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表題作藍より甘く

入江暁行、大学生。
柘植遥、大学生。

その他の収録作品

  • 藍より青く
  • あとがき
  • 愛より甘く

あらすじ

大学入学以来三年、友達として側にいた遙から、突然「好き」と告げられた暁行。受け入れることも突き放すこともできずにいるが……?
出版社より

作品情報

作品名
藍より甘く
著者
一穂ミチ 
イラスト
雪広うたこ 
媒体
小説
出版社
幻冬舎コミックス
レーベル
幻冬舎ルチル文庫
発売日
ISBN
9784344817944
3.8

(142)

(56)

萌々

(34)

(35)

中立

(5)

趣味じゃない

(12)

レビュー数
28
得点
526
評価数
142
平均
3.8 / 5
神率
39.4%

レビュー投稿数28

藍より甘く

遥のいじらしさに泣いたー。
とはいえ、遥自身の心はとても強くて、人の心の機微もわかり、愛想はなくても人を傷つけることなく真っ直ぐに生きている子だなと感じた。
暁行は素直、初めて知った遥の想いに戸惑いながらも真摯に友達付き合いを続けて。
決して、簡単な恋愛ではないし、諦めから始まったような恋が、少しづつ暁行の心に染まっていく。
いや、気付いたのかも。
潜在的に暁行も恋をしていたのかな?気付いていなかっただけで。
遥の梯子は強かった、末長く幸せで。

1

大丈夫かちょっと心配になるけど

終始独特な雰囲気に包まれた作品で、とても惹き込まれました。

p.64の"時々、自分があの透明な〜"という台詞が胸にグサッと刺さりました。
他にも付箋を貼りたくなるような表現が沢山。

(これはどうでもいいんですが)表紙の手前のキャラの指が青く染まっていて、あらすじに"爪の先をいつも青く染めている遥"とあったので、てっきり手前の子が遥だと思って「ビジュアルが一般的な組み合わせと逆で珍しいな」と思いながら読んでいたんですが、違いました...笑

〜以下、私情〜
暁行のデリカシーの無さとフラフラしてる感じが何とも...
遥が健気受けすぎるくらい健気受けで、暁行のことでいくら傷ついても一途に想い続けていたからこそ、暁行の気持ちがそれに見合っていない気がして不安になりました。
本当に同情じゃないのかな?と。
ただ、最後の描き下ろしは二人ともラブラブで惚気ていたのでその調子で愛し合っていてほしいです!☺︎

1

健気受が尊い

内容がわからないまま作家買い。

最初読んだ時は攻を好きではありませんでした。
受と彼女の間で揺れすぎって思ってましたが、ノンケが男を好きになって付き合うなんて選択をすぐにできるわけないですよね。
もともと親友だし、異性愛者が同性に告白されたからって恋愛対象として見られるかと言われたら、絶対にできないし。

でも、自分の気持ちに気付いて、受の所にすぐに行った攻はとてもかっこ良かったです。

書き下ろしは本編とは真逆で甘々なのも良かった。
一穂さんの小説は言い回しが綺麗で読みやすいし、好き。

2

こんな受が好き

暁行は、夜の観覧車で遥から好きと言われた。
三年間友だちとして一緒にいた同性からの告白。気持ち悪さはないが、同性からの告白を受け入れることはできない。自分には彼女もいるし。。。でも遥との友人関係は心地よい。
その悩みをblogで綴るようになる。

暁行があまりにノンケすぎて、この話は悲しい終わり方をするのでは?!と思うくらいでした。
受け入れてもらえると思っていないから、今まで通りでいいと言う遥。それってかなり辛いよ。
表情や言葉で表さない分、遥は色々と諦めがちな性格。でも変に意志は固く、そんな遥には藍色という色がにぴったりでした。

全く受け入れられないと思っていたはずの暁行が、遥の身に何かあったのでは?!と、どしゃぶりの中走って訪ねたり、夏の1カ月近くを、遥の実家の手伝いに行くなど、少しずつ心惹かれていったのかなぁ。
何度か、このままくっつくの?と思う場面があるのですが、そんなにアッサリいかない所が、三年間も友人をしていた間柄を物語っていると言うか、そうそうすぐには、受け入れられないものだよなぁと、現実味帯びていて良かったです。
特に作中出てくる暁行の彼女。早々別れるかと思いきや、かなり後半まで付き合っていました。何度、別れちゃいなよ~と思ったか(笑)

遥サイドから見るお話もあり、最後はラブラブになった後のイチャイチャ話。
この先、二人はずっと遠距離なのかなぁ。二人で家業を継いじゃえばいいのに。とか読者としては、甘々な事ばかり考えてしまう、そんな終わり方もいいなぁと思いました。

2

受けの儚さが良い

攻めの入江視点なので、彼女と遥(受け)の間で揺れ動く様子がよく分かります。
遥が気になりつつも彼女が好きだと必死に思い込もうとしてる感じが、すでに両想いなんですよね。
攻め視点で感情が見えすぎるからこそあまり入江を好きになれなかったですが、等身大の男の子って感じでリアリティはありました。

受けの遥は健気で一途でいじらしくて儚い、受けの鏡です。
入江を想って泣く場面は思わず一緒に泣いてしまうほど。
入江に告白はしたものの全然押し付けがましくはなく、でも入江の思わせ振りな行動に振り回されてる様が切ない。

入江が遥に惹かれる気持ちはとても分かるんですが、遥がそこまで入江を想い続ける決定的な理由というかきっかけがいまいち弱くて、そこがもっと共感できたらもっと萌えられたと思います。

言葉のチョイスや表現の仕方がすごく綺麗で、そこはさすが一穂さん!と思わずにいられません。

2

藍ゆえに

ラスト数ページの甘い部分が凄く好き。
「だって自慢したいじゃん」お互いに惚気ける姿が非常にかわいらしく、
二人の仲の良さというか、距離感を感じられたのが良かった。
思わずクスっと笑ってしまうラストに乾杯((´∀`))

