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表題作恋をしていたころ

仁科智之、IW施行設計事務所の建築士
永森一葉、建築設計スタジオWの建築士

その他の収録作品

  • 帰る家
  • あとがき
  • 一緒に散歩を

あらすじ

建築事務所で働く一葉には、生涯でただ一人、同性の恋人がいた。その彼、仁科からある日七年ぶりに連絡があった。実は仁科は事故で軽度の記憶障害を患い、一葉のことも別れた理由も思い出せないのだと言う。仁科とは大学院で出会い、その情熱に巻き込まれるように恋に落ち、才能溢れる彼の隣にいるのが辛くなって別れた――。かつての記憶はないのに仁科の瞳に今も一葉への好意が見え、心が揺れる一葉だが……?

作品情報

作品名
恋をしていたころ
著者
安西リカ 
イラスト
尾賀トモ 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
電子発売日
ISBN
9784403525292
4.3

(125)

(70)

萌々

(34)

(16)

中立

(1)

趣味じゃない

(4)

レビュー数
18
得点
535
評価数
125
平均
4.3 / 5
神率
56%

レビュー投稿数18

若さゆえの未熟さ

安西先生作品の好きなところはたくさんあるのですが…
中でも特に好きなのが、作品によって職業や設定も様々なのだけれど、細やかな心理描写を交えながらごく普通の恋愛をする人々をとても丁寧に切り取っているところ。
登場人物たちの名前も、漢字と読みも含め普通に読むことができる親しみやすさがあって好きです。

記憶喪失の元彼と数年ぶりに再会したことをきっかけに始まる、2度目の恋のお話。
特定の相手のことだけ思い出せなくなってしまう設定自体はそこまで珍しくはないだけに、どんな味付けで読ませてくれるのかが楽しみでした。
読み終えてみれば、なんだかじわじわと温度が上がっていく作品だったなあと思います。
前半途中まではギアが上がらず、徐々に上がっていって後半でほっとするような読後感に包まれています。

言葉を選ばずに言うのなら、受けの一葉の自分本位な思考があまり好みではなかったんですね。
なので、受け視点で進む雑誌掲載部分を読んでいてフラストレーションがたまる面が多々ありでした。
一葉視点で語られる学生時代の彼らの恋愛は幸せの絶頂とも言えそうなはずなのに、どこか温度差を感じるというか…
お互いに好きだという感情はあっても、一葉の仁科への気持ちは恋ではなかったのかもしれないなあと思いながら2人の過去を追いかけました。
うーん、一葉の気持ちと若さが仁科の熱量に追いついていなかったのでしょうね。
記憶を失った仁科との再会後の方が良い恋をしていたんじゃないかな。
受けのこの未熟な部分に共感出来るかどうか。
好意的に受け取れるかどうかで評価が分かれる作品かなと。

後半では、与えてばかりだった仁科に同じくらいの愛を与えられるようになった一葉にひと安心。
ただ、残念ながら私は受けの複雑な劣等感は理解ができても魅力はそこまで分からず萌えきれなかったため、今回は3.5寄りのこちらの評価になりました。
一葉の成長よりも、ずっと一途だった仁科に肩入れをして読んでしまったのが大きかったです。
読めば読むほど奥行きが出てくる攻めで、どちらが好きかと考えるとやはり仁科の方が好きでしたね。

艶々の木の実のエピソードの活かし方が上手く、仁科にとっては木の実が宝物のようなものの象徴なのかもと考えると胸が詰まります。
今後は一葉と同じ家で一緒に暮らしながら幸せを積み重ねていってほしいな。
終始攻めの幸せを願ってやまない1冊でした。

0

最高の余韻に浸れる(+わんこが可愛いいいいい!!!)

犬が大好きなので、表紙のわんこに惹かれて購入。雑種わんこで、その名は”はちみつ”。可愛い…(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)
作品中にも何回も登場し、挿絵のはちみつもべらぼうに可愛いです◎
散歩しながら、はちみつのお尻を微笑ましく眺めるところとか…細かな描写の数々に「安西先生、犬飼いの気持ちを分かっていらっしゃる…」と感激してました。

…という犬目当ての購入動機で大変申し訳ない感じなのですが、安西リカ先生の現代もの、お話もやっぱり本当に素晴らしかった。。

攻めの記憶喪失が絡んだ、7年間の空白期間を経ての、再会ものです。

同じ”建築”の道を行きながらも、自分よりもずっとずっと実力があり、世界に認められている恋人に対する劣等感。
彼が自分の力で手に入れた賞金で買ったリングを贈られて、自分が心底惨めになる気持ち。
自分よりもなにもかも上だと認めざるを得ない男から愛され、甘やかされることの辛さ、悔しさ…

大学時代の一葉の苦しみに、自分がまるで一葉になってしまったかのように共感して読んでしまい、苦しさを覚えるほどでした。

なんの実績もなく、積み上げてきたものへの自負や自信が無かった頃だからこその、負の感情。

7年の間に、規模は違えど顧客から信頼され、実績を積み重ね、精神的に一回り大きくなった一葉。
規模の大きな仕事を手がけ、世界的に認められる仕事をしているけれど、実は精神的にとても脆いものを抱えている仁科(攻)。
読み進めるにしたがい、一葉がどんどんどっしり、大きく見え、二人が優劣ではなく真の意味で対等に愛し合える関係になったのだなあと感じました。

あとがき後の掌編もはちみつを巡る二人の微笑ましい攻防?で愛が溢れていて、犬好きとしてもBL小説好きとしても大大大満足の、浸れるSSでした✨

0

堅実さの中にときめきいっぱい

何回だって恋に落ちる…という展開は大好き!
再会記憶喪失復縁もの~と要素がモリモリなようで堅実的で穏やかな日常が軸になってるのが良かったです。

若気の至らなさを克服し、愛されるだけやなく伝えてこうって気持ちの変化や
実は寂しがりな相手を男前にどんと支えるようになったのもグッときました。

いつもはひたすらに優先甘やかしてくるのに(といってもクールに)ベッドの上では意地悪ってのも~好きです!!
そして、その要求を無下にはできない!!!

