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表題作運命の向こう側

石田冬至、国立研究所勤務の天才肌の研究者・アルファ
小野春間、大手メーカーのグループ会社勤務・オメガ

その他の収録作品

  • 運命のこちら側
  • あとがき

あらすじ

Ωでありながらも持ち前の明るい性格で前向きに生きてきた春間は高校の入学式で予期せず運命の番である冬至と出会ってしまう。
それから数年、傲慢な所がありながらも春間には甘々な冬至と二人で幸せに日々を過ごしていた。
だが子どもを産んでほしいと熱望する冬至とは対照的に春間はなかなか決心がつかずにいた
。そんなある日、二人が目を覚めるとそこは別次元で?? 。

作品情報

作品名
運命の向こう側
著者
安西リカ 
イラスト
ミドリノエバ 
媒体
小説
出版社
心交社
レーベル
ショコラ文庫
シリーズ
運命の向こう側
発売日
ISBN
9784778125554
4.1

(193)

(101)

萌々

(47)

(29)

中立

(5)

趣味じゃない

(11)

レビュー数
21
得点
785
評価数
193
平均
4.1 / 5
神率
52.3%

レビュー投稿数21

もしもバース性のない世界に転移することができたなら

スピンオフ作品である『オメガは運命に誓わない』の方から先に読み、あちらにも出てきていたスピン元が気になり、読んでみました。

高校の入学式で運命的な出会いをし、10年が経つカップルのお話。
ある日突然、バース性のないパラレルワールドに飛ばされ、今まで阿吽の呼吸のように匂いで分かっていた互いの気持ちが分からなくなり、困惑し…という姿が描かれた作品です。

もう、この「バース性のないパラレルワールドに飛んでしまう」っていう設定を思いつく安西先生の頭が素晴らしすぎる&すごすぎるなあと…
アルファとオメガという結びつきがなくなり、フェロモンも感じなくなり、生まれる不安と疑念。
そして、オメガの春間にとっては発情期もなく抑制剤も不要な、不思いがけず居心地のいい世界に転移し、元の世界に戻るのか?この世界にとどまるか?という葛藤。

主に受けの揺れる気持ちと悩みに共感しながら、夜中に読み始めてほぼ徹夜で読み切ってしまいました。

個人的には、カップルの恋の進展を見たい、という欲があるためスピンオフ作品の方が好みだし、萌えたなあ、と。
スピンオフの方でマッチングセンターに登録して成婚を夢見る「(一人は)さみしいだろ」って呟くアルファ攻め様がめちゃくちゃ好きだったので//

こちらの作品は、より「考えさせられた」という感じ。
自分が春間だったらどうするだろう、と思いを巡らせ、春間と一緒になってうーんと悩み、そこに読み応えを感じました。

スピンオフ作品に出てきた菅田によると、風花は戻った後、子供を産んだんですね。「子供を持たないという選択をしたアルファ・オメガ」の姿を見てみたかった気持ちもあるので、彼の中でどんな心境の変化があったのか、主役ではないけれど、そのへんを掘り下げて読んでみたかったなあ、という気持ちも。

”萌え”とはちょっと違ったけれど、愛とは”本能”に左右されるものなのか、それを超えた結びつきがあり得るのか、そんな深いテーマについて色々思いを馳せることのできる作品でした。

0

なるほど…新感覚!

最新の”普通の恋人”がすごく好きだったんですが、そういえば、
こちらのオメガバは読んでなかったな~と復習中。

バース性のある世界からない世界へ移動してしまったアルファとオメガ。
うわっ、、オメガバだけでもお腹いっぱいなのにさらにパラレルワールド!?とちょっと抵抗を感じたのですが…サンドイッチの具材に例えるワープの仕組みがわかりやすくてw、あとは没入できました。

それぞれのバース性によって当たり前のように結ばれた二人が、その当たり前のような”性”がなくなったときに、本当に恋人でいられるのか?という実験的ラブストーリー。伴侶を決定づける要素がなくなって、バースによるハンデもなくなった世界では選択肢が広がるんですけど、それでも同じような選択をするのだろうか?というオメガバ作品へのアプローチ、安西先生らしいな~と思いました。

お互いの存在と状態を判別していたシグナル(匂い)がなくなって、相手の気持ちに対して確信が持てず不安になる描写が素晴らしいです。バース性のない世界で改めて「好きだ」と気持ちを確かめあった受の気持ち、”言葉にしなくてはいけない感情が、なんだかすごく頼りなかった”、という表現がめちゃくちゃ刺さりました。”伴侶”ではなく”恋人”という立場から、あらためて相手を好きな気持ちを自覚していくという流れが新鮮でした。番でいたとき以上に、相手を思いやって、それぞれが後悔しない決断をしようと受が葛藤する場面はハラハラしてしまいました。

また、周囲と共有する記憶(事実)が違うところで生きていくってちょっと気持ち悪いというか違和感でしょうね。そこで同じ過去を積み重ねてきた人間関係の大切さも感じたりして、、いろいろと考えさせられる課題図書的作品だなと思いました。ただ、、やはり”子供”云々の描写はモヤっとしちゃいました。

0

オメガバースだった

全くそうだと知らずに読んだのですが、普通のオメガバースじゃ無かったので面白かったです。
オメガ性の世界からそうじゃ無い世界へ移動してしまった二人。

オメガ性の世界なら、番、伴侶という絶対的なつながりがあるのですが、普通の世界にはそれが無い。すぐに別れることだって出来る。
そんな不安定な関係に不安を感じながら、戻るべきか悩む受け。
オメガ性の世界では、オメガであることに引け目を感じ、妊娠も避けて、ちゃんと自立したいと考えていた受けですが、普通の世界で考えが変わります。
攻めとの関係が実は添え物ではなく、二人でしっかり作り上げるものだと認識できたからでしょう。
そして子どもを授かっても良いと思えるようになり、自分の仕事とオメガ声の世界に戻ることを天秤にかけて…

自分の身に置き換えると、そこで仕事を取っちゃったんですが、攻めのような強力な愛情があったら変わっていたのかな。
考えさせられる作品でした。

0

斬新!