ただ本編に関しては正直気持ちのせきれず・・・というのが正直な感想かな。
こればっかりは文章と私の相性なのかしら。。

二人の近づくきっかけは、藍色の指をした受を見たところから。
インク漏れてるよ?そんな言葉からのスタート。
ゲイであること、攻のことが好きだということ。
打ち明けてしまった受とそれをどう受け止めればいいのか葛藤する攻を主体に描かれるお話し。
最後まで読めば、きれいにまとまっており、
楽しそうな二人を見ればよい話だとおもうんだがなー・・・

5

自己完結愛の成就

攻め:友人に告白されて動揺する大学生 暁行。
受け:弾みで片思いしていた友人に告白してしまった藍染の家業を手伝う大学生 遙。

遙は、うっかり告白してしまったとはいえ暁行に彼女がいることを知っているし恋の成就は期待していないのです。
そのせいか、遙がとても生きる気力が希薄で消えそうに儚い感じがしました。

暁行にとって遙は、友人として好きだし気心も知れて一番心を許している存在だけれど彼女もいるし恋愛感情は皆無。
だけどそばにいて欲しい。
受け入れられないのに中途半端に気を持たせるような接し方は相手にもいけないこととはわかっていても、友人付き合いをやめたくないと思う自分の感情に困惑する暁行です。
そんな感情をどこかで発散したくて『王様の耳はロバの耳』のように吐き出そうと思いついたのがツイッターで密かにつぶやくというのが面白い。
同性から向けられる恋愛感情を嫌悪したり忌避するのではな真面目に受け止め友人として普通に付き合おうとしている暁行に好感を持ちました。

暁行にとって告白された時がほのかな恋の初まりだったような気がします。
出会ってすぐ想いを自覚した遙に対して、スタートに時差があったことと同性との恋愛が想定外だったために遙の想いについていけずジタバタしているのがよくわかります。
時に切なく時に笑いを誘うような感情表現で想いの変化が読み取れて思わず背中を押したくなりました。
遙が危ない目にあっているかもと思った時の動揺や切迫感がもはや友人というより恋人の危機を救いに行くかのようでした。もちろんそんな自覚はありませんけど。

遙の側から見ると、恋を自覚した時に失恋しその後ずっと彼女との仲のいい姿を見続け惚気られるのですから切ないです。
初めから想いが報われることもましてや告白することなど思っていず、最後の最後に思い出をもらってそれがいいことなのかかえって悲しみを増すことになったのか自分でも答えがでず、一人で実家の部屋で泣き濡れる姿が不憫でした。

以前暁行が買いなよと軽く言っただけのアイスクリームのディッシャーを密かに買ってたことを引越し荷物の中に見つけた場面で、好きな相手のためにいつ来ても喜ばせるように用意するなんてところにきゅんとしました。

和名の色の名前がとても綺麗で詩的でした。

3

優等生すぎるのかなぁ。

このお話には、暗に変化球を望んでいたような気がします。もしかしたら、ハッピーエンディングでなければ読後感がより良い方に変わっていたかもしれないけれど、かくあるべく完成されているわけでして。BLはハピエンでなければならないというのは、なんというか…時に一読者にとって譲れない何かをスポイルしてしまうきらいもあるというか…。好みの問題なのでしかたありませんけど。

大学で出会った暁行と遙の物語。遙の実家は製藍農家。暁行は父親のコネで就職先がほぼ決まっているような苦労知らず。出会った時から遙は暁行に思いを寄せていた。半分程読み進めて「神」だと感じていましたが、途中からメイン二人の関係性に疑問を持ち始めて、読了後は残念ながら興奮が冷めてしまいました。先生の描く女性像にはリアリティを感じ、暁行の彼女の真希も嫌いではありませんでしたが…、彼氏のケータイに自分の着メロを「嵐」に設定させるようなイマドキの真希と、カラオケで「木綿のハンカチーフ」を選曲する古風な遙を同じ土俵に上げてしまった構図に、なんともいえない違和感を覚えました。

自分の中の女性性についてまだあやふやで、反撥していられた思春期くらいの頃だったら、「そんな女より男を選べ!」と単純に思えたけれど、歳を経てくると、あらためて「女性」と女性よりも好(望)ましい「男性」を無意識に比較してノンケの攻めにどちらかを選ばせるっていうのは、酷というか、身も蓋もないっていうか。。。個人的にBLでやられたら結構萎えるシチュエーションかなぁ。

遙がこれまた出来すぎな程良い子で。芯が強くてついでにこだわりも強くて「自分」を持っていて、繊細で賢くて堅実で機転がきいて。料理も上手くて、出しゃばらず相手を優先してくれて。自分の欲求に素直なくせに脆く危なっかしくて。そんで顔なんかもこぎれいで、自分のことを好きなんて言われた日にゃあ、男はよろめかないわけない。勿体無さ過ぎる嫁候補ですよ、ええ。もうなんていうの、BLの受けっていうより古典的なイイオンナじゃね?魔性じゃね?性別を超越しちゃうのも納得よ。…だけれど、一穂作品を読む時にわたしが毎度躓くのは正にその点なのです。男同士が一線を越えるっていうところの曖昧さが、なぜか先生の作品だと流せないの。

先生のリリカルな描写が大好きなので、心掴まれたシーンがたくさんあります。冒頭の印象的な観覧車のシーンを後半に被せてくるあたり。藍染めに使われる用語を使って、暁行と遙の関係になぞらえたり。(「甕覗き」には唸りました。)夏休み、遙の実家の手伝いに行った暁行が期間を終え、遙に車で電車の駅まで送ってもらうシーンとか。物語のハイライトで遙が出た度肝を抜く行動なんて、心揺さぶられずにはいられません。そんな先生の素晴らしい表現力にふるふる共鳴して、わーい♪って浮かれていたら、いきなり谷底に突き落とされるみたいな…、先生の描くBL観には何か自分とは決定的に相容れないツボがあるみたいです。

一穂作品は好きだけど苦手なところもある。でもなんか、めげずに食らいついていきたい魅力のある作家さまなんです。あー、BLを読む時は自分に近いダメ男キャラを読みたいのかもな、なんて気付かされたお話でした。評価は「中立」寄りかもしれません。

4

心は止められない

はじめに。ボタンが中立までしか押せません。実際は「萌x2」です!