真意を知って見えてくるもの、そこからの身の振り方もグッときて、最後に帰る場所を作るのも2人ならではで…じんわりきました。

0

こういう話をもっと読みたい

安西先生〜…最高ですぅぅ。
この何でもないような日常の空気感に浸るBLが何より大好きなもんで……たくさん楽しませてもらいました。

BL小説界にはファンタジー作品が溢れきっていて、もちろん私もファンタジーは好きでよく読みますけど、現代ものにしか感じられないすぐそこにある親近感がすんごい好き。読者と同じ世界線に存在していると思わせるストーリーの進み方や時間軸をベースに、作品の中から溢れ出るキュン感やドキドキ感に浸る時間がこの上なく幸せ。かゆいところに手が届く萌えポイントの数々に、私はすっかり酔いしれました。

安西先生のあとがきにて、ご自身の作品は地味だ地味だと言われる…と言及していましたが、何をおっしゃいますやらって感じです。

全然地味ではない!!!
…と語気を強めて私は言いたい。

読んでいく側からドキドキワクワクしたり、胸がキュッと熱くなったり、切なくなったり幸せに包まれたり。一冊にこんなにたくさんの感情の色を詰め込んだ作品のどこが地味だと言うのか!(強調)
派手さのないストーリーだからこそ、ごまかしが効かないと思うんですよね。設定に頼らない胸アツな恋愛展開が本当に読み応えがあって素晴らしかった…。


かつての恋人が記憶障害を患い、自分のことだけを忘れているっていう状況なのに、潜在的に好きの気持ちが残っていて愛する人を追い求めている姿が、健気で切なくて心臓がもげそうでした。
別れた2人だけど、どこかでお互いの姿かたちや記憶を残していて、まだ昔の恋人を好きなままでいることの苦しさがこれでもかって描写されています。
別れたのは不本意なことだった…。ボタンの掛け違いが起こり、良くない形で恋人関係が終わってしまった2人が、またやり直しの時間を取り戻していく過程がすごく沁みました。

若さゆえ、見えていなかったところもありました。好きすぎるが故に手放した恋心もありました。

この作品は、やり直しのお話です。
仁科が記憶をなくさなければ、一葉は自分の気持ちに正直にもなれず、仁科の隠された想いにも気付かず、一生誤解したまま過去の恋に蓋をして過ごしていたことでしょう。仁科もまた然り。記憶を取り戻す作業が、結果昔の恋を再確認することに繋がりました。

仁科も一葉も同じ人に2度恋をしたんですね。

2人の気持ちがまだ失われていなくて、時間の経過をもってしても好きなままでいることの、一途で真っ直ぐな強い気持ちに萌え転がりました。
想いが通じあったときのシーンは最高!もうめちゃくちゃ良かった…。


一葉の気持ちの変化の描きがすごく良かったです。別れたとき、仁科のせいにしていたのが何だかなぁ…って感じでモヤモヤしましたが、自分の気持ちを修正し仁科に寄り添うようになったところは拍手でした。書き下ろしのストーリーで、仁科のいとこに強く言ったところがすんげーカッコよかった!

将来のことも前向きで、なんかもう全部がいい関係の2人にニンマリ&グフフですわ。


こういう素敵なお話が地味と評価されちゃうのは悲しいな…萌えの宝庫なのに!
日常のBLの中にも感情を掻き立てられる要素はたくさんあります。現代もの作品がもっと増えて欲しいなと思います。

2

最高です!

この作家さんが大好きで、
電子になっているものはほぼ購入してます!

なかでも、こちらの作品は1番好きかなと。
ネタバレになるので詳細は書けませんが、
かっこいいスパダリ系攻めと、
美形だけど、自己肯定感低めの受けが登場して、
ワチャワチャします。

スパダリ系の攻めが、
受けにベタ惚れしちゃう
おなじみの構図なんですが、
いやー、何度も読んでもいいんですよ。

すごく大きな事件があるわけではないのですが、
心の変化が、さらさらと描かれていて、
知らぬ間に引き込まれて読んでしまいます。

私は、もともと派手なストーリーが好きなのですが、この作家さんだけは例外で、
登場人物の心や関係性が
徐々に変化していき、

心の距離が近づいていく様がとっても素敵で
ほわっとするんですよー。

ため息が出るほど良くて
何度も読み返しちゃいます。
大好きな一冊です!

