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表題作深呼吸

谷地健司,43歳,弁当屋でバイトのリストラ社員
榛野佳久,34歳,外資系企業の元上司

その他の収録作品

  • 深呼吸2
  • あとがき

あらすじ

谷地健司は20年近く勤めていた外資系の会社をリストラされてしまい、40歳を過ぎて弁当屋でアルバイトを始めた。
リストラのショックが癒え、穏やかに過ごしていた彼の前に突然、榛野が現れる。
榛野はアメリカの大学院を卒業したエリートで、谷地に冷酷に解雇を言い渡した年下の上司だった。
無能と宣告されたような気持ちを思い出すので二度と会いたくないと願っても、彼は毎週末やってきては弁当を買って話しかけてくる。
その真意は…?

(出版社より)

※電子版もイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

作品情報

作品名
深呼吸
著者
木原音瀬 
イラスト
あじみね朔生 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
発売日
ISBN
9784862639066
4.2

(131)

(70)

萌々

(41)

(10)

中立

(3)

趣味じゃない

(7)

レビュー数
25
得点
547
評価数
131
平均
4.2 / 5
神率
53.4%

レビュー投稿数25

木原先生の描く受けってなんでこんな刺さるんですかね..

ちるちるの質問箱で、美しいことの松岡さんと似た受けが出てくる作品を質問したところこちらを教えてもらいました。
まず、リストラされた×リストラしたの組み合わせ本当に最高です。私は受けがステータス高い作品が性癖で普段から強気受け、高飛車受けを好むのでクリーンヒットでした。

でも、それだけじゃないです。やっぱりなんていうんですかね、、。木原先生の描く受けってなんかもう本当にいじらしくて可愛いんですよね。自分が攻めに嫌われたと思うと、電車から飛び降りて死にたくなる、みたいな思考回路とか。普段受けはそういうキャラじゃないのに凄く健気に攻めの事を好きでいて、恋するってこんな感じなのかな、、って凄く目頭熱くなっちゃうんですよね。感情移入させるのがとっても上手いなって思います。


攻めの谷地もゆったりした温厚なキャラで良かったです。やっぱり、40すぎて年下の上司にリストラ勧告食らうという屈辱も勿論持ち合わせているし、卑屈になったりもするけど、少しずつ榛野を受け入れていく様子も徐々にだからこそ読んでてなんだか心温まるものがありました。

最後のロンドンでの5日間も良かったですね。谷地はノンケなのにわりとスルッと男同士のあれこれを受け入れてましたね。もともと榛野の自分に対する好意は気づいていたから心の準備の時間が確保できてた分拒絶したりすることがなかったのかな。木原先生の作品は攻めが絆される事が多いと思うんですけど、私はそれが大好物です。

木原音瀬先生の作品は4作品くらいしか読んだ事ないですが、木原先生にしてはかなり優しい作品だと思います。おすすめです。

1

漂う空気感が好き

リストラされた職場の元上司が自分のバイト先に通い詰めているところから物語は始まります。
いい大人同士なのに、くすぐったくなるような初々しさ。
そこに猫がプラスされ素敵な時間を共有できます。


受けの榛野は情に流されず効率重視で動ける有能な男。
それは日常生活でも同じなはずが、谷地が絡むことにより歯車がズレていく。
相手を意識するほど、胸を張れるいつもの自分らしさがおかしなものに変わっていく。それに動揺し恥じる姿が可愛かった―。

谷地はゆったりとした独自の空気感、居心地の良さがこっちにまで伝わってきました。

注目すべきはラスト。

イギリス生活が終わる時は進展したどころかベストな関係になったにも関わらず、榛野があじわった喪失感のようなものに、こちらまで悩まされました。
幸せなはずなのにとんでもなく寂しい!!
それだけ谷地の存在を色濃く感じさせてくれたんですよね。
ハッピーなのに切ない!!
絶妙な塩梅の終わり方が新鮮でした。

イラストもベストマッチだったと思います。
谷地の容姿を見て某走り屋を思い浮かべたのはきっと私だけですよね(笑)
でも所々無意識ながら三木さんボイスで変換されていた気がしてきた(笑)

二人の空気感を身近であじわえる読みやすいお話でした。

0

ヤチさんと猫チャン

「たくさんあげたから、お腹がいっぱいになったはずだ。あの鳩は今晩、寝床できっといい夢が見られるよ」

そこまでネタバレはありませんが一応付けました。
木原さんのお話では地獄や性悪な人間を読むのが楽しく、「ほっとする」「癒し」は求めていなかったので後回しにしてしまっていたのです。それが読んでみたら本当に素敵で。無駄を省き合理的な現代人の榛野と同じように、ほっと谷地さんに癒され、家に居つきたくなりました…

ちるちるさんの作品評価基準は「万人にお勧め」なのが神評価との事。ですが私を含め多数の方々は、一部の人は受け付けないけど抜きん出て素晴らしい作品を神と評価する事も多いと思います(違っていたらすみません)。この作品はどちらに於いても神評価だと思いました。

自分と違う性格や考え方に触れて視野が広がるお話が好きです。木原さんの描く、側からみれば特別な特徴の無いような主役然としていないおじさんがどんどん魅力的な人になって好きになるお話も大好きです。
リストラされて弁当屋のアルバイトをする谷地さんは、きっと現実で出会っても会計を終えれば忘れてしまう人に過ぎないのですが、彼の時間の過ごし方、生き物との向き合い方に触れるとどうしようもなく『好き…』となります。

完璧なエリートで仕事人間の榛野が、聞きたいこと言いたいことをスッパリというのも気持ちが良いし(谷地さんも鈍感だから二人の会話が面白い)、話が進むにつれてどんどん甘ずっぱくなっていくのも良いです。彼の人間らしい部分、甘い部分が谷地に触れられ撫でられて猫のように流れていくのがとても可愛い。この猫という表現はありふれていますが、この作品にとっては根底に流れているキーワードであり、榛野の変化であるので、読み進めると何だか胸がいっぱいになります。

谷地の数々の台詞と行動が繋がり、本当に優しくてあたたかくなるのですが、それと同じく恋の切なさも凝縮されたラストは悲しいとか嬉しいとかでなく、愛に涙しました。

情事シーンは多くはないですが露骨具合も繊細さも、相手が好きで大切にしている感じがしてとても好きです。台詞も甘い…!
榛野の周りがちょっかい出すのも楽しいです。要らんことを谷地に吹き込む(勘違いで)医師、榛野とのワチャワチャも見てみたかった。イギリスの同僚も。

