パピレス限定特別版
「てのなるほうへ」はだいぶ前に読了済み。
今回は、そちらにも登場していたろくろ首が主人公。
「てのなるー」の草枕とは違って、いたずら好きの明るい子というイメージがありましたが、それだけではなく、隠された彼の後悔が描かれたお話になっています。
小椋ムク先生の描く妖怪たちがとても可愛くて、癒されます。特に酔った子たちが。
「一日千秋」前章にあたります。
江戸の頃、まだ若かったであろう?春宵と樋野弥一郎という人間との出会いから別れまで。
妖怪も人間と同じで、持って生まれた性格というものはそう変わらないんでしょうね。
春宵は、妖怪、人間に関わらず、誰かと関わっていきたいタイプで、なんというか、とてもポジティブ。悪い想像をあまりせず、楽観的に人々と関わっていこうとします。
首を飛ばしたり長くしたりして驚かすのが彼の楽しみで、弥一郎との出会いは、いつものように驚かそうとしたところ、逆に彼はウワサのろくろ首を探していて、まんまと春宵は逆ドッキリされてしまったというものでした。
結核に侵されていた弥一郎は余生を楽しく生きようとしていて、春宵も友達として彼と過ごす時間を大切にしていましたが、無情にも病状は進んでいき。危篤状態を目の前に、春宵は妖怪のボスにお願いして、弥一郎を死なない妖怪にしてしまったのです。
春宵は、良いことをしたと思っていました。
だけど、弥一郎は違いました。
春宵にしてみればほんの少し流れた時間。
弥一郎が生き返ってからの何十年、まったく歳を取らない姿に、周りから不気味がられるようになっていたのです。
そんなとき偶然ふたりは再会しますが、弥一郎が口にしたのは恨み節と、「化け物」という春宵を罵る言葉でした。
そして弥一郎は自死してしまいます。
深く後悔しながらも、春宵はやはり人間と関わっていくことをやめられないのでした。
そして本編。平成です。
妖怪でありながらも、お世話になっている荘助の協力もあり、人間界に馴染んで生活している春宵。
戸籍もあり、仕事もある。すごい。
大学教授である荘助の助手として働いていて、偶然にも樋野学という、弥一郎にそっくりな青年と出会います。顔貌や、匂いまでそっくりのようです。
弥一郎との繋がりを確信し、とにかくその子孫かもしれない樋野くんとの関わりを持ちたくてしょうがない。即行動、が春宵らしい。
春宵の良さなんですよね。明るくて、うじうじしない前向きさが。
ひょんなことから樋野くんがゲイであることを知ってしまい、春宵も秘密を話すべく自分が妖怪であると告げるのですが、全く信じてもらえず、首を飛ばして見せることもできず、悪質な嘘だと思われて、ゲイは妖怪だと揶揄しているのかと怒らせてしまいます。
ふつう信じませんからね。
確かに、幽霊はいるいないとよく騒がれているのに、妖怪は昔の言い伝えみたいな、創作っぽいような感じがしますから。
妖怪ウォッチが流行った時、妖怪は流れキター!と喜んでいたのかも。
でも昔々から変わらない春宵の写真を見せたり、荘助の思い出話などを聞いたりして、わりとすんなり信じてもらうことができましたが、そこからがだいぶ唐突なラブ展開。
樋野くんはたぶんもともと春宵は好みで、バイトなどを通して付き合ううちに惹かれていったのだろうなとは思いますが。妖怪であることは、彼にとっては障害とはならないようです。
お付き合いが始まったのはいいものの、春宵の本来の姿(ろくろ首したところ)を見せてくれないというささいな仲違いがあり、ぎくしゃくしたまま樋野くんが測量バイト中に土砂崩れに巻き込まれてしまいます。
ここからが妖怪の本領発揮!
仲間であるかまいたちやムササビ(毛布みたいにでっかい)の協力もあり、春宵も首を飛ばして樋野くんを見つけ出し、救助成功です。
ここの小椋先生の挿絵がまた可愛いんだー!