0

お互いしかいない!再会もの

記憶をなくしたのに昔をなぞる元カレと、今でも忘れられない自分との狭間で揺れ動く一葉。
しかも隣に引っ越してきてしまった元カレ、仁科。

はちみつ、という雑種のワンちゃんが良い仲介役になってます。

記憶を無くしてるがために、何故別れることになったのか、そして一葉のことだけ思い出せないのか、仁科は悩みつつも、現在の一葉に惹かれてしまいます。
一葉の方は、仁科が別れの際に引き止めなかったことをトラウマに感じており、そんなに好きじゃなかったからだと誤解したまま。でもこちらも現在の仁科に惹かれていってしまう。

あーーっ、焦れったい。
こういうストーリーは安西リカさんのお手のものですね。仁科が思い出せなかったのは、大事な人はみんな自分を置いて去ってしまう、一葉もそうやって去っていった、だから縋って追いかけられなかった事がわかり、一葉も学生時代の若いプライドで仁科から離れたことが伝わって、お互いに必要な相手だったことが分かってめでたしめでたし。
いやぁ、萌える。地味な感じで波風立たないけど、じわっと萌えがきます。そんな落ち着いた関係にちょっかいを出した従兄弟をビシッとやらかす?一葉ですが、唐突とはいえ、きっと仁科はめちゃくちゃ嬉しかったんじゃないかなぁって思いました。

昔、名前を呼ぶ人は去っていくからと名前呼びを嫌がった仁科も、最後は一葉から智之と呼ばれ、呼ぶことを望んだ、ってのもいいエピソードでした。

0

若かったあのころ

あの頃は若かったんだね。大人になった今ならわかる。そんなお話かな?

「恋をしていたころ」
あらすじのお話です。
自分から別れたのに、一葉がすっかり傷ついて被害者っぽく考えてるのがひっかかり。
仁科には一葉がすべてだったのに、一葉は与えてもらってばかりで返すこともあまりなく、勝手に比べて卑屈になって…。

再会してもやっぱり仁科は一葉を好きになって。あの頃言った通りですね。

隣人として淡々と過ごしながらも、やっぱり好き、でももう…と。
一葉の葛藤もわかるけどなあ、なんかなあ。
全然仁科のことを知ろうとしてなかったね、あの頃。
はちみつは鎹ですね。

「帰る家」
仁科視点です。また恋人になって一年半、休暇を仁科の家の別荘で過ごそうとなって。
この頃の一葉はまるで別人ですね。もともとはこんな感じだったのかな?そして今は仁科に惜しまず好きと伝えて。

別荘で仁科の従兄弟、優に怒ってくれた一葉。こうやって仁科は気が付かない間に傷ついてきたんだなあ。

こちらの仁科もまるで別人ですね。とにかく最優先は一葉で。いつまでもドキドキして。
一葉が小悪魔で男前です。

院時代は仁科が与えるばかりで、再会してみればあの頃のことが冷静にわかってきたり。
君らエッチばっかりしとったんかい?と突っ込みたくもあり。

最後は仁科が一葉以外何も要らないくらい満たされてるような、腑抜けなような。
良いお話でした。

1

MVPはわんちゃん


建築家の卵が出会い恋をして別れてキャリアを積んで再会する。


他の方のレビューで私が思ったことを100パー書いてくださっているので改めて書くことはないのですが、一言で言うと出会うのが早かった。


相手は好きだけど劣等感でいっぱいになり別れを告げてしまった受けも、初めてに恋人に愛することに夢中になりすぎて拒絶されることが怖くて追いかけられなかった攻めも2人とも若かった。

大学院の研究室で出会った一葉(受け)と仁科(攻め)。
仁科の一目惚れから始まり、仁科の熱い奔流に流され溺れるような付き合いをしていた一葉がふと我に帰った瞬間、仁科の才能に嫉妬してしまった時、それを飲み込めるほど人生経験を積んでなかった。

もともと女性としか付き合ったことのない一葉が男と付き合い受ける側になることを仁科がもう少し理解していたら、自分の話をもう少ししていたら、色々原因はあったと思うけど、
そして、それら飲み込むには2人とも若かった。
仁科にはキツかったかもしれないけど、一葉には一旦仁科と離れて自分を確立する時間が必要だったのだろう。


記憶喪失にならなければ再び連絡を取ろうなどと思わなかっただろうし、一葉の愛犬のはちみつがあんなに懐かなければもう少し違っただろう。
別れている時間は2人にとって必要な時間だった。


後半は仁科の従兄弟登場によって仁科の幼少期からの両親含む親戚からの無関心というネグレクト(生活面は面倒見てもらっていたのがせめてもの救い)のせいで人格形成に歪みが生じたのがよくわかりました。
一葉がちゃんとわかってあげられて良かった。一葉は仁科のことわかってる。

友好的な仮面をつけて、一見わかりにくい悪意をぶつけてくる従兄弟にはすごくムカついたけど、ちゃんと怒った一葉は偉い。
スルースキルを磨いた仁科は完全にスルーしているから余計にやめられないのかもしれなかったけど、傷ついてないわけないと相手に言い切る一葉。
謝らないといってたけど結局謝ってしまった一葉の人の良さが窺えるけど、従兄弟くんはもっとちゃんと反省して謝って欲しかったな。反省はしたんだろうなとは思うけど。

