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表題作COLD FEVER(新装版)

高久透,記憶が戻った男 
藤島啓志,透を見守る男

同時収録作品花咲く花散る花開く

黒川祐一 公務員
谷口雅之 カメラマン

その他の収録作品

  • LAST FEVER 四季
  • 花咲く花散る花開く
  • あとがき

あらすじ

ある朝目覚めた時、透の時間は六年の月日が経っていた──。事故でなくした記憶を取り戻したものの、周囲に愛されていた“もう一人の自分”の影に苦しみ、さらに誰よりも憎んでいた男・藤島と同居していたことに驚愕する。藤島に見守られ、失くしかけた夢と歳月を取り戻そうとする透だが、藤島の裏切りが明らかになり──! シリーズ新装版、ついに最終巻。同人誌発表作に大幅加筆し、「同窓会」シリーズも連動して同時完結!
出版社より

作品情報

作品名
COLD FEVER(新装版)
著者
木原音瀬 
イラスト
祭河ななを 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
シリーズ
COLD SLEEP
発売日
ISBN
9784862635501
4.5

(168)

(134)

萌々

(14)

(10)

中立

(3)

趣味じゃない

(7)

レビュー数
34
得点
759
評価数
168
平均
4.5 / 5
神率
79.8%

レビュー投稿数34

魂の慟哭が 胸に突き刺さる

のっけから冷や水を浴びせるかのようなプロローグ。
ある朝突然、記憶を取り戻したかと思えば、まるでその代償のように藤島との6年間は忘れ去られてしまう。たぶん…とは思っていたけれど、最悪の展開。
それまでの盤上の石が、ものの見事に色を変えていく。

誰も愛さず、誰からも愛された記憶などなく、それなのに“偽者の自分”はちゃっかりとうまいことやってたらしい。
透にとってその事実は、他の誰でもない自分に裏切られたことに他ならない。
けれどその怒りの矛先は、ある写真をきっかけにして藤島へと向けられることになる。
すべては藤島のせいだと思い込み、殴る蹴るの暴行の果て、幼い日の自分にトラウマを植え付けた相手を痛めつけることで「過去の(弱かった)自分に勝ったんだ」と笑う透。
それに抗おうともしない藤島。その真意は、償い、もしくは憐憫?
愛情と憎しみの波間に己を見失い、傷つけ、傷つけられ、やがてふたりに訪れるのは、一体何なのだろう。

さんざん持て余してきたはずの、己の感情の正体に気付いた時、透が発したその慟哭の凄まじさ。

それまでの目を覆いたくなるようなDV描写よりも、このシーンに胸が詰まった。

正直なところ、重いし、暗いし、しんどい話なのだ。
決して手放しで喜べるようなハッピーエンドではないし。
だけど人の弱さや愚かさ、その醜悪さを描ききることで、人は誰かを愛さずにはいられない生きものなんだと改めて思い知らされる。
こんなにも圧倒的なまでの熱量で心に訴えかけてくる作品には、そうはお目には掛かれない。

18

攻めが好きになる3作目

子どものときから愛情をまったく与えられなかったため、トラウマだらけである反面、
スマートで器用、要領が良く、パティシエや写真家という分野で才能を発揮する男が透で攻めです。
裕福で、人が羨む類の家の一人息子だが、実は両親は不仲で、複雑な環境、異常な母親に支配されて育った男が受けで藤島です。

コールドフィーバーとは木原さんの造語なのでしょうか。
COLDシリーズは三巻あり、書名の意味を知りたくて辞書を引きました。
ぴったりの訳は載ってなかったので、想像するしかありませんが、
冷淡、よそよそしい、眠り(1巻)、光(2巻)、発熱とか熱狂(3巻)とかそういう意味なのでしょうか。
2009年春のリブレ出版の木原音瀬フェアがあり、この本を買った時、小冊子「愛する人は誰ですか」が付いてきました。

