来、記事の署名に目がいくようになりました。署名は責任と覚悟の証なのですね。
物語はとても面白かったのですが、男同士の恋愛のドキドキより、新聞の存在感の方が大きくて、萌え×1になりました。

1

ある意味メルヘン。

前に読んだ時も「好きだな」と思ったけど、読み返してみたらやっぱり好きだったシリーズ4作目。

起きている事件や出来事はリアリティや緊迫感があるのに、登場人物(メインのカップル)の心持ちや行動がファンタジー…というかある意味メルヘンめいている、ちょっと捉えどころのない手触りの一冊です。

硬派なようでふわふわしていて、評価も分かれるだろうなぁ…とも思うのですが、ロマンスを描いた小説であるわけですから、こんな風に17年越しの想いを成就……なんてことが本当にあると良いよね、という気持ちになります。

この本の場合、硬派な事件の上に甘さのあるラブ成分が切なく乗っている危ういバランスが、独特の読後感につながるのかな…と思います。

1

友情じゃダメなのか

シリーズものの一作だと知らずに読みましたが、その点は別に苦はありませんでした。

このお話って別にBLじゃなくていいんじゃないかなー。いや、受が女性でもいいって意味じゃなく、二人の間にあるのは純粋で特別な男の友情のほうがしっくりくる気がして、キスやセックスがなんだか取って付けたようで最後まで萌えることができませんでした。

会えるかどうかも分からない同性(たった数ヶ月間しか知り合いじゃなかった相手)を恋人として17年も待つ、というところに感動できるかどうかで評価が分かれると思います。私はできなかった。だって17年て…17年て、さ。

友情に恋愛をプラスして妄想することで萌えが生まれるのは重々分かっているのですが、友情で事足りる関係性が無理やり肉体関係で上書きされたようで、なーんか唐突感が拭えませんでした。友人として再会する、じゃダメだったのかな。

変な評価ですが、二人の恋愛感情を抜きにすると読み応えがありました。特に手紙のくだりは胸にグッときました。

うーむ…一穂ミチ作品を新しく読むたびに「一穂ミチさん…好きなはずなのに…おかしいな」と思うのが辛くなってきました。ちょっと認識を改めます。

5

切なさを拾い上げる

一穂先生の作品の中でも特に好きなお話です。
運命的な出会いと別れが二人の人生を変え、再び巡り逢わせる原動力にもなっている。一穂先生の綴られる物語が、BL小説の枠にとらわれない、切なさと苦さを含んでいるのだと再確認できた作品でした。

とにかく切ない描写が多いです。和久井(攻め)視点で進む物語だからこそ、結末を知っていくにつれて、あの時の有村さん(受け)の気持ちって……と馳せる苦さがあります。主役二人は長い間離れ離れになるのですが、再会を見届けることができて本当に良かったです。

お互いが想い合っていた分だけ、相手を優しさで包み込める関係って素敵ですよね。どうしてもこの人でなくてはならなかったのだと、読む度にじんわりきてしまいます。
切なさを拾い上げて、それが痛みであってもあたたかさであっても、パートナーと共有していける姿に感動しました。「好きだ」と伝えられるきっかけとして、再会した二人には思い返せることがたくさんあるのでしょうね。ぜひ続きが読みたいです。

3

大好きな攻め視点なのに、攻めが苦手でどうにも…

一穂さんの新聞社シリーズ四作目(is in you、off you go、ステノグラフィカ)。
ゲイだらけの新聞社…(苦笑
時間軸はまだ20世紀(多分'97年くらい?)ということで、携帯もまだまだ普及しておりません。
シリーズの他の作品より前ですね。
視点は攻めです。

**********************
攻めは新聞社整理記者の冬梧、25歳。
思ったことをすぐに口に出す直球な性格で、社会部からは問題を起こし左遷されました。

受けの望は製薬会社勤務の25歳。
尊敬し好意を持っていた先輩を追いかけて今の会社へ就職したものの、彼は亡くなってしまいます。
**********************

二人の最初の出会いで冬梧が望を慰めながらも、この偶然がもしかしたら何か記事に繋がるかもと打算を働かせたわけですが、職業柄あるのでしょうがなんとも嫌な気持ちになりました。
このシリーズでは何人か記者がメインになっていますから、キャラが被らないようにという配慮もあるのかもしれませんが。
やー、25歳の社会人てこんなに子供だっけ?と思ってしまうシーンもかなりあって、申し訳ないのですが一穂さんの書かれた攻めで一番苦手でした。
自分の言葉に頷いたり笑ったりしてくれるだけで落ち着くって…
望の立ち位置、完全に女性(または奥さんや母親)になってますから!