前半は一葉が足掻いていたせいでなかなかくっつかない2人でしたが、後半は2人がお互いを理解し存分にイチャイチャしていたのがとても良かったです。

1

神評価です

後で書こうと思って書評を書き忘れていたみたい。
再読して、評価を神にしようと開いたら、時効切れ?・・気づくのが遅かった。

7年前に仁科と別れて郷里に戻った一葉。
一葉をいちはと呼ぶ唯一の人から、7年ぶりにメールを受けて再会。
「雪の上に転がる木の実に一目ぼれ」と言っていたのに仁科は、一葉はを覚えていなかった。
事故の後遺症で一部の記憶を失ったという。

好みのタイプのいちはについて、何故一切の記録がないのか、
記憶を失った仁科に問われて、思い出しながら答える一葉は凄く辛かったと思う。

別れを切り出したのは一葉から、理由は、彼に感じる劣等感。
 「愛されれば愛されるほど みじめになる」
二人は同じ業に席を置く者同士、同じ世界で才能を競い合う者しかわからない才能の差。
高村光太郎と智恵子の関係と似て、一葉は壊れてしまいそうになる。

天才が無意識に振るう見えない才能の剣に当てられてしまった一葉の選択は、別離。
仁科の家に赴き、鍵を返すとアッサリ受け入れ、一葉の期待は外れる。
一葉が期待する友人関係にもなれない。
仁科が求めるのは「恋人のいち」だから。
 ・・一葉は、仁科を芯から理解していなかったことが分かる場面。

記憶を失った仁科と一葉が再会、近くに転居してきた仁科と、恋のやり直しはできるのか・・・?。
一葉が返し忘れたお揃いの指輪の存在が大きい。
一葉の揺れる気持ちが読んでいて辛くなる展開。
心理描写が素敵で、一葉の苦しみと、一葉の苦しみを理解しても解消できなかった仁科の苦しみが、なんとも言いようなく悲しい。仁科は、生い立ちが理由のトラウマを持つことを知る一葉。

どこかにこんな二人が居そう。身近なようで、遠いファンタジー。
心が震えた。

じっくり場面が進む展開、心理描写を楽しめる人向けで、情交シーンは少な目です。

2

盛り上がらなかった……

ぴれーねさんも書いていらっしゃいますが、私も「何度でもリフレイン」が大、大、大〜好きでして、それと同じ香りのするこちらの作品の電子化を、前のめり気味で待ってました。

「恋をしていたころ」というタイトルだけでなんか泣きたくなっちゃうというか、もうこれは神でしかないでしょ!!と鼻息荒く読み始めたのだけど、心が大きく揺り動かされることなく終わってしまった……。

どーしたの、自分。
なんでさ、自分……って感じ。
本当に自分にがっかり。

何でかなぁと考えたのだけど、記憶喪失ものの切なさを期待してたけど、切なさが足りないというか、そもそも受けに感情移入できなかった……。

かつてあんなに愛し合ったのに、今や赤の他人同然で攻めの気持ちはわからないけど、やっぱり攻めのことが忘れられない……という記憶喪失再会ものなら大好物なんですが、攻めの気持ちがこっちむいてるの分かっていて、再び恋をするのもあくまで受けの気持ち次第というところが切なさ半減というか。

受けが別れを告げた理由は、すごくわかるし、まさに男同士だなぁという感じで、ここは好きなんです。

なんだけど受けは、別れを告げた時にすんなりと承諾し、一切の未練を見せなかった攻めの態度が心のしこりというか傷になっているので、再び恋をする事が怖い。
自分から別れを告げておきながら、「あんなに簡単に切り捨てられるとは思ってなかった」とか逆ギレめいた被害者感情を抱いている受けの姿に、こいつは今も昔も自分のお気持ちばっかりだなーと。
そして今も昔も、ただただ攻めが不憫すぎるわと。

まぁそんな受けの成長物語として読めばいい感じだったけど、そこに萌えは感じられませんでした……。

あと、元恋人同士の再会ものという点でも、なんか物足りないというか。
攻めは、付き合ってた当時から男として完成してるんですね。
それが悪いというわけではないのだけど、同じ元恋人同士の再会ものである「何度でもリフレイン」は、かつて恋愛初心者同士が試行錯誤しながら付き合った初々しい恋人同士の再会もので、当時の攻めは無邪気な甘えん坊だったのに、再会したらすっかり落ち着いたいい男になっているんですね。
そこが年月の流れを感じるとともに、過ぎ去った昔のキラキラ感尊い…みたいなところが特別な感傷をもたらして泣けるし好きなんです。

それに比べると、この攻めは初エッチ時からセックスが熟練してて、院生でありながら数多くの賞を受賞&建築家としてのデビューをしてる凄い男です。
だから七年後に再会してもますますご活躍で……とは思うものの、あぁ…変わったな…あの頃とは違うんだな…みたいな感慨がないので、琴線に触れなかった。



でも攻めの「艶々な木の実」はジンときた。こういうとこ、好き。

6

感情決壊シーンが好きすぎた

再会復縁に記憶喪失をプラスしたもの。題材の合わせ技で主人公の心にグサグサ切り込んでいくやり方が上手いなあと思った。おかげでうっかり一葉に同期してしまうとしんどい。

天才と凡才の付き合いは、表面上は距離を理由に、本当はコンプレックスのせいで終わってしまう。七年後の一葉は、実績を糧にその点だけは乗り越えられそうなのに、それ以外(建築絡み以外)の部分は学生時代から時が止まっているように見えた。
付き合っていた頃の記憶が色褪せることなく浮かんでいて、内に秘める悩み方は変わっていない。失敗を経て大人になっているのは確かなのに、七年の間に、恋愛面で成長したり変化したりする出来事が何もなかったのだと分かる未熟さ。
一葉の中の仁科があまりに特別すぎて、もし仁科が記憶喪失にならなかったら……?と勝手に考え勝手に泣きそうになったりしていた。

