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たまたま拾ったゲイ雑誌の文通欄にイタズラ心で出した手紙が元で出会ったふたり。
興味本位の好奇心 ―― 若さというのは時にコワいもの知らずで残酷だ。
里見はノン気で好きな女子だっていたりするのだが、手紙の相手・伊藤(仮名)に本当のことが言えずズルズルと会ううちにいつしか惹かれていく。
ついこの間までは、自分だってそう思っていた中の一人だったはずが、男同士の恋愛なんておかしいという友人に腹を立てる里見。
けれど、「嘘」から始まってしまった恋は、やがてしっぺ返しを喰らうことになる。
タイトルの「眠る兎」 ―― これって、里見のことなんだろうな。
お伽話の「ウサギとカメ」の、あの兎。
「嘘」がばれてしまってからの里見を見ていて、ふとそう思った。
木原さんの(ご本人曰く「たぶん」)デビュー作。
キレイごとだけではすまない、人の、狡さとか弱さとか、そういうどちらかというと目を逸らしたくなる部分を、この作家はきっちりと描く。だからこそ、読み手に肉迫するものがある。人が人を恋う、その想いの深さが胸に沁みる。
今回イラストを担当された車折さん、私は初めて目にしたけれど、すごくパワーのある絵だと感じた。ビブロス版の西崎さんのやわらかい絵とは、また印象が異なって新鮮。
さすがルチル文庫(親会社のずさんな編集と比べるとしっかり仕事をしているという意味)と手放しにほめても誰も文句が言えません
眠る兎というタイトルに妙なデジャブを覚えつつも、一読して甘酸っぱい記憶がうっすらとですが、よみがえってくるようなものを感じました。
木原さんいわくデビュー作に近い作品。でも最新作と言っても通じてしまうしっかりとした描き方。だからといってデビュー作にありがちな肩肘張ったものは無いという自然さ・しなやかさ―作品に一貫しているすべての事柄が、一読した人にいろんなものを与えているような気がしてなりません(そしてそれは、異性愛主義の再生産しかできない同業他者の作品との明白な差異となって表面化する)。
ここまで落ち着いたそしてしっくりくる―ましてやデビュー作という意味において―作品はあまり例が無い。他人様に勧めたくなるそんな作品。
その場のノリで、ゲイ雑誌に載っていた文通相手募集にでたらめな手紙を書いた高校生の浩一と、過去の実らなかった片想いを引きずって臆病になっている高校教師高橋の物語です。
女の子が好きなくせに、ゲイのふりをして手紙を書き、なりゆきとはいえ女の子と一緒にその相手を盗み見しようとした浩一はかなりしょうもない奴です。
心底悪い奴ではなくて、ちゃんと断ろうと思いながら、でも相手が自分に会って喜んでいるのを見るとなんとなく言えなくなって、結果振り回してしまうという、まあ優柔不断な奴。
でも最初はゲイの気持ちなんて全然わからないと思っていた浩一ですが、相手の一途さに罪悪感を感じ、そのうちに少しずつ気持ちが変わっていきます。
高橋の方は、5歳年下である浩一を好きになってしまい、(本当は10歳下ですが)きっとこの恋は実らないだろうと思いながらも、会いたいと思う気持ちが抑えられない。
お互いに強く思い合ってから、高橋が本当のことを知ってしまい、修羅場がやってきますが、これは高橋のショックは大きいです。
たった5歳年下だというだけで、あんなに腰が引けてたのに、実際は10歳年下で、しかも自分の勤める高校の生徒だなんて・・・ねえ。
面白かったです。
書き下ろしの『冬日』は彼らの8年後の話です。
よかった。しょーもなかった浩一が、かっこいい大人になってました。
高橋は・・・あんまり変わってなかったかも。
もう一つの書き下ろし『春の嵐』は、浩一の友達柿本の話。
これもすごくよかったです。
もっと読みたいっていう感じ。
お勧めの1冊です。
ふざけてゲイ雑誌の恋人募集欄に手紙を書いた高校生が
待ち合わせにやってきた年上の男に嘘をつく
年上の男は、自分の高校の教師なんだけどそいつも嘘をつく
二人とも嘘で、ガチガチに自分を固めて
恋をするんですよー。
そんで嘘が剥がれたときには、ズクズクに恋に堕ちてんのっ!
また、どーしょーもない酷い攻めキターっ!
って思いましたら、とっても愛しいお話でした。
酷い出会いをしたのに、運命の人に巡り合ってしまったみたいな?
出会いは文通。携帯電話もなく家電。
このはがゆさっ!
木原作品としては相当ロマンチックなシナリオだと思いますが
恋に堕ちてしまった者の浅ましさ傲慢さ狡猾さ、そして臆病さ
読者の胸を切りつけるような筆力は健在。
それでも、わかりやすいハッピーに、素直にうっとりしましたv
挿絵。
受けが靴下だけ履いた状態で、座位。
よかったっす。
ノンケの高校生・浩一がゲイの高校教師・高橋に惹かれていく心の動きが繊細に自然に描かれていて、とても共感しました。
初めて会った別れ際には地味で内気な高橋の中に思いやりを感じ、二度目は自分とは違う視点でものを見る面白さを感じ、三度目は手に触れたくなって指先だけ握り合い、四度目は怒る高橋に自分への好意を感じて恋心に火がついて。
携帯で気軽にやり取りできない時代だったからこそ、一人で悩んだり、余計に会いたい気持ちが募ったり。会わないと相手を知ることができない。会う時の想いの密度が、とても濃いように感じました。
浩一が同じ高校の生徒と知ってからの高橋の逃げる態度が極端で、タイトルの兎から脱兎のごとく…という言葉を思い出すほどでした。どうしようもなく臆病で弱いけれど、だから浩一は守ってあげたくなるのでしょうね。最後は浩一の親友・柿本の計らいで仲直りできましたが、柿本は二人の生々しい姿を見せられて気の毒でした。
八年後の話「冬日」。高橋は帰省した折、中学時代の想い人で親友だった一ノ瀬と地元で再会します。
片思いが辛くて黙って去った高橋に一ノ瀬が傷つきずっとこだわっていたことを知り、高橋は自分がゲイであること、一ノ瀬を好きだったことを告白します。
その告白の場面よりも、別れ際、一ノ瀬が高橋を抱きしめてキスしたことに、胸が熱くなりました。離婚し、恋愛感情なんて5年くらいしか持たないものだと投げやりに考えていた一ノ瀬にとって、一途な高橋がかつて自分を何年も好きだったことは、温かく胸に沁みたことでしょう。それに、一ノ瀬にとって高橋は、ほかの子と仲良くしてほしくないと思うほどに、特別だったわけで。限りなく恋に近かったのだと、高橋の告白で気づいたのではないでしょうか。一瞬だけ、淡い恋心が一ノ瀬の中にも芽生えたから、高橋に口づけたような気がします。
「春の嵐」は、浩一の親友・柿本の話。浩一と高橋の何年も続く熱愛ぶりにあてられた柿本は、情熱とはどんなものなのか知りたくなって、自分に想いを寄せるゲイの同僚と好奇心で寝てしまいます。頭が良くて切れ者の柿本が、おかしな行動に走った挙句に隠れていた欲望を引き出されてしまい、戸惑うさまが面白いです。恋愛初心者の柿本がどんなふうに変わっていくのか。きっと恋に発展するのでしょうね。
恋の切なく甘い余韻が残る作品でした。