また、樋野くんが生死の境を彷徨って魂が抜けたからなのか、思った通り本当に先祖であった弥一郎の魂が乗り移り、あの時の謝罪と感謝を口にしてくれます。
「化け物」と言われたことは春宵が自分で思っていた以上に深く傷になっていて、枷になって、本来の姿を見せることができなくなっていましたが、数百年の時を経て、ようやく春宵は自分のアイデンティティ?を取り戻すことができました。
元気になった樋野くんと初めて身体を繋げることになったのですが、妖怪として長いこと生きてきても、未熟だったり、初めてのことがあるもの。
照れながら夢中になっている春宵はとても可愛かったです。
樋野くんは肝すわってんなー。さすが弥一郎の子孫。
最後の後日譚では、ふたりが恋人になって20年経ったころの様子が描かれています。
このころに草枕の「てのなるほうへ」が現在進行形で起きているよう。
春宵はもちろん姿形変わりなく、樋野くんは40代。リラックスできる非常に良い恋人関係を続けてるようですが、見た目の差は開く一方。
そして、弥一郎を不老不死の存在にした妖怪のボス、御簾裏が樋野くんに囁きました。
「まだ選択肢はある」
彼らは最終的に何を選んだのでしょう。
それは描かれていませんが、とても良い終わり方だったと思います。
とても面白い作品でした。
のっぺらぼうが主人公だった「てのなるほうへ」のスピンオフです。
「てのなる〜」で、個人的にすごくすごく気になる存在だった、ろくろ首の春宵。
スピン元の方で「人間と恋仲である」ことに言及していたので、これはもしやスピンオフあるのか…と思い探してみたらこちらの作品を発見することができ、やった!と即買いでした。
スピンオフ作品ではありますが、スピン元を読んでいなくても問題なく作品の世界観に入っていけると思います。
(※本文にも挿絵にもスピン元の二人が出てくるので、元を知っているとより楽しめます☺︎)
ええと、正直に言うと、どちらかと言うとスピン元の「てのなるほうへ」の方が個人的に好みだったな、と。
というのも、前作の攻め、のっぺらぼうの草枕ほどには、今回の攻め様に感情移入できなくて…。
学が春宵を好きになったきっかけやその過程なども、どうもピンと来ず、な部分もあり。
なんといっても弥一郎との出会いやエピソードがとても良くて印象に残ってしまったため、弥一郎と比べると学(今回の攻め)がなんとなく薄ーく思えてしまったんですよね。。
”出る”と噂の妖怪を自ら探しに来て、人間を驚かせようと待っていた春宵の首を持ち上げ、逆に春宵を驚かせてしまうー
そんな弥一郎にとても好感を持ってしまっていたので、いまいち学の魅力が感じられなかった…
それからこれは作品の評価とは全く関係ないのですが、読み進めるまで私、勝手に春宵は攻めだと思っていまして;
本編を読んで春宵が受けだと分かった時、ちょっと動揺してしまったんですね。
あくまでも私の中の勝手なイメージだったのですが、ちょっと”イメージ違い”でびっくりしたー!というのがありました。
ただ、ストーリーは文句なく面白く、そのテーマも奥深いです◎
前作で持ち越されていた(?)「人間と妖怪の寿命の差」というものに、攻めの学は真っ向から向き合い考え抜き、ある結論を出しています。
ただ、そぼ決意をまだ春宵には話していないんですね。まあ話しても間違いなく拒絶されそうですが…これからどうやって二人は意見をすり合わせ、結論を出すのだろう…と非常に気になるところです。
あと、前作も挿絵が可愛くて可愛くてきゅーん!だったのですが、今作も小椋ムク先生の可愛いイラストの素晴らしいこと!(⸝⸝⸝°◽︎°⸝⸝⸝)
ページを開いてすぐ、スピン元の二人と今作の二人が合同で飲み会しているイラストがあるんですが、もうキュンキュンです。。「トマトの妖怪」をスピン元の受け様が正座した膝の上に抱える形で載せていたり、顔を赤らめた提灯が酒瓶をそのまま飲んでたり(笑)可愛いったらありゃしない!❤︎
考えさせられるテーマを持ちながらも、可愛らしくてなごんでしまうシーンもあり、前作に引き続き、妖怪の世界を存分に楽しませていただきました✨
”てのなるほうへ”で、さりげない優しさが素敵♪と思っていたろくろ首の春宵さんのスピンオフということで、わりと洒脱な印象のキャラだったので、楽しいお話を期待していたら、めっちゃ切なかったです。んでも、こちらのほうが好きでした。
