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表題作碧のかたみ

厚谷六郎
ラバウル基地に転属となった偵察員,一飛曹,21歳
琴平恒
優秀な戦闘機乗り,一飛曹,19歳

その他の収録作品

  • 雨のあと
  • 約束の月
  • 島が還る日
  • 青のかたみ(書き下ろし)
  • 見開きイラスト(牧)

あらすじ

航空隊の華と謳われた南の要衝・ラバウル基地──。偵察員の厚谷六郎は着任早々、航空隊員が喧嘩する現場に遭遇‼ 多対一の無謀な勝負に挑んでいたのは琴平恒。≪ラバウルの五連星≫の渾名で内地まで名を轟かせる有名搭乗員だ。仲裁に入った六郎にも噛みついてくる恒だが、上官命令で新しく配備された夜間戦闘機「月光」に、ペアを組んで乗り込むことになり!? 戦時BL≪1945シリーズ≫第3弾!!

作品情報

作品名
碧のかたみ
著者
尾上与一 
イラスト
 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
シリーズ
1945シリーズ
発売日
電子発売日
ISBN
9784199011344
4.8

(58)

(54)

萌々

(2)

(1)

中立

(1)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
11
得点
282
評価数
58
平均
4.8 / 5
神率
93.1%

レビュー投稿数11

唯一無二の関係

戦闘機の操縦士と偵察員。戦時中のお話で、命をかけて空を飛ぶ2人のお話です。

花火師の息子の六郎。操縦士として英雄であり有名人な恒。
命令によって新しい特別な機体に乗るペアとなった六郎と恒。おおらかで懐の大きな六郎が、短気で喧嘩っ早いが操縦士としての才能がある恒に振り回されながらも絆を深めていく様子が丁寧で、本当に読んでよかった!
操縦士と偵察員って、2人で空を飛び、互いに命を預けている特別な関係なんですね。
戦争ものだと辛いかなーと少しびくびくしながら読みましたが、時代が戦争中という中でも、綺麗なものは綺麗と感じたり、愛おしく思ったり、日常を過ごしたり、青春が詰まった作品でした。

0

南国の空の美しさ

ラバウルの五連星とも称されるエースパイロットの琴平恒が厚谷六郎とペアを組み複座の戦闘機月光で活躍する様が描かれる本作。
キャラ文庫で復刊されてからのシリーズ3冊目。(元はこれが2冊目)
「天球儀の海」の主役である琴平希のすぐ上の兄なので、希の話題はちらちら出てきますし、ラバウル航空隊の話なので「蒼穹のローレライ」の秋山整備員が出てきます。シリーズものはこの重なっている部分が楽しくもあります。
恒の売られた喧嘩は買う性格や天真爛漫な様子は子供っぽくもありますが、その分怪我をしたとき病気をしたとき愛機が沈んだときとの差が著しくて、気付けば惹かれている自分がいました。
南国の空の美しさと相俟って戦争という残虐で愚かな行為がつぶさに描かれています。
ペアである六郎との信頼関係も、戦況が悪化するなかでの焦燥感も諦念も、なにもかもが鮮明です。没入して読みふけり、BLであることを忘れてしまいます。元のHolly Novelsというレーベルの懐の深さを改めて感じました。
本書は、本編である表題作のほか、「雨のあと」「約束の月」「鳥が還る日」「青のかたみ」の4編SSが収録されています。このうち「青のかたみ」だけ書き下ろしです。
すべてが本編の後日談で、あたたかい良作揃いです。二人の関係性を父と語り合う「鳥が還る日」が印象的です。また、「青のかたみ」では、これからがあるから思い出の品は何もいらないと言っていたのに、あの線香花火だけは別だったというのも、今じゃなきゃだめだと騒ぐ恒の願いをきいて行動する六郎の様子もとてもよかった。
牧先生のイラストも本当に素晴らしいです。途中コミック仕様になっている挿絵があり、コミカライズの一環かと思っていたら、コミカライズは別の作家さんが作画をされるのですね。