5

心情がとてもリアル

何度も読み返したくなるお話ですが
間を空けると序盤の谷地さんが気の毒なのと
坂口に「あいつは(榛野が)リバだから楽しいでしょ」って言われて
リバを若者の流行言葉だと思ってしまうどノンケ谷地さんに
わぁああああってなってしまうんですよね。
そして「坂口てめぇ何言ってくれてんだ!」になるまでセットですww
途中まで、リストラされた43歳の悲しさが書かれているので
妙な話ですがBL作品と意識しない感じなので
読み返すたびに驚くんですけど私だけかもしれません…。

谷地さん視点だと榛野の考えてることがわからず、
榛野視点だと谷地さんの考えてることがわからないので
随分もだもださせられるんですが
すごくリアルな心情でぐいぐい引き込まれてしまうんです。
自分でリストラを言い渡しておいてわざわざ弁当屋に来るなんて無神経だな、とか
あまりにも歯に衣着せぬ物言いが凶器みたいで
もう関わらないでいてくれたらいいのにと榛野に対して思いますが
榛野は榛野で初めての本当の恋に戸惑っていたなんてなぁ…。
自分の根底をひっくり返してしまうほどの相手が谷地さんだというのが
つい後からじわじわ来てしまいます。
ロンドン編ではとにかく谷地さんが絶望的に鈍いな!!と思ってしまうww
だけどそれも込みで榛野はどうしようもなく好きだから
自分の落ち度を呪いたくなったり恥ずかしさで消えたくなったり
日本人観光客の女性に嫉妬したり忙しいんですよね。
幸せの意味を知ってしまったあとの寂しさがまたしんどくて
あの榛野が…………と感慨深くなるのです。

谷地さんがあんなに頼りない感じだったのに
榛野視点だとなぜか別人のような余裕のある年上のひとに見えてしまうのは
もしかしたら榛野フィルターなのかなぁww
いやいや、実際谷地さんはいい人ですからね。
真面目過ぎて榛野の行為を途中で拒んだ時はつい怒りを覚えてしまいましたけども。
あんなに非効率的なことが嫌いだった榛野にずいぶんと人間味が出て、
ラストはちょっと切なくなりますがとても充足感を得られます。
もしかしたら木原作品で一番好きかもしれません。

6

じれったい!もどかしい!!

イタイお話が大の苦手で、なかなか手を出せない木原先生。これは大丈夫な方と答姐で書かれていたような記憶があり手に取ってみました。はい、イタくはなかったです、じわじわ萌えーとする作品でした。教えてくださった皆様、有難うございます。
b-Boy2002年11月号に掲載されたもの100Pほど+その続きの書き下ろし140Pほど。40代と30代という分別あるはずの大人のもどかしい恋模様 です。色っぽいシーンは少なく、地雷として40代おっさんに少々女子が絡むこと でしょうか。
とにかく年齢層がほんのちょっと高い・・・ので萌どまりです。この年齢でないとこの味はでないと思うんですけどね・・・やっぱり美しい~★というビジュアルの方が好き・・・・

継続して淡々と業務を行うという点において優れている40代さん。評価としてはやはり劣後となりリストラ対象になります。そのリストラした方が30代さんで、40代のおっさんが始めたバイト先(お弁当屋さん)に弁当を買いに来る。1回のみならず何度も・・・。
登場人物はこの二人と40代さんの親戚筋(♀)、30代さんの同僚、セフレ等 です。

弁当何回も買いに来てるやん、なんか気がつけよ と思うのですが、このおっさん、もともとの性格に加えて40代だからか、とことん気がつかない。そんな二人がちょっと近づくところまで が前半で、後半はロンドン赴任した30代さんのところへおっさんが電撃訪問してくるというもの。そんな行動力あるんやったらもうちょっと早くに動けよ という気もしますが、ここまで焦らしてくれたからのこの最後の感動かもしれないです。

とにかく最後がいいです。じれったくて途中苛々もしたのですが、この最後で全部OK!と思ってしまいました。

1

何度でも読み返したくなる

大人の男たちの切ない恋のお話。

温厚で多くを求めない谷地、冷徹で向上心の塊の榛野。二人は、リストラされた者とリストラした元上司。
真逆な二人が静かにゆっくり近づいていくのがよかった。
表紙イラストも、片思いする榛野と戸惑う谷地の関係をよく表しているなあ、と思いました。
とても好きで、読み返すたび、じっくり眺めてしまいます。

表題作の「深呼吸」では、谷地と榛野がやっと友人のようになったと思ったら、榛野は谷地から遠く離れてロンドンに行くことを決め、自爆のように想いを告げます。後日談の「深呼吸2」では、半年後に谷地がロンドンの榛野を訪ね、一緒に観光したり料理をしたりといい雰囲気に。小さな波乱はあるものの最後は恋人同士に。

「深呼吸」は谷地の視点で書かれていて、一読目は、榛野がなぜ、どのように谷地を好きだったか分からなかったのですが、「深呼吸2」で種明かしのように榛野の気持ちが書かれているので、あらためて「深呼吸」を読み返すと、榛野が驚くほどいじらしい人物に見えました。榛野の気持ちを思い出しながら読み返すと、すごくドキドキします。

一番好きなのが、野良猫にエサをやる谷地の話。
猫にエサをやるのは自己満足のためかと問う榛野に、谷地は、自分が野良猫ならその時だけでもお腹いっぱいになりたいし、誰かがエサをくれると期待するのは希望ではないか、と答えます。
谷地の深い優しさに触れて、榛野は「猫なんかじゃなく自分を見てほしい、自分に優しくしてほしい」と切なく、自分の恋心を自覚したのですが、ロンドンに発つ前、谷地には「そういう考えの人もいるんだと思いました。」と、淡々と話しています。
こういうことがあったから、あなたを好きになった、と素直に言えなかった。
猫みたいに素直に甘えられない榛野が、すごく可愛い。

猫が、この二人を結ぶ小さなキーワードのようです。
日本で、夜遅くに谷地の家を訪ねたいことがあったときも、榛野は「猫にも会いたいので」と口実にしていたし、ロンドンで谷地を誘惑しようと膝に乗り上げても気づかない谷地に、「猫の真似です」と。

ハラハラしましたが、最後、両想いになれて、よかった。
谷地は榛野の家の冷蔵庫を食材で満たしてからロンドンを発っていきます。
榛野がそれに気づいたのは、谷地を空港に送り一人寂しく帰宅してから。料理が苦手な榛野のために、そのまま食べられるものをたくさん。日本にいた時より痩せた榛野を心配して。
谷地は本当に榛野を好きなんだな、と分かるエピソードの一つなのですが、正直言えば、谷地がなぜ榛野を好きになったのか、もっと知りたいと思いながら読み終えました。

