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表題作天球儀の海

成重資紀
23歳→31歳,地元名家の息子,海軍軍人
琴平希
19歳→27歳,成重家の養子に入った新人航空隊員

その他の収録作品

  • サイダーと金平糖
  • 遺言
  • 青いカップの王様

あらすじ

「助けてくれた坊ちゃんのためなら、喜んで自分の命を差し出します」。故郷の航空隊に配属になると同時に、地元の名家・成重家の養子となった希(ゆき)。その目的は、ただ一人の跡継ぎ息子・資紀(もとのり)の身代わりとなり、特攻隊として出撃すること──!! 13年前、命を救われたお礼が言いたくて、ずっと資紀に憧れていた希。ところが再会した資紀に冷たく拒絶され!? 戦時BLの傑作≪1945シリーズ≫復刊第2弾!!

作品情報

作品名
天球儀の海
著者
尾上与一 
イラスト
 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
シリーズ
1945シリーズ
発売日
電子発売日
ISBN
9784199011306
4.7

(57)

(46)

萌々

(9)

(0)

中立

(1)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
14
得点
267
評価数
57
平均
4.7 / 5
神率
80.7%

レビュー投稿数14

良すぎて言葉にならない…

「蒼穹のローレライ」で泣きすぎて、なかなか手が付けられなかったのだが、「碧のかたみ」も出ちゃったし…と思って恐々読む。

冒頭で、もうたまらなく好きなやつ…!と。
妄愛とでも言いましょうか。受けの盲信的な愛情。好きです。
ところが。読み進めているうちに、あれ?なに?めちゃくちゃ苦しい。。
とにかく、会話が無い。から、攻めの考えを押し計るしか無い。
これが、また、私好きなパターンで。いつからなのか。どこまで計算なのか。そういうのを探らせてくれるキャラが非常に好きなので、攻めが良かった…!
戦場シーンも訓練シーンも無い。が、戦時中の暮らしや価値観が息苦しさを感じるほど。
口に出せない、出してはいけない攻めの気持ちを想像させる。

そして商業番外同人誌「葉隠否定論」は、「天球儀の海」のアンサー本です。天球儀の海上下巻で出せばいいのに、と思った。
坊ちゃん(攻め)の独白本。
答え合わせができて、私は満足。

今年読んだ本で一番好き。
ずっしり重たくて、頭がくらくらするほどの愛でした。

1

「海に映さなければ本当の形を知ることができない」

1945シリーズ、復刻の第2弾。
命の恩人資紀の身代わりに、特攻隊として出撃することとなった希。再会しお礼を言う希に対して資紀は冷たく拒絶してきて。でも時折見せる優しさに触れ、その態度の裏にある想いを知った時には……。
天球儀の海、海に希の右手を映すとオリオンとなりそれを辿った先にシリウスがいる。お互いがお互いのシリウスなんですよね。
そして、海に映さなければ坊ちゃんの本当の心を知ることが出来ないという意味も持っていて本当に奥が深いタイトルです。表紙の希の手を愛おしく握りしめる坊ちゃん……。
海に映した坊ちゃんの本当に心は尾上先生の同人誌『葉隠否定論』で読めます。大きくなあれとお餅を食べさせようとしていた坊ちゃんが好きです。
ただ希に「こんにちは」と言いたかっただけだったのに。資紀のシリウスのために生きてきたのに。坊ちゃんのどうにもならない深くて苦しくて大きな愛が詰まっています。

0

モチーフの使い方が秀逸

地元の名家成重家の跡取り息子、資紀(坊ちゃん)と、
天文学者の四男、琴平希(ゆき)。
希は成重家の要請で戸籍上成重の次男となり、ひっそりと屋敷の離れに迎えられる。
ごく幼い頃に坊ちゃんに助けて貰った恩を胸に、彼の代わりに「特攻」の出撃命令を待つために。

