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花火職人の家の息子(六郎)と琴平家の三男(恒)
シリーズ新装版3巻。恒は2巻の主人公(希)の兄。
本のあらすじや帯に書かれてあること以外前情報なく読んだ。
『蒼穹のローレライ』『天球儀の海』既読。
以下既刊の内容にも触れる部分がある。
まず、『天球儀の海』で琴平家に恒の戦死通知が届くことは確定事項なので、読み始めるのをちょっと躊躇った。
主人公たちが複座の戦闘機の搭乗員なら、最悪二人とも死ぬし、辛い死別が描かれるかもしれないし…行方不明で戦死とみなされた可能性もあるけど、さすがに二冊続けて戦死→生存ルートはない気がしたので望み薄だと思った。
読んでいてほんとうに怖かった。
六郎が絶望したとき、私も絶望した。
絶望と緊張と弛緩。涙が溢れる。
叫びだしたいような数ページは、強烈に胸に残った。
その場面に心が持っていかれたので、他の部分の感想がうまく出てこないのだけど、
恒も六郎も、戦争がなければごく普通の人生を歩んでいただろうなというのはすごく感じた。
恒が好きな航空機と、六郎が将来打ち込むはずだった花火の、現状…
六郎が感じた理不尽はとても印象深かった。
恒がボロボロになっても戦う理由が、内地の家族を守りたいからなのを知って前巻へのモヤモヤが少し再燃。
いっそのこと、坊ちゃんは恒に一発殴られたらいいのに。やっぱり家族を蔑ろにして二人の世界…てのは納得がいかないと思ってしまう。
でも、恒は坊ちゃんを殴らない気もするんだ…。六郎を「ペアだ」と言いきった恒なら。
それから、斉藤。斉藤のことは、いろんな意味で許せない。奴のために涙してしまった。悔しい。
何かが違っていたら気の置けない友人になってたろうと思うのがまた悔しい。
斉藤視点の小話とかあったら読みたい。悔しい。
琴平父と恒の遺品の短編は楽しく読んだ。
父は良いキャラしている。前巻からもっと出てきてくれたらよかったのに…
紙縒を大切にとっておいた恒の気持ちは分かる気がする。あれは確かに、とてもとても特別だった。
あの頃は全く見えなかった未来が、日常の顔をしてやってきて、この夏はあの花火を私もやりたいなと思った。
1945シリーズ 復刊 第3弾。
ありがとうございます。
こちらは旧版で拝読していたのですが、第2弾までと同じく書き下ろしが40ページほどありまして、名編ですので旧版既読の方もぜひ。
(把握していないだけで既出の短編でしたら申し訳ありません)
書き下ろしの2編は
『鳥が還る日』・・・『雨のあと』の前日譚。
『青のかたみ』・・・『鳥が還る日』の後日譚。
の2編で、個人的に『青のかたみ』の終わりの場面がとても心に残りました。
旧版表紙と新装版表紙で恒と六郎が逆になっているのがとても好きです。
〜以下、旧版読了時の感想〜
ラバウル航空隊に移籍してきた厚谷六郎と、前作『天球儀の海』にも登場した、希の兄である琴平恒のお話。
戦地は死と隣り合わせ。
いつしか戦闘機のペアという関係よりもさらに強い絆で結ばれ、一心同体となった2人も例外ではなく、ここでいう"人生"は近い将来命を散らすまでの人生なんですよね。
最期まで共にいると決めたふたりの絆は何よりも尊く(BL的な意味ではない)、神聖なものでした。
そして本作の要でもある星空。
想像もできないほどに壮大なその存在により、彼らの置かれている脆くて儚い運命が余計に際立ちます。
戦地に赴いた人達は一体どのような気持ちで星空を眺めていたのでしょうか。