ネットで、その後の話は何かないかしら、と探していたら、「plus story」を電子書籍で読めると分かり、思わず喜びの声をあげてしまいました。
それを読んだら谷地の気持ちが分かり、「深呼吸2」を読み返したくなり、また「深呼吸」に戻り、続きの「深呼吸2」、「plus story」を読むという無限ループにはまり…。
何度でも読み返したくなります。

14

何度も

何度も読んでしまう私の中の一冊。
執着具合とか、なぜか私のドツボ。短いスパンで4度目の再読。

読むものがなくなると、ついつい読んでしまう不思議な作品。

そしてほっと〇っとの前を通ると、想像して楽しんでしまう変態な私。
攻め様の懐の深さなのかな、私を捉えて離さない理由。大人なんだよな~
自分にリストラを言い渡した相手なのに...その受け入れ方が...(私なら受け入れられない)
なんかね、胸がきゅっと苦しくなるのです。
谷地さんが怪我をしたバイトの代わりに夜のシフトになり、榛野さんが来て「夜の時間帯に勤務を変えたのは、私のせいですか?」の場面、息苦しくて死ぬかと思いました。執着具合がたまりません!

木原さん、素敵な作品が多い。でも、この作品は上位ではないのですね。
私的には木原作品断トツのNO.1なんですがね(笑)

多くの人に読まれるといいな。

13

大人のラブロマンス♪凄く素敵 (*'艸'*) ドッキン

今度はどの本を読もうかなー、ちょっとリラックスしたい気分。「深呼吸」というタイトルは、正にそんな私に打ってつけのそれに思えて手に取りました。お話ごとに視点が変わるというのは木原先生お得意の手法。ですが、皆様も仰っておられますように、視点が変わることにより、ここまで作品の印象がガラッと変わる作品も珍しく、驚き戸惑いつつも楽しく拝読致しました。あらすじは割愛させて頂きます。気づくと長文になってしまい、文字制限に引っかかってしまうため。 (〃⌒ー⌒〃)ゞ アー、マタヤッチマッタ

目次
深呼吸(谷地視点)
深呼吸2(榛野視点)

● 深呼吸
まず、タイトルの「深呼吸」ですが、この単語が出て来たのは作中ただの1度きりでした。私はこの作品を読む前は、きっと作中の人物たちがいろんな所で溜息をついては深呼吸するシーンが、山ほど出てくるに違いないと思っておりました。ところがそんなシーンは皆無に等しく…。たった1度きりの深呼吸、それはこんなシーンでした。

会社を変わり海外赴任することになった榛野が、谷地を前に、リストラした経緯を語り始めます。榛野は谷地に対し、実に露骨に無能の烙印を押した後カミングアウトするのですが、その直前、唯一の「深呼吸」のワードがもたらされます。

―――榛野は大きく、深呼吸してから谷地の目を見た―――

この深呼吸をした後の告白で、ようやく榛野の本心をうかがい知ることになります。でもそれまではどこか心の冷たい嫌な人物に見えておりました。年配だけど温厚で優しい谷地とは正反対。本当にこんな二人が恋愛関係に発展するのだろうか。第一こんな冷血人間の様な榛野に感情移入など出来るものではない。そのように思っておりました。この時はまだ谷地視点で見ていたため、余計にそんな気持ちを強く持ちました。

ところが谷地自身が榛野から告白された後、「この男を嫌いにはなれない」と思い、「この男に、自分はどう見えているんだろう」と興味を持ち始めたことで、私も谷地同様どんどん興味が沸いてまいりました。何が面白いと言って、好きになった者も好きになられた者も、どちらもその理由が分からないと言う事。

最初は「そんなバカな」と驚いた私。でも…そもそも人を好きになるって案外そう言う事。理屈じゃなく、不思議だけど気付いたら好きになっていた、そう言う事だと思うのです。むしろ打算的じゃなく、逆にこの方が本物だと思えるのです。男女の恋愛はとかく打算的で、それが本当の愛なのか計算なのか分からなくなることがあります。BLを好きになったのも本物の愛を体感したくなったから。それゆえ、好きになった理由が分からないってアリだと思えるのです。

話を戻します。海外赴任することになったため、お別れの前にカミングアウトをした榛野。その際、谷地が可愛がっていた「別宅の猫を、いただけませんか」とか、谷地の所有する「本をください」などと言うのです。榛野のそれまでを見て来た私からは想像もできない意外な面が次から次へと現れ、面白ーい!ナニコレ?と思った頃、「深呼吸」は終わります。おぉ!これからと思った矢先に「END」 (>_<)

● 深呼吸2
こちらは榛野視点。よって今までは分からなかった榛野の気持ちが手に取るように分かり、私の中でも、冷たい人間から血の通う温かみのある人間に変化していきました。

―――日本語と同様、英語でも谷地の喋り方はゆっくりしていて、音の取り方がいい。響が心地よい。ずっと聞いていたくなる―――

これは榛野の心の中の言葉。谷地の流ちょうな英語、私も聞いてみたいと思った瞬間です。そう言えば、谷地の元職場は外資系。英会話が得意でも何の不思議もないのですよね。

―――谷地は男前というほどではない。けど女を引き寄せる。これまで一人でいたのが不思議なぐらいだ―――

とありますが、私も同感です。観光名所などを歩いていると、案外あちらこちらに日本人の姿をお見掛けします。こちらの小説でも例外なく声をかけてくる女性の存在が。すると女性の視線が谷地に注がれ…榛野の何気ない嫉妬の気持ちが手に取るように分かり、可愛いと思える瞬間がありました。

思うに谷地は、恋愛事情には疎い方だったのではないでしょうか。そんな谷地も榛野によってドンドン開発されていきます。とはいえ、どちらかと言えば榛野の方が谷地によって翻弄されていたような気がします。

―――「私は死ぬまでに、一度ぐらいあなたと寝ることができるんでしょうか」―――

こう言いながら、榛野は谷地を襲い始めます。ところが拒絶はなかったものの、受け入れられているわけでもなく、途中から愛の行為は尻すぼみになってしまいます。落ち込んだ榛野が「地球が滅亡すればいい」とか、「記憶喪失になりたい」などと一人涙を流すシーンが可愛いく、思わず笑ってしまいました。

