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表題作蒼穹のローレライ

三上徹雄
整備科飛行班の整備員,24歳
浅群塁
一飛曹,零戦搭乗員,21歳

その他の収録作品

  • 幽き星に栄誉あれ
  • 月と懐中時計
  • 面影(書き下ろし)
  • あとがき

あらすじ

時は太平洋戦争中期──。空路ラバウルの基地に向かっていた整備員の三上は、敵襲の危機を一機の零戦に助けられる。不思議な音を響かせて戦うその零戦のパイロットこそ、≪ローレライ≫の二つ名を持つ浅群塁一飛曹だった──‼︎「俺は一機でも多く墜として名誉を取り戻す」と、命知らずな戦いを続ける塁。三上は塁の機専属の整備員に任命されて…!? 尾上与一の初期最高傑作≪1945シリーズ≫待望の復刊‼︎

作品情報

作品名
蒼穹のローレライ
著者
尾上与一 
イラスト
 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
シリーズ
1945シリーズ
発売日
電子発売日
ISBN
9784199011269
4.8

(109)

(104)

萌々

(2)

(1)

中立

(1)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
16
得点
532
評価数
109
平均
4.8 / 5
神率
95.4%

レビュー投稿数16

1945年シリーズ

1945年シリーズを最近知り、2作目にこちらを選びました
戦地での、お互いなくてはならない唯一無二の、刹那的な関係性は、男女では成り立たない、BLならではの貴重で尊いテーマだと思う
話題作からの拝借だけど、魂の片割れ ってこんな感じなんだろうなあ

戦記物としても興味深い描写がたくさんあった
とくに零戦の細かい調整具合なんかは机上の空論ではなく、当時、現地で携わった人じゃないと分かり得ないことで、純文学として評価されても良いのではと思う

塁の、気まぐれで気が強く懐かない感じがまさに猫ちゃんで、読むたびに愛おしくなる
そこに三上の世話焼きお兄ちゃんムーブが苦しいほどに刺さる
読んでいてこちらまで、思わず塁の頭をよしよししたくなる衝動に駆られる
あと名前は呼び捨てなのに敬語という所がなんともエモくて絶妙

「三上の支えを力に換える」
このシンプルで美しい一文に塁の最期が詰まっていて涙腺崩壊しました
読み終えて暫く経つのに、毎日塁くんの人生について考えてしまいます

0

刺すような胸の痛み

8月15日、終戦の日。
意図したわけではないのですが、奇しくもこの日にこの一冊を読み切る形となり、悲しみと切なさで胸がいっぱいです。
このレビューもうまく言葉にできないかもしれないのですが、、それでも、素晴らしい作品を読むことができた感謝の気持ちを記しておきたいと思いました。

復刊した「1945シリーズ」、「天球儀の海」そして「碧のかたみ」は既読ですが、一番最初に購入したこの一冊だけはどうしても読む勇気が出ず、約半年も積読本にしてしまっていました。

今月末に「プルメリアのころ。」が発売されると知り、意を決して読んでみたこちら。

読み終わってからもう一度、序盤の三上が城戸の息子から塁の言葉を受け取るシーンを読み返しました。全てを理解した後から読むと、もう涙が溢れて止まらなくなってしまい、、

本当に言葉も出ないくらい素晴らしい作品だけれど、心を全て持って行かれるほどの衝撃と辛さ切なさがあります。
「さあ、今日はあの作品を読み返そう」とはなかなかなれず、読み返すには心を決めて覚悟を決めないといけない、そんな作品。

「魂を分け合う」であるとか、「契りを交わす」という言葉の真の意味を、深く深く感じさせられ考えさせられ、きっとここ数日はこの作品のことを頭の片隅で考え続けて忘れられないだろうな、そんな予感がしました。

濡れ衣を着せられた者の汚名が、映画のように華麗に晴らされ復讐に成功するー
そんなことは起こらず、証拠と共に永遠に真実が葬り去られてしまう現実。

実家の両親の惨殺と濡れ衣、そして自身の塩酸による被害、証拠隠滅され裏切られたと判明した事実…
そんな”生きること”の絶望を味わった中で、それでも最後に塁があの言葉を残せたこと。

それは三上の存在なくしては決してあり得なかったし、生きることの壮絶な辛さの中で、塁が手に入れた唯一無二の光るものだったのだろうな、と思うと、悲しみの中にも少し救われたような思いがします。

読み終わったばかりで正直思考がぐちゃぐちゃ、感情が追いついていかない感じですが、本当に最高に素晴らしい一冊でした。このような作品を届けてくださった尾上先生に、感謝の気持ちしかありません。