仁科のことは、一葉視点だと分かり辛いところがある。特に再会後の仁科は、一葉自身がまっすぐ見ていないせいでこちらに伝わってこない。

やっと景色が変わるのは、ふとしたきっかけから。怒涛のように流れ込む過去の記憶と感情と。素直な気持ちを叫ぶ一葉がとても良かったし、弱さ脆さを見せる仁科に泣いた。このシーンが好きすぎる。

攻め視点に変わってから、やっと仁科のことがよく分かる。誠実さの見える語り口やお話は面白く、攻め視点そのものはとても好き。ただ、仁科から一葉への矢印はもっと一葉視点で受け取りたかったと思う。そうした上での攻め視点なら神だった。
構成に組み込まれた両視点は萌えるが、補足のように使われる視点変更はただの納得になる。今作は精神面において後者寄りに感じた。

読後感が良く、浸りたくなる幸せがじわっと広がり癖になる。毎回これで安西さんの次作も読もうと決意する。
タイトルや帯の文言、表紙もとても好き。題字フォントも大好き。

8

置いていく

先生買い。雑誌掲載部分は凄く好きだったんですけど、後半部分、ちょっと得意じゃないなと思う所があったので萌にしました。本編130P弱+その続き80Pほど+あとがき。

地方都市で設計事務所に勤める一葉(かずは)。ある日業務用メールに大学院時代に付き合っていた仁科から「そちらに行く用事があるので、食事でもご一緒できないか」との連絡が入ります。地元に戻るべく別れを告げた時に引き止められもしなかったのに、会いたいと思ってくれたのか・・?とつづきます。

攻め受け以外の登場人物は
綿貫(2人の友人)、はちみつ(受けの飼い犬)、優(攻めの従兄弟)ぐらいだったと思います。優が苦手。

++良かったところと苦手だったところ

攻めさんが記憶を少しぶっ飛ばしてしまって、どうしても気になる受けさんのところへ「思い出したい」と訪ねてくる、というお話でして。

攻めさんは才能あふれていて、うっかりすると俺様?と思われそうな方。受けさんは地道ながらも、クライアントに寄り添うタイプの設計士さんという感じ。攻め受けのすれ違った経緯や心模様がゆっくり書かれていて、前半はきゅんきゅん、めっちゃ良かったんです。攻めが「俺を置いていく」と呟くところは、もう泣きそうになりましたよ。

ただ後半。攻め従兄弟とのちょっとした確執めいたものが書かれていまして、そこがやや苦手だった。攻めの事を思って、受けががつんと一発やらかすのですが、個人的に波風たたせるのは得意ではないし、勿論しれっと気付かない程度にヤなことを仕掛けてくる奴も嫌い。

攻めのことを守る強い受けというように考えて、好きだわ!と思う方もいるかもしれませんが、私はちょっとダメだったです。

個人的には前半をめっちゃ推したい一冊でした!

4

こんな記憶喪失ものもいいな(^-^)

記憶喪失ものって、まぁいろいろ読んできましたけど、なんとも穏やかだけど情熱的でもあるお話で、いいなぁ、と読ませてもらいました。


受け様は個人住宅等を手掛ける建築設計士の一葉。
攻め様は世界的に活躍する建築家の仁科。

大学院で出会い、一目惚れだと率直に好意を示す仁科を、一葉が受け入れる形で恋人同士となる2人。


ところが、同じ建築を志す者同士として、能力や立ち位置の差に、一葉は仁科に引け目を感じるようになり、そんな自分が嫌になっていく。

1度は別れた2人の再会ストーリー。
記憶喪失の攻め様が、元カレって立場なのが新鮮。

一葉の事を思い出せなくても、今でも好きを隠さない仁科への一葉の気持ちが、とても丁寧で繊細。
だよね〜と思ったり、いやいやそんなんじゃないって、とアドバイスしたくなったり。
ちゃんと好きだった、と一葉が自分の気持ちと向き合うとことか、好きだなぁ(*´ω`*)

7年経った今だからこそ、の再会ロマンスにきゅんきゅんしっぱなしでした。

一葉の愛犬はちみつがまたかわいかったです。

恋人になるまでが受け様の一葉視点。
書き下ろしのその後が攻め様の仁科視点。
恋人になってからの攻め様の溺愛ぶりが知れるので、この構成、大好きです(^^)d

恋人になっても、心のどこかで一葉がいなくなる不安を抱えている仁科。
別荘で、仁科の従兄弟とのやり取りを目の当たりにして。
2人が帰る家を建てよう、との一葉からの提案。
仁科は、一葉がいたら心の安寧を保てるね。

昔も今も、これからも恋をして育んでいく2人に、ほっこりと幸せな気持ちにさせてもらいました(*´ω`*)
何度も読み返したくなる1冊です(^-^)


イラストは尾賀トモ先生。
表紙の日常モードな2人がいいですね。
はちみつもかわいい(´∇`)