自分の命がいつ終わるかわからない中で。
顔も名前も何も知らない敵の命を奪い合う日常で。
そんなものと無縁の存在を眺める時間は、やはり特別な瞬間だったのではと想像しました。
米軍に囲まれて絶体絶命の最終局面、拳銃による自死か降伏か。
六郎は降伏を選択しました。
恒にとって、敵に降伏するなど言語道断だったことでしょう。
恒は怒りを露わにしましたが、六郎のこの選択は英断だったと思います。
恒を庇う位置で米軍兵士の銃口を一身に受けて立つ六郎の想いに涙が止まりませんでした。
米軍は結果的に2人を救出し、瀕死の重症を負っていた恒の命も助かりました。
敵である日本人への待遇に困惑した六郎の問いかけに対する米軍兵士の「ここは戦地ではないからだ」という答えがとても印象的です。
そして戦争が終わり、アメリカから日本に帰った2人。
それから何年かして、約束通り、恒に自分が作った花火を見せる六郎。
大輪の青い花火は約束の名『月光』。
本当に心に残る物語です。
またもや戦争が起こされている昨今です。
平和の実現について再考せねばなりません。
(余談)
旧版のペーパー特典『天の川の話』が今回は収録されていませんでしたが、個人的にとても好きなラブいお話なので、どこかでまた会えるといいなと思いました。
戦時下という特殊かつ過酷な現実の中で、懸命に今を生きる人々を描いた1945シリーズ。
今までに刊行された新装版で描かれていたどの人生も山あり谷ありのドラマティックさで心惹かれてやまないのだけれど、中でも全編攻めの六郎視点で語られる今作・碧のかたみの心理描写の細やかさが本当に素晴らしかった。
読んでいてなんだか胸がいっぱいになってしまいました。
小柄な容姿とは裏腹に、愛機を巧みに操り敵機を何機も撃墜する優秀さと、貶められるものなら言い返さずにはいられない生来の気の強さを併せ持つ、時に真っ直ぐすぎる19歳の青年・恒。
そんな、ある意味問題児でもある彼とペアを組むことになった六郎が、次第に唯一無二の揺るぎのない関係性となっていく物語。
時代背景的にも過酷な状況下ではあるのですが、作中の雰囲気が薄暗さや悲壮さに満ちているかというと決してそうではないのです。
明るさも、辛さも、つかの間の喜びも。
そこで生きている彼らの、人間味あふれるありのままの日常を追っている気持ちになれるんですね。
尾上先生の文章が上手いものですから、まるで彼らが生きていたラバウルの光景をそのまま見ているような感覚になります。
だからこそ、狭いコミュニティの中で芽生えた感情のひとつひとつがより強く伝わってきてなんだかたまらない。
賑やかだった喧嘩も、あの甘酸っぱい缶詰も次第に自然と恋しくなり、最後まで2人の行く末から目が離せませんでした。
BLといえば、やはり男性同士の恋愛をメインに描いた作品がメジャーかなと思います。
でも、なぜか碧のかたみは恋愛というよりも、もっと特別でかけがえのないなにかが描かれている気がしてなりません。
ペアとして、人として尊敬し合い肩を並べる2人の心情がとても丁寧に紡がれていて、「こんな関係性のお話が読みたかった」が1冊の中にたっぷりと詰め込まれていました。
彼とは恋人ではないのだと言う恒の言葉の深みにため息が出ます。
胸が熱くなる本当に素晴らしい作品でした。
ラバウル基地はパプアニューギニア北の方の島にあって、第二次世界大戦時は、南方作戦の一環として日本軍の重要拠点基地の一つとされた場所。そんな場所で出会った、航空隊所属の戦闘機操縦士と偵察員の激動の愛の物語……めちゃくちゃ沁みました!