2

「聞け。ローレライの声を。」

1945シリーズ、復刻の第1弾。蒼穹のローレライは本当に浅群塁の生きた証そのものだと思います。
ずっと家の名誉のために戦果を挙げて死ぬことだけを目標に生きてきた塁。
そんな塁にとって三上との日々がかけがえのないものとなり、最後は名誉のためにでは無く三上を守るためにあの選択をしたことに三上が気づけた、これだけで救われます。
『月と懐中時計』も文庫版に収録されてたのも嬉しかったです。
生きて欲しい、三上の心が届いていたことを嬉しいと思えて、いつかの再会に想いを馳せる月夜の一幕。
三上を大切な人を守りたいと願ったローレライの声が読了後も響いてます。
いつかのふたりの再会に想いを馳せて。

4

涙がボタボタ落ちる。

冒頭は戦後18年。
戦時中は航空機の整備員として従事していた三上の元に、当時世話になった男の息子から連絡がくる。
亡くなった父からの預かりものとして、
詫びの言付けと共に渡された封書には一枚の紙が入っていて……



戦時中の話であること、どうやら辛い展開がありそうだということ以外、あまり前情報なく読んだ。
冒頭の紙、書かれた文字を見た三上の反応に、物語の世界へグッと引き込まれた。


三上がラバウルで多くの時間を共に過ごすことになった零戦の乗組員、浅群塁。
珍しい瞳の色を持って産まれた彼の生い立ちは、当時の人々の科学的知識を考えると仕方がない部分があると思いつつも、胸が痛んだ。
さらに、浅群家の悲劇の夜のことは本当に酷い。(真相が闇に葬られたままなのも辛い。どこかで天罰が下らないだろうか…シリーズのどこかでとか…そういうのはないのか…?)

浅群家が着せられた汚名をすすぐため、より多くの戦果を挙げて死ぬことを望む塁。
その象徴が、塁が「ローレライ」と呼ばれる一因となった「U字の部品」。
この部品は機銃の命中率を高める代わりに自身の位置を音で知らせてしまう諸刃の剣だった。

塁を死なせないため、そして整備員の誇りでもってU字の部品が付けられる度に外す三上と、
何度外されても(他の整備員に頼んで)付けるのを頑なにやめようとしない塁。
印象的だったのは、塁がU字の部品を付ける理由が、三上との関係性の変化や戦況の変化に伴ってだんだんと変わっていったこと。

この変化は、塁の心の中だけで起こっていて、表に出ることがなかったので、三上にそれを知る機会がなかったことがもどかしかった。



塁の最期は、涙なしには読めなかった。
死んでもいい、死にたいと思っていた塁の最期の望み……なんと残酷な運命だろうと思った。
運命が確定してからその瞬間が訪れるまでの時間、彼の気持ちを思うと胸がつぶれそうになる。

……でも、もしも三上と出会わず塁になんの変化もなかったとして、同じような最期を迎えるとき、彼の心境はどうなったろう。
おそらくは未練なく悔いなく…とはならなかったと思う。
だとすれば、三上と出会って、塁が変わったことは、良いことだったのだと思うしそう思いたい。


18年間あの紙を隠し通した城戸の想いや、
塁の最後の出撃を見送った整備員の言葉…
長い年月を経て、塁のほんとうの気持ちが三上に届いたことに、救われる思いがした。


読んでいて、涙がボタボタ落ちるほど、泣かずにはいられなかったけれど、とても穏やかな読後感だった。

3

大切な一冊になりました。

噂に違わぬ素晴らしい作品でした。
お書きになった尾上先生、最初に刊行された蒼竜社HollyNovels様、復刊してくださった徳間書店Chara文庫様には心からお礼を申し上げたいです。読ませてくださってありがとうございました。
と、ここまで書いて、胸が一杯で手がとまってしまいました。言葉で表すのは難しいです。
生まれた時から瞳の色が青灰色で、家から出せないと隔離されて育った塁が、横領の濡れ衣を着せられた父親を正義の名の下に暴漢に殺害されるという、凄惨な過去を背負い、それでも浅群家の汚名を雪ぐべく、零戦乗りになってラバウルの空で敵機を次々に撃墜していくという、もうこの設定だけで来るものがあります。不器用でストイックなその姿は、ただただ愛しいです。
ラバウルが舞台なのですが、景気が良かった頃から、どんどん戦況が厳しくなり、物資も燃料も枯渇して紙すらも手作りするまでになる状況の変化が丹念に描かれています。いま本国では新兵器を開発中で、新型の戦闘機が云々、と南方最前線の皆さんが噂話を胸になんとか自分達を鼓舞しようとしている姿が辛くて見ていられません。
そういう極限状態の中で、塁が三上との交流を通して、少しずつ変わっていきます。
塁の最後の言葉が、時を経て三上に届いて、本当に良かったと思いました。
あの戦争がなければこの二人は会うことも無かったですが、二人が夜空を見ながら語り合う場面、本国に帰ったら一緒に、という約束が、実現できないからこその美しさと相俟って、そうなれればどれだけよかっただろうと思わずにいられません。
巻末のSSも「幽き星に栄誉あれ」「月と懐中時計」は後日談、書き下ろしの「面影」は本編裏話です。
大切な一冊になりました。

5

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