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表題作COLD FEVER(新装版)

高久透,記憶が戻った男 
藤島啓志,透を見守る男

同時収録作品花咲く花散る花開く

黒川祐一 公務員
谷口雅之 カメラマン

その他の収録作品

  • LAST FEVER 四季
  • 花咲く花散る花開く
  • あとがき

あらすじ

ある朝目覚めた時、透の時間は六年の月日が経っていた──。事故でなくした記憶を取り戻したものの、周囲に愛されていた“もう一人の自分”の影に苦しみ、さらに誰よりも憎んでいた男・藤島と同居していたことに驚愕する。藤島に見守られ、失くしかけた夢と歳月を取り戻そうとする透だが、藤島の裏切りが明らかになり──! シリーズ新装版、ついに最終巻。同人誌発表作に大幅加筆し、「同窓会」シリーズも連動して同時完結!
出版社より

作品情報

作品名
COLD FEVER(新装版)
著者
木原音瀬 
イラスト
祭河ななを 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
シリーズ
COLD SLEEP
発売日
ISBN
9784862635501
4.5

(170)

(136)

萌々

(14)

(10)

中立

(3)

趣味じゃない

(7)

レビュー数
34
得点
769
評価数
170
平均
4.5 / 5
神率
80%

レビュー投稿数34

どうしていいかわからなくなる

木原先生の作品はすべて読ませていただいておりますが、本作が1番心に残っています。

この作品を読んだ多くの読者さんは「痛い」とおっしゃいます。
私も心が痛かったです。ですが、痛みよりも「どうしていいかわからない恐怖」をより強く感じました。
暴風吹き荒れる台風の最中、外に出されたような気持ちです。
透や藤島さんと一緒に嵐の中に放り込まれてぐるぐる回されたような、もう何が何だかわからないという感じです。
感情をこんなに上下に揺さぶられる作品は読んだことありませんし、今後も出会えないかもと思っております。
唯一無二の作品です。木原先生を心の底から尊敬しております。

0

「愛してます」の終点

『COLD SLEEP』: 淡々とした展開、

『COLD LIGHT』:2人の過去を明らかにした。
 両想いで付き合って、幸せそうになりましたが、

『COLD FEVER』:ついに痛くなった!精神と肉体も痛いです!

以下は、COLDシリーズ3冊を読んだ後、『COLD FEVER』を中心とした個人的な読後感です。

「6年間」を忘れた透。

藤島にとって、
愛している人に好きだと言われて、愛されて、大切にしてもらって、蜜月のような「6年間」。
そして、すべて忘れられて、
それ以上のない幸せな日々を一瞬で無くし、
しかも、乱暴で理不尽で、藤島のことを嫌っている透に戻った。

透より藤島のほうが100倍も苦しいと思います。

藤島は、どっちの透も愛している。

「6年間」の透は、恋愛対象として愛している。

記憶が戻った透にも愛している。
それに、罪悪感を抱えて、罪を償うため今度こそ守らなければならないという責任感を持たれている。
頼りになる人がいなかった藤島にとって、
小学生の透と心を交わした時間はかけがえない宝物であり、
透は唯一自分で選んだ「もの」だし、
透に対して恋々の情を懐いている。

だから透から逃げない、
暴力を振るわれても、無理なセックスさせても耐えられた。

記憶が戻った透に嫌われている藤島が、
透に嫌な思いをさせたくないから、
恋愛対象として受け入れることができない。

藤島のすべての行動は、
透へ愛の表現だと思います。

ずっと一人だった透は、
一人は嫌で、誰かに構ってほしい。
帰る場所が欲しい。
昔も今も透に優しくしてる人間は藤島しかいない。
藤島は透の帰る場所となっている。

透は本当は藤島のことが嫌いではなく、
ただ信じてたら、裏切られるかもと不安していただけ。
「6年間」の自分が藤島と仲良くしていたことを嫉妬したり、
藤島がいなくなった時、気が狂うなるほど不安となったり、
実は藤島に執着し頼りきりになったほど好きだ。
藤島に対する暴力、暴言、強引なセックスもただ自己防衛、逃避だと思います。

公園で狂った透に
藤島が
「そばにいるから⋯」
「どこへも行かない」と伝えた。
透のために自分を犠牲しでも、一生愛を尽す覚悟をしたでしょう。

そして、
海で残った一枚「6年間」の写真を燃やしたのは、
開き直って記憶が戻った透と共に新しい未来へ歩き出すと決意をしただろうね。

藤島が優しい声で「透」を呼ぶたびに、
どんな想いで呼んでいるだろうかと考えて、
切なくなります。

最初から最後までどんな透でも、
温和な態度で彼を守り続けている藤島の姿に、
胸の中に温かい灯りが灯ったような気がしました。

本編の最後、
藤島の
「僕は君を置いて、もうどこへも行かない」
「行けないから」
という言葉

数年後、
透が谷口に自分にとって藤島は、
「体の一部みたいなもんだし」
と答えた。
2人は強く依存しているです。

『COLD SLEEP』に、
藤島が透に吐き出した
「愛してます」、
たどり着いた終点は、
お互いに必要とされ、
相手を失ったら、生きていけない、
切り離すことができない2人の愛です。

「同窓会」シリーズ
「僕は仕事より親よりも君が好きだ。君さえいたら何もいらない。君のそばにいられたらもう何もいらない」
黒川の病み付きになりそうな谷口への想い。
この2人も深くいつくしむことになり、
離れることはできないですね。
同棲して幸せになって良かったです。

痛くて、少し狂ったけど、
2組のカップルのハッピーエンドに感動しました。

0

『愛の本質』とは何か?その答えがこの本にある。

以前、ちるちるのYouTubeで木原音瀬先生の特集したとき、アンリ54世さんがこちらのCOLDシリーズを激推ししていたことをきっかけに、作品を知り、読みました。

これまで、木原音瀬先生の作品は何冊か読んでいました。その中でも、(自分にとっての)殿堂入りの傑作があったりするぐらい、木原音瀬先生は私にとって特別な作家さんなのです。……が、だからこそ、読む前から期待は高いし、ハードルもぶち上がっていたのですが、また……超えてきました。あぁ、もう、やられちゃいました。すごかったです。本当に。木原先生、本当にありがとうございます。

ラスト3行、特に一番最後の藤島の台詞『行けないから』に、この作品の全てが詰め込まれているように感じました。愛って何だろう?その答えがこの台詞に凝縮されている気がします。

一言では言い表せない、決して綺麗でも美しくもない、ずるくて、醜くて、子供くさくて、筋道が全然通っていなくて、でも、手放せなくて……3巻の透は、見ていて痛々しいと感じると同時に、すごく人間臭いなぁ、と。ずるかったり、矛盾したり、思っていることを素直に言えない。終盤、公園で、いきなり子供に戻ったみたいに、魂をむき出しにしながら慟哭するシーンが、とても印象的。もう、いろんなものが限界だったのだなぁ、と。

逆に、6年間の過去がバレてから、透から容赦なく降り注がれる暴力に、藤島はただひたすら耐えます。普通だったら逃げ出すよ、ってぐらいひどい暴力にあてられて、でも必ず透のそばにいる藤島。かつての幼い透にいけないいたずらをしたり、自分の心の弱さのせいで助けてやれなかった罪滅ぼし的な感情もあるのでしょうか……?いつか、記憶喪失の透が過去を思い出すかもしれない、それでも彼のそばにいる、と覚悟を決めたときにはもう、ある意味で、二人の行く末は決まっていたのかもしれません。

