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2001年発刊の作品。
古い作品だからそうなのか、濡れ場の描写に重点が置かれていない。
BLによくある官能シーン重点で延々とダラダラ続く凌辱シーン描写、ではなかった。
主人公の心理描写に重点が置かれているのがとても良かった。
主人公の広海の母は、一時流行った歌手で、最後は場末の酒場の歌手。
マネージャーの男と内縁関係にあり、広海は、二人からネグレクトと暴力を受けながら育つ。
中学生になると、広海の誕生日に母が自殺。
その後、広海を芸能界に売り込もうと母の愛人が借金をするが、計画は頓挫。
中学卒業後、自立して働きだすが、母の愛人にずっと返済を強要される。
生い立ちから、広海は誰も信用できない、誰も愛せない。
母の愛人へ渡す金を作ること、憎む事が生きる支えになっていた。
広海のバイト先のパン屋によく来る女の子・美生。
美生の父親との出会いが、広海の人生観を変えていく。
誰も信じられない広海が、初めて体験する親切と愛情に戸惑う様子が、切ない。
ハッピーエンド。読後感凄く良い作品。
自分ごときに人を傷つけられるはずがないと、自虐的に思っていたが、それは自虐でも謙遜でもなく、倣慢だった。
月村さんのお話は健気不憫受の心理観察がやはり素晴らしいです。生まれてからの境遇から生じた性格の捩れ、諦めが前提で良き物事があっても正常に消化出来ない気持ち。恋を自覚して自己完結的な気持ちからの移り変わりが、側から見ると見事な空回りなのに共感させられるし、目が覚めた上記の言葉には背筋を伸ばすような気持ちになりました。
母親に愛されず義父の借金を背負った広海、中卒の彼はとにかく肉体労働の自給制でバイト三昧。パン屋のバイトで出会った少女の服装や発言に虐待を予感し、そして自分に重ねる。
少女は父親に迷惑をかけまいと熱を出しても無理をする。月村さんの書く健気不憫x2の破壊力…!
天涯孤独な広海が自分と彼女は違うのだと若干がっかりするところも巧い書き方だと思いました。
この少女の父親と交流するうちに、広海は投げやりだった生き方から、仕事とは、人生とは、と考えるようになり視野が広がっていきます。「ボナペティ!」でもそうでしたが、人との接し方、考え方そして生き方の変化を描くのがとてもポジティブで清々しいです。
仏頂面三夜沢視点のお話も読みたかったなぁ。子供の美生から伝えられる、広海を思う言動が日常的で家族的でとてもよかったので。
彼は無駄口叩かずとも的確な言葉を残し、「うそだ。笑っていい。もっとそういう笑顔が見たい」は優しくて沁みました。男同士なのをどう思うか全く触れられてなかったけど。
古い月村先生の作品を最近読んでいるのですが、この作品の受けは、今まで読んできた月村作品の薄幸不憫受けの凝縮系というか、原点だ!と思いました。
このお話の受け・広海は母から疎まれて育ち、一度たりとも愛情をもらえなかった子なんですね。
自分の誕生日に母親が自殺をし、ヒモだった内縁の夫から借金を背負わされ金をせびられる。
「親から愛されなかった自分」というものが深く心に根を張っていて、「誰も信用できない。誰にも愛される筈がない。」と思って生きてきた。
そんな広海が訳ありの親子と出会って……というお話。
最初から信じなければ裏切られない、という究極の人間不信だった広海。
疑心暗鬼の塊で、マイナス思考という殻で己を守るしか術がなかった子なので、手負いの野犬、あるいは手負いの野鳥といった感じかな。
自分ごときが人を傷つけられるはずもないと自虐的に思っていたけど、それは自虐ではなく傲慢なだけだったと気付くんですね。
恋愛要素に萌えるというよりも、一人の人間が変わろうとする、人を信じる力を得ようとしていく姿に感動させられます。
月村先生の受けって、親の愛情に恵まれず放置されてた子が多いですよね。
昨今の虐待ニュースなどが頭をよぎることもあり、こんな親ありえない!と憤慨したり、気が滅入ったりと心の消耗度が激しくて疲れることもあり、作家買いは怖くてできなかったんです。(好きな作品はめちゃくちゃ好きなのに)
だけど、この作品や古い他の作品をいくつか読んだおかげで、月村作品に限っては受けの不幸背景への耐性ができた気がする。
初期作品をあれこれ読むことで、あの作品の受けの原型はここに!みたいな受けばかりというか、月村さんがご自身で「金太郎飴作家」だとおっしゃるのが良くわかったんですね。
今まではどんな不幸受けが登場するのかわからなくて無闇にビビってたところがあるんだけど、多少変化や差はあれど基本は変わらないんだなというのがわかって私には良かったです。
イイハナシダナー…という感じでしたが…うーむ。三夜沢と広海の関係は恋人ではなく親子のほうが自然なように思えて、BL的な萌えは残念ながら分かりませんでした。
私の読んだ限りですが、月村さんの作品は常に「恋愛」と同じかそれ以上に「家族愛」がテーマになっていると思います。そのこと自体はいいのですが、天涯孤独の17歳の少年と30代前半(7歳の娘あり)とのお話で、下手したら父親よりも娘との会話のほうが多い上に、ベッドシーンも含めて恋愛ならではの描写があまりないのです。いっそのこと「広海が温かい家族の一員になるお話」で終わったなら「萌x2」だったのですが、最後の最後で辻褄合わせのように三夜沢が恋情を告白してきて「???」となりました。
いや、両想いになるだろうなと思って読んではいたのですが、二人ともゲイじゃないのにそんなにあっさり肉体関係になるかね…と冷めた目で見てしまいました。
広海の人生がこれから明るく楽しいものであってほしいと思います。
この作品を読んで先生の力量にKOされてしまった。大衆ウケするエンタメ色は皆無ですが、物語をパーソナルなものとして受けとめるタイプの読者には強く響いてくるお話だと思います。
主人公は母親にネグレクトされた十七歳の広海。母親は既に他界しているが、ソリの合わない義父から、これまでかかった養育費と称して金を要求され毎月返済している。高校へは行かずバイトを掛け持ち、まるで借金返済のために働くだけの日々。バイト先のパン屋の客で小学生の女の子、美生(みう)の健気な姿に幼い頃の自分を重ね、広海は彼女のことを心にとめていた。
美生がホント、チャーミングなんですよね。孤独な広海は彼女の子供らしい屈託のなさに癒され、美生との出会いがきっかけで広海の世界が少しずつ開かれていきます。
広海の悲しいモノローグに何度も涙が出そうになっちゃって、移動中に読むのをやめました。多分、彼に共感する部分がたくさんあったからだと思うんですけど、不思議とイヤな気分にはなりませんでした。広海がネガティヴなままではなく、それまでに染み付いていた思い込みや考え方を別の見方で捉えられるようになっていく変化が描かれていて、わたしにはそこが一番、読んでいて励まされたところです。
たまたま某質問サイトで、読んだ小説の中で最も感動した作品としてこれを挙げられていた方がいらっしゃったのを見つけ、期待して読み始めましたが、すごくよくわかるような気がしました。
出版年からするに、まだJUNEの香りが微かに残る頃。主人公の自己確立と自己肯定、そして自ら幸せに生きていくための居場所を見出すまでが物語の核にあった頃の、ラブストーリーというよりかは愛情物語だと思います。