時が流れて、二人が40代になってはじめてシリーズの他の作品と時間軸が重なります。
西口(ステノグラフィカ)も静(off you go)も離婚してますし。←この二人の登場はかなり嬉しかった!です。
二人の関係が始まったのかと思った瞬間に終わったという辺りはすごく良かったのですが、なにせ冬梧がやたら子供過ぎるのに扱った事件が大き過ぎてすごく空々しくて…
子供の登場や演出はじーんとして、なぜ彼女が顔だけ知っていたのかなんて辺りは『おお!』となったのに、その後の再会の海があまりに出来過ぎで。
望が冬梧を『情が深い』と評しますが、それもこちらには伝わってきませんでしたし。

この本は発売日に買ったわりに、ずっとしまいこんでおりました。
原因は眼鏡。
望の眼鏡です。
青石さんの描かれた眼鏡のフレームがひじょうに太くて、しかもカラーはともかく挿絵ですと真っ黒に塗られた眼鏡は、望の顔の中でやたらに主張していて挿絵が出るとそこで急に現実に引き戻されるんですよ。
評価も高くお好きな方も多いと思いますので心苦しいですが、趣味じゃないよりの中立で。

4

思い続ければいつか夢はかなうと信じたくなる作品

明光新聞社シリーズ4冊をまとめて読みました。
話題だったし高評価なのでずっと読みたいと思っていました。
シリーズ4冊目は、新聞記者と製薬会社社員の恋物語です。

このシリーズは3冊目以外は出会いから成就までが長いです。
今回は別れから再会まで17年目かかります。
生まれた子が高校生になるくらいの時間です。
インターネットも携帯も誰もが当たり前に使えるわけではない時代の恋ですね。

事件記者だった和久井は問題をおこし、整理部(2作目の静の居る部署)に異動されらたばかりのころ、製薬勤務の有村に出会います。
これが、証明写真撮影用ボックスで撮影中に酔った有村が乱入してくるという考えられないような出会い方。
喪服を着て泣く有村に何か役に立てるかもしれないと名刺を渡し別れても何故か気になるのです。
数日後、電話で謝罪されお詫びに食事でも、ということから二人の付き合いが始まります。
気の合う二人がたまに会って食事や話をするいい関係を続けるうち友情以上の感情が生まれてくるのですが、別れは唐突にやってきます。
出逢いは偶然だったのですが、有村は勤務先の薬事問題の情報を記者である和久井に託し姿を消すことになります。
消える前日に最後と決めて想いを告げ1度だけの身体の関係を持ち、忘れないと告げて会えなくなります。
このときの有村の心情を思うと泣けてきます。

製薬会社の社員の家族に逆恨みされた和久井が殴られて軽傷を負った時、新聞社宛に送られてきたお見舞いの手紙に交じっていた差出人のない封筒の中は、いつか有村と一緒に見た思い出のある銀杏の葉でした。
心身ともに疲れ傷つきもう記者はやめたいと弱音を吐いた時、それが有村からの励ましの手紙であることが分かり持って来てくれた先輩(静)の前にもかかわらず大泣きしてしまうのです。
心からの悲痛な叫びのようで読んでいて一番辛いシーンでした。

その直後、外報部に異動になった和久井は海外支局を転々とし、社会部デスクとして帰国するのはそれから17年の年月を必要としました。

有村が幼い少女に和久井と映った小さな証明写真を見せて大切な宝物だから誰にも秘密で預かっていてほしいと渡すのです。それを見た少女がやがて成長し自分も恋する年頃になったとき、その写真の知らない男性が有村の大切に思う相手なのではないかとわかるというエピソードが好きです。