また私にとって特別な一冊と出会ってしまいました。出会えてよかった。これを読まずに人生が終わらなくてよかった、と、本気で思います。

そして、これからもたくさん木原音瀬先生の作品を読みます。木原先生、愛してます。

2

さぁここからは歯を食いしばって

シリーズ3作で、COLD SLEEPとLIGHTは透が記憶を無くした6年間なのでお話は繋がっていますが、このFEVERから読むのも面白いかもしれません。
前2作は「あれ…これは木原さんの中でも“痛くない、初心者オススメ”と言われるやつなのかな^^」なんて思いながら読む、ケーキやお花に囲まれた恋人のお話。
そこから透の記憶と共に暴力性を取り戻し大爆発、ツラ〜〜〜(涙)な展開に。

木原さんは読者の想像する安易な展開を用意してはくれません。
6年間藤島を恋人として接し、ケーキを作り、商店街の人気者だった透。同じ動作やものに触れる事で記憶が戻り、あの愛しい青年が戻ってくるのでは、とか。
記憶は戻らないけど、透が藤島をどれだけ愛したか、どれだけ藤島が記憶を取り戻した透の側で辛い思いをしたかを誰かが告げ口して改心するのではとか。
そんな、普段なら「はいはいベタベタ」と思うような優しい展開を心底望んでしまうくらい、読むのが辛かったです(彼女の作品は大体そうですが。)

6年間の自身を周りから求められ、今を否定された気分になる透もやり切れない。読者も2冊分6年間の透が好きですが、でも今の透が自分に妬んでしまうようなところも可愛いと思わせるところ、積み重ねた人生分の嘆き苦しみを子供のようにぶつけるしか出来ない不器用さが愛おしくなり、読んでいて凄く凄く面白い。

彼の中で藤島に対する印象が全て悪い方向で繋がってしまい、藤島の失態も多々あるのですがそれでも暴力過多。一番辛かったのは写真を捨てられたことです。もう戻らないもう一人の愛しい透の思い出が全て捨てられるなんて茫然自失でした。
最後まで読めば、全て捨てなければ今の透と真に向き合えなかったのだと思うのですが、それでも写真を捨てるのは余りに(略)

このお話は一人の人を何度も愛すること、その人という核とは、というのがテーマなのかなと思っています。それと共に、自分が知らないだけで周りの誰かはちゃんと愛していることもとても大切に描かれていると思いました。
恋人が居たらしいのにそいつは姿を現さない!と思っていれば「その人には会ってる。お前が気付かないだけで」と言われてしまう(もぉ〜〜藤島って事細かく教えてあげてよ…)自分が愛した人や物に全く感情が湧いてこないなんて、自暴自棄な透であれば更に辛いだろうと思いました。
生きてきた人生の積み重ねで様々なものに出会い付き合い人格を形成するのに、それらがすっかり無くなったらどうするのだろう。自分はどんな人間なんだろうと考えてしまいます。

そして巻末のお話を最後に一気に読みました。
黒川、自分と重ねる部分も多く純粋で重くて(笑)大好きです!
「今日は来てよかった。谷口とこんな風に話ができるなんて思いもしなかった。大人になってよかったなぁ」
「ずっと好きだった。ずっと好きでたまらなかった。高校を出てからも、何年たっても君のことが好きだった」
「あーあ、言ったよ。酒の力っていうのはすごいな」
「恥ずかしいな。恥ずかしいよ。死にたいぐらい恥ずかしいよ。明日になって全部忘れてるといいな。僕も君も」
捻りない言葉と融通の効かなさ、そして谷口と居るようになってどんどん世界が広がっていくのが最高でした。

3作通して、伏線の回収具合も筒が無く好きでした!

3

最高傑作…(拍手)

前の巻を幸せな気持ちで読み終え最終巻は記憶が戻ってしまうんだろうな~と思い読み始めた初っ端からそれで息が止まりました。

本来の攻めに戻ったのですがそのあまりの暴力性には悲鳴を上げそうになりました。
あまりに痛々しくて胸がズキズキして…しおりを挟む余裕なく本から手を離し距離を置いてしまったのは初めてです。
泣く時間が必要でした。

酷い部分を持つ攻めでもあるのですが彼を責めたり憎むことは決してできないんですよね。
彼の生い立ち、悲惨な過去…痛みを知り彼なりに自分を守る方法を見つけ…それでも彼自身苦しみながらも生きていくしかない姿を見ていると…言葉がつまるんですよね。

そんな彼と一緒にい続けた藤島さんのことを思うと…また泣きそうになります。
自分に懐いていた子ども時代の透…事故で記憶を失いまるで別人になった透…同一人物であれそんなかけがえのない人を二回なくしたようなものですよね。
それでも今、透と藤島さんの関係がまた別の愛で繋がり続けているのは嬉しいのですが…
藤島さん自身にその気はなくとも一読者としてはやっぱり比べたくなってしまうんですよね、記憶を失くした透との時間が一番幸せだったんじゃないかって。

今回は一気読みしてしまいましたがまた時間を置いてじっくり読み返したいです。
私の中で一番大好きな作品です。胸を張ってそう言えます。

1

ベスト オブ アダルトチルドレン‼︎

BLの設定に多いACだけど、その中でもこれは群を抜いて秀逸だと思います‼︎
生々しい感情の揺れが、透の抱える苦しみが凄まじかった。

藤島も機能不全家族の中で育ったけど、それでも「嫌われるのが怖い」と思える程には母親からの愛情を感じて生きてこれた。
典型的な毒親とその子供の関係だけど、子にとっての親の愛情がどれ程大きいかを物語ってる。

0と1には1と1000よりも大きい差がある。
的な事を誰かが言ってたのを思い出します。

藤島が透の為にしてた事は、贖罪や同情もあったかもしれないけど、1作目からずっとブレないのは藤島の「透に幸せ」になってもらいたい。という願い。
結果、「全部リセットして、何のしがらみのない楽しい人生を送って欲しい」って藤島の願いが、透にとって本当に1番幸せな状況だったんですよね…
そんな藤島の願いも虚しく、記憶は戻って透は混沌の中に落ちて行くけど…
どれだけ暴力をふるわれても痩せてボロボロになっても側に居たのに、透に新しい恋の気配を感じると離れる決断をする。
藤島からすれば、自分や過去への憎しみから解放されて幸せになって欲しい。
透の変化も執着も、藤島には自分に対する変わらない憎しみとしてしか届いてないんですよね…。

ただただ、相手の幸せを願い続けれる。どれだけ相手が変わろうと、それだけはずっと変わらない。
藤島にも透に対して執着や依存がある。
でも、色んな感情がある中で何よりも強い気持ちは通るの幸せを願う心なんですよね。。

純愛ですよね!
小さい子にイタズラしようとしてた醜悪とも呼ばれるような恋愛が時を重ねて純愛にまでなるなんて(´;ω;`)

藤島のためにも、透はずっと幸せで居て欲しい。。


ただ、この2人の生きてきた過程が苦しすぎて、黒川の甘ったれた感じに妙にイライラしてしまった苦笑

6

言葉にできない感情が湧き上がる

シリーズ3巻目。「COLD LIGHT」で、過去を乗り越えた藤島が記憶を失ったままの透の求愛を受け入れ、二人は恋人同士になったのですが…。突然透は交通事故以前の記憶を取り戻し、6年間の何もかもを忘れてしまいました。事故のこと、藤島を愛したこと、パティシエとして働いていたことも全部。
私は、ひょっとしたら透は6年間の記憶を失わず二人の自分の間で葛藤するのではないか、と予想していたのですが。甘かったです。

