―― 帰る故郷はない。でもペアがいる。

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表題作彩雲の城

谷藤十郎 「彗星」の操縦員
緒方伊魚 「彗星」の偵察員

その他の収録作品

  • Cloud9~積雲と天国

あらすじ

太平洋戦争中期。
婚約者に逃げられた谷藤十郎は、外聞から逃れるように志願したラバウル基地で高速爆撃機・彗星と共に着任した優秀で美しい男・緒方伊魚とペアになる。
伊魚は他人を避け、ペアである藤十郎とも必要最低限しか話さない。
しかし、冷たいようで実は生真面目で優しい男を、藤十郎は嫌いになれなかった。
そんななか、不調続きの彗星は偵察機の転用を命じられるが――。

「碧のかたみ」「天球儀の海」に続くシリーズ第3弾。

作品情報

作品名
彩雲の城
著者
尾上与一 
イラスト
 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
シリーズ
天球儀の海
発売日
ISBN
9784883864355
4.4

(128)

(93)

萌々

(19)

(6)

中立

(4)

趣味じゃない

(6)

レビュー数
14
得点
563
評価数
128
平均
4.4 / 5
神率
72.7%

レビュー投稿数14

最後まで読んでこみあげてくるものが・・・

太平洋戦争の若き将兵達のはかなくも美しき青春を描く1945シリーズ3作目。
前巻の「蒼のかたみ」と同じ最前線の南太平洋のラバウル基地が舞台に展開されています。
前巻が「動」とすると今巻は「静」の印象を受けましたが、後半はサバイバルな展開で息もつけなかったです。最後のページまで読んでホッとし、藤十郎と伊魚のペアに肩入れしていた自分に気づきました。

尾上先生の小説は、エンタメ小説というより、文学小説よりでさらっと読める感じでもないです。全体的に取り上げる題材に対して圧倒的な情報量が文章に組み込まれ、1945シリーズでは、戦闘機の細かい描写やウンチクも容赦なく入るので、ターゲット層が限定される面はあります。ただ飛行機に乗っている描写がまた巧妙なので、飛行機乗りに憧れるような人は、この小説を読んで飛行するスリルを存分に味わえます。しかも戦闘ですからね・・・。将兵さんスゴイ、お国の為に。

また時代背景や題材に対しての専門性が高い上に、キャラクター描写が上手で、キャラクターの生き様が読後も鮮やかに残ります。二次元キャラでというよりは、リアルに生きた人という感じです。地の文からキャラクターの心情等も推察できるので、感情移入でき、物語にたっぷり入り込めます。
飛行機に乗れば、空でも海でも完全に二人っきりの世界で生死を共にするという特殊事情を課せられたペアにBL萌えしないではいられません。将来もあるはずの若者が、お国の為に生死をかけて戦う運命を課せられているので、未熟な面もありつつも漢気を感じます。平成生まれや次の元号に生まれる人達には益々縁遠くなる太平洋戦争の記憶ですが、こういう小説を読んで、その時代に精一杯国の為に戦って生を燃焼していた若者達の姿を忘れて欲しくないと感じました。今の私達の日々の平和な暮らしに確実に繋がっているので・・。

あと木原音瀬先生を生み出したホーリーノベル、凄いレーベルですね!木原先生の次に尾上先生の様な実力ある作家さんが着実に育っている訳ですからね。四作目でこの力量っていう事実に驚愕します。ますますこれからが楽しみです。

2

「生きててよかったって言わせてやる」

「蒼穹のローレライ」で感涙し、(しばらく立ち直れず他の小説を読む気にならならないほどでした)続けて「碧のかたみ」→そして今作、「彩雲の城」という順で読みました。
前作、碧のかたみの月光ペアが随所で登場したりして、月光ペア好きの私としてはラッキー。
しかし前作を読んでいなくとも全く問題ありません。

今作は、婚約者に逃げられた谷藤十郎(攻)と、ある理由からラバウル基地へ(左遷)されてきた緒方伊魚(受)のペアと、高速爆撃機「彗星」の話です。
このシリーズの攻めは、本当に一本気というか一途というか…こういう攻めは本当に大好きです。そして受けはしっかり「男前」なので、なかなか一筋縄ではいかない。そこがまた、たまらない。

呪いの人形の話や、伊魚の俳句の話など随所に笑えるポイントもあったりして、思わずクスリと笑ってしまうことも。
ただ、今作は個人的に攻受どちらも、「しかたなく」ペアを組まされてる感を強く感じてしまったことと、若干の中だるみがあったため感動しきれず…しかし良作であることは間違いありません。

1

期待をはるかに上回る!!

