イラスト入り
萌えたか萌えないかで言うと分からない。
好きか嫌いかで言うと間違いなく好きな1冊。
そんなことを思った作品でした。
木原先生作品の中ではかなりマイルドな読み心地かなとは思いますが、どの登場人物も本当に実在していそうなくらい解像度が高いというか、生活や言動のすべてがリアルすぎて時々苦しくなります。
痛くはない。でも苦しい。
飾らない言葉で真っ直ぐにザクザク刺してきます。
眠る前に少し読もうかなと思っていたはずが、苦しさと共に人間くさい愛おしい面が交互にやってきて、この先の彼らを見届けたいとページをめくる手が止まらず…気が付いたら朝になっていました。
読み始めて、邦彦の片想いがメインに描かれている作品なのかと思いきや、いやいやこれはそれだけではないぞとなるのです。
表題作の黄色いダイアモンドでは、邦彦視点で進む勇への長きに渡るずっしりと重みのある感情の行方を。
そして、彼と共に暮らす真田親子を追っていくと、複雑でいてぐちゃぐちゃとした人の営みが見えてきます。
中編・歯が痛いでは、勇の息子で中学生になった俊一の視点で子供社会の残酷さと大人の理不尽さ、多感な思春期のままならない心情と家族の愛情が。
短編・十年愛では、俊一の同級生の秋森視点で繰り広げられる、まるで過去の邦彦と勇をうっすらとなぞっているかのような別ルートの恋模様が新たな世界を魅せてくれています。
どのお話も、自分が今まで生きてきた人生の中で体験したことや見聞きしたことがある物事の断片があまりにもリアルに描かれていて非常に驚きました。
きっと誰しもが「わかる」ことが出来るエピソードが絶対にひとつはあるはず。
共感や想像が出来る悪意や感情、葛藤、そして愛情がこれでもかとストレートにぎゅっと詰められていて、人の良いところと悪いところが同時に見られる1冊です。
けれど、わざとらしさは全くなく、どれもこれもがあくまでも自然な表現なのだからすごい。
人は好き勝手にものを考えます。
好き勝手にものを言いますし、好き勝手に受け取ったり受け取らなかったりします。
良かれと思って言ったことだとしても、それをどう受け取るのかは相手次第。
過去の自分の発言を未来で後悔することだってあります。
案外、世の中は身勝手で一方通行な想いや考えで出来ているのかもしれませんね。
邦彦の粘り強さに拍手し、勇の成長に安堵し、俊一の苦悩に辛くなり、秋森の綺麗な傲慢さと変化を見守りました。
とびきりの惨めさから、とびきりの深い愛情まで。
どしゃ降りの雨から、雨上がりの晴れやかさまでが本当に丁寧に描かれた読み応えのある作品でした。
ここ数ヶ月、木原音瀬先生の作品のどハマりしています。
鳩屋タマ先生の可愛らしいイラストに惹かれて、「木原先生の甘々BLってどんなだろう?」と読み始めてみたら...何てこったい!
表題作『黄色いダイアモンド』の時点で既に甘々ではなかったんですが、『歯が痛い』はしんどいとかそういった問題ではなく...
とにかく不快感が先行し、何度か本を閉じました。
それでも木原先生を信じて読み進めると、最後の最後になってようやく光明が見えてきました。
神評価はBLとしての評価ではなく、広範な意味での作品としての評価です。
よかったですー。
本書は3本立てになっていて、幼馴染みの勇(ノンケ)に子供の頃からずっと片思いをしている邦彦のお話「黄色いダイアモンド」(過去作)と、勇の息子・俊一が中学一年生の時の、彼をとりまく同級生や勇との関係を丁寧に描いた「歯が痛い」(書き下ろし・過去作に加筆修正)、中学生の時から俊一に恋をしている悠生のお話「十年愛」(書き下ろし) という構成になっています。
まず、勇のことから語らねばなりません。
彼は木原作品によく登場する、社会に適応できないタイプの人で、子供の頃の家庭環境がひどく、長じても生活能力が低く、物覚えも理解力も良くない。邦彦は幼馴染みで勇のことを好きだったけれど、好きだという気持ちを知られないように注意しつつ、陰になり日向になり時には口うるさく叱りつけるなどして長らく勇と一緒にいたわけなのですが、ある日勇に好きな女性が出来て、結婚して子供が生まれたりするわけです。(奥さんはとても優しく善良な人で、でも早世してしまう)
この勇が、木原作品によく登場する、社会に適応できないタイプのダメ男と違うことは、勇は圧倒的に根が素直で、不器用だけれど子供を愛し、子供のために苦手な事をコツコツ努力できるようになった、というところです。
私は、邦彦→勇の構図をみたときに、勇の悪意を心配したり、ふみにじられる邦彦を心配したりしてびくびくしていましたが、本書はそういう展開ではありませんでした。
「黄色いダイアモンド」こそ、それらしき片鱗は窺えましたが、結局そうではなかったし、「歯が痛い」においては勇の成長(? というとおこがましいけど)も実感できて、むしろ愛おしくもなりました。邦彦がどうして勇のことを好きか分かるような気もしました。
