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芸能BLも吉田ゆうこ先生にかかるとこうなるか…
人気俳優・天馬の突然の死から始まる本作。
ストーリーは、天馬のマネージャー・幹と、天馬の恋人だった青年・成川椿の関係性を描いていくんだけど。
いや〜…圧倒された…
誰とも違う「吉田ゆうこ」という人が創り出す世界観!
普通は。
今はいないひとを間にしての新しい出会いと乗り越えていく切な甘い展開、みたいな?
でも本作は一味もふた味も違う。ヘヴィで薄暗いです。
椿は天馬の死を信じてない。その描写は椿の異常性を感じさせるほど。
天馬とやっていた遊びと称して、他人を観察し、想像し、憑依的に演じる…そんな椿を幹は芸能の世界に引き込むけれど。
難しい椿に手こずりながらも、天馬と同じように惹かれていく幹。
2人の間だけじゃなくて椿の世界にはいつでも天馬がいて、幹とすんなり恋愛とはいかない。2人の結びつきはどこか名前のないような関係性のところも読んでて面白い。
終盤、物語全体に影として立ちはだかる「天馬」が登場します。
この表現がまた…秀逸ですね。
幹と椿…それでも2人の間にはまだ天馬は残り続ける、いや天馬の不在が残り続けるのでしょう。
もはや三角にもなり得ない大いなる影…そんなものに覆われた薄暗さこそが個性といえる作品。
ボーイフレンド17が素敵だったので、吉田ゆうこ先生の他の作品もと思ったとき。試し読みで、天馬を演じる椿の強烈な説得力に惹かれたのがきっかけです。
物語の軸に天馬が存在しつつ、椿が中心の物語。椿が徐々に変化していく構成が、扉絵やカバー下も含めて綺麗。ひとりでは何もできなかったところから、天馬を追って死ぬことも、幹さんを一番にすることもできない「裏切り」を経て(多分ここまでが『いけない子』。悪いという意味と、深読みすると「逝けない」という意味もある?)、天馬からの解放を迎える。
椿の演技力に説得力があったし、ガラッと変わる表情に惹きつけられました。視線の力でハッとする。彼にのめり込んだ幹さんに感情移入できました。演じることを通して椿が人の心を理解していくのが自然。
また、エピソードの積み重ねが丁寧。特に、ファミレスで想像するシーンが、天馬との思い出としても演技に入り込むきっかけとしてもリアルでよかった。そこから繋がる自殺未遂のときの幹さんの「想像してくれ」がお気に入り。
死者を仲介にした人物配置が面白かったし、ラストはとてもドラマティックでした。
そして、描き下ろし『smile』が本当に好き。天馬を間に置かない幹さんと椿のふたりの関係にグッと寄っていて、本編ではあまり描かれなかった椿からの視点や、幹さんがどんな人かがわかって、いい関係だなと思いました。愛しさが残る読後感。
ただ、演技中でもない素の状態の新をみて、マネージャーだった幹さんでさえ驚く、というのに少し引っかかりました。天馬の一番近いところにいたのが椿、という表現でしょうが…。生前の天馬と関わりのあった二人で、それをきっかけに出会っているけど、幹さんは思ったよりその他大勢側だったのかと。天馬と幹さんの関係、というのがもう少し語られると、より入り込んだかな。
絵の持つ力というか、表情や言葉と相まってつくられる空気感が、物語の説得力を生んでいる。静かで仄暗いけど、月のような一筋の光と、ぬくもりがある。空気感が圧倒的な個性になりうるのだと、吉田ゆうこ先生の作品で知りました。
また、演出力に長けていらっしゃる(雨の中椿が自殺未遂するところ、広告で天馬の顔が初めて出るところなど)ので、シーンの力がとても強く、無性に惹きつけられる作家さんです。また新刊が出たらチェックしてみようと思います。
読むたびに誰目線で読むかが変わり、感じ方も変わるので評価に迷いましたが、個人的な好みとして、幹さんの掘り下げがもっと読みたかった気持ちもあり、神寄りの萌2に落ち着きました。
静かで影のある雰囲気に吉田先生らしさを感じた作品。お話は淡々と進んでいくのだけれど、その奥にあるものは決して軽くなく、椿の感情がわかっていくほどに切なさも増していった気がしました。
でも、天馬の死という現実を受け止められなかったり話が噛み合わず子供っぽいところがある椿の言動に人間的魅力を感じるか?と言われるとちょっとピンとこない部分が。
幹と仕事をし始めてからも周りと衝突してしまうのに役者としては成功するし、上手くいきすぎる展開にも「うーん?」となってしまいました。