記憶を失う前のカメラマンになるという夢を実現させるため、専門学校に通い始めた透。6年間の自分の影に苛立ちながらも、藤島と暮らすうちに少しずつ日常を受け入れていきます。透は黙って自分を支え続ける藤島に心を開きかけますが、藤島の部屋に隠されていた写真を見つけ自分たちが恋人同士だったと知り、態度を一変。藤島に激しく暴力を振るうようになります。殴る蹴る、セックスを強要し、口汚く罵る描写に背筋が凍ります。
友人の楠田や交通事故の被害者遺族から6年間の真実を知るうち、透の気持ちは揺れていきます。なぜ藤島は自分を守ったのか。知りたいけど聞けない。そばにいたいのにいられない。矛盾する感情の中、透は藤島から離れられない自分に気付きます。
藤島が見ていたのは今の自分ではなく6年間の自分だったと知った透は、腹いせに藤島が大切にしていた二人の6年間の写真を捨ててしまいます。ショックを受けた藤島は家に帰らず…。
公園で藤島を見つけ追いかける透。逃げる藤島。透は藤島に守ってもらえなかった幼いあの日をやり直そうとしているように見えました。

そして、藤島が透をおいて帰ろうとしたとき、ついに透の本音が爆発します。「あと、あと…何をしたら、あんたは俺のそばにいるの」、「旅行に行くか」、「ケーキをつくってやろうか」。「あんたが好きな『6年間』のふりをしてやるって言ってんだよ」。泣きながら必死に告白する透が不器用でいじらしくて、胸がふるえて仕方ありませんでした。
藤島は幼い透も6年間の透も愛していたけれど、この瞬間、今の透も愛しく思ったのでしょうね。
不幸な出会いから始まり、離れようとしても離れられない二人の深い縁。それゆえの嵐のような悲劇を経てやっと訪れた救いに、言葉にできない感情が湧き上がります。カタルシスというのでしょうか。SLEEPもLIGHTも、このためにあったのだと思いました。この震えるような感情を味わいたくて、私は木原先生の作品を読むのを止められないのです。

透が藤島のことを「優しくて、温かくて、そして冷たい男」と表現したことに驚きました。タイトルのCOLDには、透から見た藤島のことも含まれていたようです。
その後の話、「LAST FEVER」で、二人が順番に熱(まさにCOLD FEVER)を出すエピソードが微笑ましいです。
透が6年間の自分と張り合うように、藤島の裸と自分たちの絡みあう姿を撮ったりするのも可愛いくて。

「同窓会」シリーズのカメラマン・谷口は、透と互いに刺激し合う良き友人になります。谷口の恋人・黒川も、谷口に半分嫌がられながらも二人の協力者として参入(笑)。
カラーの違う二組のカップルがリンクすることで物語の世界が広がったような気がします。世の中、いろいろな恋愛があり、いろいろな恋人たちがいるのですものね。

物語の最後には、透が藤島の好きな店のケーキを買って帰るエピソードが。ケーキは二人を甘く結ぶアイテムとして健在です。強がりながらも藤島を抱きしめることを止められない透は、とても幸せなのでしょう。あとがきの次のページ、初出一覧の上のイラストは、そんな二人なのかなと思いました。

6

記憶を失くした7年間の透、さようならということ。

前作、二作を読んで、藤島を好きな優しい記憶を失くした透が私は好きで好きで、透がいい子で切なくてなのに懸命に生きていて、痛い作品と言われていたけど、最終巻はどんなだろうと痛いとはこんな感じかなと、私は甘く見ていた。

「COLD FEVER」でまず最初に面食らったのだが、ページを開いた一発目から記憶を取り戻した透がいたのだ。

あの穏やかな優しいパティシエの才能豊かな藤島大好きな透がいないのだ。
読んでも読んでも現れない。
そこには正反対の暴力的な暗い目をした透がいるばかりだった。

どうしてこんなことに。
思わずこちらを読むのをやめて、「COLD LIGHT」を読み返してしまった。
何か読み落としているのかもしれない。
でもこの展開につながる情報なんて何もなくて、あきらめて「COLD FEVER」を読むと、記憶を取り戻した暴力的な透がいるばかりだった。

記憶を取り戻した透が言う。
「7年間の俺がいいんだろ」

暗い目をして叫んで苦しんでいた。

私はそして記憶を失くした透を諦めた。
永遠にさよならということだった。
それはそれはとても胸が痛みつらい気持ちになった。

藤島はこんな気持ちだったのかなと想像した。

記憶を取り戻した透が、7年間の透という存在に苦しめば苦しむほどに、記憶を取り戻した透から目が離せなくなっていく。

「一人は嫌だ」ともがいて泣き叫び苦しむ姿に涙が出た。

なんだよ、これ。
ホップ、ステップ、ジャンプのジャンプが飛び抜けている。
小説、前作二作を壮大な前フリにして高久透という男の苦しみ、もがきを描き切っている。

写真で成功して良かったね、生きてて良かったね。

「COLD HEART 」もCD化してほしい、そして透の声が聴きたい。

7

やはり痛い

「COLD SLEEP」「COLD LIGHT」に続く第三弾(ついに完結)
藤島の一番恐れていた展開。
透が過去の記憶を取り戻し、今度は記憶喪失だった6年間を忘れてしまいます。

このままでは終わらないと分かっていたものの、「COLD LIGHT」で二人が幸せに向かって進んでいただけに、何ともせつない。
日々繰り返される暴力も激しくていたたまれません。
あんなにも藤島を好いていた透がそのことを全く覚えていないなんて・・・。

そして、透の暴力にも文句ひとつ言わず耐え続けていた藤島が、記憶喪失だった6年間に取った幸せだった二人の写真を透に捨てられてしまった時の嘆きようは痛くてたまりませんでした。

壮絶な人生を歩んできた二人だけに元通りにはならないとしても、是非幸せになってほしい

5

私にとっては萌えではありません。

木原さん大好きです。木原さんが書かれる執着攻執着受が大好きです。
COLDシリーズの中で一番心が痛い巻です。
この最終巻は読んでいる途中からつらい、しんどい、苦しいと三重苦で「萌え」とは程遠い感情なのですが、時間が経つとまた読みたくなってしまう不思議な作品です。

COLD LIGHTでのラブラブから一気に急降下する空気で始まります。
透目線でお話が進んで行くのですが、暴行されたり、無理やり乱暴にされても、私には藤島の気持ちがすけて見えてしまって涙なしでは読めませんでした。
藤島が透の目を隠してセックスする描写がもう今思い出しても悲しくて苦しくて涙が出ます。
優しかった透のことが好きだったからこそ、6年幸せに二人で暮らしていたからこそ、同じ「透」だからこそ、藤島は透を見捨てる選択肢はないのだと思いました。
前作で「記憶が戻って今の自分がいなくなっても、藤島のことを好きだと自分で説得する」というような会話がありました。
藤島が無理やりされる度に、暴行されるたびに、その言葉が私の頭の中をよぎり藤島に感情移入してしまい涙も止まらず苦しい気持ちでいっぱいになりました。

最後に透は藤島に執着する形で、藤島はそれを受け入れる形で終わります。
すごく木原さん節が光るエンディングのような感じがします。
白黒はっきりした終わり方じゃないこの感じ。
ハッピーエンドというより、まさに「木原エンド」です。
読み終わった後、もやもやとしたものも残るけど、どこか暖かいようなそんな感覚です。