そして、「歯が痛い」においては、俊一の学校での虐めが描かれます。
「黄色いダイアモンド」では未就学児だった俊一は「歯が痛い」では中学一年生になっています。
読書とはいえ、えげつない同級生の加害描写には嫌気が差しますが、俊一がこの苦境をどう打開していくのかを見守るために熟読してしまいました。
結果、俊一の心の強さと勇の父性を目の当たりにし、勇の不器用で深い愛情に感動した次第です。
あとがきに、担当編集さんから「これはBLなんですか?」と尋ねられたと書いてありましたが、正直そんな些末なことはどうでもいいと思えました。
BLかどうかに拘るならば、この長いお話はこの後続く「十年愛」の布石であり、「黄色いダイアモンド」の続きでもあり、広義のBLといってよいと思います。
ただ、タイトルの「歯が痛い」は違うものでもよかったかもしれない……。
とにかく、このお話においても勇が切なかった。
俊一のことを生きがいだと思って、日々を生きている勇が切なかった。
学校に呼び出されるシーン、俊一に引っ張られてどこか遠くの街で野宿するシーン、とってもよかったです。
邦彦の前で弱音を吐くのも良かったです。
「十年愛」は、「歯が痛い」で俊一の同級生として登場した悠生が主人公。
中学生時代には悠生は思いやりという名の無意識の侮蔑とマウントによって俊一から敬遠され、理不尽な思いをしていて、気の毒でもありました。
(面倒くさいのはわかるけど、俊一も悠生に何がむかつくのかをはっきり教えればいいのに、とも何度も思いました)
その二人が高校生になり、大学生になり、関係が変化していきます。
悠生の気持ちは変わらないけれど、中学の時よりも視野が広くなっている分、耐えることも増えているなと感じましたが、それでも俊一への思いに勝るものもないようで、惚れた方が負けなのを地で行っています。
興味深いのはこのお話のウラで、邦彦と勇が結婚して一緒に住んでいることが描かれ、しかも勇が幸せそうだということが知れます。
よかった。よかったです、本当に。
勇は最愛の妻を亡くし、彼にとっては本当に生きづらい世の中を子供のために頑張っていて、報われて良かったと素直に思えました。
というわけで、木原先生の筆力のためにぐいぐい引っ張られるように親子の話を読み、途中やっぱり人の悪意は描かれるものの、メインキャラの成長やら幸せやらにコーティングされ、読んで良かったなと思わせられる本でした。
黄色いダイア=カナリーダイヤモンド。
イエローダイヤモンド:
≪希望≫を象徴するパワーストーン。心を明るくして、前向きに生きるパワーを与える
粗筋に、共感できる部分は少なかった。
幼馴染の勇への気持ちは、憧れでもなく、恋愛だと気づいた邦彦
勇が結婚して、子供が生まれて、妻と死別。
勇が他人と恋をして幸せになる・・
勇に踏まれる足下の支え石でも良いと満足する邦彦。
励まし支える邦彦が、長い間報われない様子が凄く辛い。
物語は、勇より、勇の息子についてが多く占めている。
息子は、邦彦の好意を全部ひっくり返す、故意じゃなくても憎らしい。
木原先生の、ドSな痛みを伴う物語・・人気作なので読んだけど、やっぱり苦手。
「幸せ」「幸福度」とは、他人が傍から見て決めるものじゃなくて、本人の感じ方次第、
と示唆するような作品。
メインの二人のお話は短めではありましたがとても読み応えがありました。
勇の家庭環境の劣悪さや勉強の理解が他の人よりも時間がかかり置いて行かれてしまう描写などが細かく書かれており、勇が俗に言う"ダメ男"になってしまうのもかなりリアルに感じ少しゾッとしました。この環境ならそりゃそうなるか、、と。そんな勇に人生のほぼ全てを捧げて生きる攻めの愛情には鬼気迫るものがありました。この男ぶれません。表紙だと爽やかリーマンお兄さんに見えますが、邦彦に新しい執着攻めを見た気がしました。基本的に勇への愛情故の行動が勇を更生させることなので常識人のように見えますが、これがもし暴力や監禁などなら立派なヤンデレだしそれくらいの重い愛情を持った男です。
邦彦に対して、どうしてこんなダメ男が好きなの?と思う自分はいましたが、読みながら理由なんてないんだよな、、と納得させられました。邦彦の愛の深さ、懐の深さは狂気的ですがとても素敵です。
勇は何より素直な人でそこがとても魅力的です。素直で人間味のある性格なので時に残酷な時もありますが、根っこが優しい子で読んでるうちにとても好きになりました。そして少しずつ成長し、俊一を懸命に愛する姿もグッときました。
勇を支え続けるぶれない邦彦もとても清々しくて、イジメなどの描写もありますが読後感がかなりよかったです。
後、「歯が痛い」は個人的に幼少期の家庭が貧乏なコンプレックスなど分かりみが深くて、、分かる分かる!と共感の嵐でした。