2018年というと、もうオメガバースが浸透して作品もかなり増えていた頃じゃないかなと思います。そんな中で王道でありながらも一捻りある設定が書ける安西先生はさすがです。

安西先生は「何も起こらない話(ご本人談/意訳)」を書くのが本当にお上手です。大事件を起こさずとも丁寧な心理描写で引き込まれます。
今回は大事件が「起こって」ますが、あくまでもメインは心理描写であり、安西先生のいつものテイストでお話は進みます。

オメガバース・安西先生 初心者から上級者(?)まで幅広い方におすすめできる作品です。

1

異世界ワープ 春間は「当たり前」に気づく

「オメガは運命に誓わない」が面白かったので、関連作も読んでみました。

紹介文には、
>Ωの春間は高校の入学式で運命の番・冬至と出会ってしまう。
それから数年、春間に甘々な冬至と幸せに過ごしていた。
子どもを産んでほしいと熱望する冬至。でも春間は決心がつかない。
春間に発情が来た翌朝、起きたらオメガバースが無い別次元に二人だけが移転 <
・・・SF要素のパラレルワールドに二人がワープ。
必要性があったのか疑問だけれど、異世界ワープでコメディ度が上がってる。

想像した内容と異なるけど、いつもの著者の作品と比較すると非日常性、異色で面白かった。
私は、「オメガは運命に誓わない」のほうが楽しめた。

1

運命!?

オメガバースの運命の番だからと強烈に惹かれ合うことに、どれほど気持ちが伴ってるのかモヤモヤしてたとこに刺さった!!

突然バース性がない世界に飛ばされオメガバだけど日常BL!
当たり前がなくなり、戸惑いながら言葉を尽くし思いやり、改めて関係を強固にしてくの愛が深い~

性差が逆境となり力が湧く時もあれば、線引きしてるとこもあり、そこに気づいて踏み出していくのも良かった!!風花さんとこも愛が深まり、クールぶってるCPのデレは良い、笑っちゃうくらい痛快!!
運命で出会えたことはあくまできっかけで、運命や性に葛藤しつつそれ以上の想い募らせてくの沁みる!

発情期えっちとオメガバのない世界の不馴れな初々しいえっちと2パターン読めたのも嬉しい!!普段は男前な受けがどろどろで誘っちゃうのも、素面で勇気振り絞って誘えのもどっちもクル!!
日常→オメガバ界に飛んだ違う世界線の二人のことも気になっちゃいます。

1

これは読まねば!と思わせるテーマ

オメガバースと異次元トリップという流行に乗った派手な設定だが、内容は平和な日常系で、カップルの普遍的なテーマが主軸となっている。運命で結ばれたカップルがバース性のない世界に突如トリップし、関係を見つめなおすお話。
一緒にいるのが当たり前になっていた二人が、ふと立ち止まったとき、本当に相手のことが好きなのか?という疑問にぶち当たる。その瞬間を強制的に与えられているということで、これは読まねば!と期待して手に取った。

導入はオメガバ世界での二人。出てくる人は皆理解が早く、展開はサクサク進む。本題はここじゃないと分かりやすく、ストレスフリーで読める。冬至の理解が早すぎる点も、しっかり理由が書かれていたので良かった。
ダレそうな長い説明文には、ベストなタイミングでさりげなくコミカルな表現を入れてくれ、飽きさせない安西さんの文章の魅力を感じた。「すたこら」帰ってくる攻めとか、「豊かな沈黙」なんて表現がとても好き。

バース性のない世界にトリップしてからの話は、二人の恋にどっぷり浸かって満たされる。
オメガのハンデが無くなった春間は仕事が上手くいき、元いた世界に戻るか否かを迷い始める。冬至はただただ春間を尊重し、見守り役に徹する。
春間の葛藤は当然のものだし、恋愛に悩む内容も初々しくて良い。特にバース性が消え、匂いが無くなり相手の気持ちが初めて読み取れない状況に戸惑う二人が好き。最終的に冬至を選ぶまでの流れも良かった。
冬至の方は最後まで理想の彼氏すぎて逆に辛くなった。アルファの下駄履いてた分が無くなったのは大きいし、新発見も多かったはず。そこを深く書いてくれたら良かったが、さらっと流して子供の話になってしまったのは残念。
お互いを尊重し合い思い合っているのは伝わってきてすごく良かった。だが欲を言えば冬至も感情を露わにするシーンがもっと欲しかった。風花カップルにいいとこ持ってかれてる気が……。

受けが子供を作れるオメガバース世界。春間は子供を作って“あげよう”から気持ちが変化する。冬至も自分の子を孕ませて春間を自分のものにするという考えから、“二人の”子供を作ろうという考えに変わった。
オメガバ設定を活かした様々な二人の変化の描き方がとても巧いと思う。ただ一点、子供に関してはその先のビジョンが気になった。二人の未来=子供ってことかもだが、産んで終わりじゃないし、そのずっと先までの二人の想いも深堀りして欲しかった。

……ちょっと求め過ぎかな。ここが読みたい!のピンポイントを突いた素晴らしきテーマで、テンション上がって期待過剰になってたかも。
とはいえ運命に縛られなくても想い合う二人はしっかりここにいたので、読後は多幸感に浸れて満足!