蒼穹→碧→天球儀、そしてこの彩雲の城の順で読みました。「蒼穹の。。。」が余りにも悲痛で心に深く残ってしまい、しかも一番に読んでしまったもので、この作品は特に期待をせず読んだのですが、想像していたより全然良かったです。伊魚の過去(藤十郎のはそんなに酷くないと判断)はありますが、全体的に二人の会話などが微笑ましい場面が多く、背景には戦争がありますが、4作の中では一番ハラハラせず読み進めるのではないかと思います。何を彫っても呪いの人形になってしまう藤十郎と何を詠んでもイマイチな伊魚。そんな二人がとても可愛く、最後とても幸せそうで良かったです。

3

二人だけの彩雲の城

冒頭の伊魚の内心の言葉から、なんとなく肉体関係かな?とは思っていたものの、明かされるまでに時間がかかったために過呼吸の原因はレイプなのかな?いやでも冒頭と矛盾するよな??と考えながら読めて、楽しかったです。麗人と言われたくてトイレを我慢したという伊魚がいじましくもあり面白くもあり…
帰るところをもたなかった伊魚と藤十郎が、帰るところを見つけられて本当によかったです。戦時中の、ペアという関係だからこそ、一緒に死ぬ覚悟をするからこそ、出会えた二人だと思います。きっと平時であれば、伊魚が愛人になり傷つくこともなく、藤十郎と出会うことも、結ばれることはなかったのでしょう。
何度ももうダメかと思いましたが、一緒に住んでいて、一緒に生きていてくれて、本当に本当に安心しました。先にローレライを読んでいたので、この二人も……と怖々読みました。
無人島や助けられた先での生活では、戦争が終わったことを知らずにいた軍人の話を思い出してしまいました。
積雲と天国のあとの空の写真が、二人の見た美しい彩雲のように色付いて見えて、思わず号泣したほどです。
美しい二人だけの彩雲の城で、幸せに暮らしていること、本当に嬉しく思いました。

5

呪いの人形

婀娜っぽい!伊魚が、軍人さんにも関わらず婀娜っぽいです。でも、決してなよなよしているわけではないのです。
本編はあまり濡れ場はありませんでしたが、「謹製ヘルブック」は結構濃厚なシーンがありました。
伊魚は前の男に僅かばかりの未練があるのかなー、と途中思ったりもしました。なんせ初めての相手だから。でも、それよりも、汚い自分を藤十郎に見せたくなかったし、いずれ捨てられてしまうと考え、なかなか素直になれなかったわけですよ。
痴話喧嘩はこれからも絶えないのでしようが、力を合わせて仲睦まじくやっていくのではないでしょうか。

2

めでたしめでたし

どうなることやらと読み進めていたのですが
シリーズ中で一番好きな攻でした。
惚れた相手のためにめいっぱいな攻が好き。
愛を糧にする感じがなんともいえず。
故に、この受にはあってたのかなと思うのです。
「全部やると言った」と激怒するシーンが好き。
思わず涙ぼろぼろ出てしまいました(ノД`)・゜・。

さて、メインの二人は操縦士×偵察員。
最初から願った相手ではなかった。
けれど一生この相手と添い遂げようと誓った。
そんな背景ストーリーもそうなんですが
雰囲気というか、キャラクターがいい作品だったかなとおもうのです。
ちょいちょい登場する「呪いの人形」が笑いを誘い
ツンケンして見えて、モールスで名前を呼ぶ練習をしてみたり
一緒に住みたいなんてかわいいこといちゃってみたり。
攻が好きだと冒頭で言いましたが、受もこれまたかわいいなと
思うのです。
強くないからこそ支えあう二人の姿が微笑ましい。

出雲の地での待ち合わせはもう少し先になりそうですが
一緒にいられて良かった。
心からそう思えるお話でした。ふいー癒された

4

何度も読み返したくなる

私は悲しい物語だと思います。藤十郎と伊魚の幸せを願わずにはいられない…。二人にはそれぞれトラウマがあって出会うことで少しずつ乗り越えていくそんな健気さに目が離せません。伊魚がモールス信号で藤十郎の名前を呼んでいるのが切ないようなもどかしいような場面も印象的で好きです。冗談交じりの会話にたまに笑ってしまいます。このハッピーエンドにはどんな悲劇でも乗り越えていけるんじゃないかと思ってしまいます。
まだ、言葉で表現しきれていない部分はあると思いますがいろんな人に読んで欲しい作品です。

2

表紙が印象的なシリーズ

購入したものの、ゆっくり時間が出来たときに大事に読みたいと思い寝かせていましたが、我慢できずにあっというまに読了。
【碧のかたみ】に続き、今回もラバウルが舞台です。
ちょこっと月光ペアも出てきたのも嬉しかった。