でも、何から何まできっちりしている谷地は、成行きで体を結ぶのではなく、きちんと話し合い、合意の上でお付き合いをしたかったようで…まどろっこしいけど、決して榛野を拒絶したわけではなかったのですよね。それを証拠にその後は甘い甘い抱擁が待って居りました。もちろん、当然の成り行きとして最後まで行くのですが、それまでのじれったさが嘘のように目茶苦茶に甘いのです、これが。

何か…大人のラブロマンスを見せつけられた感じです。ほんわか甘くってスイートで、私の心もグチャグチャにとろけてしまいました。

13

視点の変化で人間まで変わったような。

表題作が受け視点で、後日談あるいは同時系列が攻め視点、というパターンはBL小説ではよくあると思われます。そしてもちろん視点は違えど破綻などはないのが当然…
ですが、この「深呼吸」。
表題作「深呼吸」と後日談「深呼吸2」では、視点の変化とともに受けも攻めもまるで別人のように立ち現れる。
「深呼吸」では、リストラされて今はお弁当屋さんでバイトの40代谷地が、その向上心のなさや慣れに流されていく勤労意欲が、職業差別ギリギリの描写で描かれる。
そこに通ってくる10も年下のエリート上司榛野。何を考えているのか全くわからない。無表情で、日本的な曖昧さを排した、合理的現実的でストレートすぎる物言いの人物として描かれている。
榛野は、谷地の怪我をきっかけに谷地の家に出入りするようになるが、相変わらず何を考え何をしようとしているのか、谷地には全く見えない。
「深呼吸」のラストは、(谷地にとっては何故なのか理由もわからないが)家に来なくなった榛野が突然やってきて、私は会社を変わってこれからロンドンに行く、私があなたをリストラ人員と判断したがあなたに恋愛感情を抱いて恋人になりたかった、と唐突に話し始める。
読者も谷地と共に混乱し、榛野と共に自爆してしまったかのような終わり方。

「深呼吸2」は榛野がロンドンで働き始めて半年後の榛野視点。どうやら榛野と谷地は週一で文通(!)をしているらしい。
榛野は「深呼吸」での無表情男とは打って変わって、いつもいつも谷地の事を考えている男として描かれている。
『ロンドンに旅行することにしました』の一文だけで眠れなくなり地下鉄も乗り過ごし。そして翌日、行きつけのサンドイッチ店で谷地を見つける。
それからの数日は、冷徹有能なエリートとは思えないドジとボケと失敗の連続。何と鼻血まで出してしまう!何とも人間臭くて恋心ダダ漏れの榛野。
榛野視点での谷地は、物静かで落ち着いていて、誰にでも優しく、そしてどこかミステリアスで色っぽいのだ。
2人で過ごす2日目の夜、勝手に巡らす嫉妬の妄想の末に谷地を襲ってしまう榛野!(榛野は受け。つまり襲い受け!)
いきなりの性交を拒み、話をしよう、と言う谷地。拒まれて羞恥と絶望にまみれる榛野の手をまず握る。次に手の甲に口づけ。目尻を指でなぞられ、背を向けると後ろから抱きしめてくる。『いい匂いがする』と耳許で囁き目を閉じるように告げてキスをしてきた……
この一連。これは一体「深呼吸」での谷地と同一人物でしょうか?エロい。
そしてそれからは甘い甘い行為の連続。甘いのは好きだから大歓迎だけど。
そしてもう次の日は谷地の帰国の日。空港で別れ、フラットに戻るがどうにもならない涙が溢れる、というラスト。
視点によって全く人物の見え方、捉え方が変わる2篇から成る「深呼吸」。
心の無かった男の「初恋」という内容と共に、小説の構成の面白さを感じました。萌x2と迷ったのですが、今回は「萌」で。

2

胸がいっぱいになった

この作品は、ほんのり渋みのある甘酸っぱい作品でした。大人の初恋を読みたい方にオススメです。

木原さんの作品は、ダークなイメージしかなかったので、最悪から最善へ変わる物語の進みにまずホッとしました。

雑誌掲載の1と書き下ろしの2からなる二編。1が40代の谷地(ノンケ)。2が30代榛野(特定の相手を作らないゲイ)視点です。

1も2も落ち着いた気持ちで、あっという間に読み進めましたが、少し物足りなさがありました。2で谷地の心情をもっと盛り込んで欲しかったなと。告白されて受け入れるまでに彼の中にどんな変化があったのか言葉で付き合うことに性差は関係ないとあるが、そこに至るまでに何らかの影響があったはず。もしかすると何か匂わせる場面があったかもしれませんが、それを谷地視点で読んでみたかったなぁと思いました。

…物足りないと感じましたが、最後の数ページで吹っ飛びました。視点は変わらず榛野ですが、とても胸が締め付けられて、まだ始まったばかりの二人を見守りたくなりました。

1

おじさんの気持ちが分かる

コノハラーな私ですが、中でも1,2を争う位置にある作品です。

木原さんの中では痛さがあまりないかも、なんですけど、その代わり甘い。

谷地がロンドンへ行ってからの一週間、嬉しくなるくらいのあまあまラブラブで、秦野を愛しく思っているのが丸わかりな莞爾が好きです。
特に「今のは忘れて下さい」に萌えました♪

6

ゆっくりゆっくり育む恋

さっくり言うと、中年リストラサラリーマンの初恋。
中年リストラサラリーマンがピュアすぎるかな?と。
相手はビッチエリートリーマンなんですけど
恋されちゃうのですよね。でも相手はピュアなんで
っていうか幸薄い感じなんですれ違ってます。

半分はロンドンでのお話なんですけど
おしゃれですよね……なんかわくわくしてたんですけど
期待ほど盛り上がらなかったというか。
丁寧な描写に心温まる部分はありました。
でも最後がアッサリ目というか。

ああ、でもこれ深呼吸っていうんだよなって思って
ちょっと納得っていうか。

ほわほわとした気分になれる1冊でした。

1

初恋物語

43歳にしてリストラされお弁当屋さんのアルバイトをしている谷地健司。
父も母も亡くし、ゲイではありませんが未婚。
読書が趣味で猫(この猫は、たぶん野良猫)と暮らす地味な人です。
30そこそこ(いくつでしたか?)の榛野佳久。
アメリカの大学院を卒業したエリートで・・・かつては、谷地の上司で、事情があったとしても谷地をリストラした人。
榛野はゲイです。わかりづらいのですが谷地に恋愛感情を持っているらしい。

