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どちらの視点を見てみても、攻めも受けも厄介な人なのだけれど、なんだかんだで上手くはまっているようないないようなな2人のお話でした。
死とすぐ隣り合わせの戦場+とある事情からふたなりになってしまった雄々しい雄受け…と、なかなかにハードな世界観と読む人を選ぶ題材だと思うのですが、するするっと読みやすいのだから流石です。
今作の魅力はやはり受けのジャックのキャラクターかなと。
いやあもう、色気たっぷりの雄!なんですよね!
軍人らしい逞しい肉体を持ち、戦場でも数多くの死戦を乗り越えて来た彼。
性格は淡白すぎるほどにあっさりさっぱり。どこか飄々としていて気さくなのにドライな部分もあり…これは無意識に人を魅了してしまうタイプの人たらしでしょう。
そんな彼に魅了されてしまった、今作の攻め・ガレのお花畑な執着が気持ち悪くて鬱陶しいったらないんですよ。
人間臭さあふれる攻めの滑稽さが良かった。
好きだなんだとアピールをしてみても、文字通りあちこち舐めまわしてみても、靡いてくれているようで決して靡いてはくれないジャック。気持ちの温度差がすごいです。
ロマンチスト執着攻め×愛を知らない淡白な受けの組み合わせは、普通はもっと上手くいきそうなものですが…
どちらも基本的に自分のことしか考えていない正反対な性格の人たちなので、あちこちでなんだか面白い具合にすれ違っていて、それがまた読んでいて楽しいところかなと。
病的なまでに受けのことが好きな攻めですから、時にじめじめとしながらもなんだかんだと追いかけ続けて粘り勝ってしまうんですね。
受けが攻めを振り回しているようで、蓋を開けて見ればお互いに振り回し合っているようにも見える不思議な2人でした。
攻めが自分の萌えのツボ的にはあまり刺さらなかったのですけれど、作家さんが好きなものをのびのびと描いているこの雰囲気はすごく好き。
恋愛って、愛ってなんだろうと考えながら、少々強引なこんな形もまあありなのかもしれないなと思える結びで、今後の彼らがどう暮らしていくのかをぼんやりと想像しながら本を閉じました。
木原作品の中では優しめの後味かなと思います。
架空の国ではありますが戦時中の軍隊の話。職業軍人と兵役で入隊した人のカップリング、ということで、ハードな内容を想像していました。
実際、BLであることを忘れるような容赦のない戦闘の描写もあり、それなりに多く人が死んでいきます。
ですが、最終的に本作を俯瞰してみれば、描かれているのは、価値観の異なる二人の関係性と結婚生活でした。
二人は生い立ちが違い過ぎて、恋人やら夫婦やらに対する考え方(イメージ)や理想像がかけ離れています。
ガレは思い通りにならないジャックに焦れ、一方的に不満を募らせていき、もっと構ってもっと自分を見て、好きって言ってキスして、と要求が絶えません。作者自らがあとがきで「とてもうざい」と言うくらい、まあ本当にうざいです。
ジャックにとってはガレの思考回路が謎だし、不満の中身もおそらく理解できていなくて、完全に平行線。(だからガレの不満がますます蓄積される)
だけどジャックの心の中で、どうでもいいと切り捨てたり、まいっか、と妥協したりする部分があるから、なんだかんだ上手く行っているんだなと思いました。
巻末のSS「Birthday」が顕著で、一般的な夫婦関係ではないですし、わかりやすく仲良しでもないですが、きっとこの関係をずーっと続けていくのだろうと思えました。
そもそも夫婦関係なんて、他人からは何も見えず、当人同士の間で了解したり折り合いを付けたりして保っていくものだとすれば、この二人の関係もたくさんある類型の一つ。
こういう夫婦が居てもちっともおかしくないし、案外良い関係かもしれない。
ジャックの特殊事情のせいでガレに白羽の矢が立ったのも、こうなってみれば運命だったのかも、などと思ったりしました。
前半を同人誌で掲載されてましたが、後半もちょっとずつ個人配布ペーパーで書かれてて。続きが読みたくてペーパーをお願いしたくらい気になってた作品だったので、1冊で発売されてすごく嬉しかったです。
「Borerline」でもガレ十分報われてましたが、書き下ろし「Biethday」でホッとしました。良かったぁ~。年下攻めの努力が報われるのって愛しい。そして年上攻めのそっけなさ最高!
木原先生があとがきで、いつもの完全なハッピーエンドだと書かれてましたが、本当にそうでした。先生のハッピーエンドは私には厳しい、と何度か別の作品で嘆いたので安堵しました。木原先生の作品に興味がある方は、今作品は安心してぜひ挑戦してみてください。
木原音瀬先生の大ファンであり、筋肉ガチムチの強強受を何よりも愛する私にとって、こんなにストライクな作品が読めるなんて…!