5

「最後まで、お前とペアだ」

1945シリーズ、復刻の第3弾。
月光ペア、表紙の笑顔が眩しい。
六郎がラバウルに着任してすぐに喧嘩をしていた恒に遭遇し、後にペアとして月光のパイロットになることに。
とにかく飛行機が大好きな恒が守りたいのは内地にいる家族。
1番になりたかった恒を1番にした六郎。恒のペアという言葉に込められる強い想い、初めに出てくる鷲の番の描写からのペア、番のようなものっていう表現が本当に好きです。
後半の六郎の必死な想いと叫びも、花火の名前も。
書き下ろしもすごく良かったです。六郎との想い出の物が大切でパイン缶の空き缶も拾いに行きたい……。そんな恒がかわいいです。

2

読むのが怖かった

花火職人の家の息子(六郎)と琴平家の三男(恒)
シリーズ新装版3巻。恒は2巻の主人公(希)の兄。


本のあらすじや帯に書かれてあること以外前情報なく読んだ。
『蒼穹のローレライ』『天球儀の海』既読。
以下既刊の内容にも触れる部分がある。



まず、『天球儀の海』で琴平家に恒の戦死通知が届くことは確定事項なので、読み始めるのをちょっと躊躇った。
主人公たちが複座の戦闘機の搭乗員なら、最悪二人とも死ぬし、辛い死別が描かれるかもしれないし…行方不明で戦死とみなされた可能性もあるけど、さすがに二冊続けて戦死→生存ルートはない気がしたので望み薄だと思った。


読んでいてほんとうに怖かった。
六郎が絶望したとき、私も絶望した。
絶望と緊張と弛緩。涙が溢れる。
叫びだしたいような数ページは、強烈に胸に残った。


その場面に心が持っていかれたので、他の部分の感想がうまく出てこないのだけど、
恒も六郎も、戦争がなければごく普通の人生を歩んでいただろうなというのはすごく感じた。

恒が好きな航空機と、六郎が将来打ち込むはずだった花火の、現状…
六郎が感じた理不尽はとても印象深かった。


恒がボロボロになっても戦う理由が、内地の家族を守りたいからなのを知って前巻へのモヤモヤが少し再燃。
いっそのこと、坊ちゃんは恒に一発殴られたらいいのに。やっぱり家族を蔑ろにして二人の世界…てのは納得がいかないと思ってしまう。
でも、恒は坊ちゃんを殴らない気もするんだ…。六郎を「ペアだ」と言いきった恒なら。


それから、斉藤。斉藤のことは、いろんな意味で許せない。奴のために涙してしまった。悔しい。
何かが違っていたら気の置けない友人になってたろうと思うのがまた悔しい。
斉藤視点の小話とかあったら読みたい。悔しい。


琴平父と恒の遺品の短編は楽しく読んだ。
父は良いキャラしている。前巻からもっと出てきてくれたらよかったのに…
紙縒を大切にとっておいた恒の気持ちは分かる気がする。あれは確かに、とてもとても特別だった。


あの頃は全く見えなかった未来が、日常の顔をしてやってきて、この夏はあの花火を私もやりたいなと思った。

9

降り注ぐ二人の花火。空に輝く”ペア”

「神」以外評価の付けようがない、という気持ち……読後の今、本当に胸がいっぱいです。

前作「天球儀の海」の希(ユキ)のお兄ちゃん・琴平恒(わたる)のお話。ストーリー自体は攻めの六郎視点で進みます。

素晴らしい作品だと分かって/知ってはいても、戦争ものは読むのにやっぱり少し勇気が必要で、グズグズしていました;
よし!と決心して昨日の夜から読み始め……そこからはもう、止まらなかったです。

ラバウルってどこなんだろう?とか(現在のパプアニューギニアなのですね)、戦闘機の「風防」って?とか、「払暁」の読み方とか(”ふつぎょう”と読むそうです)、気になったことを色々調べながら読みました。
1行1行、1ページ1ページ大切に、丁寧に読みたいと思わせてくれる、そんな作品。