シリーズ新装版2作目。
帯や裏表紙に書かれていること以外前情報なく読んだ。



まず驚いたのは、「助けて貰った思い出」のささやかさ。喜んで命を差し出すほどのことだろうか。
でも、幼い心に鮮烈に刻まれるような出来事だったのだろうな、すごいことだなと思った。

坊ちゃんの人となりは、ルリビタキのエピソード等から、優しいけれども不器用故に優しさが見えにくい人物なのだと察せられる。

それでも、中盤の理不尽な言いがかりと暴力(乱暴に抱く、というのは酷い暴力だと思う)には戸惑いと混乱が強く、希の健気さにもモヤモヤした。

坊ちゃんから希への愛情は、確かにあると感じたのに、ならば何故こんな仕打ちをするのか。不器用故に…の域を越えていると感じたし、思惑があって…のような気もしたけれど、だからといって希の心を粉々に壊してしまいかねないような仕打ちは許しがたいと思った。
許しがたいのに、事情によっては許す展開になるのだろうなと思ったら、なんだか読み進めるのに苦痛を感じた。



そして幸せなひとときからの衝撃。
ここまでされたら、読者にも坊ちゃんの思惑が分かるというもの。
だからといってそこまでする…?と思ったけれど、逆にいえばそこまでしないと逃れられない状況だということ。
これはもう、優しいとか酷いとか、許す許さないの次元の話ではなく、希の心の心配をしている場合でもなかったのだ。
命。坊ちゃんが守りたかったのは命だ。その為だけの暴挙だ。
当時の状況の厳しさ、戦争というものの恐ろしさを肌で感じた気がして、改めて戦慄した。

ここから先は涙、涙…で心が乱気流の中もみくちゃにされるような読み心地だった。

出撃のときの、希の気付き。
右手の星座や周辺エピソードとの関連付けが秀逸で、モチーフの使い方がとても上手いと感じた。

他に印象的だったのは、坊ちゃんの母親のエピソード。この母子は悲しいほど似ているのだなと思った。



戦後の新しい生活については、ボーナストラックくらいの気持ちで読んだ。「そんなことある??」の連続だった。
やはり、何も知らされぬままの親たちはかわいそうに感じる。
坊ちゃんの言い分を読むにつけ、どういう理屈であの行動にいたったのかは理解できたけれども、心情的には受け入れ難い面もあった。
命だけ守れれば、生きていさえすれば「どのような状態で」ということに頓着しない様子は独りよがりのエゴだと思わずにはいられない。

ただ、これらの考え方の違いは、価値観の違い、時代や状況の違いに依るところが大きいと思う。
それだけ、命を失わずにいることが難しい時代だったのだと思うと、掴んだ幸せを尊く感じた。


『蒼穹のローレライ』に出てきた名前が出てくるのが嬉しかった。シリーズ全体で群像劇のようになるのかなと思う。
新装版の今後の刊行が楽しみだ。

1

ときに優しさが痛い。

幼い頃、自分を助けてくれた坊ちゃんのためならば、特攻隊の身代わりとして命を差し出せると考えていた希。
しかし、再会した坊ちゃん(資紀)からは冷たい態度を取り続けられて、、、
という始まり。

出逢いから丁寧に描かれており、すぐさまググッとお話に惹き込まれました。

が、度重なる坊ちゃんの希への荒ぶりように、なにかその感情に思惑がある! と分かっていても辛く苦しくて、、、
しかもその荒ぶりの果てに待ってたのが、まさかの、、、

ひえっ! と、思わず声を上げてしまったまりあげは。

後に、坊ちゃんの希を思う優しさのベクトルが、すべてそうさせたことが判明しました。
やっぱりなあ、と思うと同時に、結果、坊ちゃんが別姓を名乗りこの世に生きていてくれたことで、そのすべての辛く痛い苦しみから、読者自体も報われたといいますか、、
まりあげはが救われたといいますか、、(BL関係なしに昔から戦争モノが苦手で、実は旧版も未読でした汗)

