限定特典と割引が充実!
最終巻のあとがきで、本作が榎田先生のデビュー作であることを知りました。初めての投稿作品がこれって、相当レベルが高いなぁと。単純に攻め受けの関係性の変化を書ける人はたくさんいるだろうけれど、彼らに関わる周りの人物の機微や成長、人と人が接することで起きる化学変化もBL要素と同じ熱量でここまで丁寧に書ける人ってとても貴重なんじゃないかと思います。
魚住という人間に出会って、生死についていろんな面から考えさせられました。ここまで読者の死生観に触れてくるBLもなかなかないですよね。受けを可哀想な立場に置くために安直に死が用いられているわけではなく、死は普段は存在感を消しているだけで、本当はいつでも誰の背後にもあるものなのだ、という当たり前のことを淡々と知らしめてくれる書き方でした。親に頼れず、周りの死が多かった魚住。散々な目に逢ってきたのに、彼の生き方はドラマティックではなく、あくまで私たちの日常と近しいもの。悲劇を経験しながらも生きるということがとことんリアルに描かれていました。
そんな魚住が最終的に辿り着いた、得ることができた場所はどんなだったか。久留米を筆頭に、たくさんの人の助けを借りながら、誰かが死んで悲しむことが多いのは自分にとって大切な人が多いからだ、という考えに至った彼の強さと優しさ。親に見放された幼少期から数えると、気の遠くなるような長い長い旅路だったと思います。自分の不幸を他人のせいにしない人柄が、彼をこれだけ温かい場所へ連れてくることができたのでしょう。自分を傷付ける人ではなく、慈しんでくれる人たちの方をしっかり見て大事にしてきた彼だからこそ掴んだハッピーエンドだと思いました。
「魚住くんシリーズ」の最終巻にあたる作品です。
久留米と魚住のことだけではなく、近所に住む留学生、久留米や魚住のもとの彼女、同僚、同級生、先輩、家族など、さまざまなキャラが登場するので、たのしくよめるシリーズでした。
それぞれ、つらいおもいをかかえている登場人物たちが、こころの傷をのりこえ、成長していく様子が、丁寧に描かれていて、BL要素以外にも、たのしめるぶぶんが、たくさんありました。
大好きな昨比hんです。
シリーズ最終巻。まとめ方が綺麗でじわっと感動させられるけど、読後に悲しみや辛さが残る。最後の魚住にたくさんの感情が生まれたが、その中で一番強かったのが寂しさな気がして。PTSDと向き合う描写に物足りなさも感じる。
魚住と久留米の関係性は好き。個人的には前作がピークだった。
留学話が持ち上がるなか、PTSDを発症する魚住。さすがの久留米も普段通りではいられない様子で、二人のバランスが崩れそうな気配が。依存と共倒れを心配する友人たちをよそに、隣に居場所を求めながらも、二人ともが自分の中で戦っている。
印象的だったのは、徹底的にひとりで考える魚住と、たくさんの人と関わりながら自己を取り戻していくかのような久留米との対比。その最終地点すら交わらない二人が、しっかり唯一無二の相手だと思えるのだからすごい。
また、ずっとすごいと思ってるのが、読みながら(私が)言いたくなったことを、各々が良いタイミングで言って(思って)くれること。作者の意図通りに各人物像がこちらに伝わっているからこそ、これらでスカっとできるということで、解釈一致の心地良さを味わえた。
ただPTSDの経過に関しては希望的観測のようで、描き切った感がなく、異国へ飛び立つには不安が残ったままな気がして心配だった。が、次の話はいきなり新キャラ視点に移ってテーマは命。そしてまた数年後へと。
最後は葬式から始まる物語。魚住が、自分が死んだ時に、と考える一連の心理描写が、孤独じゃないのにあまりにもひとりで生きている人間の内面で、辛くて悲しくてたまらなくなってしまった。
頼らない、依存しない関係は素敵だと思う。でも死後を考えてあのモノローグなのはとても寂しい。自立していても、隣に在るもうひとりを意識して欲しい。
シリーズを読み始めたときは、魚住と「死」の距離が遠のくのかと思っていた。今の印象は、「死」は変わらず近くに在って、「生」が近付いたような。