この物語を読む方の多くが感じる事じゃないかな、なんでハルは暁行のことそんなに好きなの?って。どこが?って。
ハルは静かで芯は強くて、いい子で。なのにアキは無神経でハルを傷付けて。
でも、恋は良い子同士がするわけじゃない。人はみんなそれぞれ違う、良いところも悪いところも。それに、補う関係になるとも限らない。足りないから欲しくなる?余っているからあげたくなる?恋はそんな事じゃないよね。
心は止められない。なぜ恋になったかなんて……。

急に親友だったハルから告白されて「キョドった」アキは、ブログでやり場のない気持ち・言葉を吐き出し始める。「今っぽいね」と感じた私は、この本の発行日を見て軽く驚きました。2009年。もう6年も前だった。
ネット、ブログ、ライン、スマホ、独り言のつもりでもどこで誰が見てるか。段々感情的になってくるアキの独白、対してどこまでも今まで通りのハル。
一つのクライマックスがクリスマスの展望台のシーンだと思った。
俺の事が好きならなんで女に生まれなかった?と問うと「生まれ直すね」と鮮やかに笑い、「秘色(ひそく)」色のマフラーをなびかせて展望台屋上の手すりの向こう側に飛び降りる。
BL小説として後で出てくるであろうセックスシーン、そこよりも深く濃く二人の心情が交差してねじれて絡んで、どちらがどちらの心なのか分け難く溶けた瞬間だと、思った。

8

欲しいものは欲しい

欲しいものは欲しいと、言っちゃえばいいのに。地団太踏んで、泣き叫んで、暴れ回ればいい。そこまで欲しくなかったから、というのでは決してないでしょ? 最初で最後のつもりで暁行に抱かれたあと、あんなに泣いたくせに。

 諦めの良すぎる遙が不思議だった。でも護身のために昨日今日身につけた性癖なんかじゃなく、物心ついてからずうーっと、だったんだね。スーパーで「あれ買って」と盛大に愚図る子どもを「どうしてあんな疲れることをするんだろう」と同じ子どもながら醒めた目で見ていた遙。そのせいで周囲の大人からは、聞き分けのよい子だと認定されてたというけど、人は大抵、大声で泣いて駄々をこねる子の方を優先するんだよ。黙って我慢してる子は後回しで、結局忘れられちゃう。

 自分にだけしっぽが生えてる(=遙語でゲイのこと)と自覚してからは、その性分に余計拍車がかかったのかもしれない。「一生に一度くらい誰かを好きになってみたい」と思いつつ、その誰かから好きになってもらうことは初めから想定外で。
 ノンケの暁行に恋をして、ほぼ同時に失恋が確定し、友達の立ち位置から、暁行とその彼女真希の仲睦まじいさまを見つめ続けて3年。不慮のアクシデントのような観覧車の中での告白。テッパンだと思われた暁行と真希の関係が揺らぎ始める。それでも遙は自分を押し殺して彼女を「追え」と暁行に叫ぶ。
 「忘れて」「忘れないで」「セックスなんかしなきゃよかった。一度きりの記憶であんなに苦しむなら」「セックスしてよかった。一度きりの思い出で、一生生きてゆけるから」―
 矛盾しているようだけど遙にとってはどれもが本音。とてもいじらしい。でも藍作りなんて地味できつい家業を継ごうというだけあって、おとなしげな外見に似合わぬ強靭な精神も持ち合わせている。きっと泣くだけ泣いたら、黙々と立ち上がって畑に向かうんだろう。

 遙の背負ってる諸々の重さに引き較べると、どうしても「軽い」と感じてしまうのが攻めの暁行。何事にも恵まれたお育ちで、屈託がないのが取り得なんだろうけど、きっとこれまで、ほかのすべてを擲ってでも欲しい、みたいなものはなかったんだろうな。遙の手を取るに当たってどこまでの強い決意があったのやら。
 BLでは受けに酷いことをする攻めってあんま珍しくなくって、でも大抵そういう攻めは、後でものすご~く受けのことを好きになりすぎて苦しむことで帳尻が合う。でも暁行の場合、そこまで酷いこともしてない代わり(結構残酷な言動はあったけど、少なくとも殴る蹴るとかはないよね)遙のためにそこまで苦しんだわけでもない。「真希と別れたじゃん、代償は払ったじゃん、オレ」と言われればそれまでだけど、どこか情が薄いように感じられて。おろかで鬼畜だけど受けへの情熱だけはハンパない攻め君たちがすこし恋しくもある。(一穂作品で鬼畜攻めはあり得ないか、やっぱ)

 ひとくちに藍といっても趣はさまざま。甕覗き、百群、秘色、鉄御納戸・・・むかしの人たちの色彩感覚の豊かなこと!そして日本語ってなんて奥ぶかく芳醇な言語なんでしょう。私の想像の中の一穂さんは、遙のようにとても美しい文字を書く人で、もちろん原稿もワープロ打ちじゃなくて手書き。ブルーブラックのインクで端正な文字がひっそりと升目に納まっててほしい。

 

 
 



 

4

遙の存在に神評価

攻め目線が読めるのは嬉しいのですが、ひじょうに攻めの入江が苦手!
一穂さんでなかったらこの作品は好きになれなかったかもしれませんが、入江が嫌いな分、遙が健気で可愛すぎです!
今まで読んだ中で、わたしにとって一番可愛かった受けさんでした。
そういう意味でも忘れられない作品となりました。

受けの遙は、実家が藍染めに使う藍という植物を育てる農家。
大学へ通うために実家を離れ、一人暮らしをしています。
出会って好意をもった瞬間に失恋という経験をしながらも、入江の側にいられるだけで幸せという健気な青年。