今回は内地で婚約者に逃げられ、失意のうちに逃げるようにラバウルへとやってきた藤十郎と、同じく内地で想い人に捨てられ、左遷のような形で厄介払いされてきた伊魚の話です。
同じような境遇でありながら性格は真逆、明るく誰とでも打ち解けられる藤十郎に対し、他人を全て拒絶する伊魚。
でもそんな伊魚も、本当は寂しくて人の愛情に飢えてる可愛い子でした。

名前の通り、体温低めのお魚のような伊魚が、逃げても逃げても追いかけてくる藤十郎に捕まえられたときには、心の底からほっとしました。
ペアっていいなぁ……と前作でも思ったものですが、今回は擦り傷から切り傷まで、深く浅く傷ついた伊魚の心の傷を、大切に大切にひとつずつ丁寧に軟膏を塗って埋めていくような、そんな藤十郎の愛し方に胸が温かくなりました。
そして一見冷たく思える伊魚も、藤十郎の気持ちに応えようと、不器用な優しさを見せるのがいじらしく、健気で何ともいえず可愛かったです。

ふたりが搭乗する彗星は、水に溶ける砂糖菓子のように海の底深くに沈んでしまいましたが、いつ死んでもいいと思っていた伊魚が、最後まで生きようと足掻いた姿に涙します。
靖国での待ち合わせは、涙で紙面が霞んで先に進めませんでした。
そして作中、藤十郎は一体何度「伊魚」とその名を呼んだのか、思わず数えたくなるような愛しい名前。
伊魚も一体何度、藤十郎とその名を呼ぶために練習したのでしょう。
かけがえのない存在であるふたりの行く末を、読者として一緒に見守ることが出来て本当に良かった!
それにしても伊魚の辞世の句、あいかわらず酷い(笑)
藤十郎じゃないけど、どっかで見たような句になってて、真面目なシーンなのに笑いが出そうになりました。

表紙がまさにタイトルの通りで、美しさに溜息がでます。
抜けるような青は作中の空気やにおいを感じさせ、毎回次はどんな青色かと楽しみになってます。

5

「彩雲の中に住もう」

尾上先生の戦争シリーズ第三弾。「碧のかたみ」に次ぎ、南国の最前線ラバウルで戦う航空隊のペア二人の話です。
今回も巧みで美しい文体と愛しいペアのやりとりに魅せられました。
「彩雲の中に住もう」「待ち合わせ場所は靖国の右手の柱」…生きて果たす約束ではなく死後の待ち合わせ場所を決めて、そこで会う約束を交わす。そのやるせなさと二人の確固たる恋心に胸が痺れました。
儚い彗星、未来を信じられないでいる伊魚、そんな機体と男を理解して寄り添う藤十郎。
単純な起承転結ではなく空の上と下でのエピソードが二人の関係性と共に変化しながら続く展開に引き込まれました。モールス信号、呪いの仏像に下手な俳句、非常の事態の中で垣間見える人間くささが愛しい。
拠り所がなく家に焦がれていた伊魚。坂道の途中、二人の帰る「家」での生活は彩雲のように柔らかく美しい日々だろう。

5

帰る場所

「天球儀の海」「碧のかたみ」に続く今作品。話題作だったのでどちらも読みましたが戦争モノは評価に悩みます。日本で戦争が終わってまだたった数十年。未だ世界には戦争している国もある中、こうしたフィクションは不謹慎ではないかという思いがあるからです。

でも戦争モノとは思わず、BLとして読んでみようと思い手に取ってみました。内容は書いてくださっているので感想を。

どうしても感情移入できませんでした。

伊魚の気持ちは理解できました。何度も養子に出され、養子に入った家では大切にされるもののどうしても疎外感は拭えない。そんな中恋人だと思っていた男に結婚をするからと捨てられ、挙句に邪魔者扱いされ状況が悪化している戦地に送り込まれ。自分の存在を受け入れてもらえる場所はないと感じ、生に対する執着を失ってしまう。戦地で華々しく散ることで、養子として受け入れてくれた家に恩返しができるのならと死を恐れない。

けれど藤十郎は…。許嫁に逃げられた事で地元に居づらい気持ちは分かる。けれど、行きたくないのにラバウルに送り込まれた兵士だっていたはず。それをそんな動機で希望するってすごく軽い感じがして…。