長々と失礼しました。

9

切ないお話のバイブル的存在

 この小説は今まで私が読んだBL小説の中で、一番好きな作品です。なぜなら、私は切ないお話が大好きだからです! この本は私のバイブル的存在です。

 この本の内容を簡潔に書くと、とにかく切なくて痛いです。この本「COLD FEVER」は、COLDシリーズ(全3巻)の最終巻です。
 前作までは、色々ありつつも、二人はとてもラブラブでした。そこからの、まさにどんでん返しな展開が切なくて痛いんです。

 1巻から、記憶を失った透との同居生活が始まり、2巻ではとてもラブラブでした。その経緯があるから、また切ないんです。
 記憶を失っていた透は藤島のことを、とても大切にしています。そして、藤島も透のことをとても大切に思っています。
 けれどこの最終巻で、記憶の戻った透にあることがきっかけで、暴力を振るわれ、性欲処理の道具にされて……
 愛する透にそんな風に扱われて、だんだん目が死んでいく藤島が想像できて、胸がとても痛かったです。

 「切ない、痛いお話が好きだ!」という方は、ぜひ一度、1巻から読んでみてください。きっと忘れられない一冊になります。

6

涙なしには見られないクライマックス

Sreep→Light→Feverの順で読了。
2日で(後半2冊は半日)で読み終えました。

読み終えてから6時間…まだまだ余韻に浸っています。

読んでいない方は事前知識ゼロでSleepから読むことをおすすめします。
Feverからシリーズに入るというのも面白そうなので、誰かチャレンジしてレビューしてくれると嬉しいです(笑)

※ここからネタバレ入ります。

青春の過ち。そして妻子を捨て、透を救った罪。
人を殺した罪。
2人の罪の行き着く先は……

作中、Sleepの頃とはかわった藤島と全てを失った透の対比が印象的でした。
透目線で進む物語ですが、藤島の心中も想像できて二重の切なさが胸をしめつけます。

過去の記憶を失った透が二度と帰ってこないと思うと、何とも言えない虚無感におそわれます。
私たちの記憶と、捨てられた写真の中に確かにあった彼の人生は終わってしまったのです。
しかし、記憶を取り戻した透の中にも6年間の痕跡はあると思います。
難しいですが、記憶があるかないか違うだけで、どちらも透です。
透ならパティシエでもカメラマンでもない未来であってもやっていけるような気がします。

クライマックスは必見です。
過去の写真を捨てる場面から、公園へ。
ついに爆発する透の感情に号泣しました。

Lightで終わらず、Feverの悲しいだけではないこの終わり方だったからこそ、coldシリーズは評価されているのでしょう。
スピンオフはまさかの楠田が主人公ということで読むのが楽しみです!(作中で彼女という単語が出てきたからまさか彼が主役なんて想像もできなかったのです)

以下蛇足
どうしてあのタイミングで記憶を取り戻したのかということについて自分なりの考察を書きます。私は、透のフランス行きが決まったことが重要な意味を持つのではないかと考えます。透は無意識下では過去の自分と接していて、報われない彼を助けたいと思っていた。その一方で、今の自分を明け渡すのは躊躇われた…。月日が経ち、フランスに旅立つことになった。そのことと、藤島の何らかの言動で過去の記憶を取り戻す決意に至ったのではないかと(無意識下で)。完全な妄想を失礼しました。

9

穏やかな毎日を迎えるために

初読みの際には2人のその先が知りたくて躊躇いもなく読み始めたのですが、再読するには勇気とタイミングが必要になる1冊です。

記憶が戻った所から、デジャブのような光景が始まります。
混乱の挙句2日間もの間行方の分からない状態になり、藤島の心配と来るべき時が来た、その覚悟が語られずとも緊張感を伴います。

透の中にある修復出来ない歪が重く蜷局を巻き、逃げ場のない藤島に容赦なくぶつけられる。
藤島の飲み込んだ言葉も想いも何一つ語られる事なく、透の今をそして未来を優先させる姿にこみ上げる感情で胸がいっぱいになりました。

そして、透の何気ない気まぐれに6年間の当たり前が詰まっていて苦しくなります。

透のそれまで愛されなかった絶望もそれでも愛されたいと渇望する気持ちも支離滅裂になりながら、6年間の透と対峙する勇気も持てず過ごす毎日。
酒に溺れ、快楽を貪り消費されてしまう日々のむなしさに早く気付いて欲しいと気持ちだけが急かされます。

藤島が透をどう守ってきたのか知る喜びと怒り。
荒ぶる気持ちを沈める方法を知らない透のトラウマを乗り越えようとする足掻き。
そして心の奥底に眠らせた素直な気持ち。
依存という言葉が使われますが、幼い頃の記憶のやり直しをしているような感じがします。

ようやく迎えた穏やかな2人の姿に、それでハッピーエンドだと思えないざわついた気持ちが残りますが、海で最後の写真を燃やした藤島の、今の透だけを見つめようとする強さと潔さに、今度こそ間違わずに寄り添って欲しいと願うばかりです。

「LAST FEVER四季」で同窓会シリーズの谷口との出会い。
透の憧れが詰まった存在に、考えるだけでまたこみあがるものがあります。
透の乱暴な言葉も少しずつ藤島を思いやるものとなり形は違えど繰り返す核のようなものはやはり一緒なのだと嬉しくなります。
時の流れに少しずつ本来の透と6年間の透が重なって見えるようになり、多少の疲労感に包まれながらも大きく揺さぶられた心は落ち着く事が出来ました。

13

コールドシリーズ真骨頂

シリーズ中一番読みごたえがあり、好きです。

突然記憶が元に戻り、6年間の記憶を失った透の苦悩が真に迫っていて、混乱と孤独と言葉にできないアンビバレンツに慟哭する姿には胸を打たれました。
これまでのお話にどこか虫のいいありがちな印象をぬぐえませんでしたが、このお話のおかげでこのシリーズは価値あるものだと思えました。

痛さは私はあまり気になりませんでした。描写がどこか淡々としていて、すべてを放棄したような透の空気になっていて、痛みを感じることも麻痺してしまった透に共感していたせいかもしれません。
透の気持ちがはっきりせず混沌としているのも精神崩壊を防ぐための防御機構が働いているためだろうと思われ、そういった言葉にしない部分での人物設定が素晴らしかったです。
安易に物語の終わりですっきりハッピーエンドにしないところも好感が持てました。あれだけの精神的苦痛はそんなものでは癒せないだろうと思うからです。数年後も少しずつ回復している様子は見せても完全に癒えてはいない傷を透に感じて、「やるな」と思わせられました。

木原作品はあまり読んだことがなく、これが2本目のシリーズですが、他も読んでみたいと思いました。

5

再生の物語

最終巻「COLD FEVER」いきなり、透の記憶が戻ったところからスタートです。
記憶喪失になり記憶が戻ると記憶を失っていた間の記憶はまたまた失われるらしいですね。
人の脳って不思議。
透も例に漏れず・・・事故を起こした時間に戻ってしまいます。
目を背けたくなるような狂気と暴力。
そんな中から再生するふたり。
最後にふたりで出かけた海で、藤島がたった1枚残っていた記憶を失っていた頃の透と自分の写真を燃やすシーンがとても印象的でした。

2

さて、最終巻となりました。
のっけから記憶が戻るとかΣ(´□`ノ)ノおぉぃ!!!!!
そんでナニがえげつないかって言うのが、甘い期間が長すぎる!
甘い蜜をたくさん吸わせて、吸わせるだけ吸わせて
昇ったところを叩き落すみたいな。
肉体的にも精神的にもちょっとオイタが強い作品だったカナと思います。

