「やめてくださいっ。兄弟なのに」 「おまえを弟だなんて思ってない」

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表題作異母兄のいる庭

五十嵐慎一郎 兄(正妻の子)
森村志乃 弟(愛人の子)

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

母の死により、代議士である父の屋敷へ引き取られた志乃。愛人の息子である志乃は、そこで、父の正妻や異母兄の慎一郎との関係に悩みながら暮らし始めた。閉鎖的な町で息を潜めるようにして生きる志乃だったが、ある夜、慎一郎に無体な関係を強いられる。大学受験を控えた慎一郎にストレスの捌け口のように扱われながら、いつしか志乃の体は溺れていく…。すれ違う切ない兄弟の愛は…?
出版社より

作品情報

作品名
異母兄のいる庭
著者
水原とほる 
イラスト
あじみね朔生 
媒体
小説
出版社
笠倉出版社
レーベル
クロスノベルス
発売日
ISBN
9784773099300
3.5

(36)

(12)

萌々

(6)

(11)

中立

(5)

趣味じゃない

(2)

レビュー数
15
得点
122
評価数
36
平均
3.5 / 5
神率
33.3%

レビュー投稿数15

所詮、義兄(跡継ぎ)の境遇は生ぬるい

2008年7月に刊行された3冊のうちの一冊。
う~ん…
BLを読んだという満足感とは程遠い。
異母兄弟の攻め受けって格好のシチュエーションだというのに、肝心の愼一郎と志乃に対してタブー萌えって気持ちが湧かなかった。
何だか『愛人の子を受け入れざるを得ない心の闇』って切り口で感じ入るところが大きかったかな。

作中では政治家の妻として表向き賢くとも、愛人の子(受け・志乃)には正直に葛藤や憎しみをぶつける昭江(攻め・愼一郎の母)の苦悩に惹かれた。
決して意地悪な継母なんかじゃなかったし、彼女なりに精一杯だったと伺える。
一番アカンのは当人は責任を負っているつもりでいて、現実は亡くなった愛人の子の面倒を本妻に丸投げしているのに気付かない父親だけどさ。
何だか愼一郎も父親そっくりに、政治家として表向きは家庭を持ちつつ、志乃とは離れたくないから愛人に据えるって人生を歩みそうな気がする。

水原さん作品のDV・陵辱攻めって、大抵荒んだ生い立ちや辛辣な過去が背景にあるパターンが多いが、愼一郎の場合は親の期待通りに跡を継ぐ重荷はあっても愛情も境遇も恵まれている。
そんな歴代の不遇攻め達と比べると彼の不満自体"生ぬるい”気がしてならない。
志乃を無理矢理押し倒したのも不満の吐け口って意味合いが大きいし、互いに高校生ってのもあっていじめを彷彿させられて嫌な気分だった。
志乃にしか見せない愼一郎の我儘、身勝手さも子供っぽいし、志乃を手離したくない為の周囲への言い分や囲い込み方も姑息で苛ついた。

ただ、志乃が愛人の子として始終萎縮しつつもひ弱一辺倒じゃなかったのは救いだった。
昭江の憎しみ・やり切れなさを受け止めた姿勢は、彼自身にはどうしようもないのに健気さを感じた。
とかく気弱な性格で義兄と分かっていても愼一郎に絆されていく様子には不安があったが、彼の反対を振り切って一定期間離れて暮らす選択にはほっとしたのに…

自分はBL読んでいても稀に『いっその事くっつかなくてもいいのに』と思ってしまう事があるが、久々にそんな気分になってしまった。
くっつきたいならば、愼一郎のほうが激変するであろう境遇を受け止める覚悟が必要だと思うのだけどな。

1

雪柳の白い花霞の中で

不憫な可哀想受けの話…そんなイメージを抱いていたので積んでいました。
受けばかりが辛い目にあう話はイマイチ趣味じゃないので…
本作は、政治家の愛人の子・志乃が、母親がガンで亡くなったことで本宅に引き取られる…という所から始まります。
本宅ではもちろん本妻さま、本宅の真っ当な長男・慎一郎、本妻寄りの家政婦たちの中で針のむしろ状態の志乃です。
志乃も志乃の母親も、自分たちの存在がどれだけ本妻に苦しみを与えてきたのかをはっきりと自覚していて、志乃は本宅での居場所のなさを「仕方ないこと」と受け入れているわけです。
もちろん慎一郎も敵意むき出しで…
1人になれる自室で無防備に眠っていた志乃を襲う慎一郎。
政治家の後継者としていつも行動に制限のある慎一郎は彼なりに息苦しさに耐えていて、志乃の存在がイラつきと同時にどこか心の秘密の明かし場になっている…
行動は素っ気なく冷たく言葉もキツい慎一郎だけど、読者には志乃に惹かれてそれを隠しているのがわかります。
だけど志乃には全然通じてなくて、大好きな慎一郎に激しく犯される日々に傷つく志乃の姿。
こんな誤解とすれ違いの描写がずっと続くのですが…
大学入学で上京する慎一郎に連れられて同居する志乃。またいつ犯されるのか怯えていますが、何事もない平穏な兄弟の時間が過ぎていきます。
高校時代の同級生と大学で再会し、相手から告白されて自分でも彼が好きだ、と思った…だけど本当にずっと好きだったのはやはり兄の慎一郎だった…それを慎一郎の嫉妬で知る志乃。
長い年月、誤解と思い込みですれ違い続けた慎一郎と志乃。日陰に生まれ疎まれて育ち、様々なしがらみに縛られた志乃は、しかし一つの大きな愛を得た…たとえそれが異母兄との隠さなければならない愛でも。
ラストがあっけなく甘いのですが、はじめの痛みが薄れて読後感は良かったです。

