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表題作恋を綴るひと

蓮見徹,20代,医療系システムエンジニア
和久井柊一,20代,幻想・官能小説家

その他の収録作品

  • 恋の刺
  • 恋を綴る人
  • あとがき

あらすじ

…「俺の魂の半分は、竜神の棲む池に沈んでるんだ」
  人嫌いで、時折奇妙なことを呟く幻想小説家の和久井。
  その世話を焼くのは大学時代からの親友・蓮見だ。
  興味はないと言うくせに、和久井は蓮見の訪問を待っている。
  こいつ自覚はないけど、俺が好きなんじゃないのか…?
  けれどある日、彼女ができたと告げると、態度が一変!!
  「小説の参考にするから彼女のように抱いてくれ」と求められ…!?

作品情報

作品名
恋を綴るひと
著者
杉原理生 
イラスト
葛西リカコ 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
発売日
ISBN
9784199007446
4

(97)

(43)

萌々

(27)

(18)

中立

(2)

趣味じゃない

(7)

レビュー数
17
得点
379
評価数
97
平均
4 / 5
神率
44.3%

レビュー投稿数17

竜が棲む池、竜に盗られた心

攻め視点の「恋の棘」、受け視点の「恋を綴るひと」の2編構成。
前半の「恋の棘」は比較的あっさりと読めたんだけど、後半の表題作は何というか…
しんとして、
さびしくてほの暗くて、
息がしづらくて。


「恋の棘」
もちろんシリアスで切ない、といえるけれど。
変わり者の友人に、付き合っている女性にしている事と同じ事をしてほしい、と言われてヘンな雰囲気になっていく…
というのはどこかトンデモのにおいもするわけで。
思わずキス、忘れられずどんどんおかしくなる感情。

「恋を綴るひと」
蓮見にしてみれば、きれいな男に誘われて、腕の中で乱れられたら。
もう恋人同士っていう感覚で、和久井の家に通いますよね。
しかし、この受け視点の内容が始まると…
和久井側の感情/内面は、全く甘いものではない。
彼の抱え込んでいる内面、それは子供の頃からの色々な「可哀想さ」に満ちていて、蓮見が惑わされた「同じようにしてほしい」という願望には何の恋愛要素も性的要素も含まれてはいなかった。
例えば「恋の棘」内ではサラリと語られた「子供の時は叔父さんと暮らしてた」というエピソード。
和久井の真実として回想されるそれは、深い哀しみに彩られている。
全てにおいてそう。
母の死、父のネグレクト、母の不貞、叔父との距離感、人恋しさ、そして池の竜神への恐怖感と同じだけの異世界への憧憬…
自分が負ってきた全ての不条理、全ての哀しみ。
そんなものは平気だ、大丈夫だ、最後は水の中に沈めばいい。そうやってやり過ごしてきた年月。
それらが蓮見の作り話で全て変容していってしまうのです。
自分でも何がどうなっていくのか、自分を好きだという蓮見との関係性を見失うのだけれど。
蓮見の一言。「おまえは平気じゃないんだよ。だから俺が必要だ」
天啓のように。

後半の表題作は、繰り返し和久井の心の傷と水に沈めばという心境が出てきて、希死念慮のイメージがまとわりついているようで、何とも薄暗くて息苦しい。
変人をほっとけないオカンと、不能で不感症のコミュ障。
2人の思い込みと誤解から始まった「何か」が、実は恋であり愛である何かであった…
そんな物語。

1

怖い話

読んで痛い。と思う作品は大好物でよく読むんですが、こちらは痛い。より怖い。がより鮮明に描かれていました。
得ることより、得たものを失うのが怖い。


咳をしても一人。
それが安寧だと思ってしまったらどんな幸福も恐怖でしかない

1

仄暗い雰囲気がとてもいい

読み込み型の不思議な話。

攻の蓮見は面倒見の良い、しっかりした男。
大学時代に出会った和久井の不摂生な生活を気にして、時折家に伺い食事を作って泊まっていくという友人関係。
一方和久井は、食事は冷凍食品で一週間人と話さないで篭って執筆している作家。家の近くに竜神が住むと言われる池があり、怖さを感じながらも惹かれている。

最初は蓮見目線。サクサク読めます。
次に、和久井目線。こちらが何とも不思議な感覚が出てきて、和久井の危うさが感じられます。
幼少期の家族関係。男性からのイタズラ。叔父との生活。
苦しさ、寂しさ、辛さを池に沈めて「大丈夫、平気」と自分に言い聞かせて生きてきた和久井だからこそ、蓮見との関係で一番大切な言葉が出ない。
本当は簡単なことなのに、分からない。
恋を恋と認識できない人間が、恋を綴る話です。