記憶を失っていた攻。
受への想いを募らせはれて前回結ばれた二人。
不安と隣り合わせの受だが、やっぱりね、愛した男に愛されて幸せはひとしおでしょうよ。
ところが今回、受を憎んでいた時代の攻に戻ってしまう。
あの甘い記憶は一切無い。
にくい気持ちオンリーな攻。そして甘い期間に撮りためた写真が露見することで、おぞましい攻撃が始まってしまうわけでございます。

結局、前回ゆめに描いていた、甘い期間を覚えている攻とはならなかったというわけですな。うんうん。
受にしてみりゃ、その長い期間で猶予期間?
気持ちの整理をつける時間が短かったとはいえないのだろうが
なんともはや。
離れず、肉体的攻撃をうけてなお~な健気さに感服してしまいました。

ラスト。
結局え?そんな展開!?
ちょっと納得がいかないというか、、、そうなのか
とちょっと残念な部分があり、モヤモヤしてしまったので今回ちょっと評価低めです。
気持ちの整理をつけてからもう一度くらい読み返したいかなと思うのでした。

3

呼吸困難

あとがきで書いてありましたが、
COLDシリーズはFEVERの為にあったといっても過言ではないです。

2作目も苦しかったですが、今回の比じゃないと思いました。
勘違いや思い込みが生んだ悲惨な行為、それにただ耐える藤島の愛。
もう本当に冗談抜きで号泣しながら読みました。

あまりの痛々しい展開を巻き起こす透を、時折腹立たしく思ったりしましたが、
しかし、怒涛の展開に一番戸惑って苦しんでいるのは彼なんだと思った瞬間
なんて悲しい物語なんだろうと。

誰が悪いわけでもない、なのにどうしてこうも幸せにならないのだろうと。
でも、そこにたまらなく惹かれてしまうのですよ。
これだから木原音瀬さん作品やめられないんです。

痛いのが苦手な方にはキツイと思いますが、
COLDシリーズ、読んで損はないです。

5

事故から6年

透の混乱振りがとても伝わってきます。
もう痛すぎ。
COLD SLEEP と COLD LIGHT での透が本当にイイヤツだったので
その変化振りに圧倒されました。
悲しい過去がなければ、本来 透は「記憶をなくしていた時の透」のような人だったんだと思って悲しくなりました。
この巻は透視点で描かれていますが、藤島の愛の強さには脱帽です。
自分が藤島だったら耐えられないと思ってしまう。透に藤島がいてくれたことは本当に救いです。

この COLDシリーズはBLとかの枠を超えて文学として本当にすばらしいと思います。最後に6年間の透にはもう会えないのだと思うとなんだか本当に切ないです。

5

互いに傷つき、傷つけ合ってボロボロになった果てには…

自分なりに覚悟を持って読みましたが、そんな覚悟さえ脆く壊れて行きました。“さすが木原音瀬!!”ともいう文章力。。。恐るべしです。

幸せで甘い生活は突然一変します。透はこれまで藤島と共に過ごした6年間の記憶をすべて失い、代わりにあの暴力的だった時の記憶を取り戻します。

ある写真をきっかけに透の藤島に対する暴力の日々が始まります。あまりにも痛すぎて何度も心が折れそうによりましたが、この2人の行く末を見届けたい一心で読み続けました。キャラを、そして読者までをここまで地獄に突き落とすような感覚にさせる木原さん…もう1度言わせてください、恐るべし木原音瀬!!

藤島のDOLD LIGHTでの決意、ゆるぎないものだったと改めて実感いたしました。ふつうは誰でもこんな生き地獄から逃げ出すけど、藤島は耐えます。どんなことをされても、どんな罵声を浴びせられても。

互いに悩み、苦しみ、ボロボロになった果てにあるもの、見つけ出した答え…最後の透の告白は涙しました。何度読み返しても涙が出そうになります。

LAST FEVER四季は読み手にとってもかなり心をいやしてくれるものでした。結ばれた後の2人が四季を背景に描かれています。不器用すぎる透の藤島に対する愛情がひどく優しくて心地いものでした。これをよんで、以前の透より、今の透の方が大好きになりましたw

「同じ人に何度も恋をする」

すごく心に残った藤島のセリフです。素敵ですねw

木原作品に、COLDシリーズに出会えてよかったです。これからの私にとっても一生心に残る作品です。

5

いきなり・・!?さすがです<m(__)m>

いきなりですか!?
しょっぱなから驚かされました。
先を読んだつもりでいたんですが、まさかいきなりとは思いませんでした。
「COLD」シリーズの高評価はダテじゃありません。
読むのであれば、ネタバレレビューを読まずに読むことをお勧めします。
さすが「木原音瀬」と思える作品なので
悩まず読むべしです。

4

攻めが好きになる3作目

子どものときから愛情をまったく与えられなかったため、トラウマだらけである反面、
スマートで器用、要領が良く、パティシエや写真家という分野で才能を発揮する男が透で攻めです。
裕福で、人が羨む類の家の一人息子だが、実は両親は不仲で、複雑な環境、異常な母親に支配されて育った男が受けで藤島です。

コールドフィーバーとは木原さんの造語なのでしょうか。
COLDシリーズは三巻あり、書名の意味を知りたくて辞書を引きました。
ぴったりの訳は載ってなかったので、想像するしかありませんが、
冷淡、よそよそしい、眠り(1巻)、光(2巻)、発熱とか熱狂(3巻)とかそういう意味なのでしょうか。
2009年春のリブレ出版の木原音瀬フェアがあり、この本を買った時、小冊子「愛する人は誰ですか」が付いてきました。

自動車事故で過去の記憶がなくなってしまった攻めの高久透を 
義兄弟の受け、藤島が引き取ところから始まります。
1巻と2巻で、生い立ちと、記憶喪失している間に二人が恋人になる過程が、書かれています。
3巻目で元の記憶が戻り同時に6年間の記憶がなくなる。
COLDシリーズは大作です。

この3巻目はなかでも読み応えがすごいです。
なぜならこの巻の透が一番魅力的だからです。
記憶喪失の前、記憶喪失中、記憶が戻った後、それぞれ藤島に対する透の言動、感情に変化が起こります。
3巻目の透はトラウマだらけの人間で藤島に暴力を振るう男です。
でもその暴力は求めている相手に好かれたいという気持ちにブレーキがかかった結果の暴力です。
小さいころ藤島に裏切られたと思っているので、
藤島の顔をみるたび暴力を振るっています。
私にはすごい執着心にみえます。
「好きだ!仲良くしたい!」という心の叫びと
「裏切られた!もう二度とあんな思いしないぞ!」という心の叫びに
引き裂かれています。透は。
それが、記憶喪失が戻ったら戻ったで、
「記憶喪失中の自分にはかなわないかもしれない、恐怖!」というのも抱えてしまいます。
よく藤島は逃げなかったなと思います。
嫌がられて暴力受けても透を見捨てなかった。すごすぎます!
透も暴力でストレスを発散しているという単純なものじゃないのです。
最後は藤島の胸に縋って「どうしたら側にいてくれる」と嘆願するようになります。
その後の話でも透が今までと真逆に藤島を大切にする話になっています。

16

辛く痛い話ですが

COLD シリーズの完結編です。
これというきっかけもなしに、突然透の記憶が戻ったところから始まります。
過去のことは思い出したけれど、逆にこの六年間のことは何一つ覚えていません。
透にとっては、何もわからないまま六年経っていて、なぜか大嫌いな男と同じ家で暮らしていて、そしてこの六年間の透は、暴力的な自分と違って、穏やかで周囲に好かれていたらしい。
透は苛つきます。

