イラスト入り
かなり昔、インタビューかなんかで榎田さんは「BL(当時はそう言っていなかったと思うんですが)かどうかなどということは考えていなかった。ただ書きたいもの(ニュアンスとして、私は『書かねばならないもの』的に受け取ったんですが、そんな感じの言葉だった様に思います)を書いていた」という様な事を、デビュー当時の想い出として話していた様な記憶があります。
いや、私の記憶なんて本当にあてにならないのですが。
で『書かねばならないものとは何か?』って言ったら『死』なんじゃないかと思っているんですね、私は。
『死』という喪失を書く。
対比として『生』が鮮やかに浮かび上がって来る。
『生』を書くということは、当然の如く『エロス』を書かねばならない。
だから榎田さんはBLというジャンルの書き手なんだろうな、と私は思うのです。
このお話もやはりその流れの中にあると思いました。
神の声を伝えるため塔に自ら閉じこもる事を自分の宿命と思っている100歳超えの風読みは、ある意味、静かに死んでいっている状態なんだと思うのですね。
実際に彼は生きている実感が薄い。
気にかけてくれる友人がおり、村人からも慕われているのに、彼は生の喜びを感じていないみたいです。
そんな彼が、自分たちの社会の外で暮らす『(人に)アラズ』と呼ばれる部族の若者に、ひょんなことから恋をしてしまう。
すると世界がビビットに色づくのです。
自分の鼓動も大きく鳴り始めるのです。
この『生の喜び』その後、賢者となり神と対峙した後の『絶望』。
この対比のキレッキレさは「ああああああ、榎田さん!榎田さんのお話だわっ」と、歓喜に震えるくらいでした。
榎田節、万歳!
「あ、ちょっと変わったかも」と思ったのは、クライマックスで風読みが自分の恋する人ではなく親のない子どものことを第一に考えた行動を取ったこと。
なんか『成熟した大人』を感じたんですよ。魚住くんや芽吹が『死』に向き合ったやり方とは違う感じを。
なんて言ったら良いのかなぁ……「次世代のことを考えちゃう感じ」とでも言うか「結果として死んでしまったとしても本望、という気持ちがゆったりしている感じ」と言うか……うーん、上手く言えん。
そこに、榎田さんがBLのお話を発表されなかった年月の長さを感じちゃいました。
何はともあれ、とても満足しました。
あとね、私の行きつけの本屋では結構売れている様で、嬉しいのです。
榎田さん、いつでも良いですのでまたBL、書いてくださいね。
作家買い。
榎田さんの、新装版ではないBL作品の新刊て超お久しぶりではなかろうか?
そして挿絵を描かれているのが文善さん。もう期待しかなく、発売日を心待ちにしていました。
榎田さんの新刊はファンタジーもの。
榎田さんの書かれるBL作品でファンタジーものってちょっと珍しいなあとか思いつつ読み始めました。ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
豊潤で豊かな国、アカーシャ。
この国ではアーレとよばれる民がいて、彼らの中でも優秀な人物は聖職者(ソモン)になる。
ソモンの中には天恵を持つ者がいて、彼らの力を用いることで、アカーシャはより豊かになっている。
という世界観のお話です。
主人公はソモンの一人、風読み(「風読み」は通称であるが彼を表す名でもある)。
その名の通り風を読む力を持つソモンだ。優秀で冷たいほどの美貌を持つ風読みだが、彼は人と関わることを良しとせず、人の名を覚えることも苦手で数人の下男を伴い一人でひっそりと暮らしている。
そんなアカーシャの地に、「アラズ」と呼ばれる部族の男が紛れ込み拿捕された。ひどく暴れ、何より「アラズ」の人間だということで人々から暴力を受けているその彼を風読みはたまたま見つけ、そして興味を引かれて気まぐれに彼に救いの手を差し伸べることにするが―。
さすが榎田さん、と思わず唸らされるのは、とにかく世界観が非常に独特で面白い。読み進めるごとにこの作品の世界がどんどん広がっていく感じ。森や風の空気感すら感じさせる、その圧倒的な文章力にあっという間に飲み込まれてしまいました。
アカーシャという国の成り立ち、ソモンの存在意義、アラズと呼ばれ人々から迫害を受けている部族のこと。そして何より、この国には神鳥の伝説があること―。
そのどれもがきちんと繋がっていて、読み進めていくうちに一つ一つそれらが繋がっていく。