情景描写とか心理描写などが丁寧だからこそ、余計坊ちゃんの追い詰められた心理状態での優しさが切なかったです涙


色々言いたいことはあるのですが、読了した時点で2人が幸せに暮らせていること。
その事実が確認できただけで、まりあげはは感無量です。
小倉で再会したシーンは、まりあげはも音もなく泣きました…ね…
いや、その前の右手エピソードを薬屋から聞いたあたりから、、涙涙



うまく言えないんですけど、とても良かったなんて安直すぎる言葉で終わらせていい作品ではなくて。(ですので、萌え2です)
改めて色々と考えさせられた作品でもありました。


青いカップの神様のお話が、とてもよかったです。
最後に読めてよかったです。

1

ロマンティックと戦慄

旧版未読。今回文庫版で再発売されたキッカケで読み始めてます。前回と発売順を変えているのは何故なんだろう?と思いつつ、旧作では第1作目だったらしい今作を読み始めました。(追記:尾上先生のつぶやきによると中古価格が尋常ではない金額に高騰している作品から発売する事にした為とのことでした)

これ一作目に読むのはヘヴィかもしれない。初恋の思い出を胸に身代わり特攻隊を受ける事を決めた主人公 希に対して、坊ちゃん 資紀の態度が冷たすぎる!
読みたい本を書庫から探し出す依頼を毎日請け負う希に正しい本を選べてる筈なのに違う!と激しく咤したり、そうかと思うと2日、3日おきに激しく抱いたり。もう!何なんだよ!って態度をとりまくるんよ。

実は資紀なりの考えがあっての行動なんだけど、知らされずに好きな相手から冷たい態度を取られ続けるのはしんどい。

2人のセッは、一方的に坊ちゃんに求められて痛いのをただただ希が耐える。全然楽しくない行為。
いたいけです、希。
しんどいのがずーーーーーっと続いた末の、優しく快感を得られる夢のような行為の次が本当にショッキング過ぎて
「ええええぇ????!!!!!!!!!」
と心の動揺が収まらず、その後の展開、後日談もずっと狂気と真実の愛は紙一重かもしれない。
この2人ヤベェ。でもそうするしかなかったし、結果大正解だったもんなと読み終わってからもモヤモヤしたままでした。

あぁ、よかったーとは一概に思えないお話でした。
同時収録の短編、[サイダーと金平糖]はとてもロマンティックで可愛いお話でしたがやっぱり言葉足らずでぶっきらぼう酔っ払ってる時だけ本音を話す資紀は好きになれませんでした。
あと、サイダー味の金平糖が出てきたのってつい最近の話じゃないの?戦後にそんなのある?って疑問に思ってしまった。

書き下ろしの[青いカップの神様]は、粋な骨董屋店主のお話で素敵でした。

前作にも出てきていた衛藤新多さんが好きなキャラなので早くメイン作を読みたいです。

2

評価に苦慮しました

復刊されたこのシリーズ、元は本書が1冊目だったのですね?
復刊が刊行順でないのにはどのような意図があるのか気になるところです。
前作(本当は前作ではない……)「蒼穹のローレライ」とは時代は同じですが、直接のつながりはほぼありません。衛藤新多大尉は両方に出ていますが、片やラバウル、こちらは日本が舞台です。
由緒ある大家の跡取り息子の身代わりとして、他家の末子を養子にし、特攻に出す。
大家の家長が講じたこの策と、それに乗った若者、抗った嫡子、その末路を描いたお話です。
「蒼穹のローレライ」もそうでしたが、ぐいぐい読まされる筆力と相俟って、日本が戦争に負けることは分かっているからこそメインの二人がそこにどう絡んでいくのか、どのように話を落ち着かせるのか、気になって最後まで目が離せませんでした。
本編、それから後日談のSS「サイダーと金平糖」「遺言」の2本と、書き下ろしの「青いカップの神様」が収録されています。書き下ろしも後日談です。