7

繰り返し読める、よき再会もの

ディアプラス掲載時に読んだときも文庫化されて読み直しても、どの角度から読んでもめちゃくちゃいい…と萌え震えました。

建築科の学生だった一葉(受)と、才能豊かでカリスマ性のある編入性・仁科(攻)の恋は、仁科の一目惚れから始まり、仁科の圧倒的な熱量と気持ちに圧され気味だった一葉が、就職という現実を目前にして、前途洋々とした男の傍にいることがしんどくなり、一方的に別れを告げ地元に帰るわけですが、もうこの置き去りにされる仁科が不憫すぎて。(仁科、ぜんぜん悪くないよね!(;;))一方、色々な面で自分よりも優位な男に対して、恋愛関係においてだけは自分の優位を確信していた一葉は、別れをあっさり受け入れられたことにずっと傷付いていて(実は性格悪いなって思ってしまったw。でも、こういう人嫌いじゃないし共感できる。)、どちらのしんどさもわかりやすくて、とても切なくなりました。

別れから7年後、事故で記憶障害を患った仁科と一葉が再会するのですが、“あんなに俺に夢中だったのに、俺のこと忘れやがって!”と一葉がモヤっとする心理(実は未練ありまくりという…)がいいです。2人の思い出を忘れてしまった仁科から、改めて好みどストライクと熱視線を向けられても、素直になれない一葉の態度が歯がゆくて焦れ焦れしてしまいました。仁科が一葉に対する想いについて、「雪のなかを歩いていたら艶々な木の実が落ちてるのを見つけたよう」と表現するんですが、これが心に刺さりまくりました。おそらく、他の人だったら踏みつけるとか、気づかないとかそのまま歩き続けてしまうかもしれない足元の木の実だけど、仁科にとっては特別な、見つけて拾わずにはいられないくらい魅力的に艶々してんですよね、木の実(=一葉)。当事者同士にしかわからない特別な感情、恋に落ちるということの偶発的な必然性(?)を上手く表してる名言だと思いました。

仁科の記憶がよみがえる雨の場面が好きすぎて、何度読んでもウルウルします。車の中においてきた一葉の愛犬をやたら気にする仁科の言動から、彼の心の傷にやっと思い至る一葉。そこから、過去、愛されることに甘んじて、あまり仁科のことを理解しようとしなかった自分の至らなさに気づき、全能のような仁科の弱さを知ることで、改めて彼と素直な気持ちで向き合えるようになるのですが、ここからは怒涛の愛の時間でした。私も読みながら浄化しました…。

描き下ろしは、その後の2人についてですが、攻(仁科)目線でした。この攻・受両視点を1冊で読めるのって有難いです。雨降って地固まり、隙あらばいちゃいちゃな2人のバカンスに、仁科の過去からの闖入者(従兄)が現れるのですが、第三者を通して2人の新たな関係性と強い信頼関係が伺えるところが面白いです。
仁科はそんなに変わってないけど、一葉の変化と成長が著しいんですよね。そしてそんな彼の迷いのない気持ち、これから先もずっと2人で生きていくという決意と希望のみえるラストに、なるほど“帰る家”ねと、じんわり温かい満ち足りた気分になりました。

おまけペーパーは妹視点で幸せそうな兄の姿、あとがきの後の掌編は、愛犬・はちみつはシニアか?論争とほのぼのしかしないやつでした。

10

萌が詰まった作品でした♡

最近の安西先生の作品は当たりが多くてとても嬉しいです。そして今回も大当たりで、萌えまくりました。

記憶喪失ものですが、それよりはすれ違いものの側面の方が強かったと思います。

2人が離れていた期間は7年間でしたが、それは一葉に関しては必要な時間だったと思いました。

一葉の事だけが思い出せない理由にしても、想像通りでしたがソコもとても萌えた一因でした。
記憶が無いのに一葉との距離を詰めて来る仁科に、ドキドキしてとてもときめきました。
そして仁科が記憶を取り戻した場面も、無理がなくてとても自然で良いのです。
その後の2人が気持ちを確かめ合うシーンも素敵でした。

この作品の魅力は、なんて言うか攻めの仁科が見掛けによらず可愛いんですよ。
こんな攻め大好きです。


それに読んでいてテンポもとても良くて、雑誌掲載の表題作の他に書き下ろしの「帰る家」が収録されているんですが、一葉の仁科に対する愛情にガツンとやられてしまいました。

ここには仁科の従兄弟の優という人物が登場するんですが、優の行動や言動がとても不快なんです。「え?これってそういう事だよね?」って思った所で一葉が反応するんですよ。

読んでて一葉の行動と仁科の反応にギュンと胸が締め付けられて、そしてスッキリしました。

萌どころが満載で読んだ後にかなり満足感を覚えた一冊でした。

10

忘れられない想いを抱えて

今回は東京の大設計手事務所の有名建築士と
地元のの設計事務所に就職した建築士のお話です。

受様視点で元彼だった攻様との再会から復縁するまでと
攻様視点で続編短編と掌握を収録。

実家が工務店の受様は建築関係の仕事がしたいと
東京の大学に進学します。

受様は地元のハウスメーカーで実務を積んで
いずれは独立するという堅実なルートを考えていましたが
もう少し意匠設計を学びたいと大学院に進んだ春、
他大学から転入してきた学生こそが今回の攻様です♪