時代背景やストーリーの設定的に、どこか死と隣り合わせな世界観に胸がヒリつきますが、過酷な状況下だからこそ彼らの間に芽生える想いにグッと惹きつけられました。
偵察機のペアを組む2人が、プライベートでも唯一無二の関係になっていくところに最高のドラマがあって、無鉄砲な恒に寄り添うように見守る六郎の姿がすごく印象的。長年連れ添った夫婦のような雰囲気が本当に素敵に映りました。
空でも陸でも最高のペア。
阿吽の呼吸で戦果を上げ、陸に戻るとほんのり甘やかな時間を過ごす2人が幸せそう。ハジメテのときは散々で、恒の機嫌が相当悪かったところを見ると、あちゃー…こりゃ最初で最後かも。なんて思ってたけど、深く愛し合ってる彼らに嬉しくなりました。
戦闘機に魅せられ、そして戦闘機に愛された恒のいつまでも少年のような無垢で清らかなところが、戦時中の不安感や、基地内の喧騒を掻き消していきます。恒の素直で真っ直ぐなところ、家族思いなところ、実は学があるところ…などなど、六郎の恋心を刺激していく魅力がたっぷり。六郎のデレもとても微笑ましいです。
いつも2人一緒に共に過ごす幸せなシーンとは打って変わって、心が重く苦しくなるシーンもたくさんあって、戦争の怖さを目の当たりにする描写がそれなりにあります。今の時代に生まれていたら、こんな辛い思いをせずに2人で幸せになれるのにと思うこともあるけど、その時代だから2人は出会うことができたし、唯一無二にもなれたんですよね。
恒が、自分たちの関係を恋人じゃなく"ペア"だと言っていたのが印象的でした。
確かにペアって恋愛的なものも含めたそれ以上のところで繋がり合ってる特別な関係って感じがして、彼らの関係にしっくりくる。自分たちでそう評価してるところが素敵だなと思いました。
激動の時代を共に過ごした2人のその後は、素晴らしい読後感でした。細かい進路は、実際に読んで確かめて下さいね。
恒の弟の希も少しだけ登場します。前作の「天球儀の海」に登場して知っていたのでびっくり。恒も前作に"ラバウルの五連星"として登場していたので、2つのストーリーがリンクしているところも楽しめた理由の1つです。
コミカライズもされるとのこと。この世界観がコミックスではどう描かれてていくのか楽しみです^ ^
ラバウルの五連星とも称されるエースパイロットの琴平恒が厚谷六郎とペアを組み複座の戦闘機月光で活躍する様が描かれる本作。
キャラ文庫で復刊されてからのシリーズ3冊目。(元はこれが2冊目)
「天球儀の海」の主役である琴平希のすぐ上の兄なので、希の話題はちらちら出てきますし、ラバウル航空隊の話なので「蒼穹のローレライ」の秋山整備員が出てきます。シリーズものはこの重なっている部分が楽しくもあります。
恒の売られた喧嘩は買う性格や天真爛漫な様子は子供っぽくもありますが、その分怪我をしたとき病気をしたとき愛機が沈んだときとの差が著しくて、気付けば惹かれている自分がいました。
南国の空の美しさと相俟って戦争という残虐で愚かな行為がつぶさに描かれています。
ペアである六郎との信頼関係も、戦況が悪化するなかでの焦燥感も諦念も、なにもかもが鮮明です。没入して読みふけり、BLであることを忘れてしまいます。元のHolly Novelsというレーベルの懐の深さを改めて感じました。
本書は、本編である表題作のほか、「雨のあと」「約束の月」「鳥が還る日」「青のかたみ」の4編SSが収録されています。このうち「青のかたみ」だけ書き下ろしです。
すべてが本編の後日談で、あたたかい良作揃いです。二人の関係性を父と語り合う「鳥が還る日」が印象的です。また、「青のかたみ」では、これからがあるから思い出の品は何もいらないと言っていたのに、あの線香花火だけは別だったというのも、今じゃなきゃだめだと騒ぐ恒の願いをきいて行動する六郎の様子もとてもよかった。
牧先生のイラストも本当に素晴らしいです。途中コミック仕様になっている挿絵があり、コミカライズの一環かと思っていたら、コミカライズは別の作家さんが作画をされるのですね。