前作では速記者が消えゆく職業と紹介されていましたが、この作品では霧笛が消えゆくものとして描かれていました。
とてもロマンチックで情緒的な背景を演出していました。

再会してすぐのエッチシーンは思いのたけをぶつけるようでとても情熱的でした。

再会を約束して別れたわけではなく「忘れない」という気持ちだけで17年もの間想い続け恋が成就するという物語に萌えました。

3

単独で大丈夫

一応、新聞社シリーズの中の1作ですが、他の本もそうであったように、単独で読んでも全く問題ありません。
っていうか、他の作品のメインキャラが、脇に登場したりはしていますが、その彼がどんな物語を持っているのかなんて、同じ会社で普通の同僚や先輩後輩として付き合っている分には、実際には見えなくて当たり前のことですものね。

この作品では出会って別れて、再会するまでに17年。
17年という年月は、インターネットや携帯電話の登場と普及を重要な要素として盛り込むために逆算された年月なのか、
そうでなければ、あまりにも長い。

4

これから読みました(;´Д`)

シリーズということですが、
しょっぱなにこちらの作品から読みました(;´Д`)
なにも情報を得ないまま読み始めたのですが
単品でも読めちゃうような感じでした
この中で誰が前作品に出てるのか気になりましたが、そこはそこで……

携帯の普及前の頃を思い出して懐かしくなる感じがありました
受け様はおとなしそうですが、結構頑固で言いだしたら聞かないタイプ
攻め様はこれといって特徴がないという感じで平凡ですが普通な感じがいいんです!

17年越しで、お互いどうなってるか不安になる年月ですが
これがよかったんでしょうね。

2

レビュー書きたい!

新聞社シリーズ4作目?!おお~!!総て買ってるはず。通して読んでからレビューしようと…が、一穗先生のボックスが掘り起こせない!蔵書整理を…腐海をなんとかしなくては!!一穗ミチ先生も作者買いのお方です(*⌒▽⌒*)
人の心の襞をサラサラと、さわさわと揺すり、擽られる様なお話しを追いかけて。今作、深く潔い。…こんなに、再会まで年数かかったカプいたかたな~?(SF、伝奇、ファンタジー以外)…また、マンボウの脳内検索に有りません。ここまで思い合ってたなら、これから先も幸せに過ごしているに違いない二人の行く末に幸あれです♪

4

葬られた関係と消せない想い

明光新聞社シリーズ四作目。

本シリーズでは、今までも社会問題に対する報道の在り方についてさりげなく問題提起がなされてきました。
(個人的には『is in you』のセルドナ王国の話が特に印象深い)

そうした、過去作ではサイドストーリー的に
語られることの多かったテーマが
本書ではメイン二人の恋愛に、人生に大きく絡んでおり
問答無用の迫力で読者にも迫ってきます。

17年前、まだ携帯も普及していなかった時代。
証明写真ボックスという辺鄙な場所で出会った冬悟と望。
冬悟はスクープを夢見る記者だったが
ある問題を起こして社会部から整理部に飛ばされる。
製薬会社勤務の望は、好きだった先輩を亡くしていた。
二人の過去の詳細は明かされぬまま
仲良くなっていく二人の日常が淡々と写され
中盤、望のある行動により物語は一気に加速を見せます。

望が冬悟に先輩を重ねた理由は顔だけではない。
報道の名の下に一般人を晒し者にしたくない、
青い理想を捨てきれない姿に、自分の計画(内部告発)を託せる、このネタで再び社会部へ戻って欲しいと願ったためでした。
自殺に追い込まれた先輩の意志を継ぎ、情報を渡した後、冬悟の前から消えた望。
冬悟は薬害問題を記事にするも、製薬会社の身内から殴られたことで外報部に回される。
自分達の行動は正しかったのか、答えは出ぬまま時は流れ…。