2

共依存ではないところが◎

兄弟モノがあまり好きな設定ではなく、なんとなく「日本家屋で繰り広げられるロマンポルノ的な監禁モノ」っぽいタイトルとあらすじと表紙絵に少々ビクつきながら読み進めましたが、とても面白かったです。神率が50%近いのも頷ける、面白い小説でした。

お話は一つだけですが、おおよそ三部構成になっていると思います。あらすじは第一部のさわりの部分だけを表していて、ここから徐々に変化(成長)していく二人とその関係性も、時間がちゃんと経過していることが分かって頼もしく感じました。(義)兄弟モノに欠かせない(?)、受に執着する攻、独占願望、背徳感などなどのキーワードも織り込まれつつ、単純な共依存に陥らなかったところが素晴らしい。第三部にあたる描写のカタルシスが、もう、個人的に大満足でした。

主人公二人をはじめ登場人物がそれぞれ良い面も悪い面もあるキャラクターになっていて、嫌味なだけの人が出てこなかったのも良かったです。

叶わぬ願いですが、あそこで分岐する「If」なお話も読んでみたいなと思いました。

4

何も変わっていない

評価が高いのでワクワクで読んだんですが、ちょっと期待しすぎたか、、、

ちょっとトチ狂っちゃってる異母兄も健気な異母弟も良かったんですけど、でも最後がだめでした。

終わり方が納得いかないです。時間だけ経っていて状況が一切変わっていない。
時間が経っていても、兄がお硬い外務省に勤務してて、そのうち父親の後を継いで選挙に出るだろうという事も、その為に誰かと結婚しなきゃいけない事も。二人が一緒に居られない状況が全く変わっていない。5年経ったから良いってもんじゃ無いのでは、、

これで兄が家と決別して、、とか弟と居られるような未来を選んだとかいうんだったら、分かるんですけど。乗り越えずに放置さた問題はそのまま残されていて、二人で生きて行ける道を探そうで終わっていて、、結局どうなるのかが分からない。

結果は分からなくてもいいけど、気持ちを確認し合った二人の生きて行く為のはじめの一歩くらい見せて欲しかった。

6

うーん・・・、期待しすぎだったかも。

水原さん作品にハズレは大概にしてないのですが、期待しすぎたためでしょうか。
イマイチ乗り切れずに終わってしまいました。

兄弟モノが駄目とかまったくないのですが、むしろ障害はたくさんあった方が好きなのですが、しいていうなら「もっと障害よ、多くなれ~」という心境でした。

途中まではすごいよかったです。

志乃の諦めの入った人生観。
鬱々とした空気。
取り付く島の無い慎一郎、家族、お手伝いさんたち。
慎一郎の策略による突然の理不尽な上京。
志乃と佐々木くんの恋。
それがバレて怒り狂う慎一郎。

そこまではすごい良かったのです。
慎一郎の
「俺はいい兄だっただろ」
のようなセリフもすごい好きでした。

ただ志乃が思いを伝え合い両思いになった後、
「ごめんなさい、好きになってごめんなさい」
と頻繁に言うのが目について、「いいよ~、わかってるよ」
と何度思ったことか。

結局、志乃の留学を一つの区切りとして二人は距離を取るのですが、五年後再会。
慎一郎は
「もう、いいことにしないか」
と志乃に言います。
そして二人は再び…という運びなのですが、「期間が短いよ~」と言いたくなりました。

もっと2,30年たち、お互い背負うものも多くなる中でそれでも、それでもお互いが必要で、見た目も中身も変わってしまったけどそれでも惹かれてしまう。
それくらいな思いの強さを見せてほしかったです。

でも水原さんの描く情景はとても綺麗で、時のながれも滑らかに流れるのを見せてくれ、とても読後感が良かったです。

11

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