自分の居場所を見出すことができず、そのため生に対する執着のなかった伊魚が、藤十郎というペアを得て帰る場所を見つける。その設定には凄く萌えます。でも。

自分ではどうすることもできない時代のうねりに飲み込まれ、生死をかけて戦う。その儚さや死と隣り合わせだからこそ燃え上がる気持ちをバックヤードにしたいという作家さまの想いは理解できますが、フィクションとして扱うには設定が重すぎやしませんか。
戦争の背景の比重を大きくし過ぎるとBLとしては話が重くなりすぎるし、かといってフィクション部分を大きくし過ぎると戦争という悲劇を軽々しく扱っているように受けとめられてしまう。難しいなとは思うのですが。

「天球儀の海」「碧のかたみ」、どちらも評価が高く、またこの作品も高評価を得ていますが、ごめんなさい、こういう感想もあるってことで。

9

じっくり読んで欲しいお話です

戦争モノという事で敬遠していましたが皆さんの評価が高いので読んだ作家さんです。

私も天球儀の海から読みましたが、最初は戦時期の独特の雰囲気に慣れず、内容も重めのためなかなか入り込めず苦労しました。が、読み進めるうちにどんどんハマっていき
…気がつけばすっかり作者さんの虜になってしまいました。

碧のかたみは最初からとても楽しんで読めました。
そして今作は本当に発売日を楽しみに待っていました。

読後は他のBLにはない深い感慨が残りました。
感想は人それぞれだと思いますが、とにかく何かを考えさせられる作品であることは間違いありません。

3

読みでのある物語

『天球義の海』『碧のかたみ』に続く、シリーズ第三弾。
まずは、表紙が素晴らしい。

この作品も、前作と同じくラバウル基地が舞台となる。
六郎をペアにと望んでいた操縦士の谷藤十郎。
彼の前に現れたのは、道具ではなくて工芸品と言われる
美しい高速爆撃機・彗星と、
人を寄せ付けない美しく有能な偵察員・伊魚だった。

それぞれが、共に内地での傷付きから逃げ出すように
死に場所を求めるように南の島に来た二人。
彼らがギクシャクしながらもお互いが無二の存在となるまで、
そして二人で文字通り死線を越えて、
新しい時代に踏み出す物語。


恋愛……というよりは、非日常の日常、
戦地で日々笑ったり怒ったり
ちょっとしたことの積み重ねながら過ごす若者達が描かれ
ラバウルの戦況の悪化に従って、後半は戦闘やサバイバル場面となる。

孤島サバイバル場面は興味深くはあったが、個人的には
前半の日常の描き方の方がずっと面白いと感じた。


鮮烈さとバランスの悪さが同居しているかに見えた『天球儀の海』、
若々しさが力強く、未来に開ける心地よさがあった『碧のかたみ』、
主人公たちは『碧〜』よりほんの僅かしか年上ではないのだが、
随分大人な印象。
三作の中で、本作が一番まとまりのいい深みを感じる作品かもしれない。

作品としての好みは、『碧のかたみ』>本作>『天球儀の海』だが
キャラクターの好みは、ダントツで本作の伊魚だった。
素っ気なく冷たく見える彼の、孤独な心と内に秘めた繊細な優しさ、
モールス信号の場面は読んでいてジワッ、キュンという感じだった。

しかし、それ以外は全体としては萌という感じではない。
ないが、『碧〜』同様唯一無二のペアという結びつきは心に響くし
物語の世界に浸って読む事ができる一冊ではある。
そして、最後の二編のSSが、どちらも心に優しい着地点を与えてくる。



*お読みになった方教えて下さい!

本編の最後で靖国参拝している二人は、
前二作に関連のある誰かですか?
それとも、単に話の入り口として描かれているだけですか?
印象としては前者なのですが、誰か思いつかず
お分かりになる方教えて頂けたら幸いです!

10

主人公たちの魅力にはまってしまうのです

伊魚は今までにない「静」の子。
養子として、転々と家庭を渡り歩き、
養子先の家族に優しくされながらも、愛情に飢えている。
ようやく得たと思った、愛情は、裏切られ戦地に送られた。
藤十郎は、逆に「社交的」。
どうして 伊魚が 孤立するかがわからない。

さんざん藤十郎を 振り回すが、
振り回しても自分についてきてくれる
藤十郎を 一緒に家に住みたい「家族」
と認定。
此れも呪いの仏像 効果かな

やっぱり、戦場という生死を分ける危機感の中で
同じ機で運命を共にする。吊り橋効果もあるのかもしれない

どのシリーズも、読み終わった後の余韻がおおきくて
この後 彼らはどうなるのだろうと、
しばらく ボー としてしまう。

私としては
このシリーズの中で 一番強烈な印象が残っているのは、
「天球儀の海」です。
「手首の切断」は残酷というより、すごく悲しくて。
このあと、続編をからめた「碧のかたみ」つづいて、HPでSSが掲載されて、
今回の「彩雲の城」。