漠然とした不安が広がる感覚に似た余韻が長く続いている。いつかまた、年を経てから再度読んでみたい作品。最初の話以外は神。
魚住くんシリーズ最終巻。
前作では無事に結ばれて晴れて恋人同士になった2人。
恋人同士になったからと言って始終くっついてる様な関係じゃなくて、お互い仕事や研究で忙しいしイチャイチャもままなりません。
でもスイッチ入ると久留米の求め方が情熱的で素敵。
車のブレーキ音が引き金となり魚住がPTSDを発症します。
こんな時は恋人と甘々な時間を過ごして2人で乗り越えて欲しいというのが私の願望なのですが、魚住も久留米もお互いに過剰に心配したり、依存したりせずにむしろ離れてるんですよね。
心配で仕方がないのに自分にはどうにもできない久留米の無力感が伝わり胸が痛い。
こんな状況でアメリカへの留学は出来ないだろうと踏んでいたのですが、こちらの予想も外れ魚住はアメリカ行きを決意します。
個人的には行って欲しくなかったのが本心。
久留米が引き止めないのは分かってたから、胸がチクチクしました。
2人の間でどういうやりとりがあったのかは語られません。
数年後も魚住はアメリカで研究の一任者として活躍しているようですが、遠距離恋愛は続いている様子でちょっと安心しました。
時々帰国したり、久留米が会いに行ってるんだよね多分。
1巻から思い返すと嘘みたいに人間らしさを取り戻した魚住でした。
繊細が故に鈍感にならざるを得なかった不幸な青年が大切な人達との出会いや別れを経験しながら、少しずつ強く逞しくなっていくヒューマンドラマでもありました。
完結巻を読み終えてしまい、寂しさでいっぱいです…。
しばらく余韻に浸りたいと思います。
魚住くんシリーズ最終巻です。
「リムレスの空」は、これまで断片的に窺えた、幸福ではなかった魚住くんの子供時代がもう少しだけ、分かります。
感情が目覚ましく豊かになりつつある過程で魚住くんが見る、忘れていた切ない頃。土管から見えたリムレスの空。
久留米が住んでいたボロアパートがついに崩壊し、実は研究者として優秀な魚住くんにアメリカ行きの話が持ち上がる、今までのものが変わっていこうとしている、変化の序章を示すエピソードにもなっています。
「アイ ワナビー ア フィッシュ」、個人的にはこれが最終章のように思ってます。
久留米との関係が順調に流れている中で突如、魚住くんにPTSDの症状が。
一人、自らの心に向き合う魚住くん。
さちのちゃんの死から一年になるクリスマスを経て、お正月にはアメリカ行きを決心するのですが、一番きたのはクリスマスイヴの場面です。
イヴというと何かロマンティックな萌え展開を期待したくもなりますが、何もありません。
魚住くんはさちのちゃんの事故現場を訪れ、久留米は魚住への思いに耽りながら携帯を手にしている、そんな地味なイヴですが、私は非常に感銘を受けたのです。
こういう、相手への思いやりとか分かり合ってる感じがいいなと、自分にとっては一つの理想を見たような気がしました。
ですが、レビューを書くためにその場面を読み返してみると、これこそ男同志だからかもしれないとも思いますかね。久留米は男で、魚住くんも男だから、自分のことはちゃんと自分で決めていく。
魚住くんは男であり、久留米も男として認めているからこそ、静観してるんだな、と。
表題作「夏の子供」。ここで、視点が第三者に変わります。魚住くんでも久留米でもなく、本当に子供の太一少年です。
二人のどちらかの視点で、その後の物語をもっと密に知りたかった気持ちはしますが、やっぱり素敵な話です。
魚住くんは立派な教授になりましたよ!
「ハッピーバースデーⅡ」はまたその後のお話。
自分で自分の誕生パーティーをやった魚住くんから大人になったもんだとしみじみきます。久留米がアメリカの魚住くんの所に行ったくだりが良かったです。
人生は決して思い通りにいくばかりではなく、魚住くんと久留米にもこれからいろいろあるんでしょうね。すれ違ったり、相手を思いやるばかりに一度か二度くらい別れたりもしながら、一生続いていける二人じゃないかと思いました。魚住くんシリーズは私の大事な宝物です。