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――俺は、幸一を脅迫してるんじゃない。愛してるって言ってるだけなんだよ。
BLにしてはめずらしく、何とも掴みにくい話だと思いながら読んでいました。
高校の時のバスケ部の先輩槇野にバイト先で出会い、同居を始めた幸一。
その流れも最初は全く説明がない。どうしてそうなった?!と疑問に思いながら読み進め、槇野への不信感だけが膨らみ、また幸一のどっちつかずの気持ちにもヤキモキし。。。
好意と心配を混同して持つ幸一には、槇野の気持ちには答えられずにいる。たぶん槇野もわかっているから、自分からは何かを進めようとしない。
たぶん一回読んだだけでは、掴めない作品かなぁと私は思いました。
でも、『ヒカル』で、和隆が生き生きとしている姿に救われ、今までの出会いや悲しいことをふまえながら、光久と結ばれたことが嬉しかったです。
朝丘先生があとがきで、この話は『どこにでもある恋愛』みたいに書いていたのを読んで、確かに!!と思いました。
出会ったから結ばれるなんて、世の中じゃ当たり前じゃないし、特に男同士での恋愛なんて、どんなに難しいか。
そう思えたら、読み解く術が見つかったような気がしました。
早く再読したくなる、一冊です。
※辛口注意※
リンク作の【晴れの雨。】を読んでない方は盛大にネタバレしてますのでご注意下さい。
自分の中で評価をどうするかグラグラと揺れました。
結果的に神にしましたが、これは同時収録されている後半の【ヒカル】に対してであり、表題作への個人的評価はしゅみじゃないどころかゼロでも良いと思ったくらい。
実際とても評価の分かれる作品ではありますが【ヒカル】に登場する光久が主役である【晴れの雨。】を読んでると、本当に文句なしに光久と和隆が最終的に恋人同士になってよかったと思いました。
あんなに綺麗で、切なくて、悲しい別れがあった光久が、木生を心の中に大切に住まわせたまま幸せになる結末は、これ以上ない素敵なハッピーエンドでした。
正直表題作の【カラスとの過ごし方】に出てくる幸一は私の中では刺身のつまくらいでしかなく、読んでたらもう色々と胸糞悪いのなんの……彼女まで死ぬほど鬱陶しいタイプの女で、こういう子、クラスや職場に何故かひとりはいるよね……みたいな本当に色々と腹立たしい。
一番腹立たしいのは幸一のどっちつかずな態度なのですが、光久と結ばれた後にも和隆が自分を卑下して幸一を庇うのには、光久じゃなくてもイラつきます。
辟易しながらダラダラと続く男女の痴話喧嘩と三角関係を読みながらふと思ったんですが、はっきり言って幸一の存在って別になくっても良かったんじゃ……。
絶望してたときに拾って飼ってくれた存在がいた、くらいに匂わせて、全編【ヒカル】で構成してくれた方が嬉しかったです。
もっとじっくりと光久と和隆が惹かれあっていく過程を読んでみたかった。
もう一度【晴れの雨。】を読み返そうと思います。
新装版という形で出版されないかな、とちょっと期待してもいますが、中々難しいんでしょうね。
この作品と合わせてぜひぜひ読んで欲しいお話です。
この作品だけ読んでたとしたら、私も幸一が和隆と結ばれたら良かったのに、と思ったかもしれません……。
幸せである定義とは、何だろう。
二人がくっつけば、思いが通じれば、相手のことを思いやることが出来たなら。
みんなそれぞれ自分の中のハッピーエンドがあると思います。
私の中でのハッピーエンドは、想いあってずっと傍にいることでした。
しかし、朝丘先生はそんな甘っちょろい価値観をそれをいともたやすく打ち砕いたのです。
正直に言えば、くっついて欲しかった。
二人でなんてことない日常をまったりとすごして、じゃれたり時には喧嘩もしたりして。
ずっと二人で生きていってほしかったんです。
誰かが傷つかなければならないけれど、それでも二人には幸せになってほしかった。
けれど、読み進めていくうちにこれは甘い考えなんだと気付きました。
結果二人は幸せになった。けれど何かが違う。
先輩は幸一のことが本当に大好きで、だから傷つけることだけは絶対にしたくなくて。
幸一はいつだって曖昧で、一歩踏み出したかと思えばまた戻る。
誰も傷つけたくないということは、意思のないことなのかもしれません。
結局幸一が本当の意味で自ら行動したのは最初と最後だけ。
一つは先輩を拾ったこと。もう一つは、先輩を置いていったこと。
もし、先輩がすがりついていたなら。
何度も考えます。馬鹿な事だって分かってます。
先輩がそうしなかったのは、幸一のことを愛しているから。分かっています。
でも、考えずにいられないんです。違うハッピーエンドがあったんじゃないかって。
結局は私も自己中だということなんです。
朝丘先生が紡いだ言葉の中に、少しでも縋ろうとしている。見つけようとしている。
私が痛い思いをしなくて済む、ハッピーエンドを。
何だかんだでくっつくんだろ、と思って読んでいるとダメージがでかいです。
みんなが大好き。みんなに幸せになってもらいたい。
痛いくらいに、それを叶えてくれたのは朝丘先生です。
私は本を閉じ、「参った」と言いたくなるような気持ちになりました。
私の価値観は一冊の本によって、いとも容易く変えられてしまったのです。
最後に。
読後三日は引きずってる私から言わせてもらえることは、甘々ハッピーエンドが大好きな方は少し落ち着いてから読んだ方がいい、ということだけです。
この本は私がBLを好きになったキッカケになった小説です。
表紙が綺麗だなぁーと思い買った本ですが見事に号泣しました。
カラス先輩と幸一が結ばれればいいと小説を読んでいて思いましたが、今考えると結ばれない形が二人にとって一番の幸せなのだろうなと思います。
今までBLの作品はハツピーエンドが当然と思って私ですがそれが見事に壊されました。
でも、ハッピーエンドじゃなくてもいいんだとこの作品を見て思わされました。
大袈裟な言い方かもしれませんがそれくらい、この作品にハマりました。
朝丘先生の言葉運びが私は好きです。
カラス先輩と幸一がお互い幸せに生きていけることを願っています。
最終的には、ハッピーエンドといえるけど、当初登場してきた相手とは、ほぼ無関係なところで、それぞれに結末が来るって事で、あとがきで作者様が書かれたように、BLとしてこのお話を出してくるのは、確かにどこの出版社さんも躊躇するでしょうね。
このお話、BLレーベルよりむしろ、一般小説の括りで出された方がしっくりする。
運命の相手との出会いと別れ(それも死別)と、男女三人の微妙な三角関係が縒り合わされたストーリー。
ネタバレしないで、出来るだけ無の状態で一緒にハラハラして欲しい。
朝丘さんの作品って、往々にして映画的な事が多いですが、この作品こそ映画で見たい。
そんな恋愛のお話でした。