タイトルは秀逸。これ以上ないくらいピッタリだと思う。好き。


~蛇足~
オメガバースは性欲だけが直接的で、システム的に理性的でなくされ、獣がヒトのふりをしているようなところが苦手だが、この作品も当然そこはオメガバースしている。導入部で受けは「受精したい」と望み、二人して人目も憚らずに発情する。
さらに地位格差の問題が男女差と被り、子供問題も入っている。
あからさまなオメガ差別やレイプは無いが、オメガバースが苦手な人に勧められる作品と言われても、私はピンとこない。
(あえて読んだので、上記要素で萎えた点は萌え度評価に加味していない)

3

出来る子

◾︎石田冬至(アルファ)×小野春間(オメガ)
以前オメガバース漫画作品で、「オメガバース世界から、βだけの世界(つまりは今この現実)を思う演出」があって面白いなと思ったのですが、まさにそんな作品でした。

春間が自分が思ってたほど出来る子、優秀な人間じゃなかったと自覚するシーンが好きでした。恋愛的な描写とは全然関係ないところだけど。自分の能力が足りないことを何かのせいにするってままありますけど、結局何かのせいではなくて自分のせいなんですよね。

恋愛的な描写だと、"バース性がないせいで相手の本心が分からずすれ違う"というこの作品の根幹はやはり面白かったです。読み始め、こんなに出来あがっちゃってる2人をどう展開させるのかな?と思ったらそういう"向こう側"だったか。

春間が戻る戻らないでうにうに悩んでましたけど、向こうに飛んでったベーコンの事を考えるのは一番最後なんだ〜という純粋な驚き。ベーコンはベーコン、卵は卵、某書籍じゃないですが「置かれた場所で咲く」べきだと思うから戻る一択の自分には、不思議だった。いや、演出上ラストシーンの向こうのベーコンからのメッセージを盛り上げるためにあえて脇に置いておいたのかもしれないけど。

ちょっと、ん?って思ったのは、春間も同調した風花のセリフ「発情したときの自分って、自分でもちょっと引くもんな。メスかよって感じで」
偏見と戦いたいタイプじゃないのか?メスって…こちとらメスだが、女性蔑視か?となんとなく違和感。別に登場人物が偏見に満ち満ち溢れたセリフを言ってても、作品がそういう思想のもと書かれているとは思いませんが、風花や春間がこれを言って、特にその後フォローが入るでもなくってとこになんとなくモヤッとしたり。

最後、冬至目線の「運命のこちら側」、終わり方が大変好きでした。冬至の人生は完全に春間と出会う前と後で別ものなんだなと。"完璧になった"後は、完全に春間のためにある人生なんだなと。最高潮でのENDマーク。美しい。

萌〜萌2

2

ハートフルオメガバース。

 安西先生の書かれるオメガバース!!!
とても楽しみに、わくわくと読ませて頂きました。
なんというか、意表をつかれた、というのかな。
なるほどー。
物語の中で春間と冬至が、普通に一生懸命生きていて、とても好感の持てる愛おしい2人でした。


 オメガバースの世界から、バース性のない異世界へトリップしてまった2人。
出会ってすぐ運命の番として生きてきた2人にとって、フェロモンで相手の気持ちがわからない不安があり、運命の相手ではなくなった自分以外に好きな人が出来るかもしれない、という不安がつきまとう。
 
 フェロモンを感じなくても、バース性がなくても、やっぱり春間が、冬至が、誰より好きで、何より大事にしたい存在。
これからは言葉にして「好き」って言い合おうって笑う2人がとてもかわいかったです。
そして、自分が歩んできた人生を大事にしている姿がとてもかっこよかった。


 読み終わった後、自分の人生をふと振り返ってみたりして。
そして、周りに対してもっと優しくありたいなー、と思ったりして。
そんな気持ちにさせてもらう、ステキなお話をありがとうございます。

2

ちょっと設定擦りすぎ

中立寄りの萌評価です。

さすが、安西先生。
文章は上手いです。読みやすく、引き込まれスラスラと読み終わりました。キャラクターや世界観に破綻はなく、きれいにまとまったオメガバースです。ですが・・・

設定を擦りすぎかなと思いました。
オメガバース設定を自分の得意分野に持って来るために(現代設定・切ない恋愛)凝りすぎた印象があります。それに感動している方も多いようですが(もちろん理解はできます!)少しだけ作者のわがままというかあざとさを感じなくもないです。ちょっとギミックが利きすぎている。そして説教臭い。

産む・産まないの悩みもBLとしては読みづらいものでした。
そこをテーマにするのなら一般文芸を読むし、そんな作品は巷に溢れている。読者はBLが読みたくて本を買っているのですから、何をテーマにしてもそこの満足度は高くないといけないと思います。

まんま男女のそれで興ざめしました。答えはありきたりな正論で、またそれも引きました。
安西先生がオメガバースを書く必要があるのかなと個人的には思いました。そんな設定なしでも、日常の何気ないシーンをキラキラ書ける素晴らしい作家さんです。読者が読みたいのもそういう作品なのでは?