明日の命の行方も知れぬ中、激しい恋情を抱く六郎の想い。
天真爛漫、売られた喧嘩は真正面から買い、六郎の想いを受け止めて自分たちは「恋人」ではなく「ペア」なのだと言い切る恒の見せる男気と心意気。
もう、胸がいっぱいになってしまいました。

米兵に囲まれた時の六郎の決断…あの時代あの状況では本当に心底苦しい決断だったと思うけれど、そのおかげで互いに魂の番を失わずに済んだんですよね。

二人の紡ぐ青春の空気と、どんどん悪化する戦況の重苦しい空気感とが対照的で、読んでいて胸が苦しくなりました( ; ; )
ラバウル戦線、終盤にはもう航空機の帰還率は2割ほどだったなんて;
日本がまだ白黒テレビしかなかった時代、すでにもう家庭にカラーテレビが普及していたほどの技術力の差がある国と、よく戦争なんてしたものだよなあ、、と、あらためてしみじみ色々考えを巡らせずにはいられなかった・・

戦闘機の中で輝く青い空を見つめていた二人が、本当に色々な苦しい経験を経て、夜空に降り注ぐ花火を見つめているーー

六郎の作った青い花火を舟から見ながら恒が涙を流すシーン、自分も気付いたらポロポロ泣きながら読んでいました。

前作の「天球儀の海」も素晴らしいんですが、痛いシーンが痛すぎてちょっとしばらく自分には読み返せそうにない。
こちらの「碧のかたみ」は……再読したらきっとまた泣いてしまうけれど、きっと読み返すと思います。

”恋人”でもなく”夫夫”でもなく。「ペア」として生き抜く覚悟を決めた二人の、美しい物語でした。本当に今読めて良かった…

4

何度も泣かされた

新書版未読。キャラ文庫からシリーズ刊行されてから読み始めました。3作目のコチラは前作天球儀の海の希くんのお兄さん、恒と相棒の六郎のお話です。またまた南の最前線でのお話なのでしんどそうだなと思ってたら1番青春してました。

最初の頃は日本イケイケの時期なので食料潤沢でみんなの心の余裕もあってなんだか男子校のわちゃわちゃにも似た日常なのですよ。
優秀で周りから一目を置かれている恒が気に入らない斉藤はいつも因縁をつけてきて大喧嘩の挙句罰として腕立て伏せ。
売られた喧嘩は絶対買う問題児の相棒に任命された六郎。割と早い段階で恒に恋に落ちます。
恒って恋愛もののヒロインいわゆる[おもしれーやつ]に当てはまる。感情表現が豊かで、素直でまっすぐ男気があって航空機を愛してる。
[お国の為に戦争にきた]んじゃなく、飛行機が好きで日本にいる家族に被害が及ばない為に大事な人を守りたくて戦ってる。
戦争って戦後生まれの自分からしたら上層部が利権の為に安全な場所で国民を駒のように扱って命を軽んじる行為に思える。私なら逃げ出せるものなら逃げたい。でも、真っ只中の彼らにとってはその状況は当たり前でそれが日常だから、二人乗り戦闘機「月光」に乗って連合軍を追撃して帰還したら海辺を散歩したり配給されたパイン缶を2人で半分こしたりなんて事もあるんよね。命をかけた戦いをふたりでしてきた仲だから六郎と恒の絆は強いし、誰にも恥じる事なくペアだと断言するし、潔い。
爽やかで青春な2人の初めてのシーンは苦労してそうなところがよかった。痛くて辛くてキツイけど、六郎を受け入れたいって恒の男前さが良いし、好き過ぎて堪らない感じの六郎も良かった。

あんなにしんどそうな初体験だったのに3回も果てて失神して寝ちゃった恒のお腹にマジックで⭐︎3つ描き込むお茶目な六郎とのやり取りとか2人でキスマークお互いに付けまくったせいで南国のクソ暑い中マフラーびっしり巻いて出動したりも面白かったです。