途中に出てきた成川の立ち位置もよくわからず。椿が成長するために必要な人だったのはわかるけれど、天馬そっくりにする必要はあったのだろうか?と思ってしまったり。
…という感じでひとつ気になったら次々に気になるところが出てきてしまい、今ひとつお話に入り込むことができず…。
読み返したらまた印象が変わりそうな作品なので、また時間をあけて読んでみようと思います。
表紙の雰囲気から暗めのトーンの話かな、と思って、暗いお話が好きなので何となく手に取ってみました。
すごい話でした……。
芸能界を舞台にしてはいますが、スキャンダラスな雰囲気はなく、椿と幹さんの切な感情をじっくりと描いているお話です。
物語は、天才的な若手俳優の斉藤天馬が亡くなってしまうところから始まります。
天馬のマネージャーである幹、そして天馬の大切な恋人だった椿。2人は天馬の葬式で初めての邂逅を果たします。
本作の受けである椿は、存在するだけで人の心を魅了してしまう不思議な魅力を持ちながらも、天馬だけを見ているから、天馬だけが一番だから、天馬を失ったとしても他の人を代わりにすることは容易にはできない。
ある意味で残酷な、純真無垢で美しい存在だと感じました。
読んでいるだけなのに、私まで囚われてしまいそうに……。真剣に、丁寧に、美しく、可愛らしく、描かれているキャラクターでした。
攻めである幹さんはそんな椿にどうしようもなく囚われていきます。それこそ、2番目でも良いから、と縋ってしまうほどに。
ここでの幹さんの感情を思うと、胸が痛みます。私まで椿に惹かれている分、余計に感情移入がしてしまって……。
そんな幹さんと一緒に過ごしていくうちに、胸の中に天馬だけを抱いていた椿も、少しずつ少しずつ変わっていきます。
ずっと受け入れることができなかった「天馬が亡くなってしまった」という事実を信じた後の椿の行動は特に痛々しいものですが、幹さんとの関係が劇的に変容していく様は本当に圧巻ですので、ぜひ本編を読んでいただきたい。
そして、このストーリーの根底にあるものは「斉藤天馬」という1人の男の願い…のような気がしました。
素敵なものを目にした時に湧き上がる「この素敵なものは、自分が見つけたんだぞと自慢したい」という承認欲求、「素敵なものを誰にも奪われたくないから独り占めしていたい」という独占欲。
その2つを椿に抱いていた天馬が取った、二つの相反する欲求の均衡点なる選択が、「自分の死後に、信頼がおける人で自分と好きな男のタイプが同じ人である幹さんに託す」というもので。
思わず、なるほどな……と。
また、天馬を巡る演出が素晴らしかったですね。
最初からクライマックスまで、読者は天馬の顔さえも知らない。ただ、彼に魅了された椿と幹さんの口から語られる「天馬像」だけが徐々に形作られていって……天馬のことが気になって仕方なくて、知りたくてたまらないのに、全然教えてくれないんです。
ただ、外見が似ていると言われている新というキャラクターは出てきますが、椿に「似ていない」と断言されているから、余計にどんな人なのかが気になる。
そうやって引き延ばされて、ようやく最後に天馬自身の姿を初めて見れた時、それまでの全てを天馬に奪われてしまうほど、圧倒的な存在感にあてられてしまいました。圧巻でした。
本当に素晴らしい作品でした。もっと早く読んでいればよかったと思いました。でも、今日出会えてよかった。
吉田先生の他の作品も読んでみます。
恋人だった天馬を失った椿の情緒が、この作品の軸として大きく占めています。天馬が亡くなったことを知らなかったのは、心の自己防衛だったのでしょうか。あからさまに取り乱すようなことがない分、感情が読みにくくどこか危なっかしい印象を与えます。天馬亡き後、新たに椿と出会う幹。天馬一筋の椿に苛つく様子も見せながらも、根気良く椿に付き合う彼に、そうして1人の男を虜にしてしまう椿の罪深い性質を感じました。
簡単にまとめれば、天馬→椿←幹という三角関係ではあるのですが、天馬と幹の関係性も対椿とはまた異なった、切っては切れないものだったと思うんですね。好みのタイプが同じだからと警戒しつつも、天馬は幹を最大限信用していたのでしょうし、幹も天馬のことばかり口にする椿に独占欲を刺激されながらも、けっして天馬のことを忘れ去りたいわけでもなければ、椿が自分だけを見るよう矯正することもなかった。幹と椿がくっつくということが、2人が天馬を永遠に忘れない縛りのようなものにもなるのではないでしょうか。死して尚、生者に執着する天馬の傲慢さと、自ら進んでそれを受け入れた幹と椿、この3人の関係性が絶妙だなぁと思いました。