過去編は最高に盛り上がったところで唐突に終わり、
17年後の穏やかな冬悟の文章で現在編へ移行する。
たえず流動し、古い情報はどんどん淘汰されてしまう
社会の常を象徴しているようで侘しいです。
それでも互いに忘れられない二人は
望の娘(先輩の忘れ形見)が結びつけた縁で再会し…。

ツッコミたい点もいくつかあります。
17年間も好きでいられたことや再会できたこと、
ノンケの冬悟の順応性の高さ等はやはりファンタジーに感じる。
過去作の主役は、葛藤もあれど仕事に何らかの誇りやポリシーを確立していたが、冬悟や望は17年後もそうした変化が見えにくいのが惜しい。
若き日の望のイラストが幼すぎるのも気になりました。

それでも、上記のような点を越えて
伝わってくるものがあり、評価は「神」以外にないと思いました。

最も印象的なのは、望の原動力が正義感より何より
大切な人の意志を継ぎ、それをもう一人の大事な人に託すという
シンプルかつ真摯な想いであったこと。
17年後も、ただ身近な人のため頑張っていること。

社会派ドラマを描くでもなく、メッセージ性をもたせるでもない。
ただ答えのない問題の前で足掻き支え合う人間の姿が
ありありと描かれ、小説という枠を越えて
人生とは何か、読者に考えさせる示唆に富んだ一冊でした。


キャラとしては個性に欠けるかもしれませんが
誠実で懸命に生きている姿を応援したくなる二人です。
脇には、西口や静が冬悟の良き先輩として登場していました。
佐伯さんは名前こそ出てきませんが
素通りするだけで流石の個性と存在感を見せていますv

8

人ってそういうものだよね、と感じるお話でした

新聞社シリーズの第4弾目も切なさと優しさに包まれた作品になっています。

物語の初めは、証明写真ボックスという狭い場所でびっくりするようなきっかけで出会う冬悟と望。
新聞記者として、自分はもっと何かできたんじゃないかという思いに葛藤している冬悟の前に自分は何もできなかったと喪服姿で涙を流す望。興味をひかれた冬悟が声をかけ二人は親しくなっていきます。

冬悟が新聞記者になってやりたかったことや、現場でやっていくなかで折り合っていかないといけないどうにもならないこと。冬悟のまっすぐな性格や、その行動力が良くも悪くも冬悟の夢にとっての障害となります。そんな冬悟の葛藤を見守る静や西口と一緒に自分ももどかしく感じながら、だからといって折り合いをつけて世渡り上手になることで何かを諦める冬悟にはなって欲しくない・・・矛盾が人のあり方なのかもと考えさせられるところでした。

望は、見た目の印象として穏やかで優しい性格をしているのかなと思っていたら直情型で行動力のあるメリハリのはっきりしている人でした。
その思いの強さや優しさから、冬悟がやつあたりされるようなことがあれば怒りをあらわにし、冬悟の迷いや葛藤を肯定して勇気づけてくれる。
冬悟と向き合う中で、望の中にも勇気や覚悟が決まっていったんだという過程が丁寧に描かれています。

1度だけの身体の関係と、忘れないと告げて会えなくなった望。そこからなんの約束もなく会えない日々が続いていきます。

そして、望が抱えていた秘密が冬悟の夢を後押しし、二人の間を絶つことに。
こうしたきっかけがないと冬悟の夢はかなわなかったかもしれない、と思うと人は誰かと関わっていくことでいろんな可能性を生んで自分1人では出来なかったことをやり遂げたりするんだなと、そんな姿に感動しました。

ただ、ここで良かったねーといった展開にしないところが一穂先生。
望が勤める製薬会社の内部告発を冬悟が記事にすることで冬悟の身に危険がおよんだり、そのことで苦しむ製薬会社の社員、その家族への影響。正しいことを訴える記事を書いたのにその裏で苦しむ人にまた悩み、なにをどうすれば良かったのかに悩む冬悟の姿は印象的でした。
冬悟1人の力でなんとか出来ることではなく、冬悟1人が悩むことでもないけどそこに心を痛めるのが冬悟なんだなぁと。
世の中は正しいことだけが求められるものじゃなく、グレーでいることが1番楽なのかもしれない。けど、そうしたことに甘えていることに耐えられない人もいる。冬悟も正義感で正しいことをしようと思っているわけじゃない。そうした葛藤を飲みこみながら、自分に正直であれる道を前に向かって歩いていく強さが大切なのかもしれないと思いました。