前作で恒は戦死したとあったので覚悟して読んでたんです。中盤以降何度も泣くシーンがあります。
あの時の六郎の判断は大正解だと思いました。
航空隊と言うこともあり、毎回空が関係するお話ですが、今回は天文学者の息子で星が好きで空を飛ぶ飛行機が、好きな恒と花火職人を目指す六郎の2人で夜空を彩る星と花火のロマンティックな部分も楽しめました。

はぁ、次はどんな2人のお話なのだろう。シリーズ完走したいと思います。

追記今作で驚いたのは、挿絵で5ページマンガ部分があった事です。二人乗り航空機[月光]の試乗シーンで2人が星空の元飛んでいます。
六郎が恋に落ちるところ。挿絵よりも漫画の方が確かに伝わりました。

あっ、巻末に碧のかたみフルカラーコミカライズ化発表されてましたね。また違った楽しみ方が出来そうです。

4

ペア

先生買い。良かった。しんどいし泣くけど、良かった。神一択。戦争辛いの大丈夫な方はもちろん、そうではない方も戦争の欠片ぐらいは体感できるはずなので是非!沢山の方に読んでいただきたい。今までの3冊の中で一番好き。本編290頁+後日談4編+牧先生によるコミック数頁と挿絵+あとがき。攻め受けのペアだからこその味わいがサイコーに好き。

最前線のラバウルに配属された六郎。着任早々、航空隊員たちの喧嘩に遭遇、巻き込まれます。エラい目に遭ったと思う暇もなく、そのケンカの片方、ラバウルの五連星と呼ばれる恒と偵察機に乗るように言われて…と続きます。

攻め受け以外の登場人物は
上官、受けに嫌がらせする航空隊員、整備兵(秋山等)、後半に希(受け弟、シリーズ2作目の受け)、受け父(愛しの変わり者♡)、受け母姉。受け父、大好き。

++心に残ったところ

受けの印象の方が強いかな。潔い、長文をしゃべれない、喧嘩っ早い、飛行機の操縦が天才的に上手く搭乗機のことを愛している、目が大きい、表情が多分豊かでくるくる変わる(想像)、あと家族全員から愛されている、弟の希をすごく愛してる(けど殴ってお菓子を奪う)。すごくイキイキしているように感じました。表紙の表情がほんと良く表れてるなあと思います。

攻めは、ちっこい野獣のような受けを宥め、見守り、落ち着かせるという感じの役目の方。最初は命令によりペアになったけど、途中からはペア解消と言われても絶対拒否したと思います。受けのことを本当に愛してる。攻めの冷静な判断があったからこその二人、でした。

戦争中のお話で空中戦もあるし、散っていく仲間もいるし、大けがもするし、ラバウルの悲しい状況もあるけど、強いつながりを信じられるし、信じたい、信じようと思うし、戦争はやっぱり駄目だと思うし・・とあれこれ強く思うところのあった一冊でした。皆さん読もう!


4

穴の空いた月

戦時下という特殊かつ過酷な現実の中で、懸命に今を生きる人々を描いた1945シリーズ。
今までに刊行された新装版で描かれていたどの人生も山あり谷ありのドラマティックさで心惹かれてやまないのだけれど、中でも全編攻めの六郎視点で語られる今作・碧のかたみの心理描写の細やかさが本当に素晴らしかった。
読んでいてなんだか胸がいっぱいになってしまいました。

小柄な容姿とは裏腹に、愛機を巧みに操り敵機を何機も撃墜する優秀さと、貶められるものなら言い返さずにはいられない生来の気の強さを併せ持つ、時に真っ直ぐすぎる19歳の青年・恒。
そんな、ある意味問題児でもある彼とペアを組むことになった六郎が、次第に唯一無二の揺るぎのない関係性となっていく物語。

時代背景的にも過酷な状況下ではあるのですが、作中の雰囲気が薄暗さや悲壮さに満ちているかというと決してそうではないのです。
明るさも、辛さも、つかの間の喜びも。
そこで生きている彼らの、人間味あふれるありのままの日常を追っている気持ちになれるんですね。
尾上先生の文章が上手いものですから、まるで彼らが生きていたラバウルの光景をそのまま見ているような感覚になります。
だからこそ、狭いコミュニティの中で芽生えた感情のひとつひとつがより強く伝わってきてなんだかたまらない。
賑やかだった喧嘩も、あの甘酸っぱい缶詰も次第に自然と恋しくなり、最後まで2人の行く末から目が離せませんでした。