自動車事故で過去の記憶がなくなってしまった攻めの高久透を 
義兄弟の受け、藤島が引き取ところから始まります。
1巻と2巻で、生い立ちと、記憶喪失している間に二人が恋人になる過程が、書かれています。
3巻目で元の記憶が戻り同時に6年間の記憶がなくなる。
COLDシリーズは大作です。

この3巻目はなかでも読み応えがすごいです。
なぜならこの巻の透が一番魅力的だからです。
記憶喪失の前、記憶喪失中、記憶が戻った後、それぞれ藤島に対する透の言動、感情に変化が起こります。
3巻目の透はトラウマだらけの人間で藤島に暴力を振るう男です。
でもその暴力は求めている相手に好かれたいという気持ちにブレーキがかかった結果の暴力です。
小さいころ藤島に裏切られたと思っているので、
藤島の顔をみるたび暴力を振るっています。
私にはすごい執着心にみえます。
「好きだ!仲良くしたい!」という心の叫びと
「裏切られた!もう二度とあんな思いしないぞ!」という心の叫びに
引き裂かれています。透は。
それが、記憶喪失が戻ったら戻ったで、
「記憶喪失中の自分にはかなわないかもしれない、恐怖!」というのも抱えてしまいます。
よく藤島は逃げなかったなと思います。
嫌がられて暴力受けても透を見捨てなかった。すごすぎます!
透も暴力でストレスを発散しているという単純なものじゃないのです。
最後は藤島の胸に縋って「どうしたら側にいてくれる」と嘆願するようになります。
その後の話でも透が今までと真逆に藤島を大切にする話になっています。

16

甘いまま 終わるわけない このはらー

前作LIGHTで、ようやく愛し合うようになった二人。
最終巻FEVERでは、透の記憶が戻って、愛し合って、共に生活していた6年間を全く忘れてしまうところからお話が始まります。
記憶のない6年間に何があったのか、全くわからなくなって、荒れまくる透視点で話が進むので、前作のケーキの甘さとは大違いな、荒涼とした痛々しい展開です。
最終的には、二人は、元通りとはいきませんが、「この人と離れて生きてはいけない」と、透が自覚することで、ハッピーエンドになります。
このFEBVERを読んだ後に、前作LIGHTを読むと、切なさ倍増です。
是非、3作全て読んでいただきたい。
3作全部読み終わってから、更にもう一度最初から読み直したい。
そんなオススメな、作品です。
同時収録の「花…」で、前2巻に載っていた同級生シリーズとお話が合体します。
同人誌でちょっとだけ読んだことのあったお話は、こうゆう流れの中の作品だったのか。

14

怒濤の展開に怯むなかれ

シリーズ最終巻、決着編。ある日、目が覚めた透は鏡に写る自分の姿があまりに記憶と違い混乱する。更に事故に遭い6年もの月日が経っていることを知り愕然とするが…。

ハイ、いきなりです。恐れていたその「ある日」から、いきなり始まります。
透の驚愕もよーくわかるが、思わぬ出だしにヒエ-と私も愕然としました。ボーゼン……。
覚悟していた透の記憶再喪失(正しくは戻ったというべきなんでしょうがBL的には喪失じゃい)に、二人の甘い時間と読者の心は木っ端みじん、過去のツケがまわってきます。
これから読まれる方は、心を強くもって臨まれることをお勧めします(救心!救心!状態)
んが、読後感はよいですから!………たぶん。

まっさらな透→藤島と視点が変わってきた前2冊。
最終話は22歳でとまったままの本来の透の登場です。
ケーキを食べさせては幸せそうにしていた透の豹変ぶりは覚悟していてもなおショックで、透の視野の向こうの藤島の辛さを想像しては(私が)死にそうになりました。
藤島が透の仕打ちに耐えられるのは、あの幸せの記憶があったからなのかも。
でもそのための6年だったとは思いたくないです。