攻様の祖父は構造建託の第一人者で
攻様自身は学生向けの建築コンクールの受賞常連者であり
建築系の学生の間ではちょっとした有名人で

攻様は彼の卒業設計をコンクールで審査した教授が
直接指導することが決まっている程の特別待遇です。

そんな攻様と交流できる事を喜んでいた受様ですが
他の学生には気さくに話をしているのに
なぜか攻様に嫌われているようでした。

しかし、それは顔合わせの時から
既に親しくなりたいと思っていた攻様が
話しかけるタイミングを伺い続けた為の誤解で

あるきっかけで攻様と親しくなった受様は
攻様が友人以上の好意を抱いている事を知ると
恋人として付き合う事となります。

攻様は「俺は受様じゃないと絶対にダメだ」と
言い続けるほどの執着を見せていますが
攻様への劣等感に苛まれるようになった受様は
攻様と離れる決意し、地元に就職を決めるのです。

攻様は受様からの別れ話に一言で受け入れ
話し合いすらなく恋は終わりますが
受様は未だに新しい恋をできずにいました。

それから7年たったある日、
攻様から突然のメールを受け取ります。

近々、受様の地元に出かける予定があり
迷惑でなければ一緒に食事でもしないかという
内容に受様はびっくりします。

受様は攻様と付き合っていた事を知る
共通の友人に連絡を取る事のですが

攻様が事故にあい部分早期障害となり
自分の事と仕事以外、周りの人間に対する記憶が
軒並み消える記憶喪失になったと聞く事になります。

果たして攻様との再会は受様に何をもたらすのか!?

雑誌掲載作のタイトル作に続編を書き下ろしての文庫化で
事故で記憶を失った攻様が受様を訪ねてくることで始まる
再会モノの恋物語になります♪

記憶喪失となった攻様は仕事が一段落ついていた事から
医者の勧めもあり長期休暇を取って
療養生活を送る事を決めていました。

自宅マンションで古いパソコンや携帯の中味を見て
自分に関係していた人達を思い出そうとしたようで
学生時代のメーリングリストにはあるのに
本人に関するモノだけない受様に連絡をしたと言います。

受様は自分達が付き合っていた事、
きっかけや別れた経緯を話す事となり
攻様はまた受様との交流を望んでいましたが
せいぜいが休職している半年の事と思っていたのに
攻様は受様の隣の部屋に引越しまでしてきたのですよ。

攻様との再会と復活した友人付合いの中で
受様は付き合っていた頃に知らなかった
攻様の新たな一面を知る事となっていくのです。

攻様の記憶は戻るのか?
攻様はまた受様に惹かれていくのか?

そして気負わない攻様と
新たな友人付合いをすることで
受様の攻様への気持ちがどう変わるのか?

同じ世界を見ているからこそ
自分にはない才能への憧れや嫉妬、
大切だからこそ嫌われない、失望されないために
見せられない弱み、そして己を守るための矜持等々、

絡み合う思いの糸が丁寧に織り込まれ
綺麗な一枚の布になるように
隠されていた気持ちが現れた事によって
それぞれが一番大切なことに気付いていくのですが

その過程が丁寧にしっかりと描かれていて
時にほのぼの、時に歯がゆく、時に切なく、

受様と一緒にドキドキしながら再燃していく
2人の恋を楽しく読ませて頂きました (^-^)/

攻様視点の続編がまた良かったです。
視点が変わる事で相手視点とのギャップとか
裏事情的なところが見えたのも
とても面白かったです。

5

時間の経過を感じさせる穏やかで切ない恋愛

記憶喪失ものですが重たすぎず、安西リカ先生らしい何気ない日常の描写の光る作品です。
若い頃の選択ミスで別れた二人。
仁科は才能のある人間で、一葉はそんな彼に愛されるということがコンプレックスになっていたのかも知れない。
ノンケらしい一葉の思考がとても自然で好きです。
プライドのある男で素敵…。
仁科の愛情深さと一葉の生真面目さが噛み合わず別れた二人の不器用さ、それが復縁後過去を振り返るシーンで光ります。

冒頭、中盤、巻末の書き下ろしと二人の間に流れている時間も関係性も変わっていくのに、何一つ変わらず可愛く、そして二人にじゃれつく犬のはちみつの存在がいい味を出してました。
足元にまとわりついたり、ヤキモチやいたり、寂しがってみたり。
良いクッション材で。

途中、恋人だった時よりも穏やかな時間を過ごしていると感じてしまう一葉の臆病さが切ない…。
忘れてしまった仁科と、色んなものを抱えたままの一葉。
指輪の表現もいいですね。
どうしてこんなにもシンプルに重ねられた愛情を表現できるのだろう、といつもほんわかした気持ちになってしまいます。
柔らかい恋愛模様に癒されます。

いつも巻末に攻め視線が入っているところが好きなので、感謝しております…!
攻め視点、大好きです。

6

互いが互いじゃなきゃダメなんだと感じる

切なくてほろ苦い再会ものであり、若さ故に間違えてしまった二人が、もう一度恋をやり直すと言うとても優しいお話でもあります。

個人的に「何度でもリフレイン」がめちゃくちゃ好きなんですよ~。
それの更に大人版とでも言うんですかね。
ほろ苦い過去の思い出に、現在の甘くうずく愛おしさ。
そして、それぞれが抱える心の傷。
もう、めちゃくちゃ萌えるーーー!
こういう、しっとり切ない恋心を書かせたら、右に出る者は居ないんじゃないでしょうか。
安西先生。