BLといえば、やはり男性同士の恋愛をメインに描いた作品がメジャーかなと思います。
でも、なぜか碧のかたみは恋愛というよりも、もっと特別でかけがえのないなにかが描かれている気がしてなりません。
ペアとして、人として尊敬し合い肩を並べる2人の心情がとても丁寧に紡がれていて、「こんな関係性のお話が読みたかった」が1冊の中にたっぷりと詰め込まれていました。
彼とは恋人ではないのだと言う恒の言葉の深みにため息が出ます。
胸が熱くなる本当に素晴らしい作品でした。

6

笑顔の彼らが愛おしい

旧版既読。

今まで読んだ数多くのBL作品の中で最も好きな作品の一つ。

1945シリーズ作品として登場するペアの中でも一番のやんちゃな恒が六郎と出会い、共に生き共にあの空で死のうと誓い合う二人が愛おしくてたまらない。
華やかだったラバウル着任時から戦況厳しい戦争末期の困難な中でも楽しみを見つけ、仲間と喧嘩し、それでも笑顔溢れる彼らの日々がまさに煌めきを帯びて見える。

一番になりたいと打ち明けた恒が見つけた『唯一の俺の一番』とともに紺碧の空の下、彼らの青春がそこにある。

数々のお気に入り場面がありますし、再読するたびにお気に入り場面も色々ですが、今回は線香花火を手に魅入る恒と寄り添う六郎を挙げたいと思います。
書き下ろしの「青のかたみ」と合わせて読むと一層の思いが胸に迫ります。

そして。
今回のキャラ文庫版発売に伴い、加筆された部分。
特に終盤、壊れた零戦に寄り添う恒を目にした六郎の回想部分、数行加筆されたと思いますが、その数行が加わることで今まで以上にラバウルの、当時の状況が脳裏に浮かび、胸に響き、六郎の恒の胸中を思い涙が止まりません。
旧版を読んだ方にもぜひ文庫版も手にして頂きたいなと思いました。

もう何十回と読み返した大好きでとても大切なこの作品が、こうして再び多くの方々が手にして読む機会が訪れたことに胸がいっぱいです。


3

空でも陸でも最高のペア。まさに唯一無二の存在の2人。

ラバウル基地はパプアニューギニア北の方の島にあって、第二次世界大戦時は、南方作戦の一環として日本軍の重要拠点基地の一つとされた場所。そんな場所で出会った、航空隊所属の戦闘機操縦士と偵察員の激動の愛の物語……めちゃくちゃ沁みました!

時代背景やストーリーの設定的に、どこか死と隣り合わせな世界観に胸がヒリつきますが、過酷な状況下だからこそ彼らの間に芽生える想いにグッと惹きつけられました。
偵察機のペアを組む2人が、プライベートでも唯一無二の関係になっていくところに最高のドラマがあって、無鉄砲な恒に寄り添うように見守る六郎の姿がすごく印象的。長年連れ添った夫婦のような雰囲気が本当に素敵に映りました。

空でも陸でも最高のペア。
阿吽の呼吸で戦果を上げ、陸に戻るとほんのり甘やかな時間を過ごす2人が幸せそう。ハジメテのときは散々で、恒の機嫌が相当悪かったところを見ると、あちゃー…こりゃ最初で最後かも。なんて思ってたけど、深く愛し合ってる彼らに嬉しくなりました。
戦闘機に魅せられ、そして戦闘機に愛された恒のいつまでも少年のような無垢で清らかなところが、戦時中の不安感や、基地内の喧騒を掻き消していきます。恒の素直で真っ直ぐなところ、家族思いなところ、実は学があるところ…などなど、六郎の恋心を刺激していく魅力がたっぷり。六郎のデレもとても微笑ましいです。