 私は戦争もの、特に実際にあった戦争を舞台にしているものって、
苦手です。
でも、なぜか 尾上与一氏の このシリーズは、
つい読みこんでしまいます。
それぞれの、登場人物の戦争に到達するまでの生き様や、
戦場での生死をかけた戦い。
戦争が終わっても、みんなすぐには帰ってこれない事情。
登場人物が増えるたびに、興味が尽きません。

この登場人物たちの、その後や 戦後の日本に帰るまでのストーリー、
続きが出れば 絶対読みます。
できれば HPに無掲載された「捕虜編」のストーリー、
製本されるとうれしいなーなんて思っています。

8

家をつくろう

前作『碧のかたみ』と同じラバウル航空隊を舞台に、前作同様、操縦員と偵察員の組み合わせで描かれた本作。
前作と比較するならば、前者が”生への執着”ならば今作は”死への憧れ”
但し決してその姿はネガティブでもなければ絶望でもない。
そして、戦争の時代という死と隣り合わせな一見すれば悲愴な環境と時代を舞台にしながらも、主人公達は生き生きと物語の中で生き抜く。

操縦士と偵察員という関係は前作も同人作品でも今作でも述べられているが
一身同体。一蓮托生。
生き死にを同じ一つの機体に託して同乗する者同士は、同じ兵士というくくりのいわゆる「同期の桜」的連帯感よりもさらに深く密な関係として、
親以上・妻以上・無二の親友・自分の運命を握るものとして、同衾もやぶさかでないと言われているし、ペアとなったからにはそうなりたいと望んでいる。
そんな互いに命を預ける相手であるから、そこに「恋愛」と呼ばれる感情や気持ちはとうに飛び越えて、二人の間は悪く言えば本能的、高めた言い方をするならば、とても崇高な関係ではないだろうか。
でも、だからこそ彼等がずっとペアであることにとても納得させられるし、唯一無二の伴侶となることに何の疑問さえも抱かないのです。


今回の主人公達
藤十郎は許嫁に逃げられ、体裁悪く勢いで南方を志願した予科練出身の飛行士。
来たからには活躍したいと望むものの、ペアの相手に恵まれず最高の相手を欲する気持ちが高騰している。
彼は、前作の主人公・六郎をペアに熱望するのだが叶わず、相手となったのは
最新鋭ながら問題のある工芸品と呼ばれる”彗星”と共に、横須賀からやってきた伊魚(いお)だった。

伊魚は、産まれてから3度実家が変わり(養子に出され)それぞれに裕福で優しい家族に恵まれながらも、疎外感と寂しさを抱えた男だった。
任務は的確にこなし、よいペアになろうとする藤十郎を拒み寄せ付けようとしない伊魚が横須賀からラバウルに来たのも理由があり、それが藤十郎の知らない秘密でもあり、伊魚のこだわりでもあるのだが・・・

伊魚の死への渇望は、死に急ぐというよりはこの世で望みがかなわないのならいつ死んでもいいくらいの、強い生への執着ではない気がする。
その点藤十郎は、伊魚も彼の純粋さがまぶしかったというように、あまりこだわりがない。
お前がいいなら俺もいいかな。むしろいつも何事にも2番で何かの1番になりたかった藤十郎が伊魚にとって一番になれるなら、という気持ちかもしれない。
それがとても不安定な機体である彗星で二人で危険な任務を遂行するのであるからそう考えても、この二人にこの機体を持ってきた設定はとても納得できる。

彩雲に家をつくろう。
彼等の運命を共にする時の約束は、悲しいものは感じず清々しさと希望を感じさせるから不思議だ。
藤十郎の明るさにとても救われている。
かといって、伊魚がとても暗い男というわけでもない。
その見た目にそぐわず案外にちゃんんと男なのだ(ペーパーのエピソードに笑う)
藤十郎の仏像彫の趣味とか、伊魚の下手な俳句とか
呪いの仏像と俳句ペアのエピソードなど楽しいものもある。

死と向き合った彼等が生を選ぶ瞬間。
ああ、彼等は本物のペアになったんだとそんな気がした。

前作よりパトスや感動は少し劣るものの、物語として、二人の在り方として、設定や引き出し方がとてもよかった。
萌えで評価する作品じゃないな~と思う。とても好みでよかった上手かったなんだけど、だから評価をつけるのに困ってしまう
萌えというより作品の好みの星ということなら☆4つ

14

この作品が収納されている本棚

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