藤島はこの六年間自分は透と恋人同士だったと言えないのですが、透は偶然自分と藤島が裸で抱き合っている写真を見つけてしまい、逆上します。怒った透の暴力シーンはかなりひどいものでした。
最初は子供の頃を思い出し、藤島が記憶を失った自分をたぶらかしたのだと腹を立て、やがて記憶を失っていた六年間の自分に嫉妬に似た気持ちを抱きます。自分の存在価値を探す透は悲しかったです。

穏やかだった六年間の透は、実際の透とはまるで別人のようですが、子供時代の可愛かった透のことを思うと別人なんかじゃなく、あんな目に遭うことがなければ、こう育つはずだった本来の透なのかもしれないと思えました。
今後の二人が幸福に向かうことを祈らずにはいられません。

9

透のことがすごく好きになりました。

遂に最終巻です。
ここまでの2作は途中少しくらい休憩入れながら読んでもいいかなって感じで読めたのですが、この巻は最後まで一気に読まずにはいられませんでした。
この物語が「激痛」と評価されていた部分が次から次へと出てきて。
少しは覚悟をしていたつもりでしたが、それがここまでいくつも波状攻撃になって押し寄せてくるとは思ってなくて。
けれど、それゆえなのかどうなのか。
これまでの2作よりも惹きつけられるところが多くて。
目を離せなくて。

透が変わっていく様がこわくもあり痛々しくもあり。
そして、時には幼くも見えて。
無器用な感情やら衝動やら抑えきれない激情やらいろいろぐちゃぐちゃで。
さすがに最終的にああいう執着というか依存の仕方にまで発展するとは思ってなかったので少し驚きました。
そんな透を見守り続ける藤島はどこまでも透重視な感じで。
どんなに虐げられても透に大きな傷を与えた過去を悔いているのか離れることはないし手離せない。
ずっと透を見てきた中で、その時その時に想う気持ちがあって。
それぞれに性格が違っていたとしても何度でも惹かれる部分があって。
2人が最後にはやさしい気持ちで寄り添えるようになったことが嬉しかったです。

あとは6年間の真実を知る楠田と透のシーンがどれもなんだか心に沁みるというか。
楠田の言葉がどれも胸をしめつけられるようなものが多くて。
透は楠田みたいな男と友人になれてよかったなぁと思いました。

そして、谷口や黒川ともリンクしてきて。
「いつか僕がそばにいてよかったって、君が思ってくれたらいいのに」という黒川の言葉がとても印象的でした。
お互いに相思相愛ではあるけれども、その恋愛の比重みたいなものが違ってて。
黒川は決して頼りになる男ではなくて。
そういうのを自分でもわかってるからどこかで自分と同じ程には思ってもらえてないみたいなところもあるのかな、と思ってみたり。

この巻を読んで透のことがすごく好きになりました。
決して、良い子というのではないし、いろいろ問題な部分もあるけれど。
それでも読み終わってみると一番透が好きでした。

きっと1回読んだくらいではまだまだ理解できてない部分とか読み落としてる部分とかもあって。
少しも全部はわかってないけれど、いい作品に出会えてよかったなと思えるシリーズでした。
またゆっくりと読み返したいと思います。

9

現実のはじまり

私は、甘い夢が覚めて、ようやく現実が始まったという印象を受けました。
シリーズ中で一番好きなのはこの巻で、この透です。
捻くれてねじ曲がった愛情不足の彼がそのまま愛しいです。
大好きなお兄ちゃんに裏切られてから、心からずっと血を流し続け、愛情を求めてさすらっていた気がします。

前回読んだ時は藤島に同情しきりだったんですが、藤島が残酷な気がしました。
過去の記憶喪失中の透をまだ追っていて、目の前の透を受け入れていない感を受けたので。
償罪しなければならない他人。
透とはそれだけの関係であって、責任感や義務のように思いました。
どれだけ透が残酷なことをしても、受け入れずに心が希薄なら、ただの中身のないものにあたっているだけ。
肉体を傷つけているのは透なのに、精神に傷をつけられているのは透で、余計に痛さが増す気がしました。
どちらも満身創痍で、思いあえず向かい合えないままなのが、悲しかったです。

自分の存在意義や矜持を受け渡して初めて、あの時に藤島に現在の透の気持ちがようやく届いたのだと思います。
痛い、切ない、言葉にするのが難しい関係です。
幸せになって欲しいと、祈るように思います。

9

魂の慟哭が 胸に突き刺さる

のっけから冷や水を浴びせるかのようなプロローグ。
ある朝突然、記憶を取り戻したかと思えば、まるでその代償のように藤島との6年間は忘れ去られてしまう。たぶん…とは思っていたけれど、最悪の展開。
それまでの盤上の石が、ものの見事に色を変えていく。

誰も愛さず、誰からも愛された記憶などなく、それなのに“偽者の自分”はちゃっかりとうまいことやってたらしい。
透にとってその事実は、他の誰でもない自分に裏切られたことに他ならない。
けれどその怒りの矛先は、ある写真をきっかけにして藤島へと向けられることになる。
すべては藤島のせいだと思い込み、殴る蹴るの暴行の果て、幼い日の自分にトラウマを植え付けた相手を痛めつけることで「過去の(弱かった)自分に勝ったんだ」と笑う透。
それに抗おうともしない藤島。その真意は、償い、もしくは憐憫?
愛情と憎しみの波間に己を見失い、傷つけ、傷つけられ、やがてふたりに訪れるのは、一体何なのだろう。

さんざん持て余してきたはずの、己の感情の正体に気付いた時、透が発したその慟哭の凄まじさ。

それまでの目を覆いたくなるようなDV描写よりも、このシーンに胸が詰まった。

正直なところ、重いし、暗いし、しんどい話なのだ。
決して手放しで喜べるようなハッピーエンドではないし。
だけど人の弱さや愚かさ、その醜悪さを描ききることで、人は誰かを愛さずにはいられない生きものなんだと改めて思い知らされる。
こんなにも圧倒的なまでの熱量で心に訴えかけてくる作品には、そうはお目には掛かれない。

18

怒濤の展開に怯むなかれ

シリーズ最終巻、決着編。ある日、目が覚めた透は鏡に写る自分の姿があまりに記憶と違い混乱する。更に事故に遭い6年もの月日が経っていることを知り愕然とするが…。

ハイ、いきなりです。恐れていたその「ある日」から、いきなり始まります。
透の驚愕もよーくわかるが、思わぬ出だしにヒエ-と私も愕然としました。ボーゼン……。
覚悟していた透の記憶再喪失(正しくは戻ったというべきなんでしょうがBL的には喪失じゃい)に、二人の甘い時間と読者の心は木っ端みじん、過去のツケがまわってきます。
これから読まれる方は、心を強くもって臨まれることをお勧めします(救心!救心!状態)
んが、読後感はよいですから!………たぶん。

まっさらな透→藤島と視点が変わってきた前2冊。
最終話は22歳でとまったままの本来の透の登場です。
ケーキを食べさせては幸せそうにしていた透の豹変ぶりは覚悟していてもなおショックで、透の視野の向こうの藤島の辛さを想像しては(私が)死にそうになりました。
藤島が透の仕打ちに耐えられるのは、あの幸せの記憶があったからなのかも。
でもそのための6年だったとは思いたくないです。