攻めの入江はいわゆるよくいる大学生。
彼女がいて、友達がいて、バイトにせいを出しているというような。
入学してすぐ遙と知り合い友人となり、一緒にバイトもしています。

入江は観覧車の中で遙に告白されるまで、まったくそういう意味で遙を意識したことはなかったんですね。
遙は言葉の少ない青年ですし、入江はノンケ中のノンケでしたので。
友人が自分に惚れていたという事実が頭の中でグルグル渦巻き吐き出すため、相談するような内容でブログを始めます。

わたしはネットを使って話を成立させるストーリーは苦手ですが、この作品ではオマケって感じなのでまあOKでした。
でもこの入江の行動には「弱虫野郎め」と鼻息を荒くしましたが。

そんな入江にも好きなシーンがありました!
入江が遙を心配し大雨の中追いかけ、壊れた遙の自転車に自分が思っていたよりも動揺してしまうのです。
この時ばかりは「入江、なかなかやるな!」と思いましたよ(笑
ここだけなんですけどね。

遙は告白こそしてしまいましたが(これだって偶発的)一貫して入江に対して一歩引いて、自分の気持ちを押しつけることはしません。
田舎で農家というと、やはり長男第一であると思います。
実家を継ぐのは兄で、自分は手伝いをしているだけ。
子供の頃から引くことが当たり前、強く求めることは許されない。
そんな環境が今の遙を作ったのかなと思うと、切ないですね。
遙の周りにはたくさんの青が登場しそれが作中で雰囲気良く使われていますが、彼のイメージは静かであり激しい一面もある青がハマっています。

終盤、遙の実家では兄が奥さんの実家を継ぐということになります。
遙は単身、兄に会いに行ったことで兄の現実や決意を目の当たりにしますが、そのことで遙も踏ん切りをつけられたのではないかなと思いました。
遙と入江にとっても転機でしたね。
入江も、そばにいるとなんとも心地よい存在である遙がいなくなるという可能性があるということに、直面するんですから。
入江は彼女という現実よりも心地よい存在の遙を結果として選んだわけですが、BLとしてはそれじゃないと成り立たないよ!とはいえ、入江みたいな現実的な男が??という感想はあります。
入江は父親の引いた線路に乗り続けるようなタイプだったので。
わたしはハッピーエンドになった作品は、そのまま『幸せに暮らしました』的に考えるのですが、この作品はふたりの道は今回は交わったけれど、いつかまた…なんて暗いことも考えてしまいました。
遙もそんなことを心のどこかで、覚悟していそうかな。

7

ガラスの観覧車の中から…

タイトルにある藍という深みのある色が、全編に濃く淡く漂うような、そんな物語。

日常的なことばのやり取りやちょっとした仕草や振る舞い、些細な感情が丁寧に掬い取られ
実は小さいけれどドラマティックな世界が展開されているのは、流石の一穂さん。
何でもない描写やセリフの一文一文が胸を打つ。

               :

大学入学とほぼ同時に知り合った入江暁行と柘植遥は親友だ。
ゲイの遥は出会うと同時に入江に惹かれるが、はなからかなうことなど諦めている。
美人の彼女もいる入江に告げたところで困らせるだけだし、
この親友の立場も失ってしまうかもしれない…
だから決して告げるつもりなどなかったのに、みなとみらいの夜の観覧車の中で、
思わず魔がさした遥は、隠して来た自分の思いを告げてしまう。

叶わないと悟りきった恋に、卑屈になったりせずに淡々とでも一途に思う遥が哀しく美しい。

告白から後も、同じように静かに遥は過ごして行く。
動揺したのはむしろ入江の方だ。
彼はどこにも吐き出せない想いを、ブログに綴る。

藍を作る家に生まれた遥は、携帯電話も持たず今時の大学生が知っていることを知らないけれど、
でも皆が知らないことをたくさん知っている。
一言で「青」と言ってしまう色の、微妙な濃淡やニュアンス…
そのそれぞれの持つ美しい名前を知る遥。
それは、まるで心の色のようだ。

入江の就職活動、遥の家でアルバイトをする夏休み、秋が過ぎ、と
それぞれが複雑な想いを抱えながら、季節が過ぎていく。
複雑な想いは心の中で膨らみ、ついにそのまま抱えていられない程になり、
クリスマスの夜に、入江は遥に別れを告げるが…

               :

その後どうやって遥の恋が実ったか、それは是非お読み下さい。
「自分にだけしっぽがついてるって思いこんで生きてたら、ほかにもしっぽ生えてる人がいて、
そしたら見せ合って安心したいじゃん。しっぽ生えてるよね、
おかしくないよねって言いたいじゃん」という遙のセリフがとても切ない。

入江のブログに関しては、賛否両論あるのだと思うけれど、
普通の恵まれて健康な入江が戸惑ってわき起こる思いを持て余すのは当然だし
そこで誰か実際の知人に話したり遙と離れたりしないところが、入江の誠実なところではないか。
ちょっと鈍くて無神経なところがあるんだけれど、育ちの良い大らかさがある入江が、
同性の親友に告白され、困惑し、それでも彼が好きで離れがたい、
そんな中微妙に動いていく心情が
とても丁寧に表現されていたと思う。

入江の恋人の真希もすごくいい。
一穂さんの作品に出てくる女性は、皆きっぱりと気持ちがよくて好き。
こんないい子だけれど、確かに好きだったけれど、
でも今は遥がいい、遥しか選べないと思う入江…
そして選んだ以上、真っすぐ頭を上げて「なんとかする」と言う入江を、
遥は愛したんだなーと、胸が一杯になった。

奇跡のような恋の成就に、遙といっしょにまだ信じられないような思いがする余韻の中、
甘い番外編が、またいいな。

15

どきどきする。藍ってふかい。

なんてこった、どストライク・・・!!