ベテランの方でもオメガ設定がぴたりとはまる方がいるので一概には言えませんが、独自の持ち味を消してまでオメガを書く必要はないと思います。ブームなので仕方がないのかもしれませんが・・・。

キャラの好感度が高かっただけに残念でした。

5

目の付け所が違う

いつもオメガバースに関しては警戒マックスで読む本を決めます。
今作も他の姐さんたちのレビューを見て大丈夫そうだと購入。
安西さんはいつも日常の話をとてもすてきに書かれる作家さんですが、今作も他のオメガバースとは一線を画した話だったと思います。
今まで呼んだ話では、アルファとオメガそれぞれの人生があって二人が出会い伴侶になっていくというところが話の軸になるのですが、今作はすでに伴侶である二人がバース性のない平行世界へ行き、二人の関係を改めて考えるという話でした。


<あらすじ>
オメガである春間(受け)は発情期や検査などの兼ね合いで仕事が思うようにできないことをもどかしく思っています。その上、伴侶である冬至(攻め)には子供が欲しいと言われ続けうんざり。子供を作った際に自分がどうなるかが怖い春間は決心ができないのです。
伴侶である二人は常にお互いの匂いを感じ、感情を読み取ることができるのですが、ふとこの匂いがなかったら自分たちはどうなるのだろうと思ったある朝、お互いの匂いがしなくなっていることに気が付くのです。
よくよく観察すると、二人を伴侶として認めていたはずの家族がただの親友だと思っていたり、バース管理局に関する資料がないなど、総合して考えた結果、自分たちはバース性のない世界に移動してしまったことに気が付きます。

冬至の説明がとても分かりやすくて、「並んでいる違う具材のサンドイッチが他の具は同じままで卵とベーコンだけが交換された世界」という、異世界というよりは無数にある重なり合う平行世界を精神体だけが移動したという状態なのです。

高校の入学式で初めて会った瞬間から、身体がお互いを求めそのまま伴侶になってしまった二人は一般人のような恋愛をしていません。セックスに関してもお互いのフェロモンに影響されてすぐに本能の導かれるままに求めあってしまいます。
感情を匂いで判断できる二人は互いの愛を疑うこともありません。そんな二人が、バース性のない世界で、相手が言葉のままに本当に自分を求めているのか判断できず、不安になってしまうのです。この世界に来たことで春間は言葉の大切さを知り、バース性の運命に支配されることなく冬至のことを愛していることを確認するのです。

アルファにとってこちらの世界は今までの特権がなくなり不便極まりないことですが、オメガにとっては発情期などの煩わしいことが何一つない本来の力を試せる世界です。
オメガであることは上層部しか知らないので会社には身体が弱い設定になっており、発情期などは有給で処理していたのですが、そうした制約のない世界で自分を試したことで、自分のことを見つめなおすことができたことは春間にとってとてもよい経験になったと思いました。

元の世界に帰ることができると分かったとき、この世界にいたままだとこれから春間が他の人を愛するかもしれないというリスクを承知したうえで、春間が後悔するくらいなら帰らなくてもいい、何よりも大切なのは春間だという冬至の愛には震えます。

そしてもう一組、春間たちと同じく移動してしまったカップル。アルファの清明とオメガの風花。
やはりオメガの制約がなくなり喜ぶ風花とは反対に清明は元の世界に戻りたいと切望するのです。
「バース性があれば絶対に自分から離れていかないとけど、この世界ではいつ誰に取られるかわからなくて気が狂いそうだ」と告白する清明に、冬至とは正反対ですが今までの余裕をかなぐり捨てても絶対に失いたくないという執着が感じられてどちらのアルファの愛も深すぎて読んでいて幸せでした。

そして、最後に二人の春間がほんのちょっと、お互い一方通行ながらも想いを伝えあえたのが良かった。

ただ、一つ不満があるとすれば、せっかくの春間の決意なので、子供が生まれて二人で育てながら仕事を頑張る姿が読みたかった。きっと後輩君は驚きはしても春間と共に頑張ってくれると信じてます。
‪後日談が読みたいです。‬

7

産む、産まないという気持ちが……

オメガが蔑視されて不当な扱いされているイメージが強くてオメガバースものは避けているのですが、法整備が充分に整っている世界で不当な扱いを受けていないということなので、これなら読めそう!と手にしたのですが…….
やはりオメガバースものって、自分とは合わないんだなぁ…って思ってしまいました。

どういうところがダメだったかというと子供を産む産まないという覚悟がこの作品の鍵になってるところ。

子供を熱望するアルファの冬至に対して、オメガの春間は「アルファを支えて子供を産むのだけがオメガの使命みたいなものに抵抗があるし、産んだら自分がどう変わるかというのが怖い」という理由で決心つかないんですね。

これは男の悩みじゃない。まんま女。
産むことができる性だからこういう悩みが生まれるのだと頭では理解できても、産む産まないの葛藤なんかBLで読みたくないというか、これならガッツリとこの悩みに向き合う一般を読むなぁって思ってしまいました……

バース性のない世界へワープしてしまい、「運命」というものが無くなってただの結婚できないゲイカプになってしまった二人が、運命とかフェロモンとかそういうものに頼らずに、やはりお互い唯一無二の相手だと再認識していくところは好きでした。

だけど子供を産むと決意することが愛情の最大表現みたいなところが好きじゃない。
主役カプだけならいいんです。
それもアリだと思う。
だけど、もう片方登場する絶対に子供産まない宣言していたカプも結局は妊娠決意エンドなので、安直すぎてガックリ……。
(精巣除去してもいいとまで言う攻めの告白にはやるなぁ!と萌えたけど。)

最後にはガッカリしましたが、細部ではちょいちょい萌えどころがあり、そういうところは楽しめました。
出会った頃は偉そうな俺様アルファで「春間は俺のオメガだろ」と言っては抑えつけようとしていた冬至。
だけど受けの春間は結構強い子なので、そんな冬至に従うどころか拒絶したそうな。
人から否定されたことのなかった冬至はすっかりオロオロ→シュン……となるのを繰り返した末に、すっかり春間に手懐けられてしまったというくだりが特に萌えました。
春間の調教っぷりが具体的に読みたかったなぁ。

オメガの春間が、冬至のオメガであることに安心しきって愛情にあぐらをかいていたと気づいて、ちゃんと愛情を言葉にするように努力し始めるところなど、前向きなキャラだったので好感もてます。

中立寄りの萌です。

7

面白いのに道徳的!