この新装丁版で再読組の私は当時、透の怒りと絶望に同情しつつも、藤島の胸中を思うことで精いっぱいだった記憶があります。
黙って耐える藤島の姿があまりに痛ましすぎて。
でもこうして改めて読み返してみれば、透がどれだけ寂しい人間かがよくわります。
それが何気ない描写の中ですら読み取れてしまうことに、胸が潰れる思いでした。
何より切なかったのは、透の本質は確かにあの優しかった透なんだと思わせる瞬間があったこと。
藤島を傷付けながら自らも傷付き、愛し方も愛され方も全く分からない透の悲鳴が、文章の端々から聞こえてきます。
悪態も暴力も虚勢も全てはがれ落ち、最後に残った透の姿は寂しい、寂しいと泣く小さな子供にしか見えませんでした。

異常な愛情で雁字搦めにされてきた人間と、特別な愛情を誰からももらえなかった人間が惹かれ合う不思議を考えてします。
BLにしばしばみられる供依存ですが、この二人もまさにそう。
しかし彼らほど互いを必要とし合い、その必然性を感じられる関係は中々ないんじゃないでしょうか。

正直なところ読み進めるのは辛い話ですが、二人のこれからの幸せのための生みの苦しみのようなものだと納得できる内容なので、これでよかったのだと思っています。
んが!精神肉体どっちも痛いのがダメな方はきっぱり立ち入り禁止。進入禁止!
耐性がある方は是非チャレンジして欲しい。
読まないでいることがもったいないほどの、木原作品の中でも圧倒的な力をもった作品です。

~独り言~
藤島のお尻の将来が心配。(土下座)

14

1ページ目から平手打ちを食らったような衝撃

記憶喪失モノ。
「COLD」シリーズ。
ついにきました。

・記憶をなくす前の高久透

のターンw

1ページ目から、記憶喪失の喪失スタート。
この出だしは、平手打ちを食らったような衝撃。

「COLD SLEEP」
・記憶をなくした高久透 視点。
からスタートして、過去がわからぬまま恋をして

「COLD LIGHT」
・すべてを知る藤島啓志 視点。
過去と真実を知る。それでも愛してるのっ!

「COLD FEVER」
・記憶をなくす前の高久透 視点。
不安、焦り、苛立ち、すべて大爆発!
それでも、たどりつく先はひとつだった!?


私は、もう1ページ目から
何かもう、また木原先生にヤラれた~~~っ!!!
と、思いましたよw

・記憶をなくした高久透 視点。
・すべてを知る藤島啓志 視点。
ふたりの気持ちを読み干した後だから

この
・記憶をなくす前の高久透 視点。
が、キツくてさ( ´Д⊂
何度も何度も助けを求めながら読んだ。
でもね、木原先生のシナリオには助けを求めても
スーパーマンは、やってこないんだよっ。
最後まで、自分ひとりで読み干すしかないんだっ。

「同窓会」シリーズが、ここにきてやっとしっかりリンクした。
もぉ、なんかものすっごいメインディッシュをたらふく食べた後に
薄味の前菜が、もっかい出てきたみたいな感じがするんだけど・・・。

5

書き下ろしも一緒に読めて救われました

もう、1ページ目から「やられた」って感じでした。。。

1、2作目で紆余曲折を経て、お互いの事を必要として
寄り添って生きていくと決めたのを見ていたので
いきなり、記憶が戻った場面からの始まりに
心の準備も出来ずにただ愕然としてしまいました。

しかも、あんなに好きだと言っていた透の藤島への気持ちも含め
記憶喪失だった6年間はきれいさっぱり忘れていて
その為に、記憶の戻った透にとって藤島は自分を裏切った憎むべき存在でしかないため
藤島への冷たい態度は容赦なくて
あまりのキツさに何度も本を閉じたくなりました。

それでも、豹変してしまった透のことも見守りつづける藤島を見ていると
藤島があんなに頑なに透の恋人になることを拒み続けていた気持ちや
記憶が戻った時にこうなる事がわかっていて
それでも敢えて透の気持ちを受け入れる決心をした時の覚悟の大きさを改めて感じて
涙が止まりませんでした。

それ以上に、記憶喪失だった6年間の自分と今の自分の差に悩み苦しんでいる透も痛々しくて
何も言わずにそばにいてくれる藤島の事を必要としているのに
それを素直に言えないだけじゃなく、言えない自分にイラついて暴力を振るったり。。。
もういい加減にやめてあげて!!と思いつつ更に号泣してしまいました。

最後は、かなり歪んだ形ながら
2人でまた生きていくと決めるわけですが。。。
この本編のラストをハッピーエンドとは捉えられない人もいるんじゃないでしょうか。

私も、書き下ろしの『LAST FEVER 四季』がなかったら
とてもじゃないけど、これから先の2人の幸せそうな姿を想像することは出来なかったと思います。


そして『花咲く花散る花開く』でとうとう
同窓会とCOLDシリーズの2つのお話が繋がります。
COLD FEVERから数年後のお話で
谷口と黒川の関係もずいぶん変わってきています。

全く想像できなかった2つのお話の繋がりを
なるほど、そうやってリンクさせたか~って感じで
お互いにプラスの影響を与える形で絡ませる手法はなかなか上手いな~と思いました。


この3作目はかなりシリアスで、心がずっと悲鳴を上げ続けているようなお話ですが
書き下ろしの存在もあったので
この1~3の全ての作品トータルでの神評価にしたいと思います。

5

痛みを乗り越えたところに萌えがある。

木原さんの作品を読むと、たいてい痛くて苦しい思いをします。
なんでBLのためにこんなに涙を、と思うくらいじょばじょば泣きます。
けれども、それを乗り越えた先で、二人がしっかりと手をつないで立っている、
その光景を見たいがために苦しみを乗り越えるのです!私が!

さて、三部作の最終巻は透の記憶が戻ったところから始まります。
ずっと透の視点で話が進んでいくのですが、
その間藤島が何を考えていたのか想像すると切ないです。
どんな思いで透の暴力を受け入れたのか。
記憶喪失の間の透なのか、それ以前の透なのか、全部なのか。
書かれていないそこは脳内で補完するしかないのですが、
考えるときゅっと胸が苦しくなって、作品の味わいが深くなります。

5

痛い、切ない、愛のカタチ

COLD3部作ついに完結のCOLD FEVER。

前作で甘々な2人を堪能させてもらいましたが、それが一変。
透の記憶が戻ったところからストーリーが始まります。
目が覚めると6年経っていた。そうなんです、透は記憶を失っていたときのことを全く覚えておらず。自分がケーキを作っていたことも、藤島と付き合っていたことも一切覚えていません。

切なすぎました。
透は”6年間の自分”と”今の自分”を比べられて悩み、藤島も自分達が付き合っていたことを隠しまた6年前の透に接していかなければならいと。
そして痛かった。
透は藤島を裏切り者と憎んでいましたからね。藤島と自分が付き合ってるのを知ってまた騙されたと激怒します。だから藤島はあんなに透と付き合うことをためらっていたんですね…。
一緒にいたいけど顔を見たら藤島を傷つけてしまうかもしれない、そんな透がすごく切なくてほんとにこちらまで泣きそうになりました。

最後はハッピーエンドだと思います。
じゃあ6年間の透には全く意味がなかったんじゃないか?と思いますがそうじゃないと思います。6年間の透もあって今の透が存在してると思います。
すごく切なかったんですが、書き下ろしの『LAST FEVER 四季』では幸せそうな2人が見れます*透は藤島を「あんた」と呼んで結構そっけない感じですが、藤島が好きなんだなあということが行動で伝わってきますw

