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『ふったらどしゃぶり』で登場した和章のお話。
前作にも増して文学色の強い作品でした。
前作を読んだ段階では和章に対して正直あまり良い印象はなかったのに、もうすっかり好きになってしまいました。
帯にある、
「愛しあおう、"とげ"を抱えたままの心で。」
という文が本当にその通りだなと思いました。
何をどうしたって とげ は抜けることはなくて。
それでも、出逢うことがその痛みを軽減させるのでしょうか。
一つの作品としても、スピンオフ作品という観点からも、非常に素晴らしかったです。
ふったらどしゃぶりを読んだ時の予感。
is in youの時と同じそれ。
あ〜絶対スピンオフ好きになる…
そんな気持ちを裏切らないし、そこを優に超えてくるのが一穂先生。
off you goの時もそうだったんですけれど、そもそも表紙からして吸引力が凄まじい。
静の空気と、見切れてボヤけた葉っぱや彩度の低い色合いの、人間味の薄い感じ、鮮やかな白い花。筆記体の組み方。
もー雰囲気で呑まれてるよ…と思いながら読み始めました。
概要は皆さん書かれているので割愛しますが、あらすじを読まなくても是非手に取って欲しい。そのくらい私は好きになりました。(そもそも一穂先生のお話はハズレの心配をしていないので、あんまりあらすじ読まずに読み始めるのですが)
さて、作中目立つのが、石蕗先生の存在。
この人無くしてこの話は絶対に成り立たなかったと思います。
戦うの対義語に逃げるを使う話。
逃げるという戦い方だってあると語った石蕗先生こそ、ずっと戦い続けていたと思うんです。
無くなる直前の慟哭のような訴え。
その内容が、自分を信じて欲しいというよりも、妻を裏切っていない、とまず言葉になって飛び出てきたことから、先生の人柄を垣間見たというか。
もうその一言で涙がだばーと出てしまいました。
どれだけ奥さんを愛していたか。
亡くなってもまだ、どれだけ先生の中で大きな存在だったか。
大事なものだけを大事にしている、みたいにもとれる姿勢や無言を貫き通す態度は一見愚かしいけれど、だからこそ、石蕗先生にとっての、どうしても守りたかったものは奥さんとの絆だったんじゃないか、と思えて、悲しくて寂しくて愛おしくて仕方ありませんでした。
分かってほしい、信じてほしい。
それって人間の本質だと思うんです。
それを覆されかけて、けれど、柊も石蕗先生も戦っていた。
その日々が戦いじゃなかったなんて、誰に言える。
その一言が重くのしかかって、冷たくて、けれど和章が気づけて、本当に良かった。
そして、和章についてです。
彼は、ふったら〜の方では本当にやってることとか態度が意味不明で、読者的には、「この人今、どういう心境?」という気持ちでずっと読んでいたのですが、終盤一気にそれを崩されたことも印象的で、この作品を通してより彼を深く知ることが出来たのでそこもとても引き込まれる要因になりました。
偏屈で生真面目で不器用で情熱的で愛情深いところ。
柊を、祖父のなきがらといきなり直面させずにすんだ。と思うシーンで、そのことに対して
「そんなことだけか?