この本には「深呼吸」と「深呼吸2」が収録されています。

リストラは、されたけど、なんとかお弁当屋さんで働き始め、ま、こんな生活もありかな~と落ち着き始めた谷地。
(よせばいいのに)その谷地の前を榛野がうろうろ・・・。
谷地にしてみれば、もう関係ないんだから放っておいてよね~と言いたくなるような目障りな存在。
さらによけいなことをして(言って)谷地が怪我してしまったり。
はた迷惑な榛野は、谷地がおっとりしているのをいいことに、あれよあれよという間に猫のように家まで上がり込む始末。
上がり込まれると無碍にはできない谷地。
こんな、お休みの日に誰かが一緒にいてくれたら良いかも・・・と持ち前の人の良さが前面に出ています。
でも、そんな穏やかな生活は長くは続かず・・・。
榛野は、谷地の従姉妹にちょっとやきもち妬いたりして・・・。
「あなたに恋愛感情を持っていました」と勝手に自爆。
ロンドンへの赴任が決まって「猫をくれ」「それがダメなら本をくれ」まあ、手前勝手なことを言って断られ逆ギレ。
それでも・・・
「僕はずっとここにいるので・・・」と谷地に言われてロンドンへ旅立ちます。

深呼吸、初出が02年11月・・・何年前ですか~?
榛野が谷地に好意を持っている(深呼吸はどちらかというと谷地視点で話が進むので、傍目にはとてもそうは思えませんが・・・)谷地は、榛野を嫌いになれない。
「僕はずっとここにいるので・・・」
ロンドンから帰ったらまた訪ねておいで(訪ねます)的なところで終わってます。

当時の読者さま、続きを待っていたでしょうね。
その続きが書き下ろされています。

舞台は榛野の赴任先、ロンドンです。
谷地のことは忘れられないけれど・・・榛野は、適当な相手を見繕っては寝てしまったりしています。
彼、もともとそうなんですね。
谷地には理解できない用語でしたが、リバOKらしいし・・・。
ロンドン編は、榛野視点で話が進むのでやっと榛野が人間らしく見えてきました。
合理的でいつも自分が正しい榛野は、自分が谷地に好意を持っていること自体が不思議で理解しがたいことだったようです。
でも、心は谷地のことを思ってしまう。
そんな榛野のロンドンでの生活。
なんと、谷地が先に行動を起こします。びっくり!
ロンドンで再会するふたり(なんかとてもロマンチックな出会いになりましたが、そこはそれ・・・谷地はけっこうロマンチストかなと思いました)
けっこうせっかちな榛野に対し、谷地の時間が本当にゆっくりゆっくり確かめるように進んでいくのが印象的でした。
紆余曲折の末に(かなり端折りましたが、読んでください)ふたりは結ばれます。
そして、別れ・・・。
食材がぎっしり詰まった冷蔵庫にはやられました。とっても谷地らしい。
空港での別れから、はじめての恋を自覚した榛野の涙に心打たれました。
30を過ぎての初恋・純愛です。

これからはじまる遠距離恋愛?
次は、榛野の方が耐えきれずに行動を起こしそうですね。
あとがきで木原さんも書かれていましたが、榛野は谷地にパソコンと携帯電話を送りつけそうです。
でも、せっかくだからアナログで手紙書き続けるのも良いんじゃないかな~と思うのですがどうでしょう。

少しふわっとしたせつない読後感、ああ、これが「深呼吸」なんだなと思いました。

4

深呼吸の意味

 40過ぎで淡々と仕事をこなす谷地と、彼の上司であった30過ぎの榛野のお話です。
 
帰国子女で、何でも合理的に考える榛野は、上司のリストラ対象者選考命令を受けて谷地をリストラしてしまいます。
 谷地はどこか納得できないものの、現実として受け入れ、家近くのホカ弁屋でバイトをするのですが、そこにはなぜか榛野が通い詰めているのです。その上、榛野は谷地に本を借りる口実で彼の家にまで通い詰めるようになるのです。
 
 自分が谷地を奪われたり、なくしたりすることに不安を感じ、好きな人の名前を呼ぶだけで胸が満たされる…。おそらく彼の人生ではこれまでなかったことがどんどん起こっていくのです。谷地の日本家屋、榛野のアパートにしろ、そこで繰り広げられる甘いうずきに萌えます。前半は谷地、後半は榛野目線で物語が進んでいきますが、恋は合理的ではないことを榛野は分かっているのかななどと思い、そんな不器用でどこか屁理屈な彼がじれったく、少しかかわいくて萌えます。

 終盤近くに榛野から体を重ねたものの、途中で谷地に断られるシーンがあります。谷地は、「好きな人なら、まずは手を握るものでしょ。」と言ってのけるのです。体だけの欲求を満たすことは一瞬でも、谷地が知りたい、望んだのは刹那のことではない気がするのです。他にも、谷地がいかに大人なのかが、最後の冷蔵庫、リンゴのシーンに現れています。谷地は何もしないのではなくて、一人の尊敬できる大人であったのではないでしょうか。
 榛野は元々合理的な性格故、体を重ねて得られる満足感の方を重視する人間です。そんな人間が、初めて気持ちから人を好きになったという、初恋とも言うべき物語です。

5

この胸の痛みをどうしてくれよう

多くの方が書いておられますが、このラスト最高ですね。
甘くて心地のよい“痛み”の余韻が…。
BLで甘くて心地のよいラストにならちょくちょく巡り合うことができますが、そこに痛みを伴わせることができるのは木原音瀬さんならではだと思いました。といっても、バッドエンドではありませんし、誰にとっても不快さは一片もありません。
そこにあるのは、誰もが知る、純度の高いシンプルで幸せな恋の痛みです。
リアル日常生活では(私は)味わえない感情なんだけど、味わいたいからBLを読むんだよなァと思います。木原さんありがとうごさいます!ちなみにこれ、男女じゃダメなのよ。男女だとちょっとイラッとするから、どうしても純度が下がるw

主役二人は大人です。
前半は40代の攻め視点、後半は受け視点。攻めはリストラされて枯れてて弁当屋で、受けはエキセントリックだけど外資系の会社で働く有能な男。
前半と後半で、それぞれのキャラクターがまったく違う側面を見せてくれます。しかも、キャラクターの性格が変化したわけではない。
前半では身勝手さと嫌味ったらしさを「欧米流の率直さ」という都合のいいオブラートで包んだような性格の受け。それが後半でめちゃくちゃ可愛くなるんですよ。
木原音瀬さんは、みっともなさや滑稽さ、失敗が萌えになることを本当によくご存知だと思います。
とくに受けがきのこを包丁で切る場面は、プライスレスでしょう!受けの生真面目な性格や緊張や、みっともないところを見せたくないという気持ちが高まって、必死で滑稽で可愛くてどうしてくれようって気持ちになる。攻めもきっと同じ気持ちです。惚れてなくても惚れるに決まってる。
まるで初恋してる思春期の少年のようだなァと思ってふと気付いたのは、まさに受けにとったらこれが紛れもなく初恋だということでした。木原さんもあとがきに「タイトルは最初「初恋」にしようと思っていた」と書かれてて、ですよねー!と拳を握りました。
ちなみに枯れたオッサンだと思ってた攻めへの感情も、後半で大きく変わります。違う時間軸の中で、使えない歯車かもしれないけど、きちんと自分自身を生きている魅力的な人だ。先にレビューした人も書かれてますが、私も若いときなら彼をダメ人間だと判定したかもしれない。でも、ちゃんと働いて生きてるから素晴らしいんだよ。彼には勇気を貰えますw

あー、ぐだぐだ書いてたらやっぱ文字数足りないや。
コノハラーで良かった!