人間と仲良くしたい妖怪という哀愁の漂う存在に、すでに他レビュアー様のご指摘のように、古の名作(〇ーの一族)を思い起こさずにはいられないのですが、もうちょっと浮世に近い距離で優しくほのぼのと、”終わりのない生”ということや、好きな人だちと”同じじゃない”ということが、いかにしんどいかを描いていて、読み終えてしんみりしてしまいます。
初めて仲良くなった人間に言われた言葉に傷ついて(一日千秋)、それでもやっぱり人間と交わりながら飄々と何百年も生きてきた春宵さんが、因縁の出会いで報われる展開に救われます(もういいかい、まだだよ)。が!その後に続く(もういいかい、もういいよ)が深くて…。
永遠の命を与えるということは、優しさなのかエゴなのか…最後まで難しい命題だなと思いました。一緒に暮らし幸せな日々を送る二人が、最終的にどういう選択をするんだろう~?と、ぞわっとした余韻が残るラストです。
電子書籍で読了。挿絵あり(サイズが小さいです)。あとがきあり。『特別版(ペーパーかな?)』が付いていました。
大人気だった『てのなるほうへ』のスピンオフなのですが、こちらの評価(得点)がとても低いのは何故だろう?種類は違うけど切なさ具合はこちらも負けてはいないと思うのですけれど。
『命の長さ』についてのお話なので、お若い姐さま方には今一発だったのかな?こちとら、かなり薹が立った女子なもので、結構身につまされました。私の腐女子人生を始めさせる契機になった『ポーの一族』のテーマでもありますし。
三編入っていますが続き物です。通してのあらすじ(ガッツリネタバレ)を。
江戸時代、妖怪と人間が遭遇することも多かった頃、ろくろ首の春宵は人を驚かせることを楽しんでいましたが、唯一驚かずに面白がる呉服屋の長男、弥一郎と出会ます。労咳を病む弥一郎は「人より短い命なんだ、楽しまないと損だろう」と言う前向きで明るい男。春宵は弥一郎に惹かれ、一緒に遊ぶ友人となりますが、日に日に衰えていく弥一郎を見るのが辛くなり、妖怪の仲間に引き入れます。その結果、弥一郎は一命をとりとめて呉服屋の跡目を継ぎ、前の様に一緒に遊ぶこともなくなりました。家業の忙しさの所為だろうと思っていた春宵は、弥一郎を死なせたくない一心でやった事が必ずしも彼に幸せをもたらした訳ではないと知り、大きく傷つきます。時代はめぐって、現代。春宵は父の代から家族の様に暮らしている安藤壮助教授の助手をしています。生まれた時から知っている壮助ももう年寄り扱いを嫌がる年代になっているのに春宵の見た目は20代のまま。学生からは冗談交じりで関係を疑われる様な状況です。ある日、壮助の紹介する測量のバイトに応募してきた学生が弥一郎そっくりで、おまけに名字まで同じ事に驚きます。春宵は壮助から同じバイトを紹介して貰い、その学生、樋野学と親しくなっていくのですが……
寿命が長いということは、多分、過ぎる時間がゆっくりである事なのだろうと思うのです。ある意味、最初のお話はなるべくして起こったことなんですよね。
自然の理を歪める力を持っていたらどうするのか、と聞かれたら私も春宵の様な選択をしてしまうかもしれないなぁと思いますし、それとは逆に、歪められた方だったら弥一郎の様に感じるのだろうとも思います。
そのエピソードがあったからこその、このラスト。納得。じーん。
『てのなるほうへ』のお二人も出て来ますが、それだけじゃなく『異なった文化の二人が一緒に生きていくこと』を描いた連作だと思いますので、前作で感動した方は併せてお読みいただいた方がよろしいのでは、と思ったりしました。
『てのなるほうへ』のスピンオフ。
前作読んでいた方が前作のネタバレにはならないかな~という程度なのでこちらだけでも十分楽しめます。引続きイラストは小椋ムク先生。
表紙にいる、ある可愛い妖怪達も活躍します♪
今回もイントロ「一日千秋」でがしっと心、鷲掴みされました。
妖怪世界と行き来しながら人間世界でも生活している、ろくろ首「春宵」が主人公です。
草枕や弥一郎との関わりには色々考えさせられるところがあります。
切ないです。
日常描写では、春宵さんは江戸時代から生きてるおじいちゃんなので、言い回しが古くて逆にその表現が可愛くってそこが私には萌えポイントでした。