俺が君にできるのは、たったそれだけなのか。悔しい。」
そうやって本気で誰かのことを想えること。
和章は本当に、愛情深い人だと思います。
自分が人を愛することは罪でただのエゴだと思い込んでいる潔癖さが不器用で愛おしいし、反面、両思いになってからの執着の仕方や甘い雰囲気がとても微笑ましかったです。
そして柊。この子の傷も、痛いほどわかる。
周りからしたら、大したことないかもしれない。
たった一つの傷で、ずっと逃げてきた柊です。
だけど、逃げる=戦っていたんだと思います。
両親からの何気ない言葉にどれだけ傷ついたか。
「お母さんたちはそんなにもひどい仕打ちをしたの?」と言われた柊ですが、お母さんは、それを言っちゃ駄目でしょ…と思ってしまいました。
けれど、そこには石蕗先生が居て、ちゃんと柊の気持ちを言葉にして代弁してくれるんですね。
言葉にするって難しいです。自分の中のぐちゃぐちゃした気持ちなら、余計に人に伝えるって難しい。
だからこそ、石蕗先生が選んだ「ただ、とても傷ついて、今はここに立ち止まっていたいんでしょう。それに対して「大げさな」と思うのだけはいけないよ」という言葉。
もお〜〜〜なんで石蕗先生にはわかるんだろう。
きっと、石蕗先生も同じ痛みを抱えていたからなんですよね。
柊に石蕗先生が居て本当に本当に良かった。
石蕗先生がそれこそ幼木を守るようにして育て見守ってきた柊だからこそ、人の痛みや人生の傷や、冷たさ、温かさをちゃんと理解して寄り添える子に育ったんでしょう。
ちょっとした罪悪感や、戸惑いを、都度、拾い上げて先生らしい言葉で導いてきたのが伝わってきます。
優しくしたいと思う相手にしか優しくできないのは当たり前だ。
そう言ってもらった柊は、少しは楽になったんでしょうかね。
わからないけれど、作中和章が、柊の中に先生がちゃんと居るって言ったのはわかる気がするんですよね。
本当に良い子なんだもの。
はぁ、2人の違う顔も見たいなぁ。東京に出てからの2人の生活をちょっとでも覗きたいなぁ。
そんな不満さえ残る素敵な作品でした。
和章は、前作ではもしかして嫌いだった人も結構いるのかも…と今更ながら思いました。私は、本編の方で始めのうちこそ、和章何なの意味わかんないってずっと思ってたものの、最終的に、お前そんなもの抱えてたんか!!(泣)切なすぎて悲しすぎて、、絶対ちゃんと幸せになってほしいと思ってたクチなので、スピンオフとかもう超嬉々として買いましたが!!
柊の優しさや真っ直ぐな性格に和章が少しずつ溶かされていく様が丁寧に綴られていて、とてもあったかい気持ちになりました。
また、自分を責めて閉じこもってる和章の、不器用で分かりにくい優しさや思いやりが感じられるシーンが至るところにあり、たまらなく愛しくなります。
そして、甘々な和章可愛すぎる、柊ほんとうにありがとう…!!
心から幸せそうに笑う和章が見れたので、このシリーズはもう思い残すことはありません!!
「自分を幸せにすること」=「他の人を愛して幸せになって」
整と別れた後、整との約束を実直に守ろうとする和章の不器用な生き方が気の毒で辛い冒頭。
「一は数えに入らない Einmal ist keinmal」を心の中で反復する和章。
一度の失敗が数のうちに入らないなら、整を無理やり抱いたことは数に入らない?、と、悶々。
・・生き甲斐とやりたい事を探して、彷徨う。
ただ一人愛した人、整の喪失した跡を埋めるものが、他に見つけられない。
和章にとって整は初恋の人、生きる意味のすべてだった。
大学の恩師の著書整理の仕事を引き受けて、教授の孫と知り合う。
教授の孫、柊と親密になっていく和章。
和章が、整とやり直す展開にしない著者。
整と柊に共通するのは、透明な脆さかもしれない。
和章と柊の二人が親密になるにつれ、(もうこれで整が戻る場所は、完全に無くなってしまうんだ)、と悲しくなってしまった。
人の行き違い・すれ違いって、こんもんなんですね。甘くないファンタジー。
深い傷であっても、時間が経てばなんとか癒すことができるってことを著者や言いたいのかも。
これから和章がデザインするものは、整ではなく、柊のイメージで創作されるんだと思う。
生きるということは、変化変容を重ねることだから仕方ない。
拗らせて拗らせて失敗した人って好き。
植物の添え木や交配の話は興味深かく、整も可哀想だったけど、和章の不器用さを知れば知るほど複雑な気持ちになるんだけど、棘が刺さったままでも和章が一緒に進める道を見つけれて良かった。
柊のために作ったグラスは美しいんだろうな。整とのことはめちゃくちゃめちゃくちゃにモヤモヤしてたけど、今の幸せのための悲恋、それで成長したと!!思えました。
柊がふわふわ?掴みどころがない?態度があまり好みではなく萌えどころが少なかったのと、一つ一つの表現は美しく、とっても素敵なんですけど、リズムが合わないのか、いつも気持ちがいきなり飛んだように感じてしまうので中立にしました。