16

初恋のお話

オヤジの恋は、火がつくまでに時間はかかるが、その火は恐ろしく熱い。
ということを、2章に分けて語っているお話。

前半、谷地目線で語られるお話は、自分をリストラした年下上司が、なぜか自分の前に現れて、ひたすら困惑して、それでも少しづつ距離は縮んで、、、
榛野が、自己表現があまりにもわかりにくいキャラクターのため、中庸で恋愛スキルの低い谷地には、榛野の行動がまったく理解できません。
読み手側としては、榛野に対しては
「もうちょっと積極的にせんと、あのぼんやりなおっさんは気付へんど」
というじれったさを、
谷地に対しては
「オッさん、それは、恋や。猫が勝手にくるからエサをやる、から、もう一歩、ちゃんと猫に名前つけたれや。そいつの名前は、恋だって。」
っていうじれったさを、
このフラストレーション溜まりまくりのお話は、榛野の告白でぶち切れて終わります。

この不条理さ、木原さんならでは。

そして、榛野の視点で語られる第2章。
榛野のかわいらしいこと!
谷地を空港へ送りに行くシーン、空港から帰って冷蔵庫の中を見るシーン。
榛野、よかったね、谷地を好きになって、って思えます。

谷地のように、火がつくまでに時間のかかるタイプは、一度着いた火を消すことなく、きっと生涯を共にする伴侶として、榛野を離さないんでしょうね。

5

大人の初恋に胸がきゅっとなる

自分をリストラしたいけすかない年下の上司が、アルバイト先を何度も何度も訪れるなんて、フツーならいやがらせか!みたいな状況ですよね。
榛野は仕事はできてエリートだけど、感じが悪いというか、人としてどこか欠けている人物。
木原作品にはこういうタイプのイヤな奴がよくでてくるのですが、こういう不完全な人間が恋に溺れていくとき、妙に人間らしいというか、かわいげのようなものを感じます。それが、読んでいて心揺さぶられるんですよね・・・。
前半部分「深呼吸1」が谷地視点・後半部分「深呼吸2」が榛野視点になっています。

「深呼吸1」が終わった時点ではまだ榛野の片思いといえる状況で、雑誌掲載時はここまでだったので、「こ・・このさきどうなるのかなー?と」思っていましたが、待つこと約9年間!待ったかいがありました。
あの鈍感で枯れ気味?かと思われた谷地さんとマトモな恋愛をしてこなかった榛野とのやりとりがなんだかほんと甘酸っぱいというか、キュンキュンしました。ふたりにとっての初恋ですよね。
そして、両思いなのに切ない、余韻の残るエンディングにグッときました。

木原作品の中では、痛さ度もそこまで高くないし、穏やかに話が進んでいくので初めての木原作品にもおすすめかもです。

2

『美しいこと』が好きな方にはぜひおススメです。

 10年近く前に雑誌掲載で読んだとき、40歳過ぎてリストラされお弁当屋さんでアルバイトなんて本当に大変だなあ…とどこか絶望的な気分になったのを覚えています。
 しかし自分が同じアラフォーになって。しみじみ三十路の自分の思い上がりが恥ずかしくなりました。アルバイトでも仕事があって住む部屋があって趣味があって。一人でもいいじゃないか。淋しくても人はしょせん孤独な生き物なのだから。それでもその孤独を知るからこそ、本当に大切なことがわかることもある。失ったからこそわかることも。
 あとはどんな風に生きるかなのだと、谷地が教えてくれている気がします。
 榛野もそんな谷地の静かな強さに惹かれたのかなあと今なら思うのです。

 続編を読めたのは僥倖でした。まさか続きが読めると思わなかったので。
 雰囲気は『美しいこと』の全プレ小冊子だった『愛すること』に非常に近いイメージを受けました。微笑ましい二人のやりとりが素敵です。
 遠距離なんて若い人にはかなりのハードルに感じられるかと思うのですが。
 多分、四十路にはちょうどいいカンフル剤になるのかもしれません。
 とくに今のようにメールでやりとりできるようになるのなら。
 それでもエアメイルを書く二人が可愛いですよね。ポストを毎日のぞくドキドキが、懐かしく愛おしく感じます。ドラマcd化してほしいです。
 

7

大人同士の初々しい恋にこれほどときめくとは…

体調万全!と挑みかかり、榛野が木原キャラによく出てくる何かが欠落した人間なので、これはどこかで来るぞ来るぞと歯を食いしばってたのに(笑)何もなし。
当然ストーリーの山場もあるんですが、大した事件も起こらず。いや、何度か脇役が出てきたりで一瞬ハラハラするけども、やっぱしなんも起こらず。
…そこはこっちも「木原さんだから」と気を張ってるからのハラハラなのかもしれません(笑)

第二章で榛野視点の話になってからは、私が思っていたような欠落人間ではなさそうだと気づき、なにこのツンツン猫!と榛野の可愛らしさにゴロンゴロンですよもー。
ロンドンでの榛野のテンパリぶりがまた、中学生のようで可愛くて、そのくせ行動が大胆というか唐突(笑)
木原さんの作品でいつも関心するのは、情景の描写の素晴らしさ。
ぐだぐだと比喩などあまり使わず、端的な説明でしっかり景色を見せてくれるところがすごいなあと。
なんとも生活感のある谷地の住む古ぼけた家は、その匂いまで感じるような気がしたし、ロンドンのパブの様子さえも浮かんでくるようでした。

しかし40代の枯れ気味のノンケ男の純愛が、こうも甘酸っぱく胸に迫るとは…しかも木原作品…。あじみねさんのイラストもイメージ通りな二人が素敵すぎる!
終わり方は余韻を含んでいて後を引きますが、これはこれでいいのかな。