遅ればせながら読みました。
高評価の方が多いのが頷けます。

オメガバース作品も、当初の『スパダリαと可哀想なΩ』だけではなく、様々なバリエーションが登場してとても興味深くなったと思います。
私は、古からの少女小説の流れを汲む『健気な受け』や『可哀想な受け』は好きなのですが『可哀想なまま運命に流されていく受け』は苦手なのです。
その可哀想な状況故に形作られたものが、それぞれにあると思うんですね。
それを自分の個性として受け止めて、前向きに善処しようとする登場人物が好きです。

春間くん、ドンピシャリですよ!
特に、バース制のない異世界にトリップしたら『その世界での自分』は『自分』よりもちょっと手を抜いて生きていたことを知る部分なんて、凄く好きです。
つまり、障害があると燃えるタイプだったんですね、春間くんは。

こういう捩れがありつつも、冬至との恋愛関係は揺るがないというのも安西さんのお話らしいです。
安心して読める。
そして、冬至は自分の恋する春間に対して、とても民主的。
『人と人の関係は、強い方が譲るべき』という所も気持ちが良かった。
(あまり好きな言葉ではないですが)こんな風に道徳的でありながらグイグイ読ませるお話って、稀少だと思います。

オメガバースにおける私の好みど真ん中は『運命の番じゃない人に恋をする』なので(ひねくれててごめんなさい)『大興奮!』とまでは行かなかったのですが、面白く読み終えました。

7

今までのΩバース作品とはひと味違います。

上位に来てたので気になりつつ、ようやく読みました。やはり面白かったです。他のΩバース作品と違い、かなり研究やら保護やら法整備が整った世界です。何よりもαのΩに対する溺愛ぶりが凄い。
今まで苦手だった方も安心して読めるんでは無いでしょうか?
本編は春間目線で進んで行きますが、最後にある短編は冬至目線なので余計に萌えました。
この作品の良いところは、何事にも優れて恵まれてるように見えるαが実際は孤独を抱えていて、理解者はΩしか居らず、魂から自分のΩを求めているところでしょう。それ故に登場する数少ないαの冬至の父親も清明も、伴侶を溺愛して大事にしています。どちらかと言えばΩに選択権があるというのが、目新しかったです。
異次元に飛ばされた事で相手の深い愛情と、自分の心の中にあった違和感が解決して良かったです。
元の世界に戻った春間も風花も子供を持とうと気持ちが変化しているのが、また良かった。

7

オメガバース + 異次元トリップ

作家買いしている安西先生のオメガバースどんなだろうとワクワクと手に取りました。
ストーリーの面白さへも期待はもちろんですが、この作家の描くオメガバースってどんなんだろうという興味が湧いてきて。

天才物理学者のα 冬至 × 努力家のΩ 春馬

こんなオメガバース初めて読みました。
オメガバース +次元トリップものでした。
αβΩのある世界からない世界に転移してしまったカップルの物語です。

少々のオメガバースの解説の後、出会ったという説明の後すぐに数年後の倦怠期(?)って感じになり、運命のつがいとのドラマチックな出会いや色々あって結婚いて…というあたりはさらっと飛ばしてしまったのは残念 、、、とか思ってましたが、大事なのはそこじゃなくて出会いから11年経って気持ちの上で岐路に立って迷っているところで考えさせられる出来事に遭遇!というところなのですね。

春馬が仕事に全力投球できないジレンマや子供を産むことへの恐れ、Ωというハンデが無いことのメリットを謳歌し、元に戻れない方が楽だし便利、子供も生まなくていいし…と戻れる可能性があっても帰らない選択肢を意識した春馬に対して、冬至はこの次元での自分が少し不便だったり面倒なことがあっても春馬がここの方がいいなら戻らなくてもいいと言った時愛を感じました。
標準設定だと傲慢で支配欲の強いαだけど伴侶として理解して溺愛している愛情深いαが良かったです。
王道とは外れた地に足のついた普通のカップルの普通の恋物語風のオメガバースが面白かったです。

冬至視点の短編がまたいいんです。
自分のオメガを強く求める理由とか、初対面で感じた衝撃や喜びなど、春馬が知ったら小っ恥ずかしくなるくらいの一途さと健気さがよーくわかりました。

友人の兄とそのαを含めて、その後の話が読んでみたいです。
どんな内容かはわかりませんが、今だけついている番外編全プレハガキ付きがあるうちの入手をお勧めしたいです。

6

めっちゃ爽快!