「蒼穹のローレライ」のレビューでは、読後に胸が一杯になった思いをどのように文章にすればよいのか悩みましたが、本書は評価に苦慮しました。
今もまだ悩んでいます。
前述のとおり、ぐいぐい読ませられ、この作品世界に没入しました。登場人物の描写が鮮やかでその感情にこちらも揺さぶられましたし、国中が狂っていたといってもいいこの狂気の時代、風潮を、見事に書き表されていると感服する思いでした。本来は「神」作品としたいところです。それだけに「萌2」「萌」は自分の中ではしっくり来ないほどです。
なのになぜこの評価なのか。それはひとえに、やっぱり、いくらなんでも度が過ぎていると思ってしまったからでした。
分かります。苦肉の決断だったことは想像がつきます。それだけもう切羽詰まっていたと思うし、資紀の本当の気持ちがどうとか、そんなことは二の次でとにかく好きな相手を守りたかった一心だったということは分かります。どれだけ世間という名の圧力が理不尽で兇暴なのかは、あのとき希がどれほど酷い目に遭ったのかを見れば(見なくとも)、これほどのことをしでかさない限りどうにもできなかったのだろうと、理解はします。でも、やっぱり私は許せないと思ってしまいました。
どのような理由があっても、希に嫌われ恨まれたかったとしても、このような形で傷つけることを許すことができません。可哀相過ぎました。そこまでかと思いました。
こんな惨い目に遭っても、まだ希はそこに真実を見出そうとします。そんないい子になんてことをするのだと。正直、両刃の剣だと思うんですよ。決して良策ではないです。あまりのことに希が心を病むことだって、絶望して自死することだって、充分考えられる。
もしもそうなっていたら元も子もないし、それはもう、このやり方が資紀の独善に過ぎないことの現れと言えます。希のことを何一つ思いやってなどおらず、自分のことしか考えていないとしか思えません。
前時代であり誰もが傅く大家の長男の生まれだから、ということを考慮すれば、仕方ないのかなとも思いますが。
ということによるこの評価です。作品を貶める主旨は毛頭無いことを付け加えます。

3

何という愛情

尾上先生の作品は、情景描写がとても美しいと思います。花降るシリーズは、匂いや温度湿度も感じられる気がします。
このシリーズも同じく、油の匂いや南国の湿度とジリジリする日光、日本の冬から春の空気の移り変わりを感じます。遮光された戦中の家の昏さとか。
執着溺愛攻と健気受の20年愛ですが、2人の生きた年代が大戦中という…
死こそが美とされていた時代と思想の中で、ひたすら愛する人を生かしたい、生きるところを守りたい、その願いが胸をうちました。
ローレライはラバウルの抜けるような真っ青な空でしたが、天球儀は瑠璃色ですね。美しいです。
連続刊行のこのシリーズ、次は何色かな
楽しみです

1

そうかぁ……

復刊2作目、1作目既読です。

子供の頃の一度の邂逅、初恋がすっと入ってくるかどうかにも寄るかなと思いました。
5歳の頃に命を救われた名家の坊ちゃんが好きで、お役に立てるならと特攻の身代わりを引き受ける。

希の父が天文学者だということ、右手にホクロがあることの設定が効いていてなんともロマンチックです。

希視点で描かれるので、資紀がなぜ冷たい態度をとるのか、ひどいことをするのか、が最後にならないとわかりません。なのでそこにいくまでに希がかわいそうで、途中途中本を閉じながら読みました。

希は資紀の代わりに特攻することを望み、資紀は希に生きてほしいと望む。それゆえ最後に資紀がとった行動に、いくらなんでも痛すぎる、と思えてならないです。
資紀が特攻として飛び立つ際に懐にそれをしのばせて飛び立つのですが、いやちょっとグロいというか。えっ、、、となりました。腐敗とかニオイとか問題が気になってしまいました。

資紀の本当の気持ちを希が知ったあと終戦を迎え、戦後しばらくしてからの再会。資紀から会いに行かなかった理由が語られることでなるほど、と思いましたが、自分がしあわせにするくらいの気持ちで理性とかぶっとばして会いに行かないんだなぁ…と少しだけ思ってしまいました。