藍色を、「黒に砂糖をすこし混ぜたような...」とか、そういう表現の雰囲気でつながるシーンがとても好きです。

どうしてもつかず離れず離れられず、気の置けない仲だから越えられない壁がずっとある。
本編は攻目線ですすみますが、垣間見える受の心中思うと切なくなります。というかしあわせとあきらめとちょっと欲、が見え隠れしててしずかにしずかにどきどきする感じ。

まさかの展開(バッドエンド)を予感させる流れが堪らなかった。やめてくれほんとに。
でもむちゃくちゃな流れだな、と思えなくもない本編ラストスパートが良いものに思えるのは、「藍づくり」のような日々の積み重ね、その重みや尊さが、ふたりにあるように思えるからか。

短編も好き。このふたり、とてもいいです。

4

空気感を楽しみました

半分まで上がるまでが楽しい観覧車、甕覗き色という薄い青、藍で染まった指先、気の良いマスターが道楽でやっている様な飲み屋からの帰り道の風景、遥の田舎での藍染作業工程、色んなキレイなカケラが作中に散りばめられていて、全体に流れるその空気感を楽しみました。

ストーリー的な事を言えば緩やか過ぎるのかもしれない、恋愛に落ちるのも、そして付き合っていた女性と別れるのも、全てが緩やかに進んで行きます。
時折、暁行が入社する筈だった会社の相手に手を握られて遥の元へと怒ってやってきたりと、そんな事もありはするのですが全体的な流れとしては緩やかでした。
もう一捻り何かが欲しいかな、とは思いますが、つむぎ出す空気感は心地良かったです。

8

しあわせに。

初読みの作家さんでした。
さくさく読めてあっという間に終わってしまいました。

ストーリー自体は大きな事件もなく恋物語が中心。
親友のことを好きになってしまった遥と親友に好きになられてしまった暁行。
それまで友人としてしか見ていなかった人物の告白に戸惑って意識していく暁行。
それでも、彼女もいるし恋人にはなれない。
はっきりと答えを返さないまま、友達のまま続く関係。
その中で交される小さなやりとりに決して遥が何も感じていないわけではなくて。
傷ついたり揺れたりしてしまう気持ちがあって。
それでも縋るでもなく。
どちらかといえば諦めの方が強く。
暁行のことを「塩水」と表現するのが印象的でした。
頭では無理だと思っていても衝動的に動いてしまうこともある暁行。
けれど、言葉は出て来ない。
自分がどちらに向かっているのか最後の最後までわからない。
それでも、最後にはどうしても選んでしまって。
遥の嘘の告白も印象的。
その中で語られる暁行の良さみたいなのも「なるほど」でした。

個人的には「愛より甘く」が好きです。
電話のくだりの、やや変態な感じとか。
でも、やっぱ最後の遥と周りのやりとりでしょうか。

遥が幸せになれてよかったよかった。

あ、あと。
いろいろな色の名前が出てくるのも楽しかったです。
思わずどんな色なのか調べてみたくなったり。

3

静かに染まりゆくまで

一穂さんの作品は時々色があるように感じます。
タイトルにもある「藍」という色は、今作では
じっと心の底に横たわる交じり気のない想いの
イメージと重なりました。

ノンケで彼女持ちの暁行に、伝えるだけでいいんだと
告白した遥は、胸の内を多く語らず芯があって欲のない青年です。
彼の実家は藍染を生業としており、要所で語られる
藍というものは、凛とした遥に似合う良いモチーフでした。

惜しむらくは、ノンケで今の今まで彼女持ちだった
暁行が遥の想いに応えるまでの動機不足です。
バイトも一緒、泊まり込みで実家の手伝いにまで行くのですから、
もう少し心の揺れや関係の変化が
明らかになってもいいようですが、
動揺こそすれ、直前まで煮え切らない感がありました。

風景描写を多く用いることで、心の内を推し量る文章は
とても好みです。
その代わり、人物たちの感情の起伏や傾ける熱情が
あまり感じられない点が、
ともすると淡々とした印象の乏しさに繋がってしまいます。
また、ブログという要素を用いるのはあまり好かないと思いました。
感情の後付けになるようで鬱陶しく感じてしまうのです。

いくつか作品を読んで抱く印象は、どれも
静けさを纏っているという事です。
微熱のような恋情とその静けさを突き詰めた作品を読んでみたいと、
ふと思ったのでした。

3

観覧車から夜景を見ているような

一穂ミチさんが好きで買ってみました。これはあたりです。
「藍染め」家業のゲイ・遙と、その想い人暁行のお話。

やっぱり一穂さん特有の透明感というか、綺麗さがありましたね。
重点を置かれがちな登場人物の心理描写より、風景など周りの様子の描写に力を入れているように感じました。
文学的でとてもよい雰囲気だったと思います。
物語も丁寧に作られていて、深い物語でした。
一穂さん好きです。

タイトルにも付けたように、観覧車から夜景を見ているような物語だったなぁと思います。
綺麗で感動して、美しいものを見ているのに切ないんです。
言葉にし難い抽象的な感じなんですが、物語全体に不思議な憂いが帯びているように感じました。
単に遙の性格や雰囲気がそうしているだけかとも思いましたが、不思議と泣けました。
泣きシーンではないのに、なんだか泣きそうになるんです。
一穂マジック…!

4

とても綺麗なお話。ちょっと綺麗すぎるかも?

何度でも声を大にして言いますが!大好きです、一穂さん!!!
だけどもちょっと、このお話は微妙…?

なんでだろう?と考えて、私は結局、攻めは最後まで嫌いだったし、受けも最後まで特別好きにもならなかったな……と思いました。
(林檎はもう、桂も志緒ちゃんも愛しくて仕方なかったですから!)