『花咲く花散る花開く』では同窓会組(笑)の2人も混じってきますw
この同窓会シリーズとCOLDシリーズ、どうやってリンクしてくるんだろうなあと思ったら、そいえば!谷口はカメラマンでしたね!
それにしても黒川ヘタレすぎますwついCOLDでの透の涙と黒川の涙を比べてしまい、黒川の涙はなんてちっぽけだと(笑)
黒川のヘタレっぷりが可愛かったですw本当に彼は谷口盲目だw

6

甘いまま 終わるわけない このはらー

前作LIGHTで、ようやく愛し合うようになった二人。
最終巻FEVERでは、透の記憶が戻って、愛し合って、共に生活していた6年間を全く忘れてしまうところからお話が始まります。
記憶のない6年間に何があったのか、全くわからなくなって、荒れまくる透視点で話が進むので、前作のケーキの甘さとは大違いな、荒涼とした痛々しい展開です。
最終的には、二人は、元通りとはいきませんが、「この人と離れて生きてはいけない」と、透が自覚することで、ハッピーエンドになります。
このFEBVERを読んだ後に、前作LIGHTを読むと、切なさ倍増です。
是非、3作全て読んでいただきたい。
3作全部読み終わってから、更にもう一度最初から読み直したい。
そんなオススメな、作品です。
同時収録の「花…」で、前2巻に載っていた同級生シリーズとお話が合体します。
同人誌でちょっとだけ読んだことのあったお話は、こうゆう流れの中の作品だったのか。

14

三冠ならず、だって、痛いんですもの

最終巻です。あまりに痛くてこちらの胃も痛くなっちゃったので萌評価。いえ、前2巻も痛かったんですが、今巻のDVは尋常じゃありませんから。

雑誌掲載分もビブロス版も読んでいるので分かってはいたものの、透くんの記憶が戻っちゃいました。
せっかく想いが通じ合って、明るい未来も見えたのにまたそれを忘れちゃうなんて・・・記憶をなくしていた6年の間に少しずつ築いてきた新しい人生と藤島との愛情が、目覚めただけで消えてしまい、6年前の粗野で投げやりで藤島を憎んでいる透が戻ってきてしまいました。

最初の記憶喪失の時は全てを忘れているからこそ、まっさらな状態で新しい人生をはじめられたわけですが、
今度は以前の事は覚えている、置かれているのは藤島に保護されているという納得がいかない状況で、それでなくても短気で暴力的な透が暴れださないわけがありません。
なにかにつけ藤島につらくあたり、そんなことしたら死んじゃうよと言いたくなる位に暴力を振るい、挙句の果てはセックスを強要するようになる透ですが、それでも藤島は見放しません。(どう考えてもマゾにしか見えない藤島さんです)
おばさん、本当に胃が痛くなっちゃいました。

ただ、そんな生活の中、写真を学び始めたり6年間に出合った人たちから温かく見守られたりすることで、戸惑いながらも少しずつ、荒んだ心を鎮めていく透なのでした。
ところが・・・どうしてこんなに辛いことばかり起きるのよ!って怒り出したくなるくらい、些細な事ながら誰かしら傷つく事件が波状攻撃的に起こります。
本当に最後まで息が抜けません。
最後はハッピーエンドではありますが、同時収録の「LAST FEVER 四季」を読むまでは、本当にハッピーエンドした気になれなかったのが事実です。

「花咲く花散る花開く」はそのさらに2年後のお話で、今まで同時収録されてきた黒川×谷口コンビと透が絡むお話です。
地道に写真の仕事をしてきた谷口と、1枚のポスターでブレイクし才能を発揮しだした透という正反対にも見える二人がお互いの作品に尊敬と憧れを感じ、二人展を開きます。
谷口と透の関係(ただの仕事仲間)に嫉妬した黒川が、ヘタレながらに行動を起こすところがまた、情けな可愛い。

2

ケーキの甘みは痛みを中和するための小道具…?(妄想)

最終巻で透の記憶が戻ることは前情報として得ていたが、まさか初っ端からとは思わなかった。
しかしおかげで「過去の記憶を取り戻し、全生活史健忘状態にあった6年間の記憶をなくした透」を語り手とする本作は、『COLD SLEEP』とまさしく対をなす構造になっている。

『…SLEEP』で過去の自分に違和感を持ち不安におびえつつも新たな人生を歩み始めた透は、『…FEVER』では「現在の自分よりも愛されるにふさわしい」過去の自分や、憎しみの対象であったはずの藤島との得体の知れない関係に苛立ち、藤島を脅かすことでしかその感情を解消できなくなるし、藤島は透に対しての負い目があるために、多少の抵抗はしても結局その暴力を受け入れる。
繰り返される暴力描写は非常に痛々しいが、子供時代に完成してしまった彼らの歪な関係は親世代に原因がある根深いものである。
暴力は許されるべきものではないが、前2巻で彼らのバックボーンがしっかりと語られており、「神の視点」に立つ我々読者にとって彼らの心情とそれに基づく行動は概ね理解可能な状況にあるため、私自身がこの物語に「(精神的)痛さ」を感じることは決してなく、むしろ安心して読み進めることができた。

だが読了後に思い立ったのは、この物語における食事風景の重要性であった。
誰しも食事を共にする間柄には精神的近さを感じることだろう。
このシリーズでも、同居する二人の心の距離の変化を描く上で食事風景、なかでもケーキにまつわる場面が繰り返し挿入される。
ところで「辛い」という味覚は、実は神経刺激としては「痛み」と同等である。
二人の「痛み」を和らげるものの比喩として、大量のケーキの「甘味」が選ばれたのではなかったかと考えるのは、妄想に過ぎるだろうか。

本編は愛された記憶を持たない透が藤島に縋るところで終わり、続く短編『LAST FEVER 四季』で彼らが今度は穏やかに関係を育んでいることが語られている。
また『花咲く花散る花開く』には、前2巻でリンクと銘打たれていたもののどこに絡むか不明であった黒川・谷口が、ようやく重要な立場で登場する。
この短編を読むとむしろ『同窓会』カップルの方に不安要素が多いような気がしてならないのだが、ともかく本編から約2年を経過した透と藤島に関しては、無くした6年間の記憶が戻ることはなくとも、「互いに必要」という関係性はきっと取り戻しつつあるのだろうなと想像できた。

3冊通して読んでみて、設定上の多少の突っ込みどころはあるものの、全体的には非常に充実し楽しめたシリーズであった。
しかし、まず本編(雑誌掲載分)のみを通して読み、その後まとめて短編を読んだ方が、もしかしたら作品のエッジが際立って感じられたかもしれないなと思う。
物語の記憶が薄れたころに、ぜひ試してみたいものだ。

6

痛くてせつない

ほんとに、最後まで驚きの展開です。
ここに来て透の記憶がもどるとは…。
優しい透だったことも、きれいさっぱり忘れて6年前に逆戻り。
よって、優しい透から、怖い透へ…、ケーキからカメラへ…。
いくら6年間別人だったとはいえ、すべての怒りを藤島にぶつけるのが辛かったです。
藤島自身、何も言わずに耐えているのが不憫…。
優しかった透との記念の写真も捨てられちゃって…。
そこまで藤島に辛く当たらなくても…と思うのですが、透の気持ちも理解できる。
だからよけいにこの二人が悲しいです。

前作が甘々だっただけに、この痛さは読んでて辛かった。

4

この作品が収納されている本棚

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