この新装丁版で再読組の私は当時、透の怒りと絶望に同情しつつも、藤島の胸中を思うことで精いっぱいだった記憶があります。
黙って耐える藤島の姿があまりに痛ましすぎて。
でもこうして改めて読み返してみれば、透がどれだけ寂しい人間かがよくわります。
それが何気ない描写の中ですら読み取れてしまうことに、胸が潰れる思いでした。
何より切なかったのは、透の本質は確かにあの優しかった透なんだと思わせる瞬間があったこと。
藤島を傷付けながら自らも傷付き、愛し方も愛され方も全く分からない透の悲鳴が、文章の端々から聞こえてきます。
悪態も暴力も虚勢も全てはがれ落ち、最後に残った透の姿は寂しい、寂しいと泣く小さな子供にしか見えませんでした。

異常な愛情で雁字搦めにされてきた人間と、特別な愛情を誰からももらえなかった人間が惹かれ合う不思議を考えてします。
BLにしばしばみられる供依存ですが、この二人もまさにそう。
しかし彼らほど互いを必要とし合い、その必然性を感じられる関係は中々ないんじゃないでしょうか。

正直なところ読み進めるのは辛い話ですが、二人のこれからの幸せのための生みの苦しみのようなものだと納得できる内容なので、これでよかったのだと思っています。
んが!精神肉体どっちも痛いのがダメな方はきっぱり立ち入り禁止。進入禁止!
耐性がある方は是非チャレンジして欲しい。
読まないでいることがもったいないほどの、木原作品の中でも圧倒的な力をもった作品です。

~独り言~
藤島のお尻の将来が心配。(土下座)

14

穏やかな毎日を迎えるために

初読みの際には2人のその先が知りたくて躊躇いもなく読み始めたのですが、再読するには勇気とタイミングが必要になる1冊です。

記憶が戻った所から、デジャブのような光景が始まります。
混乱の挙句2日間もの間行方の分からない状態になり、藤島の心配と来るべき時が来た、その覚悟が語られずとも緊張感を伴います。

透の中にある修復出来ない歪が重く蜷局を巻き、逃げ場のない藤島に容赦なくぶつけられる。
藤島の飲み込んだ言葉も想いも何一つ語られる事なく、透の今をそして未来を優先させる姿にこみ上げる感情で胸がいっぱいになりました。

そして、透の何気ない気まぐれに6年間の当たり前が詰まっていて苦しくなります。

透のそれまで愛されなかった絶望もそれでも愛されたいと渇望する気持ちも支離滅裂になりながら、6年間の透と対峙する勇気も持てず過ごす毎日。
酒に溺れ、快楽を貪り消費されてしまう日々のむなしさに早く気付いて欲しいと気持ちだけが急かされます。

藤島が透をどう守ってきたのか知る喜びと怒り。
荒ぶる気持ちを沈める方法を知らない透のトラウマを乗り越えようとする足掻き。
そして心の奥底に眠らせた素直な気持ち。
依存という言葉が使われますが、幼い頃の記憶のやり直しをしているような感じがします。

ようやく迎えた穏やかな2人の姿に、それでハッピーエンドだと思えないざわついた気持ちが残りますが、海で最後の写真を燃やした藤島の、今の透だけを見つめようとする強さと潔さに、今度こそ間違わずに寄り添って欲しいと願うばかりです。

「LAST FEVER四季」で同窓会シリーズの谷口との出会い。
透の憧れが詰まった存在に、考えるだけでまたこみあがるものがあります。
透の乱暴な言葉も少しずつ藤島を思いやるものとなり形は違えど繰り返す核のようなものはやはり一緒なのだと嬉しくなります。
時の流れに少しずつ本来の透と6年間の透が重なって見えるようになり、多少の疲労感に包まれながらも大きく揺さぶられた心は落ち着く事が出来ました。

13

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