星をモチーフにロマンチックな設定と身分差は好みでしたが気になる点があったので萌×2です。

あとこれは私がいけないのですが、2人の名前の読みがすっと入ってこなくて勝手にオリジナル読みしてしまってて、本来の読み仮名があると別人のことのように感じてしまうところがありました。

読み仮名もう少し色んなところに欲しかったです。

2

覚えていそう

シリーズ買い。いつまでも覚えていそうだなと思うし神と思う部分もあるのですが、ちょっと痛すぎてしんどかったので間を取って萌2にしました。本編230Pほど+後日談2編25Pほど+書き下ろし18Pほど。痛いのは苦手なんです、ごめんなさい。

地元の大地主であり、政治家、当主は海軍中佐という家である成重家からの極秘中の極秘の依頼を受けた希(ゆき)。その依頼とは成重家の養子となり、長男資紀(もとのり)の代わりに特攻隊の一員として出陣することで・・と続きます。

攻め受け以外の登場人物は
光子(成重家で受けの世話をする♀)、林(成重家の使用人)、衛藤新多(攻めの昔馴染み、大尉)、攻めの両親、受けの家族ぐらいかな。

++好きだったところ

本編は痛くて重くて戦時中の息詰まる感じなお話でしんどくて、評価しがたし。
あの時代はそうなるしかなかったのか、という追い込まれ感がすごいです。
戦争って嫌だな。愛する人を傷つけるしかないなんで。

ということで本編はあまり語れないため、後日談の方を。

1.サイダーと金平糖
  本編後日談。酔っぱらった資紀の口から語られるお話。愛おしいです。

2.遺言
  本編後日談。おっかないタイトルですが、穏やかな、
  でも確固とした二人の思いが分かるじんわり小編。

3.青いカップの王様
  欲しいなあ・・・と思うもの。今はローンで買っちゃったり、しばらく
  水だけになるけど!と買っちゃったりする方もいると思うのですが、
  堅実派な希は悩んで考えて悩んで・・というお話。
  二人仲良く、いつまでも堅実に・・と、こちらも愛おしいお話でした。

後日談は救われるテイストのものだったので、後味は良かったです!

5

No Title

旧版既読。
結末も知ってるし坊ちゃんの人となりも知ってるけど、それでも毎回心痛くなる。
そして坊ちゃんの愛の深さに泣く。
1945シリーズの中でも個人的には一番のインパクトのある作品。
そして数々のSSや同人誌を読みにんまりするのもこの作品の楽しみの一つ。
作品中出てくる希の兄の恒がここでも愛ゆえにかなり鬼畜w 
牧先生の新しい希のイラストも堪能して終盤のイラストにもほっこり。 
お気に入りシリーズ。

6

愛の欠片をひとつずつ拾い集めて

たった数年。されど数年。
激動の難しい時代に翻弄された人々の生きざまと、重みのある愛が描かれたシリーズだと思います。
今作も非常に読み応えありでした。
尾上先生の、情景が頭に浮かぶ細やかな描写が好き。

内容的にも、時代背景的にも、読んでいて楽しい気持ちになるお話ではないんですよね。
新装版2作目となる今作は、個人的には1作目と比べると少々展開にとっつきにくさを感じながら読んでいたのですが…そこはやはり尾上先生。
そのとっつきにくさや、読み進めながら感じたハラハラともやもやを計算していたのか?と思ってしまうほど、残りのページ数が減っていくに連れて上手く効いてくる。
希が語る物語の中のあちこちに散りばめられていた星を、星座を描くようにひとつずつ辿っていくと…?
途端にするすると疑問の数々が見事に解けていき、気がつけばがらりと色を変えてとても大きな愛が浮かび上がってくるのだから困りました。
なるほどそういうことかー…と、まだ読んでいる最中だというのに、もう1度初めから読みたくなる魔法にかけられてしまいました。
好みが分かれそうなインパクトが強い展開も多数ありますが、資紀の本気度と重たい感情がより深く伝わるものだったかなと思います。