けど、キャラだけの話ではなく、お話としても私はちょっと微妙?と思ってしまいました。

とても綺麗なお話で、色とか景色とか雰囲気とか、全部が藍色というかなんというか……、ともかく「綺麗」としか形容のしようが無いのですが、主軸となるストーリーやキャラクター(特に攻め)にはこの色が合ってない気がしました。
この雰囲気を、別の設定・別の攻めの作品で読みたかったです。

彼女が居るのに告白してくれたゲイの親友が気になる攻め。
ブログというツール。
ちゃんと彼女を確保しながら、好きだと言ってくれた相手に「俺のどこが好きなの?」なんて聞いちゃう無神経さ。

それらとのエピソードと、一穂さんが全体に散りばめている世界観が、私の中では噛み合いませんでした;

だからかな?
結構しっかり読み込んだつもりなのに、数ヶ月経った今思い返しても、「イメージカラー」みたいなものしか思い浮かばないのです。ストーリーがおぼろげというか、印象に残っていないと言うか……。
それはとても勿体無い!

この藍色の世界観は、もっと雰囲気のある攻めと受けで、このキャラたちは、もっと若者らしい設定で、それぞれ別の作品として読めるとしっくりきそうでした。


どうもこの攻めは、受けが好きとかよりも、ちょうど彼女とごちゃごちゃしてから健気な受けが可愛く見えただけなんじゃ……という印象だったので、このあと付き合っても続かない気がするんですよね。
後日談もありましたが、この状態が続くとは思えないというか、逆に今がピークに見えて悲しいというか。


個人的に「幸せな未来」みたいなのが予感できないカップルだったから、なんとなく面白くなかった気がしちゃうのかも。
あとはまあ、一穂さんが大好きってことで、自然と「一穂さん作品はもっと素敵なはず!」と辛口になってしまうのかもしれません。

3

藍染の家業に生まれたゲイの愛に染まっていく

彼女持ちの友達を好きになってしまうゲイが主人公。
友達はノンケで、彼女とも良好で
これどうやって主人公に気持ちが傾いていくのかなって
楽しみに読んだ。

ノンケは、最初からすっぱり断わり
でも親友だから戸惑い
ブログにその思いを綴ったりするんだよね。
このブログに思いを綴る行為は
私にはけっこう微妙で・・・
信頼できる人に個人的に相談するのと
匿名で不特定多数に吐露するのと
どっちが誠実なのかなぁとちょっともやもや悩んだ。
だってネットは、完全な匿名性じゃないからね。
やはりどこかで漏れる危険性はあるし
自分のことではなく相手の秘密が漏れる危険は考えたのかな・・・
普段から彼氏の携帯をいじる彼女がいるというのに!
結果的にこのブログも重要なアイテムになって
主人公がこのブログについて語る場面で、うるうるしてしまった。

終始、濁りのない澄み切った藍(愛)で
ノンケを好きでいつづける主人公には涙がそそるのですが
主人公と主人公の彼女は、まったくそこらへんにいる
中途半端に恵まれた普通の感覚の人たちでした。
見た感じ欠点といえるほどの欠点がない綺麗でかわいい彼女。
ちょうど気持ちが揺れ動いてるときに
彼女のほうが子供っぽくへそ曲げちゃったから
じっと我慢して譲ってる主人公のほうが良くなっちゃったのかな。

基本的に男の身体と世間体さえクリアできれば
ほとんどの男は、めんどくさい彼女より楽な親友を選ぶんじゃないかな。
だからノンケが主人公を選んだのはなんとなくわかる気がした。

別れて1年で結婚するという元彼女談。
・・・これいるか?

それと20歳やそこらの男同士の会話で詩的な会話は
私も鼻についたw

良作。

2

優しくていいお話

静かなお話でした。
地味といえば地味なんですが、確かな文章力とか独特の言い回しなどで、最後までグイグイ読ませてくれました。
「ホモ当たり前」っていう世界じゃないのがいいですねー。
ノンケにとって、男相手の恋はハードルが高いはずなんですが、BL読んでると時々それを忘れそうになってしまうんだよね。

仲の良かった友人に告白された主人公。
彼女もいるし、今まで男を恋愛の対象にしたことなどなかった。
なのに、告白されてから、気になってしかたなくなる。そして、どんどん惹かれていく。
じわりじわりと胸に染み込む美しいお話です。

一点、個性的な比喩を会話文のなかで多用するのだけが、ちょっと気になりました。詩的耽美的な物語ではないから、これはどうかなと。そのままでも十分ステキなのに、過剰な修飾のせいで逆に気取ってる感じがしてしまうっていうか。
地の文で使うとか、ごくたまに使うとかなら気にならないんだけど、会話のなかで多用するのは私の趣味じゃないんだよね。
といってもこれは、小さな不満に過ぎません。レベルの高い場所での不満です。日本語崩壊BLだと、最初から諦めがきちゃって、こんな不満も出てこないですしねw

面白かったです。
ほんと良作。

2

切ないけど甘い

今回はノンケ×ゲイという設定でした。簡単に言えばこういう設定ですが、いやっぱり一穂さん。しっとりと綺麗なお話でした。

今回も一穂さんは女性キャラを巧みに使っていました。一穂さんが書く女性キャラはいつもしっかりしていて男前ですよね。今回は暁行(ノンケ)の彼女さんでしたが、サッパリした嫌味の無い女の子でした。BLでも女性キャラは大事だよなぁ、と一穂さんの作品を読む度考えさせられます。

遙(ゲイ)の実家は藍染の藍を作るお仕事。こういう現実的だけどちょっと特殊な設定も一穂さんらしいですよね。くどくどした現実でない現実。これがお話に入り込んでしまう要因かもしれません。

後日談にはものっすごく萌えました!遙目線の暁行への想いと、Sの入った暁行目線のノロケの2本。切ないお話の後に甘いお話だったので、読み終わった後は満腹感でいっぱいでした。ごちそうさまです←

2

友情と恋愛の天秤

ストーリーというか骨組みがしっかりしててよかったと思います。スラスラ(いい意味で)と読めました。でも評価(萌★+3.5)って感じです。萌えなくはなかった…いや、後日談の「愛より甘く」は甘くてよかったですよーこれは本当に萌えました、うん。
でも、自分としてはちょっとしっくりとしない…うーんって感じがしてて。うわあああーごめんなさい…