風読みという男性はとにかくパーフェクトな人物です。
家柄は良く、本人自身の能力も高く美しい美貌に冷静な判断力を持つ。
何もかもが完璧に見える、その入れ物が、実は彼の過酷な過去や家庭環境により作り出された鎧なのだということも少しずつ見えてくる。彼がアラズの人(風読みは彼に「マドレーヌ」という名をつけますが)と出会い、そして、マドレーヌの存在によって少しずつ鎧を脱いでいく過程に激萌えしました。もともと彼が持ち合わせていた優しさとか思いやりが、マドレーヌと出会い人として成長していくその過程で開花した感じ。
壮大な世界観を持つ作品ですが、根っこにあるものはかなり単純で、「愛」を描き切った作品です。
あと、今作品中に出てくる生き物たちがまた良い…。ロマンを感じます。
文善さんの描かれた挿絵も良かった。
「人外」を描かれるイメージのある作家さまですが、そのイメージを裏切ることのない美しい世界観をきっちり描き切っていて、萌え度は確実に上がりました。しいて言うならば、文善さんの挿絵が少ない…。リブレさんの小説はいつも挿絵が少なくってちょっぴりショボーンてなります。
今作品では濡れ場はさほど多くはありません。
風読みは聖職者だからというのもあると思いますが、風読みとマドレーヌ、彼らはおのおの守らなければならないものがあるから。「半身」という言葉で表現されていますが、常に身体が傍にいなくても。それでも心は常にともに有る。そんな関係が素晴らしく、萌え滾りました。
彼らにはきちんと名前があります。
その名前を許す相手、という部分も良い。
とにかく何から何まで、あとがきまで素晴らしい1冊。
文句なしの神作品でした。
勝手ながらどうしても続編が読みたいので、レビュータイトル変更&神評価に変えました
榎田先生、6年ぶりのBLとのこと。どんなお話かと楽しみにしていましたが、案の定、どっぷり世界に入り込んでむちゃくちゃ楽しめました。BLとしてというより、お話としてとてもとても楽しかったので萌2にしました。続きが読みたいと思ったのは私だけなんだろうか?読み応えたっぷり2段組290P。
アカーシャでニウライに仕え、能力を活かして天候を読む風読み。親しくしている明晰とともに町の「愛し子の館」に行った帰り、町中で檻に入れられたアラズに出くわし…と続きます。
攻め受け以外の登場人物は
明晰(ソモン=聖職者)、癒やし(ソモン)、秩序(ソモン)、タオ(攻めの側仕え)、コユキ(孤児)、プティ(攻めの飼い猫…?)、クロウ(攻めが世話する大鴉)、ニウライ(信仰の対象)、キラナ(受けの友)ぐらいかな。明晰も癒しも大好き。気になっているのはニウライ。あー続きが読みたい(二回目)。
++好きだったところ
受けが多分スレンダーマッチョ、超身軽運動神経バツグン(子猿イメージ)という印象なんです。キラナと共に空を飛ぶんですが、あーアニメ映像で見てみたい、とめちゃくちゃ思います。
そう、書いていて思いました。とても色鮮やかなんです。攻めは銀の髪、灰青色の瞳等白色系(聖職者って感じをより際立たせて素敵)。受けの瞳は丹色。細かく編み込んだ黒髪に赤いガラス玉を使った飾り紐を縫い込み、小さな青い鳥を指笛で呼び寄せ、白銀の体、黄色い嘴をもつキラナと共に飛ぶときには背中を青く光らせる。色に関する記載を抜粋しましたが、カラー映像で頭にすんなり思い浮かべられるんです。文善先生の挿絵パワーもあるかもしれないです。アニメーションで見てみたいなあ…(これも二回目)。
攻めの性格も好きでしたね。一番好きだったのは囚われた受けを解放させるべく、秩序と対峙する時の態度(&文善先生の描かれた挿絵♡)正装&盛装&超イケメンの氷のように冷たい視線(ひゃー)!秩序も言葉を途切れさせてしまうほどの「圧」。このシーンの挿絵はガチで最高でした。力を使うべきところを知っているイケメンって大好き。
あちこち好きだったですが気になる要素が多く、恋愛話オンリーじゃなかったので恋話での盛り上がりが埋もれちゃったかもです。それぐらいこのお話の世界観が好きで好きでとっても気になりました。
だから出版社さま、先生が書けると仰るならぜひこの続きを読ませてくださいませ。二人のこれからはまだ始まったばかりではないですか。勝手ながら楽しみにお待ちしています。先生、素敵なお話、ありがとうございました!