全身全霊で向き合う深みのある愛と、一途をこえた強い執着が印象的な作品でした。
とっても良かったのですけれど、資紀が希に執着した理由がもう少しだけ濃いものだとうれしかったです。
どちらが好みかといえば私は新装版1作目のローレライのほうが好みだったかな。
読後の幸福度的にはこちらのほうが高めですね。

7

あなたは私のシリウス

こんなにも壮絶な愛の物語を、初めて読んだ気がします。

資紀が初めて優しく希を抱いた、その直後の壮絶なシーン。
仕事帰りに電車の中で読んでいて、思わず「え」と声が出て、力が抜けていくような感覚に手が震えて。。

走って家に帰り、たった今読み終わったけど。
読み進めれば進めるほど、資紀の計り知れないほどの愛が感じられて、泣かずにはいられなかった。。

希にひどく冷たく当たったこと、希の宝物を粉々に砕いたこと、そして最後に優しく抱いたことの理由ー

全てのピースが綺麗にはまった時、もう色んな思いが込み上げてきて、希と一緒に泣きました。

忘れられないのは、二人の8年後の再会シーン。「8」という数字にも意味があって…
シリウスの星の光が届くまでの、八光年が届いた二人の再会。
再会前のお話では希の涙にこちらも涙したけれど、再開直後、資紀の涙にまたもや静かに大泣き。

5歳の希の右手が海辺で挟まれて抜けなくなってしまった事件、あの時から「右手」が重要なキーポイントになっていたんだな、と。本当にすごいお話を読んでしまった、、この感動を表す語彙力がないのがもどかしい( ; ; )

これからオリオン座の話を聞いたり、見たりするにつけ、ずっとこの物語、この二人のことを思い出すだろうなと思いました。

そしてね。女性キャラも、良かったよね。
希のことを想う、光子の存在も輝いてました。お膳にそっと添えられていた花、姫金魚草。
花言葉、調べちゃったよ。「この恋に気がついて」……読んでる時にも切なさで胸がキュッとなったけれど、読後これを書いている今も胸が締め付けられます。

再会後の二人が心穏やかに、いつまでも幸せに暮らしたことを信じて、本を閉じました。

7

愛を貫く者たち

1945シリーズの復刊 第2弾。
本当にありがとうございます。

こちらの作品は旧版で拝読しておりましたが、新しく書き下ろしで『青いカップの王様』というラブいお話が入っておりましたので、旧版既読の方もぜひ。

(というか、表紙が素晴らしすぎる件について)


〜以下、唐突な(旧版読了時の)ネタバレ感想〜



幼い頃に命を助けてくれた資紀の身代わりとして、特攻に行くことを決めた希。
胸に抱えた想いが切なかったです...
希が抱えた想いと裏腹に、13年ぶりに再会した資紀の態度は最初から冷たくて、それがまた余計に切なくて。
特に中盤以降の態度は酷く、明らかに"何か"あるわけだけどもその真意はわからず。
そしてついに事件が起きて...

何故そんなことを...?希の右手を切断して自分が特攻に行くためというのは希の想像にも難くなかったけれど、資紀がそうしたい理由を希は勘違いしてしまって。
これも資紀がわざと仕向けたんですね...
「大切に想っている希をどうしても特攻に行かせたくないから」なんて後腐れの残るようなことは言わない。
わざと恨みを買ってそのまま出征する。
事件の日の資紀の態度は、いよいよ決定的に恨まれるための凶行を前にして、最後の最後だけは自分の気持ちに正直にいたかった気持ちのあらわれでしょうか。
それっきり一度も会わないまま迎えた出征の日、勘違いしたままの希にまともに目も合わせてもらえず、資紀はどんな気持ちだったのだろう。
自分で仕向けたことだから本望だったろうとは思いつつ、最期の別れとしてはあまりにも辛すぎる。
もし資紀がそのまま帰らなかったら、と思うと...

そして終戦から何年も経って、とある日。
希が営む店の客から、小倉で出会った人がオリオンの干からびた右手を大切に持っているという話を聞
いて...