2

静寂

風景の描写が素晴らしかった。

蓮見視点では謎が多かった和久井だが、すべての行動の意味を知ってから見ると可愛くて思えてくる。
こういう不器用な生き方しかできないのが切なく、愛おしい。
寂しいことを寂しいと言えず、心の傷を気づかないふりをして池の底に沈めることで自分を守る幼い子供を想像するだけで胸が苦しくなる。

蓮見も自己主張が激しすぎず、大人しい性格だが面倒見が良く、和久井をずっと支えてくれてとても良い友人だと思った。

静かな夜に読みたい作品。

1

静雨の中で

作品全体にしとしとと雨が降っているような、モヤがかった雰囲気があります。
梅雨の時期にぴったりですね。
淡々と、じっくり、静かに進む物語でした。
作品を俯瞰で見ているような…ちょっと不思議な感覚になるかも。
葛西リカコ先生の挿絵が本当にぴったり。

古い日本家屋に1人で住む、どこか浮世離れをしている小説家・和久井と、大学時代からの同期で腐れ縁のような面倒見の良い蓮見。
蓮見視点「恋の棘」と、和久井視点「恋を綴るひと」の短編2作からなる今作。
大学時代のアパートの隣人という関係性から、社会人になってもずるずると周りから見れば奇妙な関係を続けたままの2人が、些細なきっかけから恋人同士のような関係になるまでのお話。

長男気質で世話焼きの蓮見は、大学の頃からアパートの隣人だった生活能力皆無の美しい青年・和久井の事を放って置けず、月に1〜2回、生存確認と称して都心からわざわざ車で40分もかけて和久井の元を訪れ、せっせと料理を作っては世話を焼く。
どう考えてもある種依存のような関係性で、周りの友人達も言うように、当に友人の域を超えているように思うのだけれど、本人ばかりが気付かないのです。
「相手はきっと自分の事が好きなんだろう」と思い込み、それに対して心地良さすら感じているというのに自身の感情には疎い2人。
相手の出方を探るというか、非常に厄介な両片思い。
もどかしい2人の距離を縮めていく小さな嘘。
嘘をきっかけに蓮見はようやく思いを自覚するものの、それより先に和久井の方が自らに寄せられる蓮見からの好意に気付いていたというのが良いですね。
蓮見はきっと一目惚れだったんじゃないのかな。

攻めの蓮見視点の前半では、和久井の世捨て人のような掴み所の無さに、蓮見に執着しているのは分かるものの、彼が何を考えていてどういう人間なのかが読み手は全く分からない。
ところが後半の和久井視点になると印象がガラッと変化します。
広すぎる玄関の板の間で死体のように眠りながら蓮見を待っていた和久井。
蓮見視点だと「変わり者」なのだけれど、和久井視点でこのシーンを読むと、なんと言うか、いじらしくて可愛くなってしまったりもする。
この和久井という人間がただの変わり者ではなくて、過去の出来事や生い立ちから、その中身は思っていたよりも複雑でぐちゃぐちゃとした重たいものが詰まっている人でした。
一言で言うのならば闇が深い。
愛情を知らず、与えられず、自分に「平気」「大丈夫」と言い聞かせて1人で感情を仕舞い込んで育った和久井は、大人になった今でも自分が何が欲しくて何が分からないのかが分からない。
蓮見に対する執着は凄まじいと思うのだけれど、その気持ちに付ける名前も分からないのです。
だから、ただ蓮見についてを記録として綴る。
大学生時代の、感情が動いたあの日からずっと続けている。
ノートをつけ始めた理由に気付いた瞬間の和久井に愛おしくなってしまう。
ノートだけではなく、和久井視点のすべてが蓮見への壮大なラブレターのようにも感じました。
ラストまで読むと「恋を綴るひと」というタイトルが妙に美しく、しっくり来る。
とても好きなラストシーンでした。

読んでいて、すごく繊細で難しい受けだなと思いました。
これは相手が蓮見じゃなければ上手くいかない気がする。
逆を言えば、蓮見とならきっとこれからも上手くいくのではないでしょうか。

物語全体に漂う独特の雰囲気に馴染めるかどうかによって感想が変わって来る作品かなと思います。
竜神や池の設定は、ファンタジックなものなのか?と思いきやそうでもなかったりして。
うーん、こちらはあっても無くても良かったような気がします。

0

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