いつも2人一緒に共に過ごす幸せなシーンとは打って変わって、心が重く苦しくなるシーンもたくさんあって、戦争の怖さを目の当たりにする描写がそれなりにあります。今の時代に生まれていたら、こんな辛い思いをせずに2人で幸せになれるのにと思うこともあるけど、その時代だから2人は出会うことができたし、唯一無二にもなれたんですよね。

恒が、自分たちの関係を恋人じゃなく"ペア"だと言っていたのが印象的でした。
確かにペアって恋愛的なものも含めたそれ以上のところで繋がり合ってる特別な関係って感じがして、彼らの関係にしっくりくる。自分たちでそう評価してるところが素敵だなと思いました。


激動の時代を共に過ごした2人のその後は、素晴らしい読後感でした。細かい進路は、実際に読んで確かめて下さいね。
恒の弟の希も少しだけ登場します。前作の「天球儀の海」に登場して知っていたのでびっくり。恒も前作に"ラバウルの五連星"として登場していたので、2つのストーリーがリンクしているところも楽しめた理由の1つです。

コミカライズもされるとのこと。この世界観がコミックスではどう描かれてていくのか楽しみです^ ^

5

命を懸けた青春の思い出

1945シリーズ 復刊 第3弾。
ありがとうございます。

こちらは旧版で拝読していたのですが、第2弾までと同じく書き下ろしが40ページほどありまして、名編ですので旧版既読の方もぜひ。
(把握していないだけで既出の短編でしたら申し訳ありません)

書き下ろしの2編は
『鳥が還る日』・・・『雨のあと』の前日譚。
『青のかたみ』・・・『鳥が還る日』の後日譚。
の2編で、個人的に『青のかたみ』の終わりの場面がとても心に残りました。

旧版表紙と新装版表紙で恒と六郎が逆になっているのがとても好きです。


〜以下、旧版読了時の感想〜

ラバウル航空隊に移籍してきた厚谷六郎と、前作『天球儀の海』にも登場した、希の兄である琴平恒のお話。

戦地は死と隣り合わせ。
いつしか戦闘機のペアという関係よりもさらに強い絆で結ばれ、一心同体となった2人も例外ではなく、ここでいう"人生"は近い将来命を散らすまでの人生なんですよね。
最期まで共にいると決めたふたりの絆は何よりも尊く(BL的な意味ではない)、神聖なものでした。

そして本作の要でもある星空。
想像もできないほどに壮大なその存在により、彼らの置かれている脆くて儚い運命が余計に際立ちます。
戦地に赴いた人達は一体どのような気持ちで星空を眺めていたのでしょうか。
自分の命がいつ終わるかわからない中で。
顔も名前も何も知らない敵の命を奪い合う日常で。
そんなものと無縁の存在を眺める時間は、やはり特別な瞬間だったのではと想像しました。

米軍に囲まれて絶体絶命の最終局面、拳銃による自死か降伏か。
六郎は降伏を選択しました。
恒にとって、敵に降伏するなど言語道断だったことでしょう。
恒は怒りを露わにしましたが、六郎のこの選択は英断だったと思います。
恒を庇う位置で米軍兵士の銃口を一身に受けて立つ六郎の想いに涙が止まりませんでした。
米軍は結果的に2人を救出し、瀕死の重症を負っていた恒の命も助かりました。

敵である日本人への待遇に困惑した六郎の問いかけに対する米軍兵士の「ここは戦地ではないからだ」という答えがとても印象的です。

そして戦争が終わり、アメリカから日本に帰った2人。
それから何年かして、約束通り、恒に自分が作った花火を見せる六郎。
大輪の青い花火は約束の名『月光』。


本当に心に残る物語です。


またもや戦争が起こされている昨今です。
平和の実現について再考せねばなりません。


(余談)
旧版のペーパー特典『天の川の話』が今回は収録されていませんでしたが、個人的にとても好きなラブいお話なので、どこかでまた会えるといいなと思いました。

7

この作品が収納されている本棚

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