そして過ぎた17年という時間。外報部員として海外に転属になって17年ぶりに日本に帰ってきた冬悟の前に、望の娘が訪ねてきます。
2人の間にはなんの約束もなくて、いつかまた再会して一緒になれるわけでもない。だけど、17年という時間が流れても望を忘れられなかった冬悟は、望の娘や奥さんと会う中で自分の今の思いや望の思いを知ることになります。

2人が再会して、これまで冬悟が望に対して抱えていたさみしさを甘えるようにぶつけるシーンには感動しました。望のやりかたは冬悟をたくさん傷つけたかもしれない。それでもそれが望だとわかっていても大好きな思いを手放せない冬悟が愛おしかったです。

たくさんの後悔と涙があった。けど、時間はとまることなく流れていくからこそ、人は変わりまた立ち上がって進んでいく姿にほっとしたり、感動したり、人ってそういうもんで、それでいいんだよねと思ってしまう作品でした。

4

やっぱり凄いなぁ…

タイトルの感じと、青石ももこさんの挿絵ということで
明光新聞社シリーズとわかる方はわかる、でも
分からないお方にもスーッと読めるんじゃないかなと思いました。
こちらをきっかけに、シリーズ読破も素敵な気がしました。
(勿論、過去作を読んだ方が楽しめるのですけども
シリーズにハマるきっかけはそれぞれだと思いますので)

最初はですね、正直言って、西口に憧れていただけあって
フランクだけど気持ちが真面目で純粋な和久井、
敬語で丁寧に話すし気配りも出来るし控え目そうに見えて頑固な有村は碧に、
若干かぶり気味じゃないかなぁ…?って思ってしまいました。
西口と碧は歳の差カプ、和久井と碧は同じ年でしたけども。

読み進めると、それも違うし(そもそも出会いからすっとんでたし!)
そんなのが気にならない程物語にのめり込みました。
自ら望んで抱かれた有村、その後姿を消した理由と
断たれた二人で過ごす未来がツラかったです。
事件の後、和久井に差出人の名前もなく送られた銀杏の葉に
こちらも涙がこぼれました。

どれだけの覚悟をしての行動だったのか、
読んでいるだけではたぶん理解しきれないのです。
自分の身を危険にさらしても、だなんて。
そこまで思い切らせてくれたのは、相手が和久井だから。有村だから。

17年、忘れられずにいられるだろうかと自分におきかえてみても
やっぱり想像でしかないのですが
魂を揺さぶられる者同士というのは、年数なんて関係ないのかもしれません。
“オリンピックが巡ってくるのが早すぎます”
とおっしゃるミチさんのように(違うか?w)

最後は出来すぎ感が否めなくてもしょうがない気もしますが
出来すぎ上等!!というよりも
あのツライ別れの後を想像すると(やはり実感はわかないかもだけど)
うまくいってくれなきゃ困る、本当に好きな人と結ばれないと
生きている意味もきっと半減してしまう、
頑張って誠実に生きている人が幸せになって報われてくれなきゃ!!って
単純に思ってしまいました。私は。

そして、個人的にミチさんの作品を
以前と違って心の底から楽しめない時期がありましたが
そんなイザコザなんてちっちぇーわ、と思うくらい素晴しい作品でした。
やはりミチさんが大好きです!!!