話のネタや表現、遙と暁行の心情が凄く上手くて話に入っていけるんですよ!やはり一穂ミチ先生は凄いなーと思いました。文章とか惹きこまれる書き方ですし。

しかし、今後あの2人は仲良くやっていくのでしょうね!その様子がわかる最後だったのでよかったです。2人で彼氏の自慢話っていいなー

1

とても綺麗なお話でした。

相変わらずの雰囲気、いいです。綺麗。
最初、このお話を読んだときも「藍」じゃなくても、果樹園だろうが農家だろうが旅館だろうが何だっていいだろう、なんて思ったんですが…やっぱり「藍」だったから、この世界観が出たんだろうか、と思いました。

私は珍しいと思ったんですが、彼女も持ちの攻め視点なんです。
彼女といい雰囲気のお話しも書いてあって、どうなるんだろうと心配になりました。
遙も健気だから、暁行を彼女から奪おうとか考えたりしないし。
暁行は本当にノンケっぽいし。
なので、よくやる挿絵のパラ読みはせずに最後まで読みました(笑)

遙に観覧車で告白されてから、意識して気持ちが移っていく暁行の気持ちがとても自然に感じました。
彼女の気持ちも、もっともだし。
遙に惹かれていく暁行の気持ちも、もっともだし。
遙の気持ちだってもっともだったと、私は思いました。

キッカケは、暁行の知らぬ間にバイトを辞め、実家に帰ろうとしていたこと。
暁行が店長に言われて気付いて、遙の家に行ったときにはほとんどの家具がなくなっていたんです。
そして、言い方は割るけれどその場の流れで。
彼女とは翌日、別れましたが。
こう書くと暁行も遙も軽い感じがしちゃうんですが、葛藤というか、そういうものが繊細に描かれています。

この小説で好きな一節がありまして。
雨の中、暁行が遙の壊れた自転車を見て驚いて、心配して家に行った時のこと。
何事もなかったんですが、暁行が自分の為に必死になってくれたことが嬉しくて、でもそれを表現することはできなくて、でも、という感じのところなんですが。

タオルの端っこを、遙の手が軽く引っ張るのが分かった。
「ごめんね…ありがとう」
その、控えめな力の入れ方から、気持ちが痛いほど伝わってきた。ほんとうは触りたいのだ。暁行に、じかに。でもそうしてはいけないと思って、タオルを、せめて暁行と触れているものに、触れる。そのまどろっこしい行為にすらためらいながら。ぎりぎりの我慢で。

遙の、迷いというか想いが伝わってくるなぁと思いました。

あと、他にも沢山の素敵な表現があります。
それらの表現が、一穂さんらしいと私は思っています。
だから一穂さんが好き

1

友情から恋へ

秘めていた片想いが叶う話は大好きです。
大学生の暁行は、友達のハルに、突然観覧車の中で告白されて戸惑います。
ハルのことはずっと付き合っていきたい友達だと思っていたのに、相手は自分のことを恋の対象として見ていた。
ちゃんと彼女もいて、男相手に恋愛なんか考えられない暁行は、その戸惑いをブログにつづります。
このブログは、読者の想像通りの役割を果たすんですが、この辺りもうまいです。
暁行視点だけど、読者にはハルの切ない感情がちゃんと伝わってきて、心の中でハルを応援してしまいました。
藍染めの熟練した技を持ちながら、その家業を捨てて、妻子のために慣れない旅館業に入る兄の話もとても現実的で、派手さはないけれど、とてもいい話でした。

あとがきの後に収録されている「愛より甘く」は本当に甘いおまけストーリーでした。
切なさの後はちゃんと甘さが入っている用意のよさも○。

2

やっぱり色が見えます

いつも思うのですが、一穂さんの作品は色が見えますね。
今回は表題のとおり様々な青が主でしたが、夜の闇と夕焼けの色も感じられました。

大学に入ってからの3年間片想いをしていた相手に、思わず告白してしまった遥。
お話は告白された方の暁行の視点で進みます。
将来の結婚まで考えているような彼女がいる暁行は、親友だと思っていた遥に告白され戸惑います。
恋愛相手としては考えられないものの、ただ拒絶してしまいたくない暁行は、誰にも相談できない悩みをブログに綴るのです。

その後も大きな変化は無く、バイト先の飲み屋で、遥の実家の藍農家で、友人として付き合っていくのですが・・・
大好きだけれど恋愛対象じゃない相手に、どうほだされていくのかがこのお話の読みどころだと思います。

読み進めていくと、暁行は基本いい人なんですが、気を使って相手のことを考えるタイプではなく、自分が実際にその立場にならないと実感できない奴なんだなって思いました。実感して納得し一歩進む感じです。
その点遥は最初からあきらめている割りに思い切りがいいので、あまり感情に起伏が無い人で、答えを出すのを相手に任せちゃっているずるさも感じますが、遥にとったら受け入れてもらえるか振られるかの二者択一で、曖昧な選択はできないわけですから仕方が無いのかな。

157ページに書かれているブログの内容が、遥の好きなところと嫌いなところです。もうこれって、答えが出ちゃっているよね暁行。
それなのに、まだグルグルしているんですよ。

そういう意味ではいい迷惑なのが暁行の彼女・真希ちゃん。でも確かに真希ちゃんよりも遥のほうに魅力は感じるなぁ。

2話目「藍より青く」は遥目線の話。遥は遥なりに悩みも多く・・・
遥の「何でみんな告白するんでしょう」という問いに答えた飲み屋のオーナー・乾の一言『好きになったのは自分なんだから、かけた梯子は自分で上るか外すかしなきゃ』に、ああなるほどねと思いました。私は外してばっかりだった気がするなぁ。