オメガバースが苦手です。でも安西先生だし・・と購入。そしたらびっくり仰天、オメガバース設定ある本の中で一番好きだわ、これ!なんて爽快なの!!!と嬉しい驚きでした。オメガバース苦手な方でも一度手に取っていただきたいと本当に思います。妊娠・出産シーンはないので一応お知らせします。
「本編240Pほど+攻め視点の二人の出会いに関するSS5P(これが秀逸っ)+あとがき」です。
ああ読んでよかった・・・他のオメガバースももう少し好きになれるかもしれない・・安西先生に感謝感謝です。

お話は、金曜日の夜、高校の同級生で親友の白露といきつけのレストランバーで夕食&呑みを楽しんでいるシーンから始まります。白露は、冬至と春間が初めて出会って「伴侶だ」と気づき、発情してしまった時に助けてくれた大恩人。結婚して二児のパパとなっていて可愛い娘の話で盛り上がり、「で、お前はどうなの」と問われ、ちょっとプチ切れ・・と続きますw この冒頭シーンからして、キャラ全員が生き生き脳内で動き出す!楽しい!

攻め受け以外の登場人物は
その白露の兄(オメガ)とその伴侶、白露嫁、その子供と攻め受けの家族少々。白露兄とその伴侶もなかなか良かった。この方たちのエピも読んでみたいなあ。とりあえず感想を心交社さんに送ってみよう♡どんなペーパーが出てくるか楽しみです!

***とっても好きだったところ

オメガが健気というテイストではなく、超前向き!自立心旺盛!素晴らしい!
出会った最初の頃は、アルファである冬至が「お前は俺のオメガだろ」と押さえつけようとするので大喧嘩と記載されているのですが、他作では喧嘩になるというシチュ自体があまり無かったような。今まで読んできたオメガバースものって、オメガが健気に耐えるという事が多かったように記憶していて、それがなんだかカチンとしていたのかもしれません。

春間が怒って拒絶すると、冬至は心底驚き慌て、すっかり参ってしまうらしく、「そうよ!それぐらいでなきゃ!」とアルファざまあ!に感じて嬉しかったんです。今まではオメガの酷い扱いが嫌と思ってたのですが、加えてアルファの俺様態度にムカっとしてたんだわ、と今回気づきました。

そしてもう1点好きなところが。アルファ側のオメガを求める気持ちが良かったです。
冬至は割合ずっとヘタレってるのですが、このお話の最後のSSで、「アルファはオメガがいないと何かが欠落している状態なんだ」と自分の中で定義づけられて、アルファがオメガに恋焦がれる気持ちが本当にすんなり理解できたのです。アルファを最初から最後まで可愛く思えたのは、このお話が初めてかもしれない。サブカプの白露兄の伴侶のヘタレ具合がめちゃくちゃ可愛かった・・

あと、フェロモンがないとお互いの気持ちがわからなくて不安がる様子や、春間が「自分が歩いてきた道からひょいと別の道に移るのはいやだ」というセリフもじーんとしたなあ・・・いい言葉だ・・・

とあっちこっち良いところがありすぎて書ききれませんので、もう止めておきます。
「オメガバース苦手な方はぜひぜひ、お手に」と強く思う1冊でした。先生の発想すごい!!

7

オメガバースとしては変則的かな

今回は国立研究所勤務の研究者と
大手メーカー関連会社勤務の会社員のお話です。

運命の番である2人が
異世界トリップを経験し
これからの未来を見つめ直すまでと
攻様視点での裏事情的短編を収録。

この世界には男女の他に
アルファ、オメガ、ベータという
バース性が存在します。

アルファの出生は遺伝的要素が強く
オメガが生まれるのは偶発的で

大多数のベータは
数千人に1人と言われている
アルファともオメガとも
接することなく一生を終えるのです。

しかもオメガである事で
偏見の対象にされがちなので
成人して本人が公表を決めない限り
きっちり情報管理もされています。

受様は出生時検査で
女性オメガの十分の一しかない
男性オメガと判明しますが

両親は受様が定期検査を
受けなければならない年齢に達するまで
受様自身にさえバース性を教えずに
一人息子として愛情深く育てます。

その為、受様は男性オメガと知って
最初はショックは受けても
より一層すべての事に
真剣に取り組むようになります。

また現代では発情抑制剤の開発が進み
適切な処理をしていれば
オメガの発情にアルファが巻き込まれる
不幸な事故も少なくなっていました。

受様は15才の誕生日が近づいて
そろそろと抑制剤処方の検討を提案され
冬の高校受験を避けた結果、
入学式の後に検査入院を予定します。

しかし、その入学式で
オメガが予兆もなく発情する
「運命の番」に出会ってしまうのです。

その運命の番こそ
お相手の攻様になります♪

攻様は天才肌のアルファで
受様と同い年ながらアメリカの大学で
量子力学の研究をしていました。

米国政府の早期育成プログラムを終え
専門機関で働く予定でしたが
その前に同世代の友人と
普通の学校生活を経験したいと
1年だけ日本の帰国していたのです。

様々な偶然が重なった結果
2人は運命の番となり

攻様は1年の帰国予定を変更して
高校、大学と恋人同士として付き合い、
就職してからもずっと対等に
愛し合ってきました。

受様は攻様には出会った当初から
「俺の子供を産んで欲しい、保護したい」
と熱望されていますが
受様は攻様の言葉に未だに
素直に頷けずにいました。

子供を産むことで
2人のバランスが変わる事への不安、
攻様に保護されるということも
受様の中でピンとこなかったのです。

友人に2人目の子供が授かり
更にいろいろと考えてしまった受様が

発情期に入り
いつものように攻様の自宅で
情熱的な一夜を過ごした翌朝、

目覚めた2人は
バース性のない世界にいて!?