10

期待を裏切らない完成度

 木原らしい。この一言に尽きる。作家は得てして手癖というものを持っており、どうしたってそれは現れる。傾向と言っても良いかもしれない。

 今作は精力を費やしたと云うよりリラックスして書いたのでは?と思わせる。
 そしてそういった作品にこそ著者の手癖が強く反映され結果、作風がより強調されている。
 手癖だけでアウト・プットに達するには相当な実力が必要だ。もちろん木原はその実力を持っている。

 木原は必ずしも好意的に見られる作家ではなく、当然読者を選ぶ。だからこそ受け入れた人々は歓喜し熱狂する。 

 内容に触れずとも「木原らしい」の一言でこの作品は評せる。そして決して少なくない木原の読者は、それだけで十分に作品を計りしれるだろう。
 

4

この胸の甘い痛みはなんなのだろう

真夜中であるにもかかわらず、寝ることも忘れて、じっくりと、一字一字漏らさず読ませていただきました。さすが木原さん、今回の作品も読んでいる最中、胸にかすかに切ない、けれど甘い痛みを伴うものを感じさせてくれるような作品でした。木原さんの作品を読むたびに湧き起こるんですよね。これが萌えという感情なのでしょうか(笑)
相手への複雑な感情(木原さんの作品の場合、憎悪など負の感情がほとんですよね)から転じて好意、愛情へというものへの移り変わりが自然に、けれど心情や風景・物事の描写から読者に感じさせるものがある。それをBLという枠内で表現することができるのだからやはり木原さんはすごい。
ですが、実をいうと本作品では、榛野(受)の感情を吐露する場面にて、少し違和感を覚えたりもしました。違和感というより、少し危機感を覚えたというか・・・私もしかしたらこの受け嫌かもっていう(苦笑)1部のラスト、榛野が感情的に暴露という名の告白をし、それに対して動揺する谷地(攻)の様子から、「あ~なんだか、最終的に、榛野に流されてくっつくというラストになるのかなぁ」と思ってしまって。けれど、最後まで読んだ今では、そんなこと全くなかったと断言できます。2部を読み終えた今では素直にそう思えます。そしてラスト、もしかすると少し物足りなさを感じる人もいるかもしれませんが、私はこのラストもとても気に入ってます。人が恋に囚われ、あたふたする様ははたから見れば滑稽なのかもしれませんが、コントロールのきかない感情を押さえつけようとあがく、それが人間であって、そこが面白くて良いのだなぁと改めて気づかされる作品でした。

3

不器用な2人

20年近く勤めていた会社をリストラされた谷地は弁当屋でバイトを始めたが、リストラの傷も癒えた頃に年下の上司であった榛野が現れる。

榛野の方が攻だと思っていたのですが、購入後に谷地の方が攻だと気づき、がっくり。失敗したなぁと思ったのですが読んでよかったです。

谷地も榛野も2人とも不器用だけど誠実でとても好感がもてました。つんつんしているけど榛野はとてもかわいい。谷地のことがすごく好きなのがわかって微笑ましい気持ちになります。谷地も大人の包容力があってかっこいいです。意外ともてるんじゃないかなぁ。

榛野は谷地に気持ちを伝えた後、仕事でロンドンに行きます。恋人ではなく友達という関係が続いたまましばらく経った頃、旅行で谷地がロンドンを訪れます。ここでいろいろあって2人はくっつくんですが、すぐに谷地は日本に帰ってしまいます。ラストシーンはロンドンに残っている榛野が谷地のいなくなった部屋でひとりで泣く、という終わり方です。
ハッピーエンドなんですけど切ない読後感です。あんまりこういう終わり方ってないですよね。BLってロンドンに行く前にくっついちゃうパターンか、もしくは帰国してラブラブの状態で終わるっていうパターンが多いので、こういう終わり方はちょっと驚きでした。

4

ラストが何とも言えない余韻が残りました。

木原さんはダメオヤジをとても魅力的に描くのがうまいですよね。
『B.L.T』の大宮雄介・痴漢二股男にしろ、
『NOW HERE 』の仁賀奈正敏・昔の恋が忘れられない50歳の童貞枯れオヤジにしろ。

そしてこの話の攻めも本当にダメオヤジ!
仕事にしても人生にしても全く向上心が無く、43歳にして会社をリストラ。
ただ今、24h営業のお弁当屋でアルバイト生活。
バイト生活8ヶ月目にして正社員の誘いがあるも、「考えさせてくれ」と返事。
将来に少しの不安はあるも深く考えず。

私の周りにいたら絶対にイライラしそうなのですが、こんなオヤジを木原さんの手により癒し系のおっとりオジサンと化してしまい、読んでいて何だか自分自身が癒されていくようでした。

二人の関係がゆっくりゆっくりと変化していくのですが、リストラ宣告した上司と部下から弁当屋の店員と客から、本を貸し借りする友人、毎週末には家を訪れる関係、お互いがいることが自然な空気になり、離れていても手紙や国際電話をし合える関係になり、休暇を一緒に過ごし気持ちを伝え合いと、飽きさせることなく一気に読めてしまいました。

そして、なんといってもあの終盤!
両思いになって幸せなはずなのに、込み上げる涙。
谷地が買っておいてくれた榛野にとっての思い出のりんごをかじって出る涙。
そして、後々気づくことになる自分の気持ち。

普通、気持ちが通じて幸せになって終わる話が多いなか、それ以上の現実を描き読後は何とも言えない寂寥感に駆られる。
もう、絶対続きが読みたい!

13

大人の初恋の行くへ

「深呼吸」が攻め様の谷地視点でのお話で
「深呼吸2」が受け様の榛野視点からのお話。
40過ぎて外資系の企業をリストラされた冴えない谷地と
年下の上司で冷淡にリストラを言い渡した榛野。
まるっきり環境も性格も違う二人の大人故のもどかしいような
なんとも言えない不器用なピュアさが漂う内容でした。