Twitterでこの作品の発売を知るや否や、真っ先に予約し配達される日を今か今かと待っておりました…。そしてすぐに読了。はぁ…。私は一生、筋肉ガチムチ受を愛していくんだなと、勝手に悟りました…。
すでに多くのレビュアー様があらすじや感想を書かれているので、あらすじは省略して感想を書きます。ネタバレもありますので、ご注意ください。
私は創作である以上はファンタジーの設定でもあまり気になりませんが、今回の設定はダメな方もいるかもしれません。私は同人誌などほとんど読まないのもあって、商業ではあまり見られない(のかな?)特殊設定みたいなものにとても疎く、実は帯にある、フタ✕✕というのが最初「?」だったんです。
で、読み始めて、✕✕のところに入る文字を調べて、へー、なるほど。そんな設定あるのね、みたいな感じでした。
ファンタジーなんですけど、そのように設定されていればあくまで物語の中の設定なので、そーゆーものなのね、ふむふむ。みたいな感じでどんどん読み進められました。国の名前や都市の名前、生息動物など非常に細かく設定されていて、あっという間に没頭していきましたが、主人公が暮らす国は北は降雪、南はジャングルとなっていて、すごい長細い国なのね…とか思ったりしました(笑)
まずは受のジャックは小野浜こわし先生の挿絵が小説の文字の中から飛び出てくるほど本当にそのまんま!黒髪に鍛えられた筋肉、ダダ漏れる色気…小野浜先生、天才としか言えない…。こんなガチムチ男が受だなんて…最高すぎてなんも言えない…。と、読み始めから夢中になりました。
好きなシーンは、ジャックが攻のガレの手からマンゴーの実を齧るシーン。挿絵もあるのですが、これもう小説の中からジャックの色気が匂い立つようなシーンなんです。
もう一つは、ジャックが結婚したあとガレにセックスしないという話をし、ガレが泣いていると、ジャックが「お前、どうして泣いているんだ?」と問うシーン。
木原先生は私の中では、『徹底的』というのが1番最初に思いつく言葉なんですが、このシーンはまさにそれに尽きる。攻と受のすれ違いがすごいんです。
攻のガレは執着して未練たらしくて、ウジウジしてるっちゃそうなんですけど、一方で、生死をかけた戦いや間近で見る人の死、簡単に死んでいく敵や仲間。戦争の悲劇をこれでもかと味わい、その後、最愛の人からレイプ犯として訴えられ軍法会議にかけられるという、普通の人ならメンタルやられて危うく廃人になってしまうんじゃないかと思われるくらい、かなりキツイ経験をするんです。
だからその後の卑屈な考え方や極端な妄想、不安に苛まれ勝手にダークに陥るのは仕方ないのかなと思いました。もちろん、もともとの性格もあるのですが。
またそれに輪をかけて、ジャックがガレの繊細な気持ちに気がつかないんですよね。それはジャックがガレのことを作戦遂行の駒としか見ていないからなんだと思います。この二人の気持ちの正反対さの徹底的な描写。木原先生はどうしてこんなにも鮮明に描き出せるのか、脱帽の極みです。
特に奇襲攻撃後にガレがある種の興奮状態となり無理やりジャックを犯したあとのジャックの冷静な描写は凄まじいほど繊細で、ジャックが生き残ることにしか集中していないことが克明に描かれています。
読者が作品を読んでいて作品世界に没頭し、作品世界の中の映画館の椅子からまるで二人を追跡しながらその一挙手一投足を間近で見ているような臨場感。この文章力、本当に凄まじいし、どうしたら頭の中の世界を文字だけでこんなにも克明に表現できるのか、そのすごさに毎回圧倒されます。
物語中盤から後半、ガレとジャックの奇妙な関係も楽しさもありながら鋭さもあり、上がったり下がったりで、どのあたりでドーンって突き落とされるんだろとビクビクしたり(←木原先生作品好きな方ならわかってくれるはず)、最後まで目が離せないストーリー展開でした。
でも、ガレって本当にジャックのことを愛しているんだなと。ジャックを自分のものにしておくために、絶対に言う事を聞くし無理強いしない。ジャックが楽しければどんなに楽しいこともさせてあげたい。
他のレビュアー様も書いていらっしゃいましたが、結局は法的にも認められた配偶者という最高のステイタスを手にして絶対に手放さなかったガレの粘り勝ちなのだと私も思いました。
描き下ろしは結局絆されるジャックと、愛する人をめいっぱい甘やかしめいっぱい愛するガレが可愛らしく描かれていて最高の締めくくり。私はガレが結婚指輪をジャックの左薬指にはめるシーンが大好きでした。ジャックが自分の中で受け入れれば、まぁいっかでガレのわがままを受け入れているところが、ジャックらしくて本当に可愛らしい。ガチムチのジャックが結婚指輪をするなんてそれだけで萌える。もちろんそのあと盛り上がる二人もかなり良き!
最初っから最後までひたすらにジャックが大好きな私でしたが、この作品は人間描写だけでなく、戦争の描写なども非常に細かくて読み応えもすごい。
筋肉ガチムチの強強受が好きな方はぜひオススメです!