安西先生の初オメガバースは
バース性が情報管理された世界で
「運命の番」となった2人が

バース性のないパラレルワールドに
トリップしてしまうという
かなり変わった状況下で
今までの自分達の関係を
改めて見つめ直すお話でした。

オメガバースというと
2人が「運命の番」となるまでの
二転三転が主力なお話が大半ですし

安西先生は地に足が着いた
等身大の2人の恋愛ものという
印象が強かったので

あらすじのオメガバース、
異世界トリップと今までにない設定に
どんなお話なのかと
ワクワクして読み始めました♪

2人が目覚めた世界は
アルファの攻様には特権がなくなり
オメガの受様はヒートがなくなり
2人ともがベータのような
普通の男性となっていました。

受様はオメガという性故に起こる
身体的な負荷効力がなくなり
仕事に邁進出来ようになりますが

自分がオメガでは無かったらと
思っていたほどには
能力を発揮できません。

攻様は能力には違いがなくても
今までに受けていた特権がなくなり
様々な手間がかかるようになります。

そして「運命の番」として
当たり前に感じていたお互いの存在を
感じられなくなり

受様は今まで当然な事と思っていた
攻様との関係に不安を覚えるように
なっていきます。

バース性のある世界では
運命の番は互いが唯一無二の存在でしたが
飛ばされた世界では
相手が絶対の存在だという確かな決め手は
何もありません。

お互いを縛るモノは互いへの愛情という
目に見えないモノだけなのです。

攻様はもとの世界へと戻る方法を
見つけ出しますが
選択肢は受様に与えられます。

攻様にとって受様は
自分のオメガであるという以前に
唯一最愛の相手なのです。

そんな攻様に愛される受様が
攻様のことを考えないわけがなく

受様が最後に最良の選択をするまで
先が見えなくてハラハラし通しでしたが
とっても楽しく読めました。

オメガバースの「運命の番」は
一番の要となる設定ですが
それを異世界トリップで失くす
という展開は斬新過ぎました (ӦvӦ。)

オメガバースでも普通世界でも
相手を思う気持ちが大切だという
根幹が強く伝わる素敵なお話でした。

ぜひ同時期にトリップした
社長×スーパーモデルのカプのお話も
読ませて欲しいです♡

最近、ショコラ文庫では
全サSSペーパー企画が続いていますが
9月期は本作が対象となっています。

気になっている方は早めにご購入して
応募されたほうが良いですよ (^o^)v

今回は男前な攻様つながりで
安西さんの既刊から『好きで、好きで』を
おススメ作とします。
こちらの攻様も受様の唯一無二感が高いです。

5

もしもバース性のない世界に飛ばされたら…?

どうもこの頃はオメガバースものが供給過多に感じる中で、先に挙がっているレビューから興味を惹かれてこの小説を読みたくなってきたので買ってきた。

読んでみたら自分が従来のイメージに持っている、激しくお互いを貪りあうってのと違って穏やかな世界に驚いたが、ホンワカとした心地良さがあった。
作中の世界ではオメガが差別される事なく手厚く守られていて、番となっているアルファとオメガのカップルも同性婚が認められているような自然さで、日常生活や家族・友人関係に溶け込んでいる。
それでいて、番の結び付きが成り立っている様子もきちんと書かれている。

この話は『もしもバース性のない世界に飛ばされたら…?』が主題になってくると思うのだが、二人の間だけで共有していたアルファ×オメガの概念だけが消えてしまった戸惑いの中でも、お互いの愛情に変わりはないといった心情を掴んでいく姿が魅力なのだと思う。
オメガバースの設定に振り回される事よりも、キャラクターの内心をじっくりと読める事が重要なんだってのに気づかされる。
一方でオメガバースだからこそ醸し出せる、番の二人にしか解らないフェロモンが消えて寂しく感じる描写や、オメガ同士(春間と風花)ならではのあるある的な愚痴をこぼすシーンとかが可愛かったりもした。

春間自身が己のオメガ属性を見つめ直すと共に、冬至=アルファがオメガ=春間との生涯の愛情の結びつきを切望する故に子供を欲しがるって考えにたどり着いたのも良かった。
実は、自分にとって趣味に合わないのが"オメガバース"よりも”妊活”だったりするので、この話がそんな内容にすり替わる事なく済んでほっとしている。
派手さはないが、読んでみて良かったと思える一冊だった。

4

斬新な設定ながら、温かなストーリーに萌えが滾る

安西さんのオメガバースもの。

安西さんもあとがきで書かれていますが、「オメガバースもの」って作家さまによって捉え方や描き方が異なるちょっと特殊な世界観。

今作品は、安西さんらしい、優しい世界観が描かれていました。





主人公はΩの春間。
保護されるべき存在である「Ω」という性に思うところはあれど、自身の努力と持ち前の明るさで様々な困難(発情期とか)を乗り越えてきた、ガッツのある青年。

そんな春間は、高校の入学式で、「運命の番」と出会ってしまう。

それが、αの冬至。
初めて会った時から強く惹かれ、以来、「伴侶」として家族公認の仲。

春間を愛し慈しんでくれる冬至の愛情と、彼らを見守り助けてくれる親友の白露、息子に惜しみない愛情を注いでくれる両親にも恵まれ、Ωとしての面倒な制約もありつつ幸せに暮らしている。

最近の春間の目下の悩みの種は、冬至に「子どもを産んでくれ」といわれること。生みたいという気持ちと、守られるべき存在であるΩになりたくないという葛藤の狭間で揺れ動いている。ところが、そんなある日、「オメガバース」という特殊な性がない世界へトリップしてしまい―。