何たる偶然か必然か、再会を果たす二人。
このシーンの挿絵を見てから暫く涙が止まりませんでした。
こんなに嬉しい再会、他にありません。

で、ここからの幸せっぷりと言ったらもう...
『サイダーと金平糖』では、資紀が希をどれほど気に掛けていたかが分かって思わず笑ってしまいました。

ハッピーエンドで本当によかった。
本当によかったです。

それにしても、そこまでしないと愛を守れない時代。
もう二度と来ないことを願わずにはいられません...


さて、新装版書き下ろしの『青いカップの王様』
事業が上手くいっているようで嬉しくなりました。
坊ちゃんと希の相思相愛っぷりよ...
店主さんも、お堅い人かと思いきや最後の種明かしが鮮やかで。
尾上先生、やっぱり天才でいらっしゃる...

第3弾以降も、楽しみにお待ちしております。

7

すごい世界をみた

すごい世界だよ、これ。

なんという重い愛。
なんという深い愛。
一途とも執着とも言える狂気じみた愛。

分かりにくくて分かりやすい…そんな男に激しく愛された愛の物語は、エグさもあるけどピュアさもあって。時代が時代なんで適切な表現じゃないかも知れませんが、ものすごい純愛でした。
凶暴すぎるほどの想いの強さに驚き、戦慄き、そして相手をめちゃくちゃに傷付ける行動の意味が紐解かれていく頃には、なんて美しい恋なんだと思ってしまいました。

資紀が希に対する言動や残虐な仕打ちを前にして、"美しい"と形容してしまうことに違和感がないわけでもないのですが、でも物語全体をみると、やっぱり"美しい"が一番しっくりくる。戦争という死を引き換えとした美化フィルターがかかってるせいとかじゃなく、あの時代、ああでもしないと免れない兵役事情でしたから、自分の身代わりであった希の"身代わり"となることで、希を守ったことはやはり美しいと思うのです。

好きな人に生きていて欲しい。死んで欲しくない。この身を捧げても…と思う気持ちに、どんなに胸が締め付けられたことか。愛国心を盾に逆らえない事情が2人の気持ちをすれ違わせていることにとても苦しい思いです。
守り抜く手段は過激ですが、今の時代の尺度で考えずに見守る必要がありますね。時代的なもの、お国事情的なもの、彼らを取り巻く背景への理解なくしてこの物語の本質に触れることは難しいでしょう。

希の"片割れ"を大事に持ち続けていることにしてもそうだけど、資紀の行動は常識の範囲を超えていて、普通の状況なら異常です。でもこの作品の中なら許せてしまうそんな雰囲気があるんですよね。
相手の身体の一部を持っていると聞くと、私なんかは阿部定事件をパッと思い浮かべてしまって、相手への執着が強ければそういう行動もあるのかなと納得できてしまうのです。

現代を生きる私には分かりかねる感覚でも、それを理解させるだけの見応えと文字のパワーを感じました。
痛いことや辛いこと、切ないことがたくさんあるストーリーだけど、どうか誤解しないで欲しい。それは表面的なもので、その裏に隠されたものは、とてつもない愛のカタチがあるんだということを知ってもらいたいです。
中盤までは想いが噛み合わないシーンが多いけど、後半にかけての回収劇はどえらい見事です。それまでのモヤモヤや哀しい気持ちが一気に吹き飛んでいくので注目下さいね。


希の右手のホクロの星から全てが始まった恋でした。側にいなくても、その特別な星がいつでもあるべき場所やあるべき想いを導いてくれる、そんな特別な繋がりを拠り所に深まっていく愛に感動です。
縛りのなくなった彼らが遅すぎる春を迎えた姿を見て、ホッとし安堵感を抱いたのは当然として、時代に翻弄された2人がようやく望む場所に落ち着いたことが一番の幸せでした。

戦争もの、苦手だなんて思ってすみせん。
ただただ圧倒されました。すごかったです。

4

この作品が収納されている本棚

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