3

クリームソーダがすぐに作れる一人暮らしって

じつに爽やかな三角関係物でした。
入江が、完璧すぎるくらいの好青年で、
柘植も、完璧すぎるくらいの健気な乙女。

相変わらず、一穂さんは、シチュエーションや、小物の使い方が丁寧で、気が利いています。
柘植を、藍作りの家に生まれ育った設定にしているので、
そこここに、色の名前が出てきます。
それがみんな、それぞれ素敵。
色の名前は、和名で漢字なので、
何気なく答えた色の名前にも、意味や、重みがでるようになっています。
女の子が、しっかりしている所もいいです。

カバーイラストの、藍色のグラデーションも素晴らしいので、
ルチルさんの共通ピンクの帯は、是非、外してイラストを楽しんで欲しいです。

1

柘植の秘めた思いに胸が痛みました

一穂さんの描く若者は、小説の中にリアルに生きていて、キュンキュンさせられっぱなしでした。

初めて暁行に会った時に一目ぼれと失恋を同時にしてしまった柘植。
暁行は真樹という同級生の恋人がいます。
二人で観覧車に乗ったときリクエストを言えという意味で言われた言葉に「好き」と告白してしまう柘植。
彼には家の”藍をつくる”という家業に関して、色々複雑な気持ちがあったのです。
だから、欲しいものを欲しいと言って波風立てるよりも、すでに手に入らないものとあきらめる、といった癖がついていて、それは携帯もテレビも持たないという生活からも伺えるように、性格自体も自我を出さないようになっていました。
そんな彼が「好き」といったことで、親友だった暁行が変化していくのです。
当人は、遠慮のない友達だからととった言動が深く柘植を傷つけていたり。
意識することで、自分がどうしたらいいかわからなくなってみたり。
そんな恋人の変化を敏感に彼女は察知していたようですね。
BL好きな読者からすれば、ここに登場する暁行の彼女は、わがままでイケスカナイ女と思ってしまうかもしれないけど、「恋人と親友とどっちが大事なの?」みたいな気持は、相手の親友への本能からくる危機感と嫉妬だと思うのですよ。
何も求めない、言わない柘植だから、余計に気になってしまう。
クリスマスに展望台のフェンスに飛び降りるシーンの柘植に思わず涙を誘われました。
そして暁行に何も告げずに実家へ帰ろうとする夜、「最初で最後だから」というその翌朝の柘植にもまた涙を誘われて・・・
でも決して柘植は弱くはありません。
凛として強く自分を持っている、だから柘植に読者も惹かれるのだと思います。

その後の「藍より青く」で柘植視点で遠距離恋愛を。
「愛より甘く」で、もう暁行は柘植に首ったけなんだと知らされ、それに対抗してノロける柘植がかわいかったり。
よかったよね、柘植遥!好きなものが色々手に入ったよね!
ってこちらも嬉しくなるお話でよかったです。

最後に蛇足ですが、暁行が父のコネで会社の人と会食をした後、一人で誘われて「わかってるよね」とか言われて逃げ出してコネをパーにするシーンがあるのですが、これはいらないかな?っていうかもっと別のシチュエーションにしてほしかったと思う些細なワンシーンでした。

2

友情が愛情に変わる瞬間

親友である遥に突然告白された暁行。
しかし暁行はノンケだし、彼女もいるしで遥の気持ちを受け入れることはできない。
でもその気持ちを突き放すこともできずに中途半端な態度を取り続けてしまう――。

この二人は正反対なんです。
家は裕福、美人の彼女がいて、男前な暁行。
一方遥は、実家は藍染の藍を作る仕事をしていて、その仕事を愛しているけど跡を継ぐのは兄で。(ちなみにこの藍が今回大切なキーワードですよ)
小さい頃から“失うくらいなら最初から望まない”がモットーで、諦めグセがついていて、でも実は寂しがり屋…という、何とも不器用な性格。
そんな遥なので、暁行に対しても何も望んでいません。
ただ、気持ちが溢れて伝えてしまっただけ。
逆に、告白によって暁行を困らせてしまったのが申し訳ないと思っていました。
それに対して暁行はなかなか無神経なんですよ…
告白されて意識しだしたことにより、遥に変な期待を抱かせてしまうような行動をとったり
「俺のどこが好きなの?」って聞いてみたり。
変に気を遣うくせに、そのことが逆に遥を傷つける。
暁行の気持ちもわかるんですが…遥が健気な分、可哀相すぎて。

そして突然訪れた二人の別れ。
最初で最後のセックス。
同情で遥を抱いてしまう暁行と、同情でも抱いてもらってうれしいと思う遥。
今まで「忘れて」「気にしないで」と言い続けた遥の本音「忘れないで」
うう…っ!切なすぎるよ、遥…!!

暁行は些細なことから遥のことを思い出し、それによって遥への想いが溢れだします。
あれだけグルグル悩んで、遥のことも彼女のこともいっぱいいっぱい傷つけたのに
自分の、大切な気持ちに気付くのは一瞬でした。
ここの描写がもう、切なくて…!!
私は今までの展開があまり好きではなくて、ここのシーンがもう…めっちゃキュンとしてギュっとなって…
ここで涙腺大崩壊ですよ!!
ほんと、ドラマを見ているようでした。
この瞬間、暁行の世界は色を変えたんでしょうね。
遥の、藍の色。
無意識に求めていた、その色。
溢れだした暁行の想いはもう誰にも止められません!!

後日談は遥視点と暁行視点が1本ずつ。
遥視点は、彼が暁行を好きになった馴れ初めと、その後の二人。
暁行視点は、微鬼畜・暁行と、二人のノロケ話。
気になるのは遥の下宿人・野村君。
二人が最中に電話をかけてきたり、同じ屋根の下3人でいるのに二人がエッチをおっぱじめたりと
なかなか不憫な(でも本人は気づいていないww)野村君。
ノロケももうお腹いっぱい。
まさかこんな甘い展開になるとは…!!
やっぱり一穂ミチさんはキュンっとして切ない、今回の作品でいえばクリームソーダかな、そんな作品を作る神だと思いました。

5

この作品が収納されている本棚

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