で、内容です。
建築事務所で働く一葉。
過去に別れた恋人・仁科から7年ぶりに連絡を貰います。
自身からの一方的な別れが心の片隅に引っ掛かっていた一葉は、これを機会に仁科への謝罪をしようと思うんですね。
ところが再会した彼は、事故による記憶障害で一葉の事を忘れていてー・・・と言うものです。

で、破棄された記録から、一葉が自分にとって大切な人物なのでは無いかと推測している仁科。
少しでも昔の事を思い出す為に、また会って欲しいと訴えて来て・・・と言う流れ。

と、こちら繰り返しになりますが、若さ故に間違えて離れてしまった二人が、大人になって再会。
もう一度恋をやり直すお話なんですよね。
攻めの記憶喪失をキッカケに。
これがなかなか切なくてもどかしいんですよ。

そもそもこの二人、大学院時代に同じ建築家を目指す者同士として出会った。
で、ノンケである一葉に一目惚れした仁科が強引なくらいに距離を詰め、彼の情熱に巻き込まれる形で一葉は恋に落ちた。
仁科ですが、すごく情が深くて一途な男なんですよ。
彼から強く求められ、甘やかされて、自身が愛されてると強く実感する熱に浮かされたような幸せな日々。
でもそれは長くは続かず、やがて並外れた才能を持ち将来を嘱望される仁科と、平凡な自分とを比べて劣等感に苦しむようになる一葉。
それに耐えきれず、就職をキッカケに別れを切り出した・・・。

これね、まさに男同士であるが故のスレ違いだと思うんですよ。
ノンケである一葉は、男と付き合ったのは仁科が最初で最後。
で、何だろう・・・。
彼は仁科が愛しいと言う感情と同時に、何もかも上である存在の彼から甘やかされる事自体が、苦しくなってくるんですよね。
こう、愛されれば愛されるほど惨めと言いますか。
一葉にも男としての矜持があるだけに。
そこで別れを切り出したものの、仁科からは引き留められる事もなくアッサリと了承され、それにもショックを受ける・・・。
なんかね、こうして書いてると一葉がすごく自分勝手な人物に見えそうな気もしますが、めちゃくちゃ理解出来るし、だからこそ切ないんですよ。
えーと、一葉視点で綴られるんですけど、彼の仁科との記憶と言うのは、受け身で語られる事が多いのです。

愛してくれた。
求めてくれた。
甘えさせてくれたー。

それは、ノンケである彼が、仁科からの情熱に流される形で関係を持ったからだと思うんですよね。
流されると言うか、まさに巻き込まれる形で。
一葉にとって、仁科の一途で強い愛情と言うのは、まさに嵐も同然だったんだろうと。
だからこそ、若さ故の未熟さもあって、息苦しくなった。
また、それでも彼は彼でちゃんと仁科を愛してたんですよ。
愛と嫉妬と劣等感。男としての矜持に、羨望。
そして、ちっぽけな自分に、いつしか仁科の愛が冷めるんじゃないかと言う恐怖。
この板挟みに、耐えられなくなったんだろうなぁと。
苦しい。
そして、めちゃくちゃ切ない・・・!

で、今作の最大の萌えですが、そんな二人が再会してからの再びの恋。
仁科ですが、記憶が無いはずなのに、真っ直ぐに想いを向けてくるのです。

安西作品の素晴らしい所ですが、そのリアルで深く掘り下げられたキャラの心情描写だと思うんですよね。
えーと、今度は大人になったからこその臆病な部分とか、逆に人間として成熟した部分。
そんな一葉の複雑な心境で持って、仁科との恋愛が語られます。

ふと溢れだしてしまう愛しさ。
それでももう二度と、同じ事を繰り返さないと言う決意。
だって、仁科から切り捨てられたと感じた時の、あんな辛い思いはもう耐えられない・・・。

これね、実は「何度でもリフレイン」を読んだ時も思ったのですが、この二人って出会うのが早すぎたよなぁと。
大人になった二人なら、もっと上手に恋が出来ただろうに的な。
この二人の結末ですが、まさに大人になった事でようやく上手く行くんですよね。
ひたすら一葉を強く求め続けるだけの仁科。
そして、劣等感に苦しんだ一葉。
互いに、自分の事しか考えられなかった。
それがようやく相手の気持ちを思いやれ、相手を理解出来た。

もうね、この二人、互いに運命の相手としか言いようが無いんですよ。
互いが互いじゃなきゃダメなんだと感じる。
それなのに、こうして何年もスレ違ってしまうって、とても切ないよねと。
仁科が一葉の記憶だけ無くしてしまった、その理由も含めて。
だからこそ、ようやく結ばれた彼等の姿に、胸が熱くなってしまう。
彼等が感情を爆発させる、ようやく心が通じ合うシーンなんて、もう萌え転がっちゃいましたもん。
ああ、ひたすら地味なお話なのに、ここまで感情を揺さぶられるって、本当に凄い。


ちなみにこちら、表題作の他に書き下ろしが収録されてて、そちらが今度は仁科視点になります。
表題作の仁科ですが、一葉が居ないと生きて行けないんじゃないかってくらい彼にベッタリだったんですよね。
そんな、彼が置いていかれる事を極端に恐れる理由が、こちらで分かります。
そして、彼の一葉への深い愛情なんかも。
こう、両者の視点で読む事で、グッと深みを増す作品だと思う。
素晴らしいですね。

とりあえず、読み終えた今は、胸がいっぱいです。

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