リストラ後自宅近くの弁当屋でアルバイトをしてる
谷地の所へ1か月過ぎた頃から元上司の榛野が弁当を
買いに来るように、どんなに迷惑な雰囲気を
出していてもお構いなしに来るのです。
来たからと言ってもちろん会話は殆ど無いし、
榛野が何を考えているのか谷地には理解出来ない。
この榛野は物事の利便性や白黒を即付ける合理主義者。
物言いもはっきり過ぎて口では負けないタイプ。
そんな榛野が自分の所へ毎回来る度に微妙な空気に。
深夜の担当者の怪我で谷地が夜勤になると今度は
辛辣に自分が買いに来るから深夜になったのかと
ストレートに問われ、心のうちではその気持ちが
無いと言えば嘘なのだが、弁当屋の事情を話すと
淡々とした表情がほんの少し安心したように・・・
榛野の態度は谷地にしたら訳がわからない感じですが
まるで好きな子を前にした小学生のような態度です。
自分でもどうしていいか分からないみたいな
谷地の言葉で一喜一憂する様子なのですが
谷地はストレートな人ですから榛野の態度は
理解の範疇にないんですよね。
榛野の論客的な行動のせいで、谷地が怪我を
そこからはかなり強引に榛野は行動を起こします。
怪我の心配や谷地の趣味に読書を切っ掛けにし
今までは弁当屋に通っていた榛野が今度は自宅に
毎週来るようになります。
そこで谷地もだんだん榛野に慣れて行くように。
でも榛野のままならない片思いは伝わらない。
榛野は、恋愛なんてしたことがないんですよね。
即物的な関係は常にしているのですが相手がノンケで
谷地みたいな相手は初めてで一人でぐるぐるしてます。
二人の温度差なんて寒冷地かと思うほど違うのです。
結局榛野は一人でもやもやした挙句、爆発しちゃう。
そして谷地が友達だと思えるようになった時に
榛野から1度も友達だと思ったことなんて無いと
言われ、2度と来ないと・・・・
谷地にはほんとに何なのか分からないのです。
でも、榛野が毎週来るようになって一人が寂しかった
谷地も知らぬ間に榛野がいることが当たり前になってた。
そして、しばらくぶりに訪ねてきた榛野はロンドンに
行くことになったと・・・
そして今度は逆切れのような谷地への告白。
谷地は唖然としますよね、そんなこと考えた事も
無いようなかなり鈍い人ですから・・・
直ぐには答えを出せそうもない問題でしたが
榛野の事を嫌えない自分にも気が付いている。
「深呼吸」では結果は何も語られないのですが
初恋へのプロローグが幕開けした感じでした。

「深呼吸2」では谷地が理解できなかった榛野の
行動や言動が交差するように語られています。
この榛野はかなり面倒な性格ですよね。
究極に自分に無いものを追い求めたら谷地になる
のだろうと思ってしまうほど正反対です。
後は、かなり快楽に忠実な人ですよね(笑)
谷地へ片思いしているのにその最中でも欲求には
忠実に適当に遊べる男性です。それもリバ設定!
心と身体は違うんだっ!みたいな感じですかね?
でも、好きになった谷地はきっちり段階と手順を
踏んで行く人なんですよね。
でも、前半で欲求不満みたいな榛野が後半は
段階を周到した谷地と甘々な数日間を過ごします。
ラストは榛野の思いにほろっとくるような終わりです。
じっくり読んでみたい1冊ではないでしょうか。


3

初恋のお話

木原さん15周年なんですね!
雑誌掲載のまままだ単行本になっていなかった作品らしいのですが(合ってますか?)書き下ろしがついて決して決着というわけではないですが、エンドを見られる形になったのしょう。
何となく主人公のリストラ社員のキャラクターの存在感が「place」の攻めをもっとソフトに浮世離れした風にした雰囲気を感じました(年齢設定のせいだけではないかな?)
本編ではとても不毛なやりきれなさを
2において、後半転換した途端に急激に甘い雰囲気が全編に漂い、そしてエンドにてとても胸に迫る想いが迫ってきて、思わず主人公と気持ちがシンクロして涙してしまいました!

谷地は外資系の会社に勤める事務職の社員だったのですが、改革のリストラにあい解雇され弁当屋のバイトをしている。
確かに彼は出世街道から外れた野心的な人間ではなく、害のない人間であったのも確かですが、それが海外式の考え方をする新しく来た年下の上司・榛野の意にそぐわない存在だったのは確かです。
彼が弁当屋にいるのを知り、毎日通ってきては弁当を食べ、あるトラブルから谷地の家に休日に本を借りる口実で通いだす榛野ですが、彼がどうして谷地を好きなのか?本編の中では薄ぼんやりとかすんで予測するまでです。

谷地は、怒りとか憎しみとか負の感情はないんだろうか?
そして、割と世俗に疎くて、怪我をした時に榛野に紹介されて訪れた病院で、「リバ」とか「上か下か」とかぶしつけな質問をしてくる榛野のセフレらしき医師と出会っても、質問の意味が全くわかっていない(まあ、何も知らない人だったら知らない言葉かもしれない)というより、人を疑う事を知らないのか?と思うほどに、谷地の枯れ果てぶりが目立ちます。
そんな谷地をどうして榛野は好きなんだろう?
そうして二人は榛野の海外赴任をもって別れてしまうような終わりをするのです。

「2」において、前半会社にいた頃の榛野の回顧があって不明だった部分が見えてきます。
そうかー、榛野が惹かれた谷地というのは、その彼の存在が醸す雰囲気。
シャキシャキして何事も、仕事もセックスも全て割り切ってドライに対応してこなしてきた彼の時間の流れと、谷地のゆったりした時間の流れの違いが、榛野にないものであり、惹かれるものだったのだということに。
ただ、そこで榛野が谷地に恋愛をもとめているのかというと、そうではなくて、ゲイの自分をうけいれられるかどうか?そこに比重があるような気がしました。
イギリスにいる榛野の元へ訪れた谷地。
その飾らない人柄は、榛野の嫉妬を呼びます。
自分の住むフラットへ宿泊を変更させたことで、一緒にいる時間が、彼の身体を、生活を傍に見て、感じてしまうことで、榛野の葛藤がヘタレとなって登場してきます。
谷地はマイペースですからww
谷地に欲情してしまい鼻血を出す榛野が思わずかわいい!?
谷地がいくら疎くて天然気味とはいえ、イギリスに、榛野の元を訪れること、それまでに文通していたこと、それに大きな意味があったのですね!
彼等は壁を超える事ができるのですが、
谷地は旅行、榛野はイギリス在住、別れは待っているわけで・・・

もうこの結ばれてから別れるまでのシーンが実に実にキました!!
そう、遠距離恋愛のあの別れの気持ちがそのまま再現されていて、思わず自分を重ねてしまって胸が熱くて、涙がボロボロボロ。。。。
そう、この気持ちが恋なんだよーーー

今まで縁がなくて一人できてしまった谷地、
だれ彼構わず快楽だけで身体の関係であり、心を求めて痛かった榛野。
彼等にとって、これは初恋だったのですね。
不毛から一転、この胸の締めつけのエンディングへの大変身に劇的な展開を見せた物語でした。

9

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