新聞記者としての自分、人間としての葛藤、
和久井の譲れない想いに胸が熱くなりました。
なりたくてなった仕事でも神経すり減らして
納得のいくような部署じゃなくてもその人の生き様って出るんですねぇ…。
そこに背中を押されるように行動を起こした有村もすごい。

すごい、しか言えないんですが、
(すごさが伝わらなくて申し訳ないのですが是非読んでいただきたい!!)
静がより一層魅力的に思える作品でもありましたw

16

大好きな新聞社シリーズ

めでたく社員で五人目のホモが誕生です。しかもそのうち一組は社内恋愛っていう・・明光新聞社素敵すぎます(笑)

今回のお話も切なく、手紙や写真のエピソードには泣かされました。うまくアイテム使ってます。一言でいえばピュア。17年間も秘め続けた恋。出会った時は20代。再会したのは40代って・・・現実ならありえねー!ってことがおこっちゃうのがBLの世界です。そこが良いのです。

欲をいえば密氏には全作品に登場してほしかった。若き日の良時おっとこ前でした。さすが密さんの彼氏。出てないと思ったらsnowblackさんのレビューによるとなんとちらっと影が見えてたんですか?密のことですよね。うっかり見落としてたみたいです。これから早速読み直してきます。

5

甘食

snowblackさん、こんばんは。
ご親切にページ数までありがとうございます!
早速確認しました。大切なシーン見逃してしまう所でした(笑)

「外報部長」ってわざわざ書いてくださる所がファンサービスですよね。

snowblack

甘食さま、こんばんは☆
本当に、明光新聞社素敵過ぎますよね!

佐伯さんはですね、153ページにさりげなく彼らしい行動で出て参ります。
ご確認下さいね♪

互いの核を信じて

明光新聞社シリーズ、第4弾。
読み始めると文章の一つ一つがひときわ精彩を放っているように思えるのは、
特に好きなシリーズ故の欲目だろうか。

本作を含めてシリーズのうち3作が、長い時を経て結ばれる話で
それも個人的にはツボ!


時は21世紀までまだ3年を残す、1990年代後半。
明光新聞社に勤める和久井冬梧は、ある日証明写真を取っているボックスに
泥酔して飛び込んできた有村望と知り合う。
喪服を着て号泣する、何か訳がありそうな有村。
素はむしろ律儀そうな彼をそこまでにさせたものに、
新聞記者としての興味もあり、何度も会ううちに……

西口(ステノグラフィカ)はまだ菊池さんと結婚・離婚前、20代で社会部にいる。
冬梧はその後輩だったが、
ある事件をきっかけに静(off you go)のいる整理部に移動になっていた。


TVの世界を題材にした『朝から朝まで』を読んだ時から、
一穂先生は報道のあり方に関して一家言あるのだろうなぁと思っていた。
その後新聞社シリーズはこれで4作目となり、更には昨年夏にDear+誌で
『イエスかノーか半分か』というTV局のアナウンサーを主役にした
文庫化が待ち遠しい傑作を発表されている。

そのどれを読んでも、訴える濃度こそ違えど
マスコミや報道のもたらす光と影、そこで働く人の思い……
というものが、滲み出る作品になっているのだが、
この作品は、それが大きな主題になっていたと思う。


自分の気持ちもはっきりしないまま、でも相手にとって必要だったから身体を繋げ
これから気持ちを確かめて行こうと思った矢先、忽然と目の前から消えた有村。
その後冬梧が、社会も自分自身の仕事上の立ち位置をも揺るがす事件に
巻き込まれていく様は、読んでいてゾクゾクするようだった。

タイトルから分かるように、そして別れて17年、
忘れられなかった思いを抱えながら時間が過ぎ、再会する二人の話だが、
何故短い付き合いで、たった一度の抱擁しただけの相手を
そこまで好きになったのか、思い続けていられたのか、
充分に描かれているとは言えない。

しかし、彼らにとってお互いは唯一無二なのだ。
二人の結びつきは、「恋」という言葉で語れるものではなく
性別も共に過ごした時間の多寡をも越えた、
それぞれが生きる根幹に分ちがたく結びついたものなのだろう。
それを「愛」と呼ばずしてなんと呼ぼう?