オメガバースものはドシリアスな展開になるものが多い中、この作品は、とにかく優しい。

Ωは守られるべき存在、あるいは蔑視される存在ではあるものの、表立って差別することは許されていない、という世界観であることもあって、Ωたちに悲壮感はない。

そして、Ωの伴侶となるαたちが、とにかくスパダリさん。そして、自身の伴侶であるΩを心の底から大切にし、そして愛している。

そういったバックボーンがあるためか、シリアスな雰囲気はほぼ皆無。

この作品が描いているのは、どんな状況下であっても、常に愛し合い、慈しみあうという事の素晴らしさ、だったように思います。

オメガバースという性がない世界にトリップしたことで、自分が本当に望んでいるものは、そして愛している人は、を再確認する。「オメガバース」という特殊性を損なうことなく、安西さんらしい温かい展開を両立させていて、めちゃめちゃ萌えました。

冬至×春間のほかにも気になる脇キャラはたくさん登場していて、ぜひともスピンオフ作品を書いていただきたいなと思いました。白露の伴侶が女性だったのが「BL」という観点からすると非常に残念でした。白露のナイスガイぶりに悶絶したので、彼の伴侶が男性だったなら…、とちょっと思ったりしました(でも、彼の伴侶が女性なのはきちんと意味があります)。

冬至と春間の子どもも見てみたいし、続編を激しく所望しています。

オメガバースの間口をさらに広げた斬新な設定と、優しく温かな愛情に満ち溢れた作品でした。

文句なく、神評価です。

14

地に足がついた現代オメガバース

BL暦は長いのにオメガバース暦は浅い私がこちらのレビューを書いてしまっていいものか迷いましたが…。

まず読み始めて、本物を読めそうな予感にワクワクしました。

攻めの冬至の愛情深さと、アルファ故の苦悩が良かったし、受けの春間の「運命、かかって来いやあ!」的なキャラに清々しさと小気味良さ感じました。
オメガの春間がこんな感じなんで、薄暗〜くならないんですよね。
(薄暗いオメガバも大好きなんですが)

ミドリノバエ先生の絵も、今まで数えるほどしか拝見していませんが、いつものスタイリッシュ感に加え今回は色気も合わさり、こんなに色っぽい絵を描く先生だったんだな、ととても新鮮に感じました。

最後の短編はものすごく短いんですが、アルファの孤独という視点は始めてで、アルファであるが故の冬至の苦悩が綴られています。これがすっごく良かったです。

安西先生がオメガバース描くとは予想だにしていなかったし、担当さんから、どうでしょう?と提案されたのかと思ってたんですが、先生自ら描きたいと言われたようで、二重に驚きました。

兄の北斗も興味あるし、風花と清明CPも読みたい。

読む前は別次元設定に不安があったんですが(個人的に苦手なので)、こう来たか〜!と新しい視点で描いてくださった先生に神です。

12

「向こう側」にこそ価値がある!!

安西先生と言うと、日常系のドラマチックと言う印象が強いのです。
主人公達の恋愛を、ありきたりな日々の中で繊細に綴るみたいな。
で、私はオメガバースが大好きだったりします。
ただ、安西先生の作風で、オメガバースて全く想像がつかなかったんですよね。
特にあらすじの「別の次元」でますます混乱みたいな。

が、これがすっっっつごく面白かった!!
オメガバースをこう料理するか!!みたいな。
ものすごく安西先生の良さと、オメガバースの良さが出てる!!

オメガバースが苦手な方が結構多いのは承知してるのです。
互いに本能で惹かれ合うー・・・極端な事を言えば、本人の人格だったり意識だったり、そんなものが一切関係なく「運命」で強引に片付けられてしまう部分こそが敬遠されるのかと個人的には考えたりするのですが。
が、こちら、その根幹部分にこそ切り込んだ作品です。
「運命の伴侶」として結ばれている二人が、とある偶然が重なった事により、オメガ性自体が存在しない世界に飛ばされてしまう・・・。
アルファでもオメガでも、ましてやツガイでも無くなってしまった二人-。
「運命」と言う保証が無くなった時、果たして二人は「愛する気持ち」だけでずっと関係を続ける事が出来るのか。
と言った具合で。

で、これをすごく安西先生らしく。
すごく丁寧に綴られる、ごくごくありきたりな日常。
・・・の中のドラマチック!!

主人公である春間ですが、オメガでありながらすごく前向きで明るいんですね。
飛ばされた世界では、自分はごくごく普通の青年で、発情期や妊娠に悩まされる事は無い。
その代わり、匂いで当たり前に分かった伴侶・冬至の事が分からなくて不安になったりする。
また、二人は元の世界に帰る方法を見つけます。
オメガ性が存在しない世界の方が、きっと春間にとっては生きやすい・・・。
二人はどの道を選ぶのか-。


悩んだり、迷ったり、それでも自分の中の唯一確かなもの-。
冬至への愛。
この、丁寧に綴られた春間の心情に、深く深く共感したり、切なくなったり、キュンと来たりと、すごく感情を揺さぶられます。
そして萌える!!

冬至の愛がめっちゃ深いんですよ!!
何だろう・・・。こう、全てを受け入れて相手を想う愛みたいな。
冬至にとってはですね、確かな繋がりを持つ本来の世界こそが一番なのです。
こちらの世界では、相手と繋がる唯一のものは不確かな「気持ち」でしかない。男同士なら尚更。
それでも、春間の気持ちを尊重する。
なんかもう、彼の気持ちを思うと胸が詰まって。
人を愛するて、こうゆう事だよなぁと、柄にも無く深く思ったりして。

とりあえず、二人の選んだ道はぜひ読んでご確認を。

運命で結ばれれば、ある意味すごく楽なんですよね。
でも、その「向こう側」にこそ価値がある!!
文句無しで『神』です。

23

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