榎田尤利先生のTwitterで久しぶりの新刊が出ると知り楽しみにしていました。
やはりベテラン作家さまは文章の安定感が違いますね。
巻頭の「アカーシャで暮らす人々」の見開きを見たときに、もしかして難解なお話なの?ってちょっと警戒してしまったんです。
確かに独特の世界観と名称に最初は戸惑いましたが、でも読み進めるうちに魅力的なキャラとお話に夢中になって読んでいました。
途中でどうしても外出しなければならなかったんですが、早く帰宅して静かな部屋で読みたいと渇望した程でした。
是非ともネタバレ無しで読んで欲しいのですが、『風読み』が賢者となった時に知る秘密に驚くとともに、誰もがニウライの正体を薄らと気が付いてアーレが何者かに辿り着くと思うんです。
2段組で300ページ近くあってとても読み応えありました。
でも、でもですね!賢者によって導かれたアカーシャのその後を読みたいんですよ!
空の者が何者なのかも知りたいんです。泣
榎田尤利先生!出版社さま!どうかシリーズ化をお願い致します!
今回はアーレの名門の出身の風読みの聖職者と
ジュノの民に盗人として捕らえられた青年のお話です。
祖父や父と同じく賢者にと望まれている攻様が
受様との出会いで生き方を変え、世界を変えていくまで。
神鳥の伝説を持つ美しいアカーシャは
聖なる存在ニウライの庇護を受ける土地です。
アカーシャに最初に辿り着き、
開発したアーレの民は丘の上に住み、
丘のふもとに住むジュノの民を導く存在となります。
その中でも優秀な者は
ニウライに仕える聖職者ソモンとなり政治を担い、
ジュノ達はアーレに従ってニウライを信仰し、
アーレよりも短い生を逞しく生きています。
ソモンは天から授かった役職であるアディカを持ち
その役職きそのまま呼び名として使われています。
攻様はアーレの中でも屈指の名門の出身で
攻様の父も祖父もニコライから知慧を与えられた
賢者となっています。
攻様は気圧、気温、湿度など大気の変化を
察知する天啓を持つ風読みのソモンですが
攻様も賢者となる事を望まれいます。
類まれな美貌と才知をもつ攻様ですが
人間にあまり興味がなく、無口で無表情な事から
「美しい石像」という通り名を持ち
丘の上の屋敷で珍しい生き物と暮らしています。
攻様が明晰のソモンと
孤児の住む「愛し子の館」を訪れた日、
町外れのジュノの民の家に盗みに入ったとして
捕まえられた青年を助けます。
この青年こそ今回の受様です♪
アーレともジュノとも異なる丹色の瞳を持つ受様は
ニコライの怒りで森へと追いやられたアラズの民らしく、
咆哮を放ち、凄まじく乱暴だったために縛られて
獣用の檻に入れられていたのです。
ジュノの民は受様をアズラだからと殺そうとしますが
攻様は受様への鞭と労役は自分かが与えると
ジュノやアーレの言葉を理解していない受様を
自らの屋敷へと連れ帰るのです。
珍しい生き物を目がない攻様を知る明晰は
攻様がソレ故に「連れ帰る」のだと見抜きますが
攻様を止められません。
果たしてこの2人の邂逅がもたらすものとは!?
人間に興味がなく珍しい生き物と暮らす攻様と
怪我を負いジュノの民に囚われた受様の
ファンタジックな恋物語になります。
榎田先生が6年ぶり&完全新作のBLなので
ツイッターで発刊を知ってからワクワク待ってました。
個人的に榎田先生を知ったのは
ホワイトハートのTLからでBL以外も読んでおり
絶対にBLじゃなきゃダメ!! 派ではないですが
男達の世界だからこそ生まれる憧憬や嫉妬、
矜持を賭けた戦いや駆け引きがたまらないです。
更にファンタジーもすごく好きなので
読む前からツボ過ぎと思っていましたが
世界観も登場人物も展開ももういうことが無いほど
圧巻で素敵な物語でした♡
異端である受様を救うために
父や祖父同様に賢者となる選択をした攻様を
襲った展開は予想外ながらも
徐々に明かされていく過去と未来は
点々と配置された伏線を繋いだモノでもあり
ハラハラ&ドキドキ♪
そして攻様の全てとなる受様は
性格も言動も胸に抱く想いも素晴らしく男前で
読みだしたら一気読みでした。
文善先生のイラストも
物語世界にぴったりでとても素敵でした (^-^)v