イラストあり
サンドリヨンはフランス語のシンデレラです。
シンデレラといえば意地悪な継母ら魔法使いとガラスの靴ですが、この作品では魔法使いじゃなくて悪魔のお婆さんにもらった『求める愛が得られる指輪』に翻弄され、芽生えた作られた感情に傷つけられながらも本物の愛情に気付くまでのお話です。
幼い頃しょうもない夫を見限って出ていった母親、妻に捨てられて益々ダメな男の成り下がり、息子の奨学金やバイトで稼いだ生活費をパチンコ屋酒につぎ込む父親。
貧しさから体調を崩したり食費を削って倒れそうになるたびに救いの手をのばいてくれる大学の准教授。
この准教授赤枝が、王子様ですね。
半信半疑で指輪をはめた途端に赤枝から告白されてしまいます。
でも元彼のストーキング行為から自分の赤枝への思いを反省します。
自分のこの思いも身勝手に相手を苦しめる愛情の押し付けなのではないかと。
指輪を捨て真実の告白をした後、許せないけど愛してるという言葉に救われる場面がよかったです。
赤枝が自分の感情を操作されていたことに嫌悪するけれど、自問自答の末やっぱり愛しているという結論になって受け入れていく愛の深さを感じました。
幸せにおなりサンドリヨン
薄幸な受けが魔法の力を借りて、最終的には幸せを得る話。
タイトルの「サンドリヨン」は「シンデレラ」の別名ではあるけれど、この作品はシンデレラ物語が下敷きになっているというより、「サンドリヨンの指輪」という魔法アイテムが登場するちょっとファンタジーがかったお話でした。
分量的にはたっぷり読みごたえがあってよかったのだけど、読み終わってみると、フワッとしたつかみどころのないお話で、中途半端なファンタジー設定が登場キャラたちの存在感も薄めちゃっていたのかなぁって感じで、ちょっと惜しかったかな。
本編は千尋(受)の視点、後日談SS「それから」は赤枝(攻)の視点で進みます。
不憫な境遇の千尋が、不思議な老婆にもらった魔法の指輪を使って、赤枝に好きになってもらう話でした。ちょっと長めなのですが、先が気になって一気に読み終えてしまいました。
私の好きな場面は、赤枝が「許せないが、愛してる」と言う場面です。
己の感情が、他人に強制されたものだという恐怖と嫌悪。「俺はお前を許せない。」それでもなお、「愛してる」にぐっときました。主人公より経験を経ている、知性あふれる年上男性が、熟考して出した結論というのが、なんとも重く、愛が強いものだと思えました。
どんどんおかしくなっていく赤枝や、保住には怯えましたが、千尋の友人である、深田が絵に描いたような善人で、辛くなりがちな展開の中でほっとさせてくれましたし、窓辺で話す二人のイラストに和みました。同じ世界観だという「神様の庭で廻る」も読んでみたいと思いました。
身体的に痛い場面もありますし、千尋の考えに共感できない方もおられる気もしますが、先生×不憫な学生の年の差カップルがお好きな方にはお勧めだと思います。
電子書籍で読了。挿絵有り。
サンドリヨン(シンデレラ)のお話が下敷きになった、綾ちはるさんお得意の魔法、というか『不思議な力』が絡んだお話。
私が「面白いな」と思ったのは、童話では王子様というのはある意味人格がなくて『幸せの象徴』みたいなものなのだけれども、このお話の王子様である赤枝は、美しい容姿と誰にでも好かれる人柄を持っているけれど千尋と同様の被虐待児であること。これによって、愛情に飢えていた千尋が自分を気にかけてくれた赤枝にあっという間に恋するだけではなく、色々あった後に(この辺の色々についてはお読みいただいてお楽しみください)赤枝が千尋に戻ってくる理由を「わかるーっ、解るよぅ」と思わせてくれました。(ただし、この後の二人の関係を考えると、双方とも被虐待児というのは「二人は末永く幸せに暮らしました」とすんなり言えない所があって、ちょっと不安なんだけれども)
幼い頃から現在まで、私は王子様が舞踏会で一緒に踊っただけで、サンドリヨン(シンデレラ)に恋をすることが気に入らなかったんですよね。
「中身のない男。アホじゃん」と思っていたんですけれど、このお話の千尋の風情は、恋しちゃうなぁ。
綾さんの描く薄幸の美人って、ホント、いいなぁ~。
家庭環境に問題のある大学生の受けと、受けの通う大学の准教授である攻めのカプです。
愛を知らず、愛されることを諦めている受けに、何かと構ってくる人気者の教師攻め。受けはそんな攻めを邪険にしながらも、内心では気になって仕方ない様子。
そんな折、受けは不思議な老婆と出会います。老婆は受けに「この指輪をはめると望む相手から望むように愛されるようになる」と1つの指輪を授けます。
リアルな現代物に不思議な世界が混ざってくる、綾さんらしい作品でした。続編やスピンオフではないのですが『神様の庭で廻る』と同じ世界観の話だそうで、イメージとしてはああいう感じです。でもキャラが共通しているわけではないので、前作未読でまったく問題はありません。
今回は、密かに愛を求めている薄幸な大学生が虚構の愛を手に入れる話です。愛を知らず、感情を凍りつかせて生きてきた受けが、たとえ偽りであっても愛を得て、花がほころぶようにおずおずと心を明け渡していく様にグッときます。攻めは魔法の指輪の力によって感情を捻じ曲げられている状態で、いわば被害者なのですが、受けに肩入れしてしまうせいで「もっとしっかり愛したれよ」と読んでてイラついてしまいました。(理不尽) 魔法が解けてからの攻めにはさらにイラつきMAXでした。
最終的にちゃんとくっつくのか非常に心配でしたが、まああまりかわいそうなことにはならず一安心。でも完全にスッキリはできなかった気はします。
気になった点がいくつか。
本編はずっと受けの視点なのですが、この受けが頭の中で思っていることとやっていることが違うキャラで、始終ツッコミを入れながら読んでしまい疲れたこと。
クズな受けの父親の問題が、ちょっと都合のいいオチになりすぎたこと。
攻めの重いキャラクターが、最終的な攻めの印象と融合せず、この人結局どういう人なの? と思ってしまったこと。
とは言っても、惜しいところがいろいろありつつも読み応えのある作品でした。