一穂作品に出て来る女性はいつもとても魅力的だが、
今回も、エピソードとしてサラリと語られる菊池さんも
後半登場する有村の妻と娘も、とても魅力的。

冬梧が乗っていたのと同じ青いゴルフに乗ってみたり、
葉っぱの手紙を送ったり、少女趣味だなぁと思える有村だが
自分が信じたことに向かう時の揺るぎなき勇気と強さ。

そんな社会派ドラマのような硬質なテーマを持ちながら、
時に軽やかに、時に柔らかく繊細に描き出す一穂節は健在。
ちょっと前の時代を描く難しさも、虚実取り混ぜ上手く表現されている。
惜しむらくは、もう少しページ数が欲しかったが。


普通に生きる、時にはズルかったり情けなかったりする男達の
高潔な核……
互いにそこを信じて、運命を預けて預けられて、そして40も過ぎての再会。
普通の恋人のように、日常を分かち合う喜びや、イチャイチャする楽しみを
これから少しずつ取り戻していく二人です。


追記:20代の西口や静(須賀)良時も、活躍しています。
   穏やかなお坊っちゃまに見える良時の凄さも垣間見えて、面白い。
   もうお一方は、親切な良時は立ち止まったのに素通りしちゃう外報部長として
   ちらりと影が見えておりました(笑)
   

19

17年越しの恋

新聞社シリーズ第4です。
20代の西口や静なんかもでてきます。

いつかスクープ記事を書きたいと夢見てたが、問題を起こし社会部から整理部に異動した和久井冬悟。
ある日、好きだった先輩の通夜帰りの泥酔した有村望に絡まれ、それをきっかけに2人でご飯を食べに行く関係になる。会社の先輩(静)には彼女が出来たのかとからかわれるくらい、整理部に来てから元気がなかったのに楽しそうになるが、ただの友達と思っていた。
2人で夕食中、かつて冬悟が問題を起こした現場にいた同業者に絡まれ、望は怒り、泣く。冬悟は亡くなった先輩に似ていると。好きだったその先輩は男の人だったと。
その後冬悟の過去の話しを改めて全て聞いた後で、望は力になってほしいと冬悟をドライブに誘う。そのドライブ先で、1度だけ抱いてほしいと望は言い、霧で外が何も見えない車の中で抱き合う。帰り際、きょうのことは絶対忘れませんからと言った望に、次の日電話をかけても繋がらず、会社に望から望の会社の内部告発の資料が届く。
それをもとに冬悟は記事を書き、社会現象になるようなスクープ記事となる。だが、密告者たる望を吊るし上げから守るためには望と一切の連絡を断ち、記事を恨んだ人間から襲われ、外報部へ異動となる。そのまま海外支局を17年転々とする。
日本に帰って来てすぐ、有村望の娘という女子高生が会社に訪ねて来、詳しく聞くとかつての望の先輩の娘で、母と私を支える為に望が結婚したが両親は男女の関係ではなく、お父さんは今でもずっと冬悟のことが好きなはず、会ってほしいとお願いされた。会うタイミングをはかっていたら、かつてのドライブ先で偶然望と会い、自然な流れで冬悟のマンションに行き、長年の想いをお互い口にし、結ばれる。

相変わらず一穂さんの文書は丁寧で、心にすんなりと入ってきます。2人の心情を大きく動かすような何かがあったわけでもなく、淡々と描かれています。決してどちらかが愛の告白をしたわけでもなく、文書でも好きという単語はほとんど出てこないけど、会いたいと思う気持ちや泣く様子、気絶した時に見た夢などから、それはもう好きってことだよと冬悟よりも先に読者に気づかせてくれます。その淡々とした描写が上手いなぁと心に染みました。
時代背景なんかもとても丁寧で、最初なんで携帯が珍しいんだろ?とか、少しあれ??って思うことがあったけど、17年たった時が現代だとわかった時に納得です。
携帯や情報が今より発達していない17年前だからこそのお話で、過去を振り返る形ではなく、また最近よくある昔の小説を新装版で出す、とかだと時代背景に違和感があったりするけどそうじゃなくて、今17年前を描くとこうなるんだと当時の人目線が違和感なく描かれていて良かったです。
ただ、望視点で描かれてないので、なんで冬悟を想うようになったのか、なんで17年もずっと好きでいられたのか、ちょっと出来すぎてるような気がして、きっと一穂さんがそこの部分を描いてくれてたら違和感なんか少しも残らないお話しになったのにと思